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バットエンド・キャンセラー  作者: 赤槻春来
最終部.そして、未来は──
117/119

偽リノ魔神

 115話です。

 本話含めてあと5話です。



「チッ──しぶとい、わね…っ!」


 舌打ちと共に漏れる、ペストの唸り声。振り抜かれたナイフが、ユイの髪を掠め、赤茶の毛が舞う。


 戦場は移り変わり、それぞれの戦いへと移った直後。下位の幹部をスズナ達に任せ、皇帝とペスト、そしてファルシュを相手取ったユイとマラリア。個として、執拗にユイを狙うペストとファルシュを他所に、マラリアが皇帝を狙うこととなるのは、自然な流れと言えるだろう。


 閑話休題。

 ナイフを大鎌で受け流し、引っ掛けるようにしてファルシュの元へと投げ飛ばすユイ。ただ、そんなナイフを踏み台にして、軽く宙を舞ったファルシュは、ペンデュラム型の鎖を振るい、空いた距離を殺し迫る。


「無駄なことを」

「──ッ!たかがウチの(・・・)オリジナル(・・・・・)風情のくせに生意気──っ!」


 すんでのところで、勢いの止まるファルシュの身体。ギチギチ、と。絡み合ったペンデュラムが、その距離を固めあげる。


 ユイ─ひいてはユウと瓜二つの、美しい容姿の竜人(少女)、ファルシュ。ユイとユウをオリジナルと呼ぶ彼女は、双子、或いは三つ子と言っても差し支えない。…あえて、対峙したユイとの相違点をあげるとするならば、それは慎ましやかな胸部だけであるか。尤も、そこまで似ている理由こそ、彼女の出自に関わるものであるが。


「──ったく、やりづらい」


 不意にそう呟いて、絡まったファルシュごと、ペンデュラムを振り回すユイ。直後飛んできた衝撃が、近づくペストを撃ち落とし、地面を大きく震わせる。


「何が…何が『やりづらい』よッ!」


 ペストの絶叫。その言葉の矛先は、眼前の敵か、はたまた上手くいかぬ己への苛立ちか。覆い被さったファルシュを突き飛ばし、歯ぎしりをした彼女は、ユイを睨んで立ち上がる。


「──まだそんな目ができるのか」


 ポツリ、と。ユイの言葉が漏れた刹那、再びブレるペストの輪郭。直後、周囲を包む木々が、深紅の色へと姿を変えた。



ーーー



「──何が愛娘よ」


 天に浮かぶ魔王城、その玉座の間にて。舌打ち混じりのイヨの声が、密室に反響する。


 ──3人(コウスケ達)の前に立つ、継ぎ接ぎだらけの異型・魔王ルイン。

 イヨにとっては、実の父でありながら、ユウ(幼馴染)との仲を裂いた諸悪の根源に他ならず。ただ、倒すべき敵(その程度の存在)である、と。…尤も、父親らしいことをされた記憶も無く、育ての親(ユウの母親)へ迫る姿を見れば、そう認識されるのは自然な流れではあるが。ただ、だからこそ。こうして自ら対峙して、明確な決別を己に示す。


「私は…アナタを父親と思ったことも!家族だと思ったことすらも──無いッ!」


 傀儡として、弄くり回された義妹、ローズ。そして、自分同様に、愛する(ヒト)から引き離されたユアとユイ。幼いながら、金色の瞳に映った10年という年月。そのすべてを噛み締めて、そして削り落としても尚、残ったその心を持って、彼女は今、ここにいる。


「──コースケさん」

「あぁ…わかってる」


 ユウの声かけに応じて、彼を挟んだ反対に─即ち、イヨと横並びになるように、コウスケが足を踏み出す。

 イヨにとって、世界も、種族も、何もかもが異なるはずの男。ただ、一つ。親友、或いは想い人への思いと。この世界を背負った『友』は、目先の男を睨みつけ、ゆっくりとその口を開ける。



