竜人から竜神へ
116話。
『さて、任されたからにはちゃんとしないとね』
有象無象の蔓延る帝都、その上空で。知り得ぬ女の声が、ミリン鼓膜を震わせる。
帝都の中心、その地脈の確保と起動中の儀式の完全破壊。当初より変更し、そして任されたその役目を前にして、ユリとサクラと共に、金竜の上に並び立つ。
「──急務なのは、傀儡の掃討と、あの模倣機竜の破壊ね。…とはいえ、傀儡はアレ自身が減らしてくれてるし、あまり考えなくても良さそうだけど」
一転、二転、三転と、場所を移しながらユリの声がそう続く。
彼女の提案、それは4人で集中して、番人たる模倣機竜を崩すこと。尤も、単純明快なその考えも、4人が揃ったことでようやく現実味を帯びたラインである、と。それほどの強敵を相手する、博打に等しい行為であるのだが。
あいも変わらず、熱線が周囲を焼き払い、金竜ごと移動を繰り返す。
ただ、静かに頷いたミリンは、手を取り合うユリとサクラを他所に、自らの立つ金竜を撫で、静かに口を開ける。
「エリさん、でしょ?あの時、コウスケに会わせようとしてくれたのは」
『…さて、ウチは何も知らないなー。そういうのは、ユイちゃんに言ってあげてよ』
白々しく、あまりにも軽い口調の竜の声。ただ、心なしかそっぽ向いた彼女のその背に、ミリンはそっと頷いて、その鱗を再び撫でる。
「それじゃあミリン、はじめるよ」
「うん。お願い2人共」
サクラにそう返したミリン。彼女の声を合図に、金色の竜が、帝都中央──その上空へと、彼女らを乗せ現れる。
「「──〈スコール〉ッ!」」
ユリとサクラ、互いの手と、そして重なった2人の声。
上空に浮かぶは、帝都をつつみ隠すほどの巨大な魔法陣。──ポツリ、ポツリ、と。垂れ降ちた水滴が、次々と水蒸気へ変わり行く。
突如として現れた暗雲は、次第にその勢いを強めて。辺り一面を白く塗りつぶしていった。
ーーー
「──ふむ。流石は我の器だ。…やはり、この身体はよく馴染む」
壁にめり込んだ自身の身体が、重力に従い地に落ちる。痛烈な光と衝撃がその身を襲った直後、ユウの鼓膜を震わす、イヨの声。ただ、明らかに気配の異なるソレに、ボロボロなまま着地した彼は、その瞳をゆっくりと開ける。
「───さぁ喜べ!そして跪け!皇帝たる我の──この崇高なる魔神の、再誕という今を──ッ!」
イヨの声で、イヨのその姿で、魔神を名乗った存在。即ち、ユウにとって、まるで地雷の詰め合わせ。視界の端、瓦礫に埋もれる友の姿も、その内心を助長させて。
直後、転がっていた塩の剣が、音を立てて砕け散る。
「──結局、上手くいかないというのですか」
ゆらりと、幽鬼のように立ち上がり、一人呟くユウ。全身に鱗を浮かばせた彼は、伸びた爪を、そして牙を鳴らし、唸りあげる。
神をこの世界に顕現させ、元凶たる魔王を討ち滅ぼす。
一度見舞われた自らの死こそあれど、計画は順調に進んでいた──にも関わらず。その先に待っていたのは、友や恋人達と談笑する姿ではなく、死に体な友と気配無き傀儡の姿。
…彼にとって何も、欲しかったものは手に入っていない現実。
「フハハハ──ッ!そうか─そうかそうか!魔人と竜人、この世界において異端な者同士のラブロマンスか。クク、笑わせてくれる」
イヨの声で、言葉とは裏腹に冷え切ったその姿。
刹那に踏み込んだユウが、その距離を殺して──振りかぶった腕が、虚構を切り砕く。
「言ったであろう?我は魔神──即ち、神であると。…それともあれか?この姿できるのがそんなに気に入らないか?」
──明らかなまでの嘲笑。
キッとした視線を向けるユウに、イヨがひらひらとその手を回す。
おおよそ、理性と懸け離れた衝動の応酬。彼の撃ち放った魔法が空を切り、伸びた手が、足が、周囲に刺さり砕け散る。
気配を弄る彼女そのものの固有能力が故か、はたまた高次へ位置しているが故か。いずれにせよ、この現状は、神の領域へ片足を突っ込んでいたはずのユウが、明らかな劣勢であることは確かであって。不意に背後を取った彼女が、彼の背を蹴り吹き飛ばす。
