【ep.5】鍛える先生 4.ユイと育つ。ソフィアも
青年ドワーフのブロムの人気も侮れなかった。
彼の担当は【雑学】だが、フィールドワークの臨場感を活かして披露される【クラフト魔法】の視覚効果は絶大だった。
以前にブロムに頼んで作ってもらった紙やペンなど、それらを作成するための素材集め、目の前でクラフトする瞬間は、さながら林間学校のような臨場感があった。
特に彼に懐いてるのは、ブリュナはもちろん、あとから入塾した真面目なミラ、ユイたちだった。
生活に根差した授業は二人にとって一番の興味をひき、楽しみでもあったようだった。
生徒たちの【魔法適正】が少しずつ向上してきたころ。
「今日は趣向を変えて、希望する者に【クラフト魔法】の手伝いをやってもらおうかの」
このころにはブリュナは既に基本は習得していて、彼女以外で挙手をとなった。
そこでまばらに手が上がり始めたかと思いきや、ふたりがピンと勢いよく手をあげた。
ユイと長谷川だった。
普段は大人しいで通っていたユイは意外として、大人げない長谷川に周りが笑った。
長谷川は面目ないと頭を掻いたが譲らなかった。
「ハセ先生こどもじゃん~、そこは普通譲るでしょぉ」
からかうネタができたと、意味ありげな表情のヴェラに突っ込まれた。
「コホン。 ふたりは土属性では無さそうじゃから上手くいくかは分からんが、まぁなんでも試してみるのが【クラフト魔法】の基本よ。最後の魔力操作はわしがやるでな」
そう言うとブロムは腰袋から、鉛や粘土を取り出した。
「お! 鉛筆だな!」
以前に鉛筆製作を依頼したことを思い出した長谷川が即答した。
「これこれ、それを聞くのも授業じゃて、お主が先に答えてどうするのじゃ」
ほんとだよ~と、周りから野次が飛んだ。ブロムは続けた。長谷川は赤くなった。
「ならばユイよ、鉛筆には他に何が必要じゃ?」
ユイは少し考えたあと、熱心にメモをとっていたその手に握られた鉛筆を見た。
「……あ、木!」
「そうじゃ、大正解じゃな。おぬしら簡単な答えと侮るなよ。その物が何からできておるのか、身の回りのもので応用できないか、常にいろいろなことに関心を持つのじゃ。分かっている、知っているつもりが一番の大敵じゃて」
ブロムが解説すると、彼女はこれまでに得ているはずだった分を取り戻すかのような無邪気な笑顔を見せた。長谷川は少し胸が熱くなった。
その後、適度なサイズの木の枝をみんなで拾い集めた。
それらを含め、ブロムに言われた通り、ユイと長谷川はそれぞれの手に、鉛と粘土、木の枝を一緒に握りしめた。
それでは仕上げじゃと、ブロムがふたりの手に自らの分厚い手を重ね、意識を集中させた。
「――それっ! どうじゃ!」
「うわっ」
一瞬だけ、閃光がユイの手のひらではじけ、彼女は慌てた。
「おおぉ!」
同時に周りがどよめいた。
ユイの手のひらでは収まり切れない数の鉛筆が現れ、その手からこぼれ出した。
「なんと!」
これにはブロムも驚いた。彼は腰袋を開くと目を見開いた。
「中身を全部使ってしまったわい。からっぽじゃ」
がははと大笑いしながら、ユイの頭をたいしたものだとポンポン叩いた。
ユイはやってしまったような嬉しいような、どうしてよいか分からない様子で顔を赤らめていた。
「あれ? ハセ先生はどぉだったの?」
ヴェラが鋭く長谷川に確認した。
「……これ……」
半分の長さにも満たない鉛筆が、彼の大きな手のひらの上にひとつだけ乗っていた。
「なにそれぇ~」
期待を裏切らない結果にヴェラは大喜び、周りの生徒達も腹を抱えて笑った。
ユイやあのレグまで笑っていた。
「まぁ、こんな時もあるだろ? な?」
短いとて、出来上がったのじゃから大したもんじゃと、ブロムにフォローされた長谷川は、同時にいつまでも笑い止まないその場の空気に、心地よく包まれていた。
* * *
「は、長谷川先生! ……よ、よろしくお願いします……!」
その日はまだ少しぎこちないミラが塾に最初にやってきた日だった。
苦悩や失敗もありながら、塾が充実し始めていたころに加わったのがこのミラだった。
初めこそとても緊張した様子だったが、テッサやヴェラとは顔も見知っていたこともあり、そこは早くに打ち解けていた。
授業についても、長谷川の授業やその教え方に興味を持ち、たくさんのノートを取りながら自分なりにまとめりたと、とても熱心だった。
そして何度か授業を重ねた頃には、
「あ、ユイちゃん、それって多分こうだよ」
「ほんとだ! ミラ、ありがとう」
もともと真面目な彼女だったが、馴染んできたころから、その優等生然とした振る舞いが良い意味で増えており、ユイやブリュナの前ではお姉さんらしくもあった。
実際にテッサと同学年、ユイの二つ上でもあった。
ユイやブリュナにとっても話しかけやすい存在らしく、何かと頼っている光景も見えた。
半ば強引に通塾を認めさせた彼女が活き活きしていると、家でも上手くやれてれば良いなと、あの母親の顔も思い浮かべた。
(しかし何故か俺の前だとまだ畏まると言うか、緊張が解けてない感じがあるけどなぁ)
授業中でない時には、なかなか目を合わないことを、長谷川は少しだけ気にしていた。
「は~い。そろそろおやつですよ~」
授業の終わりに合わせたタイミングで、ソフィアのおやつが登場した。
「あ! 今日はマフィンだ!」
相変わらず何故か誰も美味しいとは言わないが、それでも彼女のおやつは人気だった。
(う~ん、砂糖が少ないからなのか?)
それにしても、彼女にも本当に支えられていた。
長谷川が生徒や塾に集中できるのは、もはや彼女の存在無しには語れなかった。
ただただいつものにこにこ顔で、たまにケンカする生徒たちをなだめ、悩みがあれば寄り添ってもいるようだった。
日々のそんな彼女に何か報いることができないかと尋ねたことがあった。
しかし、
「下界に住むのは初めてですから、お料理もお買い物も、ロビンの散歩だって毎日楽しいんですよ。それに生徒や先生たちも沢山増えて、報いるも何も、すでにたくさん頂いてしまっているかもしれません」
と、はぐらかした訳ではなさそうだが、なんとも物足りない答えが返ってきた。
彼女の目的は知る由もないし、それを詮索するつもりもなかった。
ただでさえ、倒れた自分を転生させ、こんなにも充実した日々を与えてくれたことに、感謝しかなかった。
本来ならその存在と力にも、もっと頼ることもできるのかもしれないが、彼女が自発的にその権能を振るうならともかく、長谷川から頼るような選択肢はなかった。
彼はただただこの大きな【ギフト】も大切にしたいと思っていた。




