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異世界先生 ~転生して塾を開いたら、世界を変えてしまう!?~  作者: きりたちのぼる


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【ep.9_2】立ち回る先生 4.追い詰められる

 戦いは大きく二ヶ所で繰り広げられている。


 アルを中心とした長谷川とレグ、狭くなっている船着き場での戦いと、その船着き場に枝を伸ばしている広い石畳、ロビンとロッキーが多数を相手にしている戦いだ。


 そこにいよいよ敵のさらなる後続が迫っていた。


(ロビンやロッキーだってこのままじゃ……、くっ、どうする!?)


 長谷川の腕もいよいよ重くなり、まともに思考している隙もなくなった。

 しかしその時、ロビンたちを囲んでいた兵たちの辺りから絶叫がした――


「ワ、ワイバーンだっ! り、竜騎士がきたぞー!」


 槍を構えた兵士が喚いた。

 するとその場の者たちが釣られて空を見上げた。


「な、なぜ国王直属の竜騎士団がっ!?」


 今度はアルと剣を交えていた敵騎士団長が悲痛な声で叫んでいた。


 長谷川も空を見上げた。


 するとすぐ、確かに大きな翼を広げた何かが目に飛び込んだ。

 それはみるみる大きく、そして近づいてきたかと思った瞬間、上空から地表へと錐揉みして滑空してきた。


(ほ、本物だっ!)

 思わず心を躍らせたてしまった。


 ゴォォォォォン――ヴァアッッサ!


 凄まじい勢いで飛来したそれは、広い石畳の上空までくると突然、両の翼を大きくはためかせ、砂塵を巻き起こしながらホバリングするように滞空した。


「うわぁっ!」


 突然の激しい風圧で敵兵が何人か尻餅をついた。


 その姿はプテラノドンのような翼竜に見えるが、頭部はまさにドラゴンとでも言う頑強な顔つきで牙を剥き出していた。

 

 やや青みがかった黒鉄色の堅そうな鱗で全身が覆われ、圧倒的な存在感を示していた。

 その翼を広げた姿は十メートルはあるように見えた。


 続いて別の二匹が超低空で敵付近を飛び去ると、再びその風圧に気圧された兵士がよろめき倒れた。


 さらに、二倍はあるかに見える大きな体躯と、金の鱗にも見紛える輝くカーキの鱗で全身を覆われたワイバーンが、長谷川たちの頭上に悠然と降り立とうとしていた。


 その胴には専用の竜鎧だろうか、胸の部分には豪奢な紋章を飾っていた。


 バッサ、バッサ!


「ご無事か! 殿下!」


 金竜に跨った男は白い髭をたくわえ如何にも屈強の老騎士、その野太い声で叫んだ。


 再び呆気にとられた長谷川だが、レグは待っていたと言わんばかり、満面の笑みで応えた。


 そしてこの瞬間を逃さず、気を取られた敵騎士団長に肉薄したアルは、その首筋に剣を突きつけ、勝負あったと降伏を迫った。


「ふざけろっ! 我々は公爵の命で動いてるのだぞっ! いくら国王直属とは言え……」


 屈しない様子を目にした金竜の老騎士は、自らのワイバーンに何やら命じた。


 するとその口元に【ファイアーボール】のような火球が育ち始めた。


 それはかつてリヴァのウンディーネが見せた、小屋ほどの大きさにまでなった水球と同じくらいになり、一気に海上に放たれた。


 バッツッシャァァァン!


 海面に着水した瞬間爆発したそれは、激しい水しぶきをまき散らし、小雨のように船着き場一帯に降り注いだ。


 それで決着がついた。

 敵の騎士団長は剣を投げ捨て、両手を上げた。


 直後にロビンとロッキーが激しく吠えると、周りの兵士も倣って武器を打ち捨てた。もはや戦意は失われていた。


 気が付けばワイバーンは五匹以上になっていた。

 まるで航空ショーを見せつけているかのように整然と飛行していた三匹が、中央の広場から迫っていた後続の敵兵の前に降り立ち、追い散らし始めた。


 その数が百人以上いたように見え、長谷川は肝が冷えた。



     *     *     *



 竜から降りた複数の騎士たちは、アルを中心に敵兵を一塊に集めていた。

 敵騎士団長と一部の隊長級と思しき兵士たちは両手を縄で縛り、跪かせていた。


 少しして、上空から見守っていた先ほどの大きな金竜が付近に降り立つ。


 その動作は意外にも静かで、着地の瞬間だけその重量を感じる振動があった。


 騎乗していた騎士はやはり老騎士といった感じではあったが、それは白く長い髭と顔に刻まれた深いしわのみで、その佇まいは全身白に黒いアクセントの入ったフルプレートを纏い、頑強の騎士そのものだった。


