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異世界先生 ~転生して塾を開いたら、世界を変えてしまう!?~  作者: きりたちのぼる


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【ep.6】実感する先生 2.体の変化-1

 五年も経つと、同じ授業内容を繰り返すことも増えるが、特に長谷川の【社会】はその傾向が強かった。


 中でも彼が最近力を入れる指導には、処世術も含まれていた。

 それは――


「これは本当に大事なことだから何度でも言うぞー」


 えーもう分かってるって、とテッサが耳を塞ぐが、ミラが長谷川を代弁した。


「一つ、塾で身に付けた知識を塾生以外にひけらかさない。一つ、塾で身に付けた力を塾生以外の前では振るわない……ですよね?」


「ありがとう。ミラ! その通りだ」


 ミラは少し誇らし気に頬を赤らめると、一生懸命ノートに書き写そうとしているユイをフォローもしていた。


 ミラの身長も伸び、レグを除けばテッサの次に高くなった。生来の真面目さもあり、今ではすっかり委員長属性を遺憾なく発揮していた。


 まだ表情に多少のあどけなさは残るが、ブロンドヘアにそばかすが似合う、お姉さん気質も発現していた。


「あ、ヴェラ! ちょっと起きなさいよもう……」


「うち、ちゃんと話は聞いてるって……」


「そう言って昨日も寝てたでしょ!」

 うぇーとうなだれるヴェラを、ミラが突いていた。


 相変わらずさぼりぐせのあるヴェラや気の強いテッサなどは、彼女に注意されると頭が上がらないようだった。


 またユイやブリュナが困っていれば、積極的に声をかけていた。


 二人に対して誇らしげにしている様子を時折見るのは少し気になったが、彼女の性根を考えればそれも個性と思えた。

 すっかり頼もしい生徒に育っていた。


 当初、彼女の入塾を訝しがっていた母親も、今ではすっかりそのなりを潜め、むしろ塾のファン筆頭になっていた。


 娘の教育に目を向けず、母親に任せきりの旦那をよそに、彼女はミラの成長を大変喜び、娘の将来に大きな期待を寄せているようだった。


「あの子ならいつかこの村を出て、国の仕事に就けるかもしれないねぇ」


 母親は最近ではちょくちょく一緒に塾に訪れては、長谷川や塾にと、収穫した野菜などをごっそり差し入れしながら、娘自慢をするまでになっていた。




 五年を経た成長と言えば、アルの【護身術】の授業風景にもその変化は明白に見えた。


 以前はテッサとレグの身長は同じくらい、生徒たちのトップ組であった。

 しかしこの五年、十六歳となった男子であるレグは、さすがにその成長は著しく、あと十センチも伸びれば長谷川に迫る勢いだった。


 おまけに均整の取れた筋肉まで身につけ、いわゆる細マッチョへと進化していた。当然、剣を振るう姿や技も堂に入っていた。


 テッサはレグとの身長差に気付きはじめたころ、意味不明な対抗意識を燃やしていたが及ばず、それでも年頃の女の子としてみれば、十分に高身長と言えた。


 その体は無駄の無い肉付きとしなやかさを備え、さながらアスリート女子のようで、剣術にも力が入った。



 そんな中【護身術】への参加熱を年々高めたのはリヴァエルだった。


 二年ほど前からは欠かさず参加するようになっていた。

 相変わらずテッサに対抗意識を燃やしていたのだ。



 カンカン、カン! カーン!

 ドサッ!


