【ep.6】実感する先生 5.塾の成長-1
ロッキー誕生の翌晩、偶然にもユイの誕生日会が予定されていた。
そしてそれは全員参加のもと、つつがなくスタートしていた。
「ユイ、誕生日おめでとう!!」
「ユイちゃんおめでとーーー!」
「えっ? ええっ……!?」
パチパチパチパチパチ!
十人を超えるとそれなりに賑やかなになった。
ユイはそれこそ呆気に取られていた。
授業が終わってもなかなか帰らない面々に、少し不思議そうな様子で見ていたユイだったが、突然のサプライズに面食らったようだった。
奥からはソフィアとセリフィエル、ミラが大量の食事やらお菓子、飲み物なんかを運び込んできた。
ユイの本当の誕生日は不明だったが、長谷川とソフィアの三人で出会った日を誕生日にしようと決め、毎年祝っていた。
今回は、長谷川が塾の五年目に何かできないかと悩んでいた。
ならば一緒にお祝いしましょうと、リヴァが好奇心いっぱいで提案してきたのを採用したのだった。
ユイ本人には内緒にしていた。
すると――
「う、ううっ……なんで、なんでこんな……う、……急すぎるよ……」
と、そこまでどうにか言葉にしたユイは、みんながいるのも気にせず、うわわあぁと大泣きしてその場にへたり込んでしまった。
想像以上の本泣きだった。
(おぉ!? そう言えば出会ってから、過去に怯えて泣くことはあっても、それ以外では泣いてるとこなんて見たことない……ちょっと刺激が強すぎたか……)
長谷川は思いっきり動揺して、あわわとユイの肩を掴んだが、何故かレグとアルまで一緒にうろたえる始末だった。
ブロムだけは微笑みながら自慢の髭を上下させていた。
「もう~ハセ先生どいて!」
ヴェラに押しのけられると、女の子たちがみんなでユイを囲んだ。
それで大泣きが嗚咽に変わった。
ソフィアも慌てていたのか、滅多にみせない困り顔でユイの大好きなクッキーを皿一杯に差し出すした。
「ソフィ多いよ」と、それでユイの表情が和らいだ。
それから生徒たちはみんなで用意していた、ノートとメモ帳、鉛筆をプレゼントした。
「どうにか収まって良かった……」
「えぇ、全くです」
安堵して頭を掻く長谷川に、アルがまだ少し青ざめた顔をして同意した。
「ふたりとも授業は立派なのに、レディの扱いがなっていないわね」
セリフィエルにとどめを刺された。
その様子にユイが笑っているのがちらりと見えた。
それからも会は続いた。
「今日はみんなにもプレゼントがあるんだ! 塾も五年目だしな!」
長谷川が思い付きでブロムに作ってもらった、“チェス”と“トランプ”を披露した。
「長谷川先生、それは何ですか?」
優等生のミラがみんなを代表して尋ねた。
「う~ん、あらためてそう言われるとなかなか説明するのが難しいな……、まぁそうだな、これは頭が良くなる魔法みたいなゲームだな!」
「魔法みたいなゲーム!?」
「頭も良くなるですって!?」
そのことばにテッサやヴェラ、それ以上にエルフ娘ふたりが食いついた。
最初は少し外側から見ていたレグとアルも、長谷川から説明を聞くうちに身を乗り出した。
「よーし! こんなのは習うより慣れよ、だな! 長々説明するよりやった方が早いだろう。そうしたら……レグ、どうやらチェスに興味深々だな……俺とやってみるか?」
「是非! お願いします!」
戦略ゲームだと触れ込んだのが刺さったようだった。
ブロムにもルールは説明してあったので、トランプ組の方を任せた。
そして長谷川とレグのチェス、当然に一局目は長谷川が勝利した。
「まぁいきなり教わって勝てるわけないよな。それでもレグ、なかなか良かったぞ?」
「なるほど……これは素晴らしいかもしれない……! 先生、もう一回お願いします!」
レグは年相応に熱くなってきたようだった。
「仕方ないなぁ、それじゃハンデはいるかい?」
「いえ、結構です!」
(麒麟児も流石に初見の遊びでは手こずるか……しかしその意気や良し!)
そうして二局目が始まった。アルも食い入るように見守った。
「チェックメイト……で、合ってますよね?」
「えっ……」
レグの白いナイトによって、長谷川の黒いキングは完全に行き場を失っていた。
「な……んだと」
「先生、このチェスとやら、やはり素晴らしい! いろいろな学びが詰まってます!」
そ、そうなんだよと、長谷川は三局目を申し出た。
そして先ほどよりも少ない手数で敗退した。
「もう一回!」
「もちろんです!」
その頃には長谷川が大げさに騒ぐので、トランプ組もこちらを見ていた。
都合五戦をせがんだが、勝ったのは最初の一度きり、もはやレグに完封されていた。
「ぐああぁあー」
頭を抱えてつんのめる長谷川。
「先生子供じゃ~ん」
ヴェラの容赦ないひと言に、みんなが飽きれ半分、大笑いしていた。
トランプ組も途中で二グループに分かれて違うゲームを楽しんだ。
“ババ抜き”で盛り上がっていたセリフィエルだが、精霊に頼んでズルをしようとしたのを、リヴァが気付いて止めたり、テッサやヴェラも加わり大興奮していた。
ユイやブリュナ、ミラなんかは“神経衰弱”で真剣になってにらめっこしていた。
「これは売れそうじゃわい」
満足げに様子を見ていたブロムはそんな風に漏らしたが、あまり商売っ気の無いはずの彼は、きっと売ることよりも作ることの方に気がいってそうに見えた。
こうして誕生会は遅くまで続き、帰りは各自宅までレグとアルに見送りを任せた。