 彼は颯爽と竜から飛び降りるとドスンと音を立て、レグの元に歩み寄った。


「お久しぶりでございます。レグナス殿下」


 辿り着くと跪き、右手を左胸に添え、深く頭を下げた。

 ガルヴァン卿と声をかけられたその老騎士は、レグに促されると立ち上がった。


「それにしても大きくなられた! アルヴィンかと見間違えましたぞ!」


 そう言って彼はレグの頭をくしゃくしゃと撫で回した。

 少し気恥しそうにしたレグだが、ガルヴァンを長谷川に向い合せて紹介した。


「先生、こちらはガルヴァン卿です。御覧の通り我が国が誇る竜騎士団の団長です!」


 どう挨拶したらよいか一瞬戸惑った長谷川だが、咄嗟に、

「本当に助かりましたっ!」と深く頭を下げた。

 そして頭を上げ、長谷川と名乗った。


 その様子を見たガルヴァンは拍子抜けしたような顔で少し固まっていたが、到着は少し遅れてしまいましたがな、ガハハと突然豪快に笑い出し、聞いていた通りのお方だと、長い髭を揺らして笑いながら長谷川の方をバンバン叩いた。

 あまりの力の強さに長谷川は痛みに堪えながら苦笑した。


 レグは卿が長谷川のことを把握していたと知り、なるほどとあごに手をやっていた。


(レグ、いつのまにか俺に似てきたな……)

 その仕草を見て思ってしまった。


 その後レグが長谷川に事情を説明した。


「実はガルヴァン卿には内密に迎えを頼んでいたんです。しかし予想に反して十騎ものワイバーンを率いてきたと言うことは、国王がすでに事情を察し、ドラウス公爵がけしかけてくることを懸念しておられた……。ですよね?」


 目をやったレグに、ご明察よと、ガルヴァンは真剣な表情で深く頷いた。


「なるほど……! さすがレグだな! ……ん? だったら先に教えておいてくれれば」


 長谷川が冗談交じりに指摘すると、

「むかし先生が教えてくれたカンヨウクですよ」と、満面の笑みで答えた。


「あっ!」


「“敵を欺くにはまず味方から”」

 ふたりが同時に声を揃える。


「タイミングは正直ギリギリでしたが、敵を油断させるにはちょうど良いと黙っておりました……申し訳ございません、先生」


 ギリギリまで“殺さず”を貫いていたのにも合点がいった。

 一方的に襲われたとは言え、命を奪っていれば、そこを公爵に何等か付け込まれる可能性があったのだ。


 それでも長谷川は本当にギリギリだったと、今更武者震いした。



 そのあと、レグは王国内でも微妙な立場であったこと、国王はじめその安否を気遣うものは多く、今回のアウレリオン行きを計画した時から、事前に、アルの上司でもあった信頼のできる近衛騎士団長を通じて依頼をしていたことを明かした。


 そこで突然、待ちくたびれたのか金竜がクルクルと喉を鳴らした。

 するとガルヴァンが摺り寄せてくるその大きな頭を撫でた。


 強力な援軍を得て落ち着きを取り戻した長谷川は、あらためてその巨体の雄姿に目を輝かせた。



     *     *     *



 三人は竜騎士団の隊員に神聖魔法で傷を癒してもらった。


 長谷川はロビンとロッキーそれぞれを本当に良く頑張ったと抱擁しながら召喚を解いた。

 ロッキーは三つ首それぞれがつぶらな瞳で、名残惜しそうにこちらを見ながら消えていった。


 後処理の竜騎士を残しつつ、長谷川たちはガルヴァン含めた五騎に分乗し、王都へ向かい飛び立った。


 最初は空の高さとスピードに驚愕した彼だが、途中から慣れてくると、いつかこんなワイバーンやドラゴンなんかも召喚できたら良いなと、密かに童心に返った。

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