「さぁ──殺りますか」



ーーー



 木片が周囲にはじけ飛び、鮮血が火花と散っては消える。


 ──()魔王軍四天王、マラリア。長寿な魔族の一種、淫魔(サキュバス)でありながら、魔王へ反旗を翻した最強と名高い女。冒険者間でも、幾度と話題に上がるその美女は、色欲か、はたまた恐怖故の内容か。尤も、そんな彼女の真価は、齢130で手に入れた〈精神支配〉という固有能力だけではなく、本人の持つ純粋な戦闘能力の高さにあるのだが。


 そんな彼女が、地に叩きつけられ、口内の血を吐き捨てる。


「──あーあ、本当にめんどくさい」


 対峙する大男(皇帝)を目に、呆れ笑いと共に吐き出す声。


 この男に対し、竜人(ユウ)すらも一時的に支配できた能力(スキル)、〈精神支配〉が効かなかったという事実。無論、ある程度の精神力があれば抵抗(レジスト)することは不可能と言えなくは無いが、だとしても、男であるというデバフを背負って尚、一切が通じないとなると、話は変わる。


 ──互角か、ややジリ貧か。打ち合った拳の感触を思い返して、心の中で悪態をつく。


「──どうした?この程度か」

「チッ──言わせておけば…ッ!」


 逡巡した刹那、肉薄した皇帝の剣が、頬を掠めて空を切る。ただ、纏った魔力が、その衝撃が、彼女の肉体を宙へと放り投げて。


「〈風の──(ウインド──)


「それは見た(・・)


「──ッ!?」


 詠唱をしようとして、音の無い息が、魔力と共に抜けていく感覚。さしずめ、事象の書き換えか。そう思い至って、翼を広げ体勢を整える。


 名ばかりの皇帝、と。姿を知る者は少なく、各国で世迷言とされた魔王の(・・・)後ろ盾(・・・)。尤も、四天王であった彼女でさえ、その実情は知らず、噂程度に聞き流していたものであったのだが。


 ──では何故、今更になって姿を現したのか。回避に専念し、肉体から切離した思考で、考えを巡らせる。


「ふむ、避けるか。…だが、甘い──」

「──っ」


 思考が、肉体のリソースを上回った、ほんの一瞬。不意に伸びた森の木々が、彼女の手足を絡め上げる。


「〈森の精霊〉…ッ!」

「御名答」


 皇帝の呟き。直後、燃えがある炎が、蔦を這いマラリアに迫る。

 エルフの固有能力(スキル)〈森の精霊〉と、ドワーフの固有能力(スキル)、〈火の番人〉。そんな共存し得ない2つを操り、我が物とする方法は一つしか無くて。だからこそ、その唯一に思い至り、奥歯を強く噛みしめる。


 ──支配系の能力による、ただの(傀儡)


 似た能力を持つ彼女にとって、そう核心に迫るのは必然であって。しかしながら、それが忌避されることであることも、従順承知していて。ただ、目の前の人形(影武者)脅威であることに変わりはなく。少なくとも、元同僚(あの死体)によって弄ばれた幾つもの命が、本人の意図せず使われていることは確かだろう。

 そこまで感情移入しかけたせいか。マラリアは、肉薄されたソレ(・・)に、一拍遅れて反応する。


「しま──」


 ──った、と。彼女が言い終えるよりも早く、一陣の風が抜ける。


 一瞬にして、しかし永遠をも伴うやり取り。マラリアの鼓膜を震わせた、確かなうめき声が。消えた炎の元、炭となった蔦を静かに地面へたたき落とす。


「き、さまも…ッ!我に歯向かうと、言うのか──ッ!」


 マラリアの視界に映る、確かに人形(皇帝)の胸部を貫く大槍。

 刹那、皇帝の振るった腕が、その持ち主─ジフテリアを突き飛ばし、地面にクレーターを残す。


「──マ、ラリ…ア、さま…」


 途切れ途切れ、名前を最後に沈黙するジフテリア(ケンタウロス)。ただ、最期に彼女は笑っていて。虚空に消えた言葉の続きが、マラリアの身体を無理矢理動かす。


「──えぇ。お姉さんに任せなさい」


 予想外の乱入者。それも、自らが敵対したはずの、古巣のままの魔人(にんげん)。楽しさを求めるマラリアにとって、思い返してもそこまで居心地の良い場所ではなかった。が、それはそれとして。少なくとも、言葉を交わし合い、名前を知っている間柄。そして、その在り方を示した彼女へ、敬意を払うほどの情は残っていて。それを終わらせた(・・・・・)人形へ、静かに視線を向ける。