「それまで!」


 アルの短い制止が入る。


「今日も私の勝ちみたいだな!」


 テッサはショートソードタイプの木剣を、リヴァエルの頭上に向けて言った。


「くぬぅーーー! 悔しいけど認めるわ」


 尻餅をついていたリヴァは、レイピアタイプの木剣を杖替わりに立ち上がろうとした。そこへ、ニシシとテッサが手を差し伸べ、彼女を引っ張り起こした。


 もともとレイピアへの多少の嗜みがあったリヴァだが、テッサが腕を上げ始めていた上、体格差までついてきたので、模擬試合で負けることが増えてきたのだ。


 それでリヴァはテッサに対抗心を燃やしたのだった。


 エルフである彼女は見た目も身長も殆ど変化は見られないが、その敏捷性はかなり高くなっていた。


 それでもどうしようもない体格差は埋められず、絶対に負けたくないと、セリフィエルの魔法授業にも一段と熱心でいた。



 庭で剣術の稽古を終えたレグたち三人が戻るのと、教室での長谷川の授業が一区切りしたのは同時だった。



 そうして休憩が始まるころ、別メニューで川沿いのコースを走っていたヴェラとブリュナが息を切らして帰ってきた。


 先にアルの授業を終えた三人とは対照的に、こちらは相変わらずへばっていた。


「ふぅ、ふぅ、ふぅー……ふぁあ」


 以前よりはだいぶ息も乱れないようになったブリュナだが、相変わらず呼吸は普段の三倍は息をしているかのように荒く、へとへとになって教室の端にへたり込んだ。


 長命種の彼女も見た目に大きな変化はなく、身長も今ではユイに抜かれてしまった。


 一時は痩せてしまったかに見えたが、旺盛な食欲もあり、その辺は問題なく元に戻っていた。


 しかしその表情は少し大人びてきており、以前のような人見知りも、少なくともこの教室では見せることはなくなっていた。

 相変わらず種族的にも走るのは苦手であったが。



「はぁ……はぁ……もう、だめぇ」


 そしてもう一人、この五年で一番見た目が変化したと言えるヴェラは、入ってくるなり大の字になって寝ころんだ。


 彼女は身長こそそれほど大きく伸びてはいないが、主に胸部は大人の女性と見まがう成長を遂げていた。

 いつからかテッサとリヴァをからかうほど、自信にも満ちていた。


 それなのに行動は子どものまま無防備で……

「ちょっとヴェラ! あんたその恰好で服をパタパタさせない!」


 薄い布切れで扇ぐ姿を、咄嗟にミラが注意すれば「えー、うち熱いの無理だし~」と意に介さず。

 その様子にレグと長谷川は思わず視線を逸らした。


「あ~、ハセ先生やらしー」


「なんで俺だけなんだよ!」

 長谷川が反応すると同時にミラにこつかれ、ベラは笑って舌を出した。



 みんなが揃ったころ、教室の外からソフィアの声がした。


「は~い、おやつですよ~」


 大きなプレートに大量のクッキーやらマフィンを乗せてにこにこ顔で現れた。


 さすがに彼女にはこの五年での変化は全く見られなかった。

 身長はレグに抜かれ、テッサにも迫られ、その二人が横に並べばむしろソフィアが縮んだように見えた。


 強いて言うならば、ユイの髪を結んだあと、自らのパールグレーの柔らかい髪をお揃いにして結って現れるときには、親子か……ともすれば長谷川には姉妹のようにも見え、そう言った変化のみだった。


 敬虔な聖職者然とした雰囲気も変わらないが、持ち前のマイペースさも顕在で、いろいろな意味で欠かせない長谷川の女房役として過ごしていた。


「あ、なんか新しいのがある! ソフィ! 何この黄色いぷるぷる?」

 真っ先にソフィアに群がったテッサが目ざとく見つけた。


「それはプリンと言うものですよ。家の裏で飼っているニワトリのたまごを使っているので、新鮮で栄養もたっぷりです~」


 へ~、じゃあ私が一番! と、テッサがプリンを奪い去ると、


「テッサ、あなたお姉さんなのに大人げないわ」

 リヴァが指摘している脇から、今度はヴェラがプリンを持ち去る。


「じゃぁ、うちが二番~」


「も~二人とも……はい! これはユイとブリュナの分」

 ミラがふたりの分を確保すると、残ったプリンをリヴァと分けた。


「あの……僕の分は……」


「心配すんな、お前の分もちゃんとありそうだぞ」


 長谷川がそう言ってレグの後ろに向け、あごをくいっと上げた。

 すると奥からソフィアが追加のプリンを持ってきていた。


「はい、これはレグ君にアル先生と貴之さんの分ですよ~」

 珍しくアルまで一緒になって喜んでいた。


「ソフィのお菓子って、はむ。ほんと飽きがこないよねぇ」


「うん! わたしも大好き!」


 早々にプリンをたいらげたテッサはクッキーを手に取り、決して美味しいとは言わない五年前と変わらない感想を漏らすと、ユイが元気に同意した。


「うちはフルーツが入った焼き菓子が好きだなぁ。それにしても【護身術】のあとのおやつは最高かも~。ほんとアメと鞭ってやつなんだけどぉ」


 強制なのが嫌だよね~と付け加えるヴェラに、ブリュナがコクコクと口いっぱいにマフィンをほおばりながら同意した。

 両手にはまだ複数のクッキーを持ち、しっかりカロリー補充していた。


 その横でユイも苦笑いしながらうんうんと頷いていた。


 【護身術】の授業はメニュー改善されていたが、それでも一部の生徒には相変わらずハードな内容だった。



 そのあともソフィアが追加したお代わりのプリンを持ち寄り、女の子たちは輪になって談笑していた。


 ソフィアの方に目をやると、彼女は子犬ロビンにも専用のおやつを与えてよしよしもふもふしていた。


 一方、レグとアルは少し離れたところで、何やら話していた。

 アルがこちらに気付くと、クッキーを片手に微笑んだ。何となくだが長谷川には取り繕うようにも見えた。


 レグも同じくクッキーを手にしていたが、どこか遠くを見つめるように窓の外を見ていた。


(五年間あっという間だったな……生徒も講師も増え、みんながこうしてついてきてくれて……。転生したばかりのあの頃には想像もつかなかった。相変わらず【護身術】の授業だけはみんなに無理を強いているが、こればっかりは譲れない……絶対に必要なんだ)


生徒たちの成長を喜びながらも、自らの指導方針を再確認していた。

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