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異世界先生 ~転生して塾を開いたら、世界を変えてしまう!?~  作者: きりたちのぼる


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【ep.7】葛藤する先生 4.力に訴える

 町までほぼ駆け足だった。


 道すがら、彼は計画とも言えない内容を説明した。


 まずはロッキーの鼻を活かして町でユイを捜索、できればそのまま連れ帰る。

 障害があれば或いは……と剣に手をかけた。


 何かを準備ができる訳もなく、アルは黙って頷いた。




 町に到着後、今更驚かないが、精通していたアルの見立てた場所に真っすぐ向かった。


 その一画は不自然に人が多く見えた。

 武装した男たちもいる。


 警戒した長谷川は近くの路地裏で二匹を召喚した。


 ロッキーを試行錯誤しながら訓練していた彼は、【スキル】かどうかは怪しいが、警察犬のように鼻を使った探し物が得意なことを把握していた。


「ロッキー、これでユイがいるのか教えてくれ。それと今日はキャンキャンはダメだ」


 静かにだ、と口に人差し指を立てた。


 ロッキーはキャン! と答え、長谷川が差し出したユイの巾着の臭いをくんくんと嗅ぎ、唐突に走り出した。


 アルとふたりで息を殺してロッキーを待つ。

 その脇で成犬ロビンは様子を伺っていた。



 すると建物付近の方角で、


「キャン!」

(あいつっ! キャンキャンはダメって!)


「なんだぁ? こんなところに犬か?」


 目星を付けていた建物から、どうしたんだと男たちがぞろぞろ出てきた。

 元居た周辺の男たちと合流した。


 少なくとも全部で十人以上にはなった。


 するとその様子を見ていた長谷川たちの、何故か真横からロッキーが弾むように戻り、彼に飛びついた。


「うわっ! よし! よーし、ロッキー、ユイはいたのか?」


 キャン! ロッキーは一度だけ吠えてウェーブした短い尻尾を激しく振った。


「いたんだな! ん、お前ひょっして、キャンキャンはダメって言ったから……」

 キャン! ロッキーは今度は潤んだ瞳で訴えた。


「よくやったな!」

 長谷川はその頭をくしゃくしゃに撫でてやり、召喚を解いてやった。



「それにしても……」

 トーンを落とした長谷川は言った。


「当たりは良かったですが、数が少々多いですね……私ひとりでもどうにかなりますが」


「そうだな……建物の中の様子はわからんし、ここは慎重になるべきか。アル、ロビンと一緒に表のアイツら、できればまだ中に残ってるやつが引きずられて出てくるくらい、派手に引き付けて貰えるか? 俺がその間に忍び込んでユイを探す。恐らく中にはそんなに残ってないだろう」


「陽動ですね。確かに、正面から乗り込んで変な壁でも作られ、そのまま連れ去られてしまっては厄介です。任されました」


 長谷川はアルの目を見て強く頷いた。


「ロビン、お前は最初様子を見るんだ。アイツらが釣られて動くまで“待て”だ。もし中のヤツも出てきたら、できれば建物の入り口辺りに飛び出して追い立てろ。わかるな」


 大きな狼のような姿をしたロビンは吠えず、小さくヴァゥと唸った。

 ボア狩りの経験が活きていた。


 長谷川はロビンの頭を撫でてやると、そのまますくっと立ち上がった。


「ユイ、待ってろよ……」




 状況は狙い通りに動いた。


 正面から堂々と近づいたアルは、男たちに何か声を掛けた。

 するとそいつらは一斉に抜刀した。


 アルが叫ぶと、建物とは反対方向に駆け出し、彼の近くまで辿り着いた男から順番に相手をする形で陽動した。


 その喧騒でさらに二人が建物から飛び出してきたが、突然脇から迫ったロビンに驚愕し、追い立てられた。長谷川はその隙に建物に突入した。



「……よし! 中は誰もいない」


 飛び込んだ先、広い一階には大きいテーブルがひとつ、卓上には酒でも飲んでいたのか、粗末な料理と酒瓶などが散乱していた。床にもいくつか椅子が転がっている。


 そして二階に続いた階段の先、部屋が二つ見えた。


「二階……だろうな」


 長谷川が慎重に階段を上がると、すぐに目的の部屋が分かった。


 中から下卑た低い声がしていたのだ。

 そして――


 バシンッ!


 はたいたような乾いた音が聞こえると同時に、何かがドサッと地面に落ちた音がした。


「くっ……!」


 長谷川は唇を噛んだが、冷静に聞き耳を立てた。



「だから何度も言わせるなぁ。その塾とやらで何を教わってたんだ? あぁん!」


 男が声を荒げたからか、今度ははっきりと聞こえた。


(間違いない、ユイがいる……)


 すぐにでも飛び込みたい衝動を抑え、冷静に中の状況を把握しようとした。


「…………」


「この野郎、なんとか答えろよ!」

 ドカッ! 今度は何かを蹴飛ばしたようだった。


「……」

 それに答える声が聞こえてこない。


「おい、面倒臭え、少し剥いてやれよ。あとで別の服でも着させりゃぁバレねえだろ」

 先ほどとは違う甲高い男の声だった。


(これで二人……)


 長谷川はまだ堪えた。

 しかし――


「きゃっ! いやっ」


 それで長谷川は扉を開けるでなく蹴破った。

 木製の薄い扉は簡単に内側に吹っ飛んだ。

 

 ドガガッ!