「──っ、ぁ…」
身体が軋み、遅れ出る目眩。権能を試みて、目減りした魔力だけが、周囲に溶け込み霧散する。
「それは見た」
まるで羽虫相手のように。手を振り払い、文字通りの『無』へ葬った皇帝。
何を思ったのか。ゆっくりと、しかし一瞬にして歩み寄った彼女は、倒れ伏すユウの顎を持ち上げ、金色に光るその瞳を、紅い彼の眼に焼き付ける。
「なに、これも余興だ。小僧には、我の──この器がどうして産まれたのか、教えてやろう」
ユウの網膜に映る、ニタリと微笑む皇帝の姿。
──主無き魔王城は、まだ止まらない。
ーーー
「ウチと、謝る…?」
「あぁ。そうだ」
争いの止んだ森の中に、男女の声が響き渡る。
方や、異界より来た顔立ちの整った男。方や、人為的に産まれた顔立ちの整った女。差し出された男の手を取って、女はヨロリと立ち上がる。
「俺達は同じだ。親しい人を傷付け、殺した。──そう、そこに意思なんてなくても、だ。…そうだろう、ファルシュ?…お前の意思は、心は、どうなってる?」
「ウチの、心…?」
ファルシュの呟きに、カイトが静かに首肯する。
──産まれて間もなく、父に言われるがままに、破壊と、そして殺戮を繰り返した彼女。オリジナルを殺すことで、自らは完全する、と。そう刷り込まれたことに従い、その心臓を抉り、殺した感触が蘇る。
「どう、して…」
不意に、ガタガタと震える手が、自らの視界に入る。
数刻前まで、自らが感じた『死』への恐怖。ユウを、そして幾多の命を奪ったその手が、得体のしれない化物のように感じて。──発狂しそうになった刹那、不意に伸びた彼の手が、温もりと共にソレを覆い隠す。
「君にはファルシュという名前がある。…それは、姫様や死神の──2人の子どもとも言える、君だけの名前。だから──」
──ここから一度、生まれ直そう、と。
紡がれたカイトの言葉が、静寂の森へ響き、消える。
禁忌と呼ばれし魔剣──ヘルシャフトによって操られていた男、カイト。その呪縛から解放され、しかし記憶を残した彼にとって、ファルシュという女は、唯一残った自らの過ちを知る存在であって。本質的に似ている、と。叫んだ本能に従って、彼はここにいる。…尤も、姫様と慕うユウと、死神たるユイの遺伝子を掛け合わせた禁忌である、という点が彼の共感を誘う要因にもなったのだが。
「──俺達は、確かに取り返しがつかないことをした。だから、謝るんだ」
「──あやま、る…」
まるで、赤子に諭すようなやり取り。復唱した彼女の口が、微かに震えて音を立てる。
自らの意思でないとはいえ、明確にコウスケ・ユウへ向けた殺意。彼等が赦した今ですら、その皮を、肉を切った感触が、ずっと脳裏にこびりついていて。消えることの無い大罪。──だからこそ、一度肉親を手に掛けた彼女へ、彼はその手を差し伸べる。
「君はファルシュ。──姫様でも、死神でもない、ただのファルシュ。死体の操り人形でもなく、一個人としてのファルシュ。──そして、1人のまだ幼い女の子なんだ」
──そうだろう、と。そう続けようとして、カイトの口が止まる。
一滴だけの、しかし確かな涙。たまらず彼女を抱き締めて、彼は静寂へ言葉を捨てる。
「ウチ、は…なん…ごめ、なさ…」
なんと傲慢で、独り善がりな贖罪。誰に言うでも、これ以上赦されることもなく。ただ、互いに壊れた欠片を拾い合い、歪に組み上げた2人のカタチ。
穏やかに、そして静かな森の中で。風に揺れた木々の影が、月明かりから2人をつつみ隠した。
ーーー
───魔王の娘、イヨ。後世に伝えられるなら、父親を殺し、世界に平穏をもたらした立役者。…と、なるはずだった魔人の女。
魔神によって語られたのは、彼女こそが器足り得るものであり、自身の策謀によって生み出された産物、その人格すらも、過程の切れ端に過ぎないということ。
曰く、ヒトから魔人へと至った存在…そのメカニズムを応用し、生物から神へと昇格、進化するための肉体としての器。皇帝として、そしてその母親として。魔王の心につけ入り、自らの依代として産まれた彼女に、ソレ以外の意義はない、と。
