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異世界先生 ~転生して塾を開いたら、世界を変えてしまう!?~  作者: きりたちのぼる


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【ep.2】出会う先生 1.少女と出会う

 再びあぜ道を歩き始めた長谷川は、自分が動揺していたことにあらためて気付いた。


 今更ながら、帰宅したままの白いワイシャツとズボンのままだった。


 不可思議な状況だが、この恰好と足元のピカピカに磨かれた革靴だけが彼の中の常識をかろうじて支えていた。


 広いあぜ道をしばらく歩いていると……


「え!? ……足? 子供か……!」

(まさか……!?)


 草むらから人の足が見えていた。子供の大きさに見えた。


 無意識に足音を殺して近づく。


 すると茂みの草をなぎ倒し、髪の長い、恐らく少女が倒れていた。彼女は見慣れない服を着ていた。

 

 長谷川は慎重に彼女の上半身を起こしにかかった。


 黒髪だがどことなく顔立ちが西洋風、しかし薄汚れた貫頭衣のような衣服はボロボロで、顔や手足など剥き出しの肌は所どころ汚れていた。

 

 間違いなく少女だった。

 が、普通ではない――


「おい、大丈夫かい!?」


ゆすりながら声を掛けた。

(と言うか日本語通じるのか?)


 間もなくして少女が目を覚ました。目をぱちくりとした時、日本人に似た瞳の色が見え隠れする。


 しかし咄嗟に身をよじり、警戒したのかそのまま這い起きようとする――が、力が入らずすぐに崩れ落ちた。


 ことばが通じているのかも不安だが、身振り手振りを交えて長谷川は必死に笑顔で声を掛ける。


「あー大丈夫、大丈夫だから……って何が大丈夫なんだ?」


 怯える彼女の瞳と表情に少し慌てる。


「えーっと……あ! そうだ! ちょっと待ってろよ!」


 長谷川は彼女を残して先ほどの家まで急いで戻った。


 中に入ると棚にあった木製の器を取り、そして近くで聞こえていたせせらぎの方へと走った。


「よし!」

 思わず叫んだ。


 予想通り、ちょっとした小川を見つけると、その水を器にすくい上げひと口飲む。


「これなら大丈夫だな!」

 彼は急いで彼女の元に戻った。




 おそらく体力も失っていた少女は、先ほどの場所でまだうずくまっていた。


「待たせたね……!」


 近づくと、片膝をついて彼女にゆっくりと器を差し出す。


 少女は一瞬警戒をしたが、器の中身を見ると恐る恐るそれを手に取り、ひと口含んだ。

 すると今度は口からこぼれる勢いでがぶがぶと飲み始めた。


げほっげほっ――


「おお、ゆっくりで良いんだ、ゆっくりで。欲しければお代わりもあるからな」

 

 そのあと二度水を汲み直し、あっという間に三杯を飲み干したところで少女は落ち着いた様子を見せた。


「落ち着いたかい?」


「……ん」

 空になった器を見ながら彼女は短く、そして小さく答えた。消え入りそうな様子の中にも愛らしさが見えた。


 言葉も通じていた。


 それも含めて安心した長谷川は笑顔で、

「先生――じゃなくて俺は長谷川って言うんだ。君の名前を教えてくれるかい?」


「…………ユイ」


 少女はそう発したあと、膝を抱えて黙り込んでしまった。

 

 なんとなく察した彼は、スーツなのも気にせずそのまま近くに腰を下ろし、ふぅとひと息ついた。


(知らない森で目覚めたと思ったら、目の前で文字が変わるわ女の子は倒れているわで、一体どうなってるんだ……)

 遠くを見ながらぼんやり振り返り、自分の水も汲んでくれば良かったなと思った。



「な……なんで、ど、奴隷に……や、やさしくする、の」


 ユイと名乗った少女がたどたどしく口を開いた。いつのまにか長谷川を見ている。


 その瞳はまだ不安を抱えていることを示し、揺れている。

 しかし――


(奴隷?)

「奴隷って……あの奴隷かい? 君が?」


 ……。

 ユイはこくりと頷いた。

 

 子どもが自らを奴隷なんて……、あらためて身なりに目が行き、どこか理解してしまった。


「その……もし大丈夫だったら、どうして君……ユイちゃんが奴隷なのか教えてくれるかい。正直おじさんは奴隷ってよく分からないんだ」

 

 あまり感情が現れないユイの表情に、驚きと不思議が入り交じった。


「…………え、えっと」

 ユイは少しためらったあと、途切れ途切れだが話し始めた。

 



 辛い記憶を思い出しながらだったであろう、話し終えるのには時間がかかった。


 その内容を整理すると、幼いころ賊に襲われた彼女は、その場で両親が殺され、そのまま奴隷にされたのだった。

 

 幼かったのでこれまでは片付けや草むしり、掃除なんかをさせられていた。


 数年経って体も成長し、再び見知らぬ大人が来て“本当の御主人様”のもとへ連れて行くんだと、運ばれていたところだったようだ。

 

 そして荷馬車が獣に襲われた。


 彼女は咄嗟に荷物の中に隠れたが、周りの大人たちは逃げ出してしまった。

 しばらくして獣もいなくなった様子を見て逃げ出し、そのまま夢中で森を走り続けたのだそうだ。


 どれくらい走ったか分からない――と、言い始めたとき、彼女はすでに半べそで両の目をこすっていた。

 本当に怖かったし、辛かったんだと――


「そうか……大変だったな……辛いことを思い出させたみたいだ、すまない……」

 

 そう言いながら、彼は無意識にユイの頭の上に優しく手を乗せていた。


 少し安心したのかユイは半べそを嗚咽に変え、しばらく泣き続けた。


(賊に襲われて奴隷って……やっぱりここは……)

 


 ピカピカに磨いてあった革靴が、いつの間にかすっかりくすんでいた。

 

 長谷川は泣いているユイの頭をポンポンとやさしく叩いたあと、彼女が落ち着くまで隣に座り続けた。

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