 バキバキッ、と。自らの骨を折っては、蔦を抜け出し再生させる手足。

 柄ではないけれど…なんて、自分の心に言い聞かせて。それでも尚、昂る思いが、己の肉体を加速度的に動かして。



 ───ぐちゃり。




 臓物を撒き散らして、地面に突き刺さる大槍。通り抜けたマラリアの身体が、勢いを殺して血沼に伏せる。


「フ、フフ…ハハハハハハハハハ──サイサイササササ、イワナ、ゲラゲラレタ」


 ドサリ、と。笑い声にも聞こえる音と共に、彼女の背後で、穴開きの肉体が倒れる。


 呆気なくも思える、一つの戦いの終わり。

 ──ローズ様をよろしく、と。朧げなマラリアの脳裏に過った魔人は、一足も二足も先に、陽炎の中へとその姿を消していった。



ーーー



 帝国より離れた、世界の裏側とも呼べる地。その上空、ゆっくりと、しかし確かに動く魔王城の中で。ぶつかり合う衝撃の余波が、瓦礫と言う名の雨を降らす。


「──フフ、フハハハハハハッ!我が、負ける…?あり得ぬ!──あり得ぬあり得ぬ有り得ぬッ!」


 右腕に宿る、『化物』たるコウスケの力。

 左腕に宿る、『神竜』たるユウの力。

 ヒトから魔人となり、その全てを我が物にした男はひとり、狂ったように笑い狂う。


 戦闘が始まってから、早数時間。それが表層にでたのは、もはや必然と言っていいもので。最初こそ、互角以上に立っていた魔王(・・)は、遂には膝を落とすに至る。


「──これで、決着はついたな」


 鎧のような外皮で、ゆっくりと歩み寄る勇者(・・)の声。文字通り、魔王が全身全霊をかけた戦いは、最早勝負がついていて。眼前に並び立つ男女が、冷ややかな目を向ける。



 ユウ達の計画、その最後の1ページ。

 魔王のみが倒れる形で、決着のついた戦い。尤も、拮抗していたのは、同じ能力を打ち合った序盤だけであり、権能(神の力)を出すや否や、一方的な展開に変わったことは言うまでもないが。念には念を入れた彼等の計画(・・)のほうが、外付けの力に頼った魔王を上回ったと、ただそれだけの話。


 壊れた魔王を前に、コウスケが、漆黒の竜剣(ダークスレイヤー)を握り締め、振り下ろそうとした刹那。不意に、かざされたユウの腕を前に、彼はその動きをとめる。


「…そういうことね」


 首を振るユウにそう返して、振り上げた腕を下げるコウスケ。

 そして、一歩下がって。イヨに目配せをした2人は、どちらともなく頷き合うと、その立場を入れ替える立つ。


「魔王、ルイン…」


 呟いた声が、喚く魔王の動きをとめる。

 魔王の娘─イヨ。いつしか、元凶を殺す役目は自分であると、そう暗躍してきた彼女。それはかつて、帝国という暗がりから抜け出した彼女が、己に遺す懺悔のようなものであって。ユウから借りた塩の剣(・・・)を片手に、魔王(父親)を前に歩み立つ。


「これが私のケジメよ」


 振り下ろされた剣が、魔王身体を貫き、消える。

 断末魔すら、終ぞあげさせることも無く。出来上がった塩の柱を前に、イヨの剣が、手から滑り落ちる。


「…終わった、のよね」


 呟いた声が、自らの鼓膜を震わせる。

 苦節十年。文字通り、10年を経て、辿り着いた一つの結末。元凶たる父を討った、彼女の心は晴れやかで。脱力した身体が、安堵の声に影を差す。

 これで、ようやくユウと笑い合える日がやってくる、と。塩の柱に映る、母の面影を映す姿を前にイヨは──


「──イヨッ!」

「──離れてッ!」



「──ぇ?」



 振り返った目に映るのは、手を伸ばすユウ達の姿で。


 ──自らを包まんとした無数の手。


 ソレを認識した刹那、イヨの意識は、闇の中へと引きずり込まれた。



ーーー



「嘘…ウソウソうそ!出鱈目を、言うn──」


 絶叫しかけたペストの頬に、伸びたユイの蹴りが突き刺さる。

 ジフテリアが命を散らした、ちょうどその頃。戦場は再び舞い戻り、ユイとペスト、ファルシュの戦いでは、『死神』を名乗る1人(ユイ)によって、その決着がつこうとしていた。


