Ep.20 ずるいあの子 (後編)
午前中に参加種目を終わらせていた私は、最後のクラス対抗綱引きまでは暇である。
それならブラブラしててもいいか、なんて考えて、席に戻ることはしなかった。
なんとなく足元は、校舎裏へと向かう。
そこは去年、私が中曽根くんに告白してフラれた場所だった。
林 和葉:
(やだ、私ってけっこう女々しい)
とは思いつつ、人気のないそこにホッとした。
スポーツ大会の今日は、グラウンドに人が溢れている。
しかし、誰もいないと思っていたここにも人が来た。
?:
「あれ、カズじゃん」
聞き慣れた声に振り返る。
林 和葉:
「あれ……みーちゃん」
その人物の登場に、私は目を丸めた。
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ずるいあの子
(後編)
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御手洗 満:
「みーちゃんは、やめろよな」
みーちゃんこと御手洗満は苦笑した。
でも全然怒ってないように見える仏顔の彼は、相変わらず柔和に目を細めている。
みーちゃんとは、去年クラスメイトだった。
小学校は違うものの、話しやすい彼とはすぐに仲良くなった。
苗字も名前も「み」から始まる彼に「みーちゃん」とあだ名をつけた私に、彼は仕返しとばかりに私を男の子みたいに「カズ」と呼ぶ。
会話文だけ見れば、男女が入れ替わっているような呼び合いだ。
林 和葉:
「じゃあ、そっちもカズはやめてよね」
御手洗 満:
「あはは、気をつける」
みーちゃんの笑顔は、相変わらず優しい。
騒がしい男の子の中でも、みーちゃんは落ち着いていて、皆の一歩後ろにいるような男の子だ。
そんな彼は、中曽根くんと同じサッカー部。
じつは去年、恋愛相談に乗ってもらっていたりもする。
でもみーちゃんに恋バナをしてたのは、何も私だけじゃない。
話しやすい彼は、女の子にとってよき相談者なのだ。だから。
林 和葉:
「もー、聞いてよ、みーちゃん!」
御手洗 満:
「ん?」
林 和葉:
「応援団の中曽根くん、すっごくカッコよかったの!!」
誰にも言えなかった渾身の感想を、みーちゃんに叩きつけた。
ぶるぶるとスマホのマナーモードみたいに震えた私に、みーちゃんは呆れ顔を浮かべる。
御手洗 満:
「カズ、まだ好きだったの?」
林 和葉:
「長い片想いだったし、なかなか踏ん切りがつかないの!」
フラれてもう1年は経とうとしているのに、相変わらずな私。
みーちゃんはやれやれと肩をすくめた。
でも私だって、1年前と同じじゃない。
林 和葉:
「今はもう、アイドルみたいな感じだよ」
林 和葉:
「あの2人、超ラブラブだし……」
5組の中曽根くんは、るりちゃんと私のクラスである1組に頻繁に来る。
忘れ物をしたとか、忘れ物を返しにきたとか。
そしてそれらはすべて、るりちゃんに会う口実なのだとは周知の事実。
そんなの見せつけられちゃ、諦めざるを得ないじゃない。
林 和葉:
「るりちゃんは、ずるいなぁ……」
みーちゃんには、つい本音が出てしまう。
ポロッとこぼれた感想は、素直な私の気持ちだった。
御手洗 満:
「ずるいって?」
そう言うみーちゃんの聞き方は、責めているというよりも、穏やかに尋ねてくれているものだった。
だから、私は安心して本音を吐露できる。
林 和葉:
「だって、私のが片想い歴長かったのにさ。あっという間に公認の彼女になっちゃうんだもん」
御手洗 満:
「まぁ、恋愛は先着順じゃないからなぁ」
そんなのわかってる! と頬を膨らませた。
どうもみーちゃん相手だと、素直になりすぎて子どもっぽくなってしまう。
林 和葉:
「しかもるりちゃん可愛いし、すごくいい子だし」
それに加えて料理やピアノも得意だ。
どこぞの令嬢か! と言いたくなるが、生まれは庶民の彼女は話しかけやすくもありどこか憎めない。
完敗である。
御手洗 満:
「カズも可愛いし、いい子だよ?」
林 和葉:
「……ありがとう」
みーちゃんに言われてもなぁ。
そもそもみーちゃんは、恋愛相談を持ちかけてくる女の子全員に優しいスタンスである。
「恋する女の子って可愛いよね」は彼の口癖であり、彼の笑みは目の前に立つ者すべてに平等に与えられる。
つい、拝みたくなるような少年だ。
そんな仏様のようなみーちゃんは、じっとこちらを見て呟いた。
御手洗 満:
「……てかさ。恋すると皆、ずるくなるよね」
中2男子らしからぬ発言も、みーちゃんだとしっくりするのはなぜだろうか。
御手洗 満:
「そんなカズに、朗報がひとつ」
林 和葉:
「?」
小さくみーちゃんは笑うと、ジャージの上着からスマホを取り出した。
何やら操作してこちらに掲げる。
するとそこには……。
御手洗 満:
「じゃーん! 中曽根のスマイルアップ写真!」
林 和葉:
「!! 」
スマホの中になんと、中曽根くんの一人アップが写し出されていた。
教室の机に伏せって寝ていたのだろうか。腕から顔を出して、見つかったのを照れているようにカメラ目線で笑っている。
か、カッコ可愛い……!!
林 和葉:
( キャアアアー!)
みーちゃんは中曽根くんと今、同じクラスだ。
しかもサッカー部仲間で仲がいいからこそ、こんなショットを撮れたのだろう。
みーちゃん、よくやった!
さっきよりもぶるぶる震える私に、彼は印籠のようにそれを掲げた。
御手洗 満:
「データの転送代は五百円ね」
林 和葉:
「お金取るの!?」
御手洗 満:
「そりゃあ、慈善事業じゃないですから」
ひどい! とみーちゃんをじとっと見つめた。
やや私より背が高いみーちゃんに、恨めしげに目を向ける。
御手洗 満:
「………」
御手洗 満:
「ずるいのは、どっちだか」
林 和葉:
「え?」
小さくもらした彼の呟きを聞き取れず、首をかしげる。
するとみーちゃんは、そんな私に痛くないデコピンをした。
御手洗 満:
「後で送っとく」
林 和葉:
「わぁ、ありがとう!」
御手洗 満:
「お礼はアイス1週間分ね」
林 和葉:
「さっきより高くついてない!?」
なんて言いつつも、本気でみーちゃんが言ってないことを知っている私は、彼の優しさに甘えてしまう。
ああ、神様仏様みー様、ありがとう!
そして心の中でるりちゃんに、こっそり謝る。
ごめんね。
でも写真くらいだし、許してよね。
なんてずるい言い訳をして。
でもこの時の私は、まだ知らなかったのだ。
みーちゃんから「ごめん、間違えて写真削除しちゃった」なんて、てへぺろメッセージがこの後に届くだなんてことは……。
◇ 終わり ◇
❀次エピソードへ続く




