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この空色バス、春先行き。【完結】  作者: 猪野いのり
第二章 安全運転にて走行中《2年生編》
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Ep.20 ずるいあの子(前編)

 ずるいって思った。

 だって私の方が、絶対先に好きになってた。


 それなのに、あの子は見事に彼と両想いになった。

 しかも、私が彼にフラれた直後に。

 私が片想いしていた3年間を一気に追い越して、あの子は彼の隣に立った。


 ずるい。

 るりちゃんはずるい。


 林和葉。中学2年生。

 恋愛に関してはうまくいかないことばかりだと、嫌だってほど実感する今日この頃である。



❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀


 ずるいあの子

(前編)


❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀



 スポーツ大会の午後。

 なぜか、サッカー部3年生に絡まれたるりちゃんのために、私はまだ体育館にいるであろう中曽根くんの元へと走っていた。


 中曽根 悠:

「るり、どこ!?」


 中曽根くんは、私がるりちゃんのピンチを伝えると、ガシッと私の両肩を掴んでそう言い立てた。

 こんな時なのに、その近くなった顔にドキッとして、顔が赤くなっていないかと心配になってしまう。


 林 和葉:

「水飲み場の方……」


 中曽根 悠:

「わかった! ありがと!」


 そう言うと、中曽根くんはあっという間に走り去ってしまった。

 きっと今からるりちゃんの元へ駆けつけて、彼女を助けるのだろう。


 小さくなる背中を見送る。

 近くでは、慌てふためいている大谷くんと、憮然としている女の先輩がいた。

 しばらくして、大谷くんがどこかへ走り去る。


 すると、女の先輩が私に話しかけてきた。


 桑原 志帆:

「ちょっと、邪魔しないでよね」


 ぷぅと可愛らしく頬を膨らませているこの人は、たしか以前、るりちゃんにライバル宣言をし桑原志帆と名乗った先輩だった。


 すらりと背が高く、キレイな先輩。

 中曽根くんの彼女の座を狙っているこの先輩が、私はどうも気にくわない。


 まぁ、私はもう──フラれているんだけどさ。


 林 和葉:

「すみません。緊急事態だったんで」


「じゃあ、失礼します」と、言葉を続けて私は背を向ける。

 すると、背後から桑原先輩の声が飛んできた。


 桑原 志帆:

「あなたも中曽根くん好きなのー?」


 林 和葉:

「!?」


 突然の言葉に、バッと振り返る。

 そこには腕を組み少し微笑んで──いや、ニヤついている桑原先輩の顔があった。


 桑原 志帆:

「中曽根くんの顔が近づいたとたん、顔真っ赤」


 林 和葉:

「……っ」


 本当に嫌な先輩。

 ムカムカと腹が立った。


 林 和葉:

「そりゃあ、男子の顔が近くなったら、恥ずかしいじゃないですか」


 眉間にしわを寄せてそう言い返すと、桑原先輩は目を丸くしてコロッと笑った。


 桑原 志帆:

「やだー、可愛いー♡」


 私の言い訳はとりあえず通じたらしいが、何となく腑に落ちない印象を与えてしまう。

 付き合ってられないや、とスタスタとその場から立ち去った。


 私はあの桑原先輩ほど、積極的になんかできない。

 だって、もう付き合っている2人に入り込む隙なんて、どこにもないじゃない。

 今だって、中曽根くんはるりちゃんしか見ていない。

 他の女の子がどんなに彼のことを好きでも、彼が好きな子はたった一人なんだ。


 林 和葉:

(本当……ずるいや)


 幼馴染という有利な立場から、あっという間に彼女になったるりちゃんも。

 彼女がいても、積極的に迫って腕なんか組んじゃう先輩も。


 どっちもずるい。


 そう考えて、私は唇を尖らせる。



 ・   ・   ・



 でも、ずるいのは私だった。

 応援団演舞のとき、私が保健室にいた本当の理由。

 それは保健室から見た方が、中曽根くんがいる場所をより近くで見ることができたからだ。


 そのことを知っている数人の女子たちは、保健室に集まって、お目当ての男子をそこから見ていた。


 私みたいな中曽根くんの隠れファンも、もちろん何人かいた。


 女子生徒1:

「キャー! 南くんカッコイイ~」


 女子生徒2:

「やっぱり白組は、南先輩と中曽根くんがダントツだよねー」


 きゃあきゃあ保健室の窓辺ではしゃぐ女子生徒たち。

 その後ろから、私もこっそりと中曽根くんを見ている。


 林 和葉:

(かっ……)


 林 和葉:

(カッコイイ……!!)


 頬に両手を当てて見つめる。

 そんな私たちの背後では、保健室の篠田先生がやれやれと、デスクの前でこちらを見ていた。


 篠田 かなえ:

「中曽根くんは人気なのねぇ」


 篠田先生のその言葉に、ドキッとした。

 先生に対して、私の隣の子が「そりゃあね!」となぜか自慢げに言い出す。


 女子生徒1:

「でも、中曽根くん彼女いるから、こうして騒ぐしかできないんだけどねー」


 篠田 かなえ:

「ああ、戸田さんね」


 やはり2人のことは、先生の間でも有名なのか、篠田先生はすぐにるりちゃんの名前を口にした。


 女子生徒1:

「そ! 何でも家が近くて、幼馴染みらしいよ」


 女子生徒2:

「え、何それ。超少女マンガ的設定じゃん! 羨ましい~!」


 女子生徒1:

「てか、幼馴染みとかずるいよねー! 有利すぎるじゃん!」


 林 和葉:

「……!」


 2人の話す内容を聞いて、ドキッとした。

 だってそれは、私がずっと思っていたことだったから。


 ずるいって。

 るりちゃんの立場はずるいって、心の奥でずっと思っていた。


 私は3年間も中曽根くんに片想いしていた。ずっと見ていた。だからわかる。

 るりちゃんが中曽根くんを好きになったのって、絶対私より遅かった。

 それなのに付き合えちゃうなんて、ずるいって。


 でも、そんな妬みがよくなかったのかな。

 私はその後、るりちゃんの危機を、中曽根くんに伝えに行く羽目になってしまったのだから。



 ・   ・   ・



 林 和葉:

(あーあ、やってらんないや)


 体育館から遠ざかりながら、一人小さく呟いた。




 ◇ 後編へ続く ◇

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