【ep.4-2】思い知る先生 2.己の無力さを知る-1
長谷川は先日の襲撃騒ぎをぼんやり思い出していた。
「ドワーフにエルフ、そして魔法……やっぱり異世界だもんなぁ」
すでに受け入れたことだが、あらためて実感させられた。
あの襲撃のような出来事は、長谷川の過ごした世界ではあり得なかった。
それに――
「この世界は決して平和ではないわ。ヒト族の争い、それに魔物……。でもあたしたち長命種からすれば、そのヒト族の争いが一番厄介ね。富や権力、領土を巡った争い、ヒトの欲は尽きないわ。あたしたちからしたらそんなことに価値はない。そう考えられないのは知識や経験……そう、あなたの言葉を借りれば“教育”の問題ね……」
セリフィエルは事件の直後にそう話してくれた。
ヒト族の“教育”はとても偏りがある。それは基本的に一定の階級層以上が享受できる特権とも言えた。
ここから一番近い、支配階級であるドラウス公爵の治める町でさえ、全体ではその教育水準は高くないそうだ。
長谷川は疑問に思うと同時にとても理不尽な気がした。
その上で今回の一件を考えれば、“教育”はもちろん、この世界に対応した物理的な力が、今後の“塾”と生徒たちには必要なはずだと考え始めた。
事件から数日が経ち、まだ悶々としていた長谷川は、それこそヒトよりも長命なブロムやセリフィエルに、この世界について今一度じっくり尋ねてみることにした。
ソフィアや村長からも幾らか聞いていたが、ヒト族ではない二人の視点も聞いてみたかったからだ。
「そうじゃのう、まずは大国の一つ、法と秩序を重んじるヴァレリア王国じゃな。ハセカーも知っての通り、この村もその一部じゃ。そしてそう遠くはない海を挟んだ隣国には、文化や経済を重んじる都市連合アウレリオンがある。この国と仲が良いとは言えんが、小規模ながら民間の交易なんかはあるんじゃぞ。儂も時折訪れるアウレリオンの行商品から仕入れたり売ったりしておる。民間では気にせんが、国同士の目線で見ればお互い隙を見せられないと言ったところかのう……」
ブロムは髭を上下にさすった。
「同じ種族で争うなんて愚かなことよ」
セリフィエルは言い切った。
その他にも宗教国家や北の広大な大地を有する軍事国家など大小の国があるそうだが、大国で共通しているのは奴隷制度があることだった。長谷川はそこに一番興味を持った。
「そうさのぉ、仕組みは国ごとに若干違うのじゃが……」
話し出したブロムをセリフィエルが遮った。
「そう、ヒト族のこの考えだけは一番相容れないわ! ドワーフもそうでしょ!?」
いかにもと、ブロムは深く頷いた。
「なら、ここのヴァレリア王国の制度ってどんな感じなんだ?」
長谷川はブロムに先を促す。
ユイのことを気にかけていた。
「この国では農奴のような奴隷もおれば、罪を犯した者や出自不明の権利奴隷なんかもいるぞい。特に権利奴隷と言うのは、貴族や権力者などから酷い扱いを受けることも多くてな……。しかもその扱いは権利者に自由が認められておるのよ、法じゃからな……」
そこで再びセリフィエルが割り込む。
「ほんっとにそれよ! ヒト族の傲慢さがよく現れているわ!」
長谷川は少し考えてから、ユイのことをセリフィエルに話した。彼女には初めてだった。
「許せないっ!」
机を叩いた彼女をブロムが諫め、続けた。
「ふむ、まぁ恐らく権利奴隷じゃろうな。話からして農奴ならわざわざ“本当の御主人様”に引き渡すなんてことはないじゃろうて……ただ儂が気になっておったのは、あの髪色と瞳じゃ」
「そうね……恐らく遥か東の国の出身よ。ただ……」
その国は特有の文化を有し、気性も穏やかな平和の国だと噂されており、旅慣れたセリフィエルさえも訪れたことはないから断言はできないが、彼の国で奴隷のような話は聞いたことが無いそうだった。
「いずれにせよじゃ。もし彼女が権利奴隷だったとしたら、元の所有者が探している可能性もある。気を付けることじゃ」
長谷川は出会ったころの村長や村人たちの態度を思い出した。
所有者が探してるとなれば、やはり厄介ごとになる可能性がある。それだから村長にはよくしてもらっていると実感した。
ユイについては現状、明確な方針は浮かばない。それでもはっきりしたのは、自分も含めて、この世界で生きるには己を守れる力を身に付けることが大事なんだと痛感した。
ブロムとセリフィエルの話に区切りがつき、ふたりの去り際、
「そう言えばあの晩にリヴァエルが見たと言ってた“光の柱”だけど、恐らくそれってソフィア……いえ、ソフィの魔法よ。とんでもない【防御魔法】の筈だけど、今の彼女はここで一緒に暮らすことの意味が理解できてないみたい……注意して見ていてあげなさい」
と、セリフィエルは意味深なことばを長谷川にだけ耳打ちして去って行った。
(意味って……と言うか、セリフィエルのやつ、ソフィアの正体に気付いてる?)
後日、そう言えばとソフィアに尋ねた長谷川だったが、
「すみません……咄嗟だったのかもしれません」
と、神の力を行使したことをにこにこ顔で吐露した。
自分で身バレするようなことは慎むようにと戒めると、彼女も反省したようだった。
一方で長谷川は頼もしいと感じながらも、今後その力に頼ってしまうのも違うと考え、自らにも強く戒めた。
(そうさせない為にも……俺が強くなれば良いんだ……!)