「オリジナル風情のくせにッ!オリジナル風情のくせに──」

「黙れ」


 薙ぎ払われる、打ち合っていたはずのペンデュラム。ユイにしてみれば、馬鹿の一つ覚えか、と。そう脳内で呟いて、突き刺した大鎌を肩に担ぎ直す。


「ファルシュ──だったか。悪いが、お前の相手は後だ」

「っ!ウチはまだ戦え──ァ、──」


 ドシャ、と。ユイの言葉に続けて、重くのしかかる重力によって、地面にめり込むファルシュの身体。その手足が潰れ、喚こうとした音が消える。


 戦場であったはずの場所。しかし、一人の女を前にして、地に伏せる2人の姿(ペストとファルシュ)。数的有利、であるにも関わらず。睨むことしかできないペストは、這いつくばりながらも、落とした武器へと懸命に手を伸ばす。


「教えてやろう、ペスト」

「ァァ゙──ッ!ユイ、アンタ──ッッ!」


 バキ、と。砕けた音がして、ペストの手に乗ったユイの足。直後、ユイの拾い上げた彼女の武器(ナイフ)が、(ペスト)の足を地面と縫い付ける。


「──どうしたペスト?お前が(・・・)楽しんできて、お前が(・・・)させるはずだった苦痛の味は?」

「─っ」


 手足を固定したまま、その髪を掴んで無理矢理顔を合わせるユイ。

 せめても、と。ペストが唾を履こうとした刹那、叩きつけられた顔面は、鉄の味と共にファーストキスを地面に捧げることとなる。


「──案の定、思っよりもつまらないな」


 吐き捨てるようなユイの声。ただ、口内の泥と、血を吐き出すことすらできないペストは、かろうじて動く掌で、地面の味を握り締める。


 ──数刻前、耳に残った、エボラの訃報。

 2人で相手して、これまで保った均衡が崩れたのは、それを耳にしてからであって。快楽も、己の執着さえも忘れ、無様を晒すこととなったペスト。

 ユイの言う、つまらないこと(・・・・・・・)。それは、愛する者同士を引き裂き、いたぶることで得ていた彼女の快楽そのもの。ただ、立場が逆転した今この時においては。どうしようもなく無力で、現実逃避するしか無い絶望が、その肉体へ、そして心へと侵食している。


「ま、安心しろペスト。お前がやってきた通り、俺が直々に逢わせてやるよ。死神として、お前が愛したエボラのところに、な」


 仰向けにされ、鼓膜を震わせる声。ただ一つ、己に残っていた武力(プライト)すらも、終ぞ越えること(真正面から)すらできなくて(打ち砕かれて)。いつの間にか、骸骨面を被った『死神』の姿が、最期の網膜にへばりつく。


「g──」


 音が途切れ、斬られたことすらも気づかぬ皮が、絶たれた頭と胴を結び直す。

 言葉すら残せず、半ば作業じみたその最期は、今までの所業を否定しているようで。死神の関心すら外された彼女は、誰に想われ、看取られることも無く、その生涯を終えたのだ。


