【ep.4-1】驚く先生 1.ここはやはり異世界-2
セリフィエルは長谷川が尋ねる前に、答えてくれた。
「こちらは問題なかったわ。意識を奪ってその辺の木に括りつけてきてやったの」
「そ、そうか。君が無事なら良かった……」
「ハセもね」
彼女はウィンクして答えた。長谷川は未だに憂いを残すソフィアにも声を掛けた。
「二階は大丈夫だったか?」
「はい。三人で一緒にいました……激しい物音が聞こえて……ロビンが唸り声を上げ始めたときにはふたりは少し震えていましたけど……大丈夫です。私もあなたたちが無事で安心しました」
そう話してようやく彼女が柔らかく微笑んだ。しかし口調にいつもの余裕は無かった。
ソフィアにおまじないのような言葉を掛けられ、さっきまでの疲労感が何故か消えた。
「ありがとうソフィ。だいぶ楽になったよ……。それにしても……セリフィエル、どうしたもんかな? これ……」
長谷川は、家に押しかけた賊を縛り上げながら尋ねた。
「そうね、恐らく外のやつらとも仲間だろうし、この感じからしてまた襲撃なんて無さそう。こいつもやつらと一緒に縛り付けて、明日にでも村の自警団に引き渡しましょう」
長谷川は頷いた。二階のふたりも気になるが、今は余計に動揺させる気がしてソフィアに任せることにした。彼女は力強く頷いた。
未だ夜の帳に包まれる森の中を、縛り上げた男を抱えてセリフィエルと二人で歩いた。
道中、彼女は光の精霊を呼び出していた。長谷川は今さら先ほどの襲撃の恐怖に襲われ、彼女に声を掛けることさえおぼつかなかった。
目的の場所に着くと、合計五人もの男たちが幾つかの木に縛り付けられていた。
「これ……全部セリフィエルがやったんだよな……」
長谷川は唖然とした。
「えぇ。風の精霊の力を借りたけど。これくらいは旅の嗜みだわ」
「な、なるほど」
長谷川は彼女には逆らわないようにしようと誓った。
「それにしてもこいつら何なんだ……良く見れば恰好も統一感あるようにも見えるな」
「……ただの野盗ではなさそうね。きっと雇われてる。麻袋なんかも持ってたし、おそらく下見にも来ていたはず……多分だけど……リヴァエルが目当てかも――」
そこまで話して、セリフィエルは口をつぐんだ。
「え、誘拐ってことか!? リヴァが、なんで」
「……彼女は……特別なの」
それだけ言って下あごを掴んで考え込む彼女は、ここ数日で見せた天真爛漫な様子は一切見えず、それ以上踏み込むことは憚られた。
翌朝、少し目を腫らしたユイとリヴァに昨晩の様子を聞いた。
激しい物音で目が覚めたふたりは、ずっとソフィアに抱きかかえられていたのだった。動揺もせずその顔はいつものようににこにこ顔だったらしい。
しかしユイ曰く、その目は笑っていたけどなんだか怖くて、初めてソフィが怒ってるかもと思ったらしい。
優しく頭を撫でられていているうち、そのまま眠ってしまったと教えてくれた。
リヴァエルも同じような話だったが、眠りに落ちる瞬間、ソフィから神々しいマナの放出ような、とても強い光の柱が一瞬立ち上がったことを目撃し、やはりなぜか眠りに落ちてしまったのだった。
(良かった。結果的にあまり怖い思いをさせずに済んだんだな……しかし、光の柱……昨晩のうちに何故かぽっかり空いていた、ソフィアたちの部屋の天井の穴のことだろうか)
安堵した長谷川だが、まだまだ自分はこの世界のことを知らない。
その上、この異世界で無力でいることの危うさ、恐怖をその身をもって思い知らされた。
元の世界では今回のような命の危機を感じることなどそうそう無い。
だがこの無力感はあの世界、いや、塾業界で働いていた時に感じていたやるせなさも思い出させるのだった。




