第30話「ゴシファーの帰還とカヌレ」
第30話
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朝の王宮は、いつも静かだ。
大理石の床に差し込む陽光は白く柔らかく、
空気は澄んでいて、どこか甘い香りすら漂っている。
そんな穏やかな空気の中――
「マサヴェイ様、ただいま戻りました」
扉の前で、完璧な姿勢で一礼するゴシファーがいた。
「ゴシファー、おかえり。ゆっくり休めた?」
「はい。おかげさまで」
その声はいつも通り落ち着いているが、
どこか柔らかい響きがあった。
そしてゴシファーは、まるで呼吸をするような自然さで
ティーセットを準備し始めた。
・・・・・・・・・・
「まずは……ミルクティーをお淹れいたします」
銀のポットから注がれる紅茶は、
琥珀色の液体が光を受けてきらめき、
そこに温めたミルクが静かに混ざり合う。
ふわりと立ち上る湯気は、
蜂蜜と花の香りを溶かしたような甘く優しい匂いで、
胸の奥がじんわりとほどけていく。
「わぁ~! ゴシファーのミルクティーだ~!」
シスモが嬉しそうに跳ねる。
メイドでありながら、態度はいつも自由奔放だ。
ゴシファーはそんなシスモにも丁寧に微笑む。
「シスモにも、後ほどお淹れいたします」
「やった~!」
・・・・・・・・・・
「マサヴェイ様、こちらはお土産のカヌレでございます」
皿に並べられたカヌレは、
深い琥珀色の外側がつややかに光り、
指で触れれば“コツッ”と小さな音がしそうなほど硬い。
だが、ナイフを入れれば――
中はしっとりと柔らかく、
バニラとラム酒の香りがふわりと広がる。
香ばしさと蜜のような甘い香りが混ざり合い、
部屋の空気を一気に満たした。
「カヌレか……ふーん、そういうことか」
胸ポケットから顔を出した黒いトカゲ――ヴィオデスが、
妙に意味深な声で呟いた。
ゴシファーはそのトカゲに目配せしながら、静かに頷く。
「はい、ヴィオデス様。そういうことです」
「……お前たち、何の会話してる?」
「いえ、些細なことです」
「些細じゃない気がするんだけど……」
シスモはすでにカヌレを頬張っていた。
「ん~~~っ! これ美味しい~!
外カリッ、中もちっ……最高~!」
その“カリッ”という音が本当に聞こえた気がした。
ヴィオデスもミルクティーに頭を突っ込み、
カヌレをかじり始める。
「うむ……やはり、このカヌレは格別だな」
「ヴィオデス様……身体、小さいのにカヌレ食べ過ぎですよ!
どうなってるんですか?」
「余を誰だと思っている。
この程度、余の胃袋にかかれば造作もない」
「胃袋あるの?」
「ある」
「……そうなんだ」
シスモは笑い転げている。
「ヴィオデス様、可愛い~!」
「可愛いと言うな。余は龍魔王だぞ」
「はいはい、龍魔王様ね~」
「む……!」
ヴィオデスは尻尾をぴんと立てて抗議したが、
カヌレを食べる前足は止まらなかった。
・・・・・・・・・・
ミルクティーを飲み終えた頃、
僕はゴシファーに向き直った。
「それで……昔の友には会えたのか?」
ゴシファーは一瞬だけ目を伏せ、
すぐに穏やかな笑みを浮かべた。
「はい。無事に会えました」
「そうか。よかった」
「ええ。とても懐かしく……そして、有意義な時間でした」
その言い方が、どこか含みを持っている。
「……ゴシファー、その“昔の友”って、どういう人なんだ?」
「そうですね……」
ゴシファーは少し考え、
紅茶のカップを静かに置いた。
「一言で言うなら――
“マサヴェイ様にとっても無関係ではない方々”です」
「無関係じゃない……?」
僕が眉をひそめると、
ゴシファーは微笑みで誤魔化すように話を続けた。
「今後はアイーズに遊びに来るそうです」
「遊びに……?」
「はい。近いうちに」
ゴシファーは穏やかに微笑む。
だが、その笑みの奥に――
何か隠している気配があった。
(……嫌な予感しかしない)
けれど、僕は深く追及しなかった。
「そうなんだ。楽しんでもらえるといいね」
「ええ、きっと」
ゴシファーは静かに頷いた。
・・・・・・・・・・
「シスモ、もう3つ目だよ……」
「だって美味しいんだもん~!」
「余も3つ目だ」
「お前もか」
「当然だ。余は龍魔王だぞ。
カヌレ3つ程度、軽いものだ」
「軽いって……さっき朝ご飯食べたばかりなのに」
「む……!」
ヴィオデスは尻尾をぴんと立てて抗議したが、
またカヌレにかじりついた。
そして、満足そうに息を吐く。
「ふぅ……やはり、あいつらの作るカヌレは最高だな」
「……あいつら?」
僕が聞き返すと、
ゴシファーがすっと視線を向けてきた。
「まあまあ、マサヴェイ様。
遊びに来たら紹介させていただきますね」
「別に、紹介してもらわなくていいけど……」
「ふふ……そうおっしゃらず」
ゴシファーは意味深に微笑んだ。
(……絶対、面倒なことになるやつだ)
胸の奥に、じわりと不安が広がる。
だが、
シスモとヴィオデスの楽しそうな声を聞いていると、
その不安も少しだけ薄れた。
ミルクティーの香りが部屋に満ち、
穏やかな時間が流れていく。
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