「──さて」

「ひっ…」


 血の一滴すらなく、担ぎ直された死神(ユイ)の大鎌。

 彼女の視線の先──目があったファルシュは、情けなくも声を漏らし、いつの間にか戻った重力の中、使えなくなった手足を藻掻き動かす。


「お前にとって、俺達はオリジナル──だったか。俺とユウの遺伝子を持ちながら、その体たらく…不意打ちで(ユウ)を殺したと聞いていたが、報復する気すら失せる」


 光の消えた、紅の瞳。吐き捨てる言葉と共に、一歩、また一歩と近づいていく。


「──ぁ、ぅち、は…」


 命乞いにも似た、絞り出した()。足音にかき消されたそれが、ユイの耳に届くことなど無く。ただ、先程の女の最期が、ファルシュの脳裏に再生される。



 ──5人目の竜人、ファルシュ。

 その出自は、エイズによって竜人(ユウとユイ)の遺伝子から作られた、禁忌そのもの(クローンのようなもの)。尤も、(製作者)たるエイズにとって、「神に近しき力を持つ竜人を、人工的に作りたい」といった好奇心の産物に過ぎず、生み出されたことに意味など無いのだが。─だからこそ、だろう。(エイズ)によって、魔王軍の戦力的な切り札、ただそれだけを刷り込まれていたファルシュ。ユウと同等までに培養され、外界を知った彼女にとって、ユウ(他の竜人)にご執心なその背は、幼い(・・)彼女の心に、影響を与えぬ筈もなくて。いつしか「オリジナルたる竜人を殺すことで、自らを証明するしかない」と。歪んだ執着の末に、彼女(・・)竜人(ファルシュ)となり、そこにいた(・・・・・)のだ。




「───義姉さん。ここは我に任せていただけないだろうか」



 共に襲ったペストが死に、次は自分である、と。粉々に砕かれた存在意義(己そのもの)に、そう絶望していた刹那。不意に届いたくぐもった低い声が、ユイ(オリジナル)の足をピタリと止めた。


「ユウの差し金か」

「…いや、これは我の意思だ。姫様(プリンセス)達は、それに協力してくれたに過ぎん」

「…そうか」


 ──キラリ。割り込んだ人物の掌で、光を反射する宝玉。

 ただ、一瞬の間。彼女にとって、最優先なのは(ユウ)のことであって。殺されたはずの本人が、と。その意図を汲んだ彼女は、腰に手を当て溜息をと共に、短く言葉を吐き捨てる。


「──っ、ヘルシャフト(・・・・・・)…なんで…」


 傷だらけで、今にも壊れそうな漆黒の鎧。ただ、割り込んできたその男の背に、ファルシュの口からその名が漏れる。

 存在価値も、何もかもを否定され、この世からすら拒絶されたような状況で。どうして、こうも都合良く現れてくれるのだ、と。怨嗟にも似た声は、その続きを紡ぐことはできなくて。


「…ファルシュ。我はもう、ヘルシャフトでは無い」


 ガチャリ、と。折れた大剣を投げ捨てて、彼女へ振り返る男。ゆっくりと、屈み目線を合わせた彼は、兜を脱いで、その手を差し出し口を開ける。



「我は─いや、俺はカイト。お前と──謝りにきたんだ」



 彼女にとって、唯一見知っていた(エイズ)以外の存在(ヒト)

 ユウ達に負けず劣らず、整った顔立ちその男(カイト)は、呆ける彼女を前にして、そう言い放った。



ーーー



 眼の前で起きた、場を包む閃光。


 魔王(ルイン)を倒した直後、イヨのおかしな様子に、反射的に飛び出した2人(コウスケとユウ)。刹那に走ったソレは、2人を壁面へ弾き飛ばすと、圧倒的な威圧感(プレッシャー)を以て、その場へ強く縫い付ける。


「──っ、ァ…」


 砕けた瓦礫が、のしかかり、絶え絶えの息を漏らすコウスケ。

 完全に意識外からの、予想打にしない一撃。化物姿から、元へ戻ってしまった彼にとって、致命傷にもなりうる、今の状態。かろうじて、押しつぶした瓦礫が出血を抑えていることが不幸中の幸いか。即死を逃れた彼は、なんとか酸素を取り込んで、意識をつなぎ手を伸ばす。



「──ふむ。流石は我の器だ。…やはり、この身体はよく馴染む(・・・・)



 コウスケの鼓膜を震わす、イヨの声。ただ、圧倒的な威圧感を孕んだそれは、肩を並べた彼女と、全く以て別物で。





「───さぁ喜べ!そして跪け!皇帝たる我(・・・・・)の──この崇高なる魔神(・・)の、再誕という()を──ッ!」





 宙に浮く魔王城、その倒壊した瓦礫の中央で。

 コウスケの網膜に映った、イヨの姿をしたソレは。自らを『魔神(・・)』である、と。そう名乗りをあげた。

 魔王は前座。あっさり塩味。

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