彼女は淡々と語り、掴んだユウの耳元へと、その口を近づける。
「──いい機会だ。小僧を我の番にしてやろう」
──ゾワリ。
恋人同じ姿で、同じ声で震えた音が、全身の毛を逆立てる。
「悪くは無いだろう小僧?…そもそも、器と貴様は恋人同士。──そして、神である我とその領域へ到達した貴様。番となるのは必然ではないか」
何処か余ったるく、脳髄を刺激する声。
魔神が、徐にその唇を近づけて──瞬間、伸びたユウの手が、その身体を突き飛ばす。
「──っ小僧!」
魔神にとって、予想打にしない一撃。
彼女の荒げた声を背に、ユウはゆらりと立ち上がる。
「…なにが、番になれですか。──その姿で!その声で!私とイヨを語らないでくださいっ!」
魂より出た、彼の絶叫。ただ、拳を握り締め、見据えた紅い眼光が、立ち尽くす魔神を鋭く射抜く。
「──チッ…小僧風情が調子に乗りおって。…まあいい」
その打撃も、魔法、権能すらも。全て見切り、彼女が作り上げた『詰み』という盤面。本物の神へと至った自分に、彼が抗う術などとうになくなっているはずで。だからこそ、自分に靡かぬ彼に、その口角を吊り上げる。──そう、なんとしてでも、我が物にしたい、と。
一歩、彼に近づいて、飛んできたペンデュラムを無に帰す。
一歩、彼に近づいて、隔てる結界を無に帰す。
器の影響か、はたまた皇帝の本質そのものか。狂愛の果てに、伸ばしたその手が再び彼に近づいて───
──パシッ、と。
払われた手が、虚空を横切りだらりと落ちる。
「悪いが、俺にもう、その手は通用しない」
ーーー
「…なにが、番になれですか。──その姿で!その声で!私とイヨを語らないでくださいっ!」
ガンガンと、頭に響く鈍い痛み。自らの発した言葉を最後に、その視界が白く染まる。
──嗚呼、結局自分はその程度なのだ、と。神へと踏み入れても尚、絵空事な夢も、叶うことはない、と。そう思考が至り、流れ出る記憶にそれを預ける。
──本当に、それで諦めるのか?
「──っ!」
響いた声に詰まらせて、手放しかけた己を、無理矢理自身へ手繰り寄せる。
真っ白の、しかし自らがよく知る空間。それが、自身の潜在意識そのものである、と。そう理解するのは、最早容易なことであって。記憶の陽炎の向こう、一つの影が、歩み寄り、その姿を現す。
「私…?」
短く切れた髪に、ボロボロの外套を纏った竜人の男。ただ、特筆すべきは首元の傷跡か。ユウと対峙した竜人は、その紅い瞳孔を開くと、ゆっくりと、その口を開け放つ。
『久しいな、俺。──親父と、兄さんを殺した時以来か』
ユウとは似ても似つかない、低く濁った竜人声。瞬間、忘れることも無かった2つの記憶が、強烈な既視感と共に、周囲の景色を塗り替える。
「──そう、ですね」
どちらが過去か、そして未来か。そんな愚問など捨てて、肯定するユウの口。禄に説明等なく、明らかに足りないはずの言葉。
──しかし、確実に。彼にわかることがあるとするならば。
「力…」
『………そうだ。──そして既に、肉体は完成している』
一瞬のような、しかし長い間を空けて、低い声で得た肯定。流れたこれまでの記憶が、何度も繰り返した己の歴史そのものが、2人を包み隔離する。
『俺はお前で』
「──私は、貴方」
『俺を受け入れろ。俺の罪を、罰を──この心そのものを』
最早これ以上、言葉などいらない、と。既視感の渦のなかで、互いに一歩、歩み寄る。
ユウに流れ込む、幾度の最期。
愛する者を、友を、肉親を、何度もその手で殺め、繰り返してきた己の歴史。神に等しい力を持っても尚、最後に縋り付いたのは、新たな『友』の存在だけであって。
魔神に呑まれる瞬間、目が合ったはずの彼女が、それらに重なり消えて行く。
「──えぇ」
短く、そして漏れ出たはずの声が、記憶の渦に反響する。
一歩、前に踏み出して、重ね合わせる影。ドロドロに溶け合った2人は、今、一つに重なり現れる。
