Ep.20 ずるいあの子(前編)
ずるいって思った。
だって私の方が、絶対先に好きになってた。
それなのに、あの子は見事に彼と両想いになった。
しかも、私が彼にフラれた直後に。
私が片想いしていた3年間を一気に追い越して、あの子は彼の隣に立った。
ずるい。
るりちゃんはずるい。
林和葉。中学2年生。
恋愛に関してはうまくいかないことばかりだと、嫌だってほど実感する今日この頃である。
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ずるいあの子
(前編)
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スポーツ大会の午後。
なぜか、サッカー部3年生に絡まれたるりちゃんのために、私はまだ体育館にいるであろう中曽根くんの元へと走っていた。
中曽根 悠:
「るり、どこ!?」
中曽根くんは、私がるりちゃんのピンチを伝えると、ガシッと私の両肩を掴んでそう言い立てた。
こんな時なのに、その近くなった顔にドキッとして、顔が赤くなっていないかと心配になってしまう。
林 和葉:
「水飲み場の方……」
中曽根 悠:
「わかった! ありがと!」
そう言うと、中曽根くんはあっという間に走り去ってしまった。
きっと今からるりちゃんの元へ駆けつけて、彼女を助けるのだろう。
小さくなる背中を見送る。
近くでは、慌てふためいている大谷くんと、憮然としている女の先輩がいた。
しばらくして、大谷くんがどこかへ走り去る。
すると、女の先輩が私に話しかけてきた。
桑原 志帆:
「ちょっと、邪魔しないでよね」
ぷぅと可愛らしく頬を膨らませているこの人は、たしか以前、るりちゃんにライバル宣言をし桑原志帆と名乗った先輩だった。
すらりと背が高く、キレイな先輩。
中曽根くんの彼女の座を狙っているこの先輩が、私はどうも気にくわない。
まぁ、私はもう──フラれているんだけどさ。
林 和葉:
「すみません。緊急事態だったんで」
「じゃあ、失礼します」と、言葉を続けて私は背を向ける。
すると、背後から桑原先輩の声が飛んできた。
桑原 志帆:
「あなたも中曽根くん好きなのー?」
林 和葉:
「!?」
突然の言葉に、バッと振り返る。
そこには腕を組み少し微笑んで──いや、ニヤついている桑原先輩の顔があった。
桑原 志帆:
「中曽根くんの顔が近づいたとたん、顔真っ赤」
林 和葉:
「……っ」
本当に嫌な先輩。
ムカムカと腹が立った。
林 和葉:
「そりゃあ、男子の顔が近くなったら、恥ずかしいじゃないですか」
眉間にしわを寄せてそう言い返すと、桑原先輩は目を丸くしてコロッと笑った。
桑原 志帆:
「やだー、可愛いー♡」
私の言い訳はとりあえず通じたらしいが、何となく腑に落ちない印象を与えてしまう。
付き合ってられないや、とスタスタとその場から立ち去った。
私はあの桑原先輩ほど、積極的になんかできない。
だって、もう付き合っている2人に入り込む隙なんて、どこにもないじゃない。
今だって、中曽根くんはるりちゃんしか見ていない。
他の女の子がどんなに彼のことを好きでも、彼が好きな子はたった一人なんだ。
林 和葉:
(本当……ずるいや)
幼馴染という有利な立場から、あっという間に彼女になったるりちゃんも。
彼女がいても、積極的に迫って腕なんか組んじゃう先輩も。
どっちもずるい。
そう考えて、私は唇を尖らせる。
・ ・ ・
でも、ずるいのは私だった。
応援団演舞のとき、私が保健室にいた本当の理由。
それは保健室から見た方が、中曽根くんがいる場所をより近くで見ることができたからだ。
そのことを知っている数人の女子たちは、保健室に集まって、お目当ての男子をそこから見ていた。
私みたいな中曽根くんの隠れファンも、もちろん何人かいた。
女子生徒1:
「キャー! 南くんカッコイイ~」
女子生徒2:
「やっぱり白組は、南先輩と中曽根くんがダントツだよねー」
きゃあきゃあ保健室の窓辺ではしゃぐ女子生徒たち。
その後ろから、私もこっそりと中曽根くんを見ている。
林 和葉:
(かっ……)
林 和葉:
(カッコイイ……!!)
頬に両手を当てて見つめる。
そんな私たちの背後では、保健室の篠田先生がやれやれと、デスクの前でこちらを見ていた。
篠田 かなえ:
「中曽根くんは人気なのねぇ」
篠田先生のその言葉に、ドキッとした。
先生に対して、私の隣の子が「そりゃあね!」となぜか自慢げに言い出す。
女子生徒1:
「でも、中曽根くん彼女いるから、こうして騒ぐしかできないんだけどねー」
篠田 かなえ:
「ああ、戸田さんね」
やはり2人のことは、先生の間でも有名なのか、篠田先生はすぐにるりちゃんの名前を口にした。
女子生徒1:
「そ! 何でも家が近くて、幼馴染みらしいよ」
女子生徒2:
「え、何それ。超少女マンガ的設定じゃん! 羨ましい~!」
女子生徒1:
「てか、幼馴染みとかずるいよねー! 有利すぎるじゃん!」
林 和葉:
「……!」
2人の話す内容を聞いて、ドキッとした。
だってそれは、私がずっと思っていたことだったから。
ずるいって。
るりちゃんの立場はずるいって、心の奥でずっと思っていた。
私は3年間も中曽根くんに片想いしていた。ずっと見ていた。だからわかる。
るりちゃんが中曽根くんを好きになったのって、絶対私より遅かった。
それなのに付き合えちゃうなんて、ずるいって。
でも、そんな妬みがよくなかったのかな。
私はその後、るりちゃんの危機を、中曽根くんに伝えに行く羽目になってしまったのだから。
・ ・ ・
林 和葉:
(あーあ、やってらんないや)
体育館から遠ざかりながら、一人小さく呟いた。
◇ 後編へ続く ◇