 その瞬間、埃っぽさに加えて強い酒の臭いが混じったような空気が飛び出した。


 そして今にもユイの服を剥ぎ取ろうと、腰に短剣を下げた小男が彼女に掴みかかっていた。


 今朝方、彼女が嬉しそうにこれにしたのと見せてくれた洋服は汚れ、乱れていた。


「うぉ! なんだお前は! 下のやつらはどうした!?」


 正面左の大柄が慌てて言った。三人目がいた。


 長谷川は答えず、ただユイの様子に目をやった。


 彼女は後ろ手に縄で縛られ、恐らく先ほど平手打ちされたであろう、右頬を赤くしていた。

 彼は黙って腰のショートソードを抜き放った。


「どちらさんだか知らねえが、殺る気みてぇだな」


 ユイに手を掛けていた小男が短剣を抜いた。

 最初に声を上げた大柄も短剣を構えた。


 右にいた男もへへへと、酔っているのかつっかえながらロングソードを抜き、構えた。


(初戦で三人か……)


 彼は冷静に、視界の三人を動体視力で観察した。


 そして構えたまま微動だにしなかった。

 幸い、嘗められているのか、ユイを盾にされていないのは僥倖だった。


「おいおい、こいつもだんまりな上に、動かねぇぞ? ビビってんのかぁ? なぁ!」


 小男が低く下卑た声でそう言って、大柄の方に顔を向けた瞬間、長谷川は動いた。


 右手、一番近かったロングソード男に踏み込んだと見せかけ、床に転がっていた椅子を思い切り左の大柄に向けて蹴り飛ばした。


「おわっ!」


「おお、なんだなんだっ」


 大柄は情けない声で叫び、ロングソード男はそちらに気を取られた。


(今っ!)


 始めから目的はロングソード男だった長谷川は、今度こそ一気に踏み込んだ。


「な、なに!」

 そいつは慌てて剣を振り上げようとするが、狭い室内で動きが半端になる。


 さらに、稽古でアルがロングソードを使うことが多く彼は慣れていた。男の中途半端な振りを事も無げに捌き、そいつの右手を切り上げると、そのまま頭を掴んで壁に激しく打ち付けた。


「ぐわぁ」


 男は動かなくなった。


 長谷川はすぐさま移動し、ユイを背にして相手との間に割り込むことができた。

 しかし、同時にユイの怯えた顔が目に入ってしまう。


(……! ユイ! くっ、こんなところも、こんな姿も見せていい訳が無いっ!)


 その思考はすぐに中断させられた。


「て、てめぇぇぇ」


 意表を突かれた残りの二人は遅れて逆上し、腰を落として今度こそ臨戦態勢を取った。


(どちらも短剣……リーチはこっちに分があるが……)


 そう考えたが、背中に意識を向ける。ユイの怯えた顔が浮かぶ。


「二対一だな……今度は同じ手はないぜ」


「……そうだな、でもそろそろ応援が来るさ」

 ブラフだった。


 アルたちが来る可能性はあったが、わからない。


「へへ、どうかな? 口のウソは上手くねぇみたいだなぁ」


 小男が短剣を持ち替えた瞬間――


 バタンッ!

 階下の方から踏み込んでくるような音が聞こえた。


「嘘だろ!?」

 偶然のタイミングだったが、小男の方が驚いた。


 長谷川はその瞬間も見逃さなかった。

 敵方の増援の可能性もあったので、彼は賭けるしかなかった。


 手前にじわじわと近づいてきていた大柄に踏み込んだ。

 と、すぐにブレーキを掛ける。


「同じ手が通じるかよっ」

 小男が後ろに飛びのいた。


 が、それが狙いだった。

 長谷川はバスケのドリブルで鋭く切り返すような動きで、大柄に迫る。

 

 シュッ――

「ぅらぁぁぁー」


 大柄は短剣を構えたが、それでは武器の持ち味を活かせていない。

 簡単にそれを弾き、強引にタックルして壁に叩きつけた。


「ぐふぅっ」


「ふんっ!」

 ガツッ!


 大柄の頭を素早く掴んで頭突きをかました。

 それでグラついたところを、ショートソードの柄で頭を殴り飛ばした。


 そしてすぐに小男に向き直った、が――

 

 ズシャ――

 

 長谷川の右腕が切り付けられ、剣を落とした。


「ハセっ!」

 ユイが叫んだ。


 長谷川は落ちた剣を拾いにかかる。

 その時ユイの表情が引きつった。


「バカがっ!」

 小男は彼のウソに三度引っかかった。


 長谷川は思い切り屈んで横から迫った短剣を躱すと、気合の一声、右手の痛みも忘れて小男の体を掴み上げた。


 ザシュッ――


 もがく小男の短剣が長谷川のわき腹を抉った。


「いやぁぁぁ!」

 再びユイが悲鳴を上げると、長谷川は鬼の形相で小男を床に打ち付けた。

 

 そいつがどうにか片膝ついて体制を取ろうとするが、顔面に膝蹴りを加えて吹っ飛ばし、沈黙させた。


 どうにか立っていた長谷川だが、堪えきれず片膝になり、そして崩れた。


「ハセ! ハセってば! 嫌だよ!」


 ユイが彼に駆け寄り体を掴んだのと、アルとロビンが駆け込んできたのは同時だった。


「ユイ……ごめんな……先、生が……悪かったんだ」


 そう言って、彼の手を握りしめたユイの小さな手を、ほとんど力の入らない右手で握り返し、左手を擦り寄っていた黒い髪の上に乗せた。


 ギリギリの中、衛兵らしき男たちが遅れて現れたのを見たあたりで彼は意識を失った。

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