【ep.9_2】立ち回る先生 1.ひと息つく
船は穏やかにガルドリア港の枝分かれした船着き場のひとつに到着した。
そこには船員や漁師などが行き交い、甲板から投げ下ろされた太いロープを係船係の男が固定した。
塾を出てから三十日近くが経過していた。
ここまで無我夢中、強行軍でやってこれたが、三人は一度この港町で一泊しようと決めていた。
“塾取り壊し令”まで猶予があるはずだが、王都から発っせられ、町を経由して村に一報が届くまで、計算よりも時間を失っている可能性もあり、決して余裕があるとも言えなかった。
それでも、流石に往復二十日もの船旅は、本人も気付かない体の不調をきたしかねないと、大事を取ることにした。
「船旅は経験あるが、こんなに長く乗ったことは無いからなかなかしんどかったよ……。そしてこの荷物がなんとも重たいし……」
長谷川は素直な感想を述べた。
苦笑いしながら宮殿を出る際に持たされた土産を詰め込んだ、行きよりも重いリュックを背負い、船から伸びた木製のタラップを降りていた。
「私もです。ポルトゥーンには一度足を運んだことがあるとは言え、そう簡単に慣れそうにないですね……」
レグも同様の感想を漏らした。
行きとほとんど変わらない彼の荷物は、腰に下げた剣と、レオナート王より渡された親書を大事にしまった小ぶりなリュックだけだったが。
ちなみに長谷川は彼にこれからどう呼べば良いか一応確認したところ、今まで通りに呼んで欲しいと頼まれていた。
(しかしこうしてあらためてレグの姿を見ると、この五年で本当に大きくなったもんだ。アウレリオンでのこともあったせいか、この港を出る前よりも大きく見えるな……)
長谷川がそんな風に少し浸っていると、
「先生、レグ、大きな山場を越えたとは言え、ある意味ここからが本当の目的です。気を抜かずに参りましょう」
アルはレグの身の回り品の他、長谷川同様にお土産を詰めた大きなリュックを背負っていた。
それでも彼だけは全く疲れているそぶりも見えず、屈強さを見せつけていた。
タラップを降りた先、石畳の上に大きな木箱が不揃いに高く積まれていた。
そこで少し休憩し、感覚を地面に慣らそうとなった。
幾らか雑談し、今後の工程を確認した。
「確か王都までは徒歩だとここから二週間はかかるんだよな?」
背中のリュックを降ろした長谷川は、伸びやストレッチをしながら尋ねた。
「はい。馬車など使っても早くて十日はかかってしまいます。ですがご安心ください。予定であれば手配していた者が参りますので、その者たちの助けを借りれば、日数はだいぶ稼げるはずです」
そう答えたレグは、アルの方をちらりと見た。
アルは頷き返した。
「そうか、それは助かるね。しかしここまできたんだ……、早くその親書を国王に届けたいな。帰りの船でもいろいろと事情や推測は聞いた。確証がある訳じゃないが、君たちの考えはきっと合っているように思う。でもやっぱり、王命が取り下げられたと聞けるまでは油断はできない」
「仰る通りです……。私も塾を守りたい。そして……国王の助けにもなりたいんです」
レグは自分の剣を見つめていた。
今回の旅で初めてそれを目にしたのだが、良く見れば恐らく王家の紋章だろうか、柄の部分には厳かな装飾が施されていた。
(そうか。彼にとっては展開によって父の窮地にもなるんだ……。塾のことばかりで頭がいっぱいだったが、王や国を守る……それは彼にとって家族と、その居場所を守ることと同義のはずだ。こんなことにまで頭が回らないなんて、本当に俺はまだまだ未熟だな)
そう考えた長谷川は昼間から賑わっている港町の方に目線を向け、ひと息ついた。