──パシッ、と。
自身の叩いた手が、横へ振り切り音を立てる。
自身の無意識下で、防御姿勢を取っていた己の肉体。内から流れ出す記憶と、意識と、そして力そのものを、全て受け入れて。
「悪いが、俺にもう、その手は通用しない」
深紅に輝く瞳。その瞼をゆっくりと開き、彼は美しく呟いた。
ーーー
「2時!熱線!」
「エリさん!」
深い霧と、熱に覆われた地表に、2人の声が鳴り響く。
古代の遺産、模倣機竜。合成竜を模し、現代に再現されたソレは、ブレスのような熱線を、周囲へ降らし焼き払う。
『はいはい承知ー』
気の抜けた竜の声。刹那、2人の指した方角へ、熱線が走り爆発する。
「次!7時!」
「ユリ!」
──〈パワーブースト〉〈水の巨人〉、と。場所が入れ替わった直後、2人の声が重なる。
ユリを核に、サクラの造りし水の巨体。刹那、振り上げられたその拳が、機械仕掛けの竜を、宙へ舞い上げる。
似た容姿と特性を持ちながら、その特性故か、反発し合うことの多い2つの種族。それぞれの種族には、必ず対となる容姿の者がいる、と。そう語り継がれる迷信がある。
──では、その迷信とはどのようなものか。曰く、己の存在を引き上げるライバルであるとか。曰く、互いを補う運命の片割れであるとか。尤も、その仲故に、検証も証拠も禄に無く、迷信へとなるに至るのだが。
同じ時代に、対となる容姿の2人。育った環境か、まるで双子のように、いがみ合うこともなく共に歩んだの軌跡。
その集大成が、作られた竜を──生物としての頂点を、踏み締めた『地』へと引きずり落とす。
『──────────────────ッ!』
機械でありながら、生物のように咆哮をあげる模倣機竜。元々非対称だったその機体は、剥がれた外装と共に火花を散らし、駆動音をあげて地に伏せる。
「サクラ!」
「わかってる──わよっ!」
ユリの動きに合わせて、圧倒的な馬力で、地面を踏み抜く水の巨人。互いの欠点を、死角を埋めた2人だけの鎧は、叩きつけた拳で、足で、模倣機竜の外装を砕き、弾き飛ばす。
「ミリンっ!」
「エリさん!」
仕上げ、と。そう言わんばかりに重なった2人の声。
制御を失い、再び宙に舞ったその機体を前に、2つの影が、その上空へ現れる。
「水素爆発───ッ!」
『〈竜の吐息〉────ッ!』
ただ、音を上げる間もなく、模倣機竜を包むありったけなエネルギーの塊。方や、ミリンによって起こされた、物理的な現象としての一撃。方や、空間竜によって放たれた、純粋な魔力による一撃。エリの権能により、拡散することなく爆発を、その爆風を浴び続けた機体が、その原型を留められることなどもちろんなく。溶け出た塊が、荒野となりし地に落ちる。
「終わった…の?」
幾度目の、大地に落ちる幾多の水滴。
その被害の割には案外呆気なく、静かに閉じた天幕を前にして、ミリンのそんな声が、無人の帝都に響き渡る。
「いんゃ、終わってないわ」
「──ぇ?」
雨音を掻き消して、気の抜けた─しかし、はっきりとした声が、鼓膜を震わせる。
舞い降りた地面の上、彼女の網膜に映る、金髪の美女。その気配や、姿から、誰だか気付くのに一拍遅れて。通り過ぎた彼女へ、固まったミリンの視線が動く。
「ユウちゃんの話だと、これを止めなきゃいけないんでしょ?どうサクラ、いけそう?」
愚問ねエリさん、と。彼女の声に反応して、鎧を解いたサクラが言う。
彼女らの視線の先──まだ尚動く巨大な魔法陣。
その効果はまだわからない、が。魔王が張り、地脈から常にエネルギーを吸い続けているソレが、当然まともであるはずもなく。その中央へ近づいた3人は、ミリンをおいて頷き合う。
「ミリン。ここからはあたし達の領分だ」
「そそ、だから大船に乗った気でいてよ」
戦いの余韻も無く、ひらひらと手を振り歩み離れる2人。
困惑か、はたまた動揺か。この場でただ一人、固まるミリンを前に。彼女へ近づいた金髪の女──エリは、その肩を軽く触れてゆっくりと口を開ける。
「行ってきなよ。心配なんでしょ?」
