【ep.5】鍛える先生 2.己を知る-1
そんな日々を過ごすある日、長谷川は自身の成長……つまりはどうにか力を手に入れるヒントがないかと思い、あらためてソフィアが授けてくれた【ギフト】や【スキル】に注目し、彼女に詳細を尋ねるのだった。
「そうですねぇ、やはり【ギフト】で言えば、【魔法適正】に関係する【召喚魔法】がおすすめでしょうかぁ。この前の夜のロビン、あれは【進化】に近いと思いますよ~」
「キャン!」
子犬ロビンの散歩から戻った彼女は、小さなもふもふを愛おしそうに抱えていた。
ロビンはあの一件もあり、セリフィエルがいない日なんかは特に、召喚したままにしていた。
「【進化】か……そう言われると納得できるような変化だったな」
そう、光を放った直後に成犬に……むしろ大きな狼のようになったのだが……
「呼んだり還したりは自由にできるようになったが、その【進化】とやらのやり方、ソフィアは知らないのか?」
「そうですねぇ、召喚は私の専門でないのと……この子はこの世界の犬とは違って初めて見るタイプなので……何ともです~」
(確かに犬から狼って……ご都合すぎるファンタジーはあまり好みじゃないが、いざ自分が転生し、こうして力が必要となると、ご都合も歓迎したくなるが……)
すると、
「それに【スキル】の方も有効かもしれません」
彼女は柔らかく続けた。
【スキル】、長谷川にしてみればビジネススキルがちょっとパワーアップした程度にしか捉えてなかったのだが――
「たとえば【真理眼】は、“塾”の運営や授業に発揮されていると思いますよ~」
確かに、言われてみるとブロムに【クラフト魔法】に必要な素材や製法を伝える時なんかは、かつて見聞きした記憶や記録なんかを、シームレスに思い出せたあたり、少し不思議に思っていた。
さらには講師達の話から聞くこの世界のことを違和感なく理解し、それらを整理して伝えたりしているのも、“理解力”と言う意味では能力拡張の効果なんだろうかと考えた。
交渉ごとなんかも上手くいっている気がするし、武器になることは間違いなさそうだった。
「きっとコツを掴めれば、万能ではないですが、相手の話の真偽や、ちょっとした所作、ものごとの本質なんかを見抜いたりできちゃうかもですね~」
ソフィアが学園祭のビンゴ大会の景品でも当たってしまうかのようなノリで言った。
「おぉ、スキルの熟練度的な話かな。そんなことできたら確かにそれはすごい!」
元ゲーマーの血がしっかりと反応した。
彼の世界でのビジネススキル……人事や接客サービス業で培った人を見る視点も活きるのではと、長谷川はおおいに期待した。
しかし――
やはり今は物理的な“強さ”に繋がる術が欲しかった。
「そう言えば【マルチタレント】ってあったよな?」
「それはもう~アル先生に稽古をつけてもらってからは、ステータス上がってますよ」
「ステータス! 剣士職ってことか!? ひょっとして俺にも見えるのか!?」
長谷川は手を付き立ち上がった。ステータスは異世界のお約束だった。
「それは私にしか見えません……」
即否定された彼は、ズコっと肩肘折れた。そう言う異世界モノではないらしかった。
「そうかぁ……でも彼には筋が良いと褒められたしな……ここは地道にやるしかないか」
「そうでうね~。それに【不老】の【ギフト】もありますから、頑張ればいつかヒトには到達し得ない強さだって手に入るかもしれません」
ソフィアはにこにこ顔で言った。
(――不老!? 今、不老と言ったか?)
「【不老】って……ソフィアさん、聞いてないんですが!?」
急に敬語になった。
「そうでしたねぇ、あの時は必要最低限しかお伝えしてませんでした。ずっと老いないわけではないですが、エルフみたいにず~っと長寿な感じでしょうか」
てへっと、彼女は悪戯っぽく笑った。再び彼女の緩さを感じてしまった。
「怪我や病気もしますし、死なない訳ではないですから注意ですよ!」
取り繕ったように補足すると、「そろそろ皆さんにお茶を出しましょう~」と彼女は濁して席を立った。
「ふ、不老って相当凄いのでは……!? 凄すぎてちょっと想像つかない……」
今すぐ何か影響があるものでも無さそうだと、長谷川はその情報を一旦あたまの隅に追いやった。
ソフィアが外で勉強しているユイやリヴァ達にお茶とお菓子、ロビンを差し入れたようだった。
わぁ、と生徒たちの声が聞こえてすぐ、長谷川の元に戻ってきた。
長谷川は先ほどの話の内容を思い返していた。
ひとりでぶつぶつ呟きながら、紙にマインドマップを書いて熱心に整理していた。目の前にお茶が注がれたコップが置かれたことを視界に入れると、そのままソフィアに目をやった。
彼女は珍しくにこにこ顔でなく、不思議なものを見るような顔で彼を見ていた。
「どうかしたか?」
「いえいえ~、熱心だなぁって」
(確かに……何故自分はここまでしてるのだろう……)
少し冷静に考えた。
彼にはこの世界に早く順応したい焦りがあった。同時にすぐに思い浮かんだのは“教育”だった。
かつて彼が塾業界に進んだ事情や背景もあるが、あの業界に身を置いて初めて分かった現実や方針への憤りがあった。
それがこの世界の“教育”に対する理不尽と重なっているからだろうと思い至った。
「ちなみに私のおすすめはやっぱり【召喚魔法】です~」
少し内に入り始めた長谷川に、いつもの調子でソフィアがにこにこ顔で切り出した。
理由はロビンがもふもふかわいいからと話し始めたので、真面目なんだがどこか緊張感がない彼女を一瞥だけしてお茶をすすった。
流石に無視されたことに気付いたのか、彼女は「進化もして強くなって頼もしいじゃないですか~」と食い下がった。
少しだけプンプンした彼女の珍しい表情を見ながら、その言い分にも一理あると考えた。
翌日、生徒たちにせがまれたこともあって、授業中にロビンを召喚した。
心で願ったり、「えいっ」と声を出したりしたが、ヴェラ中心に大笑いされるばかりで、【進化】の兆候すらなかった。
どうすれば召喚獣として強くなるのか、疑問は増えるばかりだった。
(これはセリフィエルが帰ったら詳しく聞いてみよう……)
結局子犬ロビンを中心に生徒たちの楽しいじゃれ合いが始まるのだった。




