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異世界先生 ~転生して塾を開いたら、世界を変えてしまう!?~  作者: きりたちのぼる


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【ep.3】始める先生 2.世界を知る-1

 翌日、様々な素材を背負ったブロムがさっそくやってきた。


 突然の来訪、しかも見慣れないからか、ユイは長谷川の後ろに隠れていた。しかしブロムが魔法を披露し始めると、ユイは小さな口を開けて見守った。


「ユイも魔法は初めて見るのか?」

 長谷川は尋ねた。


「……うん」


 そうかそうかとブロムは調子を良くしたのか、布団やコップなど最低限必要なものをひと通り魔法で製作してしまった。

 最後の頃にはユイはブロムの脇に立ち、見守っていた。


「どうじゃ、楽しかったじゃろ?」

 まだまともな笑顔を見せないユイだったが、この時ばかりは嬉しそうな表情に見えた。


「お前さんも勉強すればできるようになるかもしれんぞ。適正も必要じゃがな」

 と、ブロムが大きく笑うと、その音の大きさにユイは両肩を小さく跳ね上げた。


 しかし今度こそ笑顔になった。

 その表情を見た長谷川にはこみ上げるものがあった。


(そうだよな。やっぱり笑顔でいられなきゃ)


 ちなみに、材料が必要なので無尽蔵にできることでは無いのだそうだが、製作したいものの素材や構造などが判れば、新しいものでも作り出せると教えてくれた。


 だからブロムは長谷川の服なんかも、真似て作ってみたくなったのだそうだ。

 

 そう言えば。

 長谷川はソフィアが言っていた【魔法適正】を思い出し、詳しく聞かねばと期待した。


 そのあと作業を終えたブロムをユイと二人で見送った。



 ブロム来訪の前、ソフィアは「少し出てきますね~」と家を出ていた。


 ブロムが帰った入れ違い、大小幾つかの袋を抱えて帰ってきた。スーパーから帰った主婦のようだった。


「とりあえず野菜の種を頂いてきました~。あとはちょっとした調味料なんかですねぇ」


「えっ? 頂いてきた……?」

 長谷川とユイは目を合わせた。初めて息が合った瞬間だった。


「あらあら、ちょうど素敵な鍬がありますねぇ。わぁ食器もお鍋も揃ってます~」

 と、ソフィアはにこにこ顔で、ブロムの製作品やプレゼントを見つけては喜んだ。


 翌日からさっそく畑を始めてみた。

 長谷川が耕し、ソフィアとユイがタネを植えてゆく。彼は小さい頃に田舎で祖父母を手伝ったことを思い出しながら、鍬を振り上げた。


(なんだか本当に田舎の家族みたいだな……)


 意外にあっさりと食料や雑貨問題の解決の糸口を見出したこともあり、これからの生活に光が差したように思えた。


 そうして新しい生活が始まり一週間ほどが経った――



     *     *    *



 ユイは長谷川を前に緊張しているようだった――


 一週間もすると、ユイとも幾らか会話ができてきた。彼女は恐らく九歳であること、そして会話は問題ないが、読み書きができないことがわかった。

 

 彼女の生い立ちもあるだろうが、ソフィアによれば、この世界の識字率の問題もあるが、奴隷になってしまった彼女に教育など受ける機会は無かったのではと話した。 


 思いがけず“教育”と聞き、長谷川の中で何かが疼いた。しかしまずは目の前のユイに向き合うことにした。

 

 ユイは相変わらず口数は少ないが、以前と比べれば様子は変わってきていた。

 まだ緊張や戸惑いを見せることはあるが、そこからは恐れのような負の感情は窺えなかった。


「それじゃあ先生から最初に教えるのは数字だな! ユイは三までは知っているみたいだから、まずは四から十までを覚えよう! あ、ゼロは知ってるかな?」


「……ゼロは……無い?」


「おお! いいね! 知ってるね!」 

 ユイの表情が少しほころんだ。


「ゼロを知ってるなら、あとは四から十を覚えれば、算数はだいたい大丈夫だ!」


「さん、すう?」

 

 不思議そうに首をかしげるユイに、長谷川はこっちこっちと、彼女を外に連れ出した。

 そしてそのままその辺の石ころを並べて見せた。


「ここまで並んでるのがユイの知っている一から三だ。そして……ここから四、五……そうだ、ついでに数字の書き方も覚えようか」

 

 長谷川は並べた五つの石の下、地面に指で数字を書いてみせた。


 さらにその下に、ユイにも同じように書いてごらんと、落ちていた木の枝を握らせた。彼女は恐る恐る、ゆっくりだがきれいに数字を書き上げた。


「おお、凄い! バッチリだ! しかも綺麗だ。ユイは字も上手に書けるようになるね」


 ユイは少し頬を赤らめて、下を向いてしまった。しゃがんでいた長谷川には、彼女が心から嬉しそうにする顔を初めて見ることができた。


(九歳にしてはあどけなさ過ぎる……境遇もだが……でも、やはりこの世界の“教育”が問題なんだ――彼女だってこれから……もっとできるようになるに違いない……!)


 長谷川は素直に彼女の喜ぶ顔がもっと見たいと思った。


「はーい、お茶にしましょう~」

 

 石を使って十までを教えたあたりでソフィアが声を掛けてきた。


 ユイは家に入って目の前にお茶を出されても、指を使って一から十を繰り返し口に出して覚えようとしていた。


「あらあら、冷めちゃいますよ」


「うん、ソフィ。……ありがとう」

 ユイがきちんと礼を言って木のコップに口をつける。ソフィアはその返事に満面の笑みで応えた。

 

 ちなみに、ユイがソフィアのことを“ソフィ”と呼ぶのは、ソフィアから長谷川への希望があってのことだった。


 どうやら“ソフィア”では都合が良くないらしく、彼は素直にそれを受け入れ、ユイも含めて他人のいる前では彼女をソフィと呼んでいた。



「そう言えばソフィ、今更だけど……どうして俺たちと一緒に住むことにしたんだ?」


 この話題なら別にユイの前でも問題ないだろうと切り出した。


「そうですねぇ、う~ん……貴之さんに興味を持ったからなのですが……でもやっぱり、ユイちゃんと三人でいたいと思ったからでしょうか」

 

 ソフィアはニッコリしたが、核心的なことははぐらかされているようにも思えた。


(……まだ一緒に住んで間もないが、彼女が嘘をつくなんて思えないな。意外とことば通り、本人にとっても感覚的なことなのかもしれないな……)

 

 長谷川はそう思いながらも、いつの間にか下の名前で呼ばれるようになった理由は聞かないでおいた。

 

 その時ちょうど、ユイはまた外に出て行った。少し様子を見ると、一人で地面に数字を書いたり、石を並べたりしていた。


「えらい!」

 思わず声に出していた。

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