「──っ」
後始末は任せて、と。言外にそう語り、その肩を軽く押す。
「──さて、ウチらももう一働きしましょ」
ミリンの姿と引き換えに、響き現れるエリの声。さも当然のように、ミリン抜きで並び立った彼女達は、手に持つ数々の宝石を目に、静かに頷きあった。
ーーー
「───っ、あっ──ぶなぁ…」
冷たい空気が肌を叩き、吐いた息が白く染まる。
エリと言葉を交わした直後、その権能により飛ばされたミリン。その位置が悪かったせいか、あわや床のない奈落へ落ちるところだった彼女は、咄嗟に翼を広げると、体勢を整え息を吐く。
「そりゃ、心配しないわけないけど…」
一言言ってほしかった、と。エリへの愚痴─最早遅い言葉をのみ込んで、言い聞かせるようにそう呟く。…尤も、先程の戦闘、そこで消耗をしていた現在のエリにとって、気丈に振る舞うことで既に精一杯だっただけではあるのだが。そんなことを、今のミリンが知る由もないわけで。
彼女の視界、その大半を埋め尽くした巨大な影を前にして、彼女は思考を切り替える。──否。正確には、切り替えざるを得なかった。
「魔王城…」
戦闘が始まってから久しく、しかしはじめて間近で見ることとなった最後の舞台、魔王城。
微かに、そして確かに感じる恋人の気配を前にして、呆ける姿は一瞬で。無意識に、しかし有無を言わさぬ使命感に駆られた彼女は、崩れかけたその中へと、速度を速めて押し入る。
「──っ、ミリ、ン…?」
「コウスケっ!」
ただ、本能のまま惹かれ合うようにして。潰れた通路を、部屋を抜け、言葉を交わし合う2人。
駆け寄った彼女の先。瓦礫に埋もれ、かろうじて上半身のみ原型を留めている彼は、近づこうとするその姿に気付き、血反吐と共に声をあげる。
「こんなにボロボロ…待っててコウスケ、今わたしが治して───」
焦燥する自身を抑え、震える声を紡ぎ終えるよりも早く。不意に、彼によって掴まれた手が、その続きを妨げる。
「──ユウ、さ…ユ、ウ…ん、を…」
確かに首を振り、虚空へ伸ばされたはずの、彼の手の先。
──直後、舞い上がった瓦礫が、爆音と共にそこから飛び散る。
「──っ、ユウ…?」
舞い散るそれらの中、呆けたように響くミリンの声。
晴れ始めた砂埃の向こう、現れた一つの影は、時計の盤面のような魔法陣を背に、また一歩、地面を踏みしめる。
「俺は竜神──その神たる全力を以て!俺は貴様を討ち滅ぼすッ!」
瓦礫と、血と、愛憎に呑まれたこの魔王城で。美しく産声を上げたその竜神は、紅い瞳ギラリと、そして確かに光らせた。
■皇帝(=魔神)
初期プロットでは、マラリアの血縁者。神へと至る物語のラスボスであり、イヨの産みの親。
元々の種族設定は淫魔※。しかしマラリアと被るためボツ(正確には、淫魔の肉体を捨て、次々と肉体を乗り換え神を目指す化物へと変更)。タイプとしては力に魅入られ、支配に快楽を覚える人格破綻者。
代々素養のある男を籠絡し、その特性をつけ継いだ器(=娘)を媒介・成り代わることで力を蓄えていった。イヨはその計画の要であり、その母親(一つ前の器)が死んだ後、ルインにその魂を憑依することによって待ち、生き永らえていた。
尚、コウスケがこの世界に来なかった場合、皇帝憑依状態の魔王が力をつけることが無い上、イヨを見つけるよりも早く、ユウの手によって滅ぼされる為、その野望を叶える段階まで発展することはなかった。
※傀儡化の能力は精神支配の発展系。ルインや過去の男達を籠絡した理由付け。
■死神
冒険者間でのユイの二つ名、或いはユイ率いる骸骨面を被った外套の集団。
先駆者たるユイの行動に従い、大陸各地に現れた人工魔物(=エイズによってヒトではなくなってしまった者)を始末し回っていた。所属していた彼女達の修業の場でもある。
尚、ユイが骸骨面を着けている理由に関しては、母親(=ユア)の趣味嗜好に影響を受けていただけであり、その他のメンバー(ユリやサクラなど)は、統一性・機密性という観点で着けている。




