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異世界先生 ~転生して塾を開いたら、世界を変えてしまう!?~  作者: きりたちのぼる


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【ep.6】実感する先生 5.塾の成長-2

 夜更け、長谷川は突然リヴァエルに呼び出された。


「ごめんなさい、こんな時間に……」


 呼び出され、言われるがまま近くの小川の先、ちょっとした湖の湖畔にまで連れてこられた。


 彼女は神妙だったが、湖面の月が反射していたこともあり、神秘的に見えた。

 近くには精霊だろうか、小さな光が幾つか踊るように舞っていた。


「どうしたんだい、急に?」

 彼はシンプルに尋ねた。


「あなたに感謝を伝えたかったの。エルフは長命とは言え、時間の大切さを理解しているの。その時間の使い方、ましてヒト族とここまで交わるなんてことは、余程の理由が無ければあり得ない。少なくても旅立って間もなかった私はそうだった」


「……」


 長谷川は沈黙で続きを促し、リヴァエルは応えた。


「でも長谷川に会って、魔法のような授業とみんなの変化を見せられて、気が付けば五年も一緒に過ごすなんて……ありえないことなの」


 長谷川はいつもの彼女風の皮肉かもしれないと苦笑したが、見透かされた。


「皮肉じゃなわ、勘違いしないで。素直に……あまりに充実した時間をプレゼントされたことへの純粋な感謝……この気持ちは受け取って欲しいの」


「……そう言って貰えるのは俺も嬉しいよ」

 彼は真剣に考えてから、優しく答えた。


「ありがとう。……それじゃぁ一つ、ついでに内緒話も聞いてくれるかしら? ただし、これはあなたを巻き込んでしまう可能性もあるの……」


 そう言うと彼女は少しだけ俯いた。

 彼の反応を気にしているようだった。


「問題ないさ。かわいい教え子の悩みを聞くなんて、いつものことだろ?」

 長谷川は迷わず言い切った。


 ふふっと、嬉しそうにいつもの勝気な表情に戻った彼女は、自身の旅の目的を打ち明けた――、その内容は長谷川の想像を超えていた。



 エルフ……正確には彼女の種族“ハイエルフ”は、滅びの道を歩んでいた。


 そしてリヴァエルは三百年振りに誕生した西の森のハイエルフの“巫女”であり、彼女の旅は、その滅びに抗うための恐らく過酷な運命を辿る……その第一歩だった。


「よく分からないわよね? でも、あなたとの出会いで、こんなに楽しい気持ちがあるんだって知ることができたの。偶然にもお姉さまにだって会えたわ……だから、……だからひょっとしたら運命も変えられるんじゃないかって、確信が持てたの……!」


 そう言い放った彼女は、真摯に向き合う彼をそっと抱擁した。


「だからごめんなさい……巻き込むことはないはずだけど、私の気持ちが変わったように、絶対はあり得ないかもしれない……」


(ヒトの年齢で言えばまだ十代半ば、それでも百年以上を生きて、こんなに重い事実を背負っていたんだ……どれだけ苦しかったろうか……)


 長谷川はこれまでの日々の授業や生活、友だちの存在が、どれほど彼女を支え、勇気づけていたのだろうかと想像した。


「まぁ、きっと大丈夫だ! 運命が良い方向に行くかなんて、俺が簡単には言えないが、少なくとも、教え子は守る。悩んでたら話しを聞く。困ってたら助ける。それは絶対だ」


 彼はそう言って、小さく震えていた彼女の、小さな頭……光の精霊に照らし出されて輝く黄金色の髪に軽く手を乗せた。


「たくさん友達もできたじゃないか」

 長谷川がニカッと笑うと、彼女の瞳も明るく揺れた。


「そうね……長谷川、ありがとう! 私の真名は“リヴァ・リリア・エオリア・エルシエル”……ちゃんと覚えるのよ。でもみんなには内緒……!」


 あなたへの感謝と信頼の証に……そう告げた彼女の尖った耳は赤らんでいた。

 その時にはいつもの好奇心旺盛で甘えん坊、少し怖がりな彼女に戻っていた。


 この告白がどのような意味を持つのか、今の長谷川に計ることはできなかったが、真摯な気持ちにきちんと応えたいと素直に受け取った。


 彼は久しぶりに異世界を強く意識し、黄金色に輝く月を写した湖面を見やった。



     *    *     *



 誕生会があってからすぐ、突然、レグとアルは二ヶ月ほど塾を休むと申し出てきた。


「全く構わないが、随分急だね」


「はい……申し訳ございません。先生……その……」


「まぁみんな色々あるだろうしな。でも何かあれば、遠慮なく頼っておいで。できることとできないことはあるけどな!」

 長谷川が笑うと、ふたりは少し緊張をほどいた。


 出会った時から感じていたことだが、長谷川はふたりには何らかの事情とその関係があるのだろうと想像していた。

 だからこの時も深くは聞かなかった。


「あ! アルがいない間の自主練のメニューだけ、簡単に作って欲しいかな」


「それはもちろんです!」


 要点が押さえられ、しかも生徒ごとに対応した内容をアルがきっちり素早くまとめ上げると、ふたりは町の方角へと去って行った。



 ――しかし、

 少し思わせぶりだったふたりは、結局ぴったり二ヶ月後、浅黒い肌の商人の男が操る馬車に乗って帰ってきたので、長谷川は少し拍子抜けした。


「先生! これ、みなさんへのお土産です!」


 レグは隣国の雑貨や食べ物を塾のみんなに披露した。


(こんなことでもきっちり期日を守り、お土産まで買ってくるこの気遣いよ……)


 このビジネスライクな少年に脱帽せざるを得なかった。



 長谷川はあらためてこの五年の彼らの成長と変化を心から噛みしめた。

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