Ep.19 君だけのヒーロー(7・終)「ヒーロー見参!」
中曽根 悠:
「恋人の証ぃ!?」
桑原先輩:
「そ! もらえて本当に嬉しい~」
るりを追いかけられずにいた俺は、桑原先輩からとんでもない話を聞いてしまう。
そんなの知らないし、知ってたらあげなかったのに!
だからるり、怒ってたのか。
消しゴムのおまじないといい、こういうの好きそうだもんな。
俺は慌てて、桑原先輩からハチマキを奪い返そうとした──が、彼女はしっかりそれを掴んでいる。
中曽根 悠:
「ちょ、先輩!」
桑原先輩:
「いいじゃん、これくらい。るりちゃんは付き合えてるんだから、ハチマキまでもらえるなんてずるいよ」
よくわからない理論だ。
でも女相手に強引にはできないし……と困っていたら、バタバタと足音を響かせて1人の女の子がやってきた。
林和葉だった。
なんで林が? と戸惑う俺に、彼女は予想もしないことを告げる。
林 和葉:
「中曽根くん、大変! るりちゃん、るりちゃんが」
林 和葉:
「サッカー部の先輩たちに絡まれてるの!」
中曽根 悠:
「!? 」
それを聞いた俺は、思わずハチマキを引っ張って奪い取り、林に「どこで!?」と詰め寄っていた。
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君だけのヒーロー
(7)「ヒーロー見参!」
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応援団での疲れも吹き飛ばして、俺は走った。
ハチマキを握りしめて、林が教えてくれた水飲み場へと急ぐ。
中曽根 悠:
(ちくしょう! あいつら……!)
俺じゃなくてるりを狙うなんて、卑怯だ!
怒りと不安が、俺を急き立てる。
近づいた水飲み場に、3年生たちの姿を見つけた。
何やら校舎の建物に向かい、こちらに背を向けている。ちらりとその向こう側に、るりの姿が見えて、視界が真っ赤になりそうだった。
あいつらまじ、ぶっ飛ばす──!!
戸田 るり:
「悠はカッコイイもん!! 」
中曽根 悠:
「!?」
突然のるりの大声に、足が止まった。
るりを囲んでいた3人も一瞬、体を離す。
閉じ込められて、てっきり泣いてるかと思ったるりは、真っ赤な顔をして怒った表情をしていた。
戸田 るり:
「悠は、チャラチャラなんてしてない! いつだって真剣なんだから!」
戸田 るり:
「そりゃ、ちょっとお調子者なとこもあるけど……」
戸田 るり:
「でも悠だったら、後輩相手にこんな卑怯なことしない!」
戸田 るり:
「悠は……悠はカッコイイ!!」
中曽根 悠:
「……っ!!」
うわぁ。
うわぁ──やべぇ。
すっげぇ嬉しい……!
拳が震える。
口がほころぶ。
高揚する心のままに、俺はハチマキを握りしめて空に掲げた。
中曽根 悠:
「── はははは!」
バカな俺から、バカみたいな笑い声がもれる。
いいさ、バカだって。
だって俺は今、すごく気分がいいんだ!
るりと先輩たちが、俺の声を聞いてこちらを見た。
中曽根 悠:
「ハッハッハッ! 」
中曽根 悠:
「ヒーロー見・参!!」
先輩たち:
「!!?」
戸田 るり:
「!!」
バーン! と俺にだけ聞こえる効果音が鳴り響き、手の中のハチマキが風に揺れる。
先輩たちとるりは、そんな俺にあっけにとられた。
中曽根 悠:
「先輩! 気に食わないのは俺でしょ?」
近寄って、先輩たちの隙間からるりの手を引っ張った。
るりを背後に立たせて、先輩たちと対峙する。
悔しいが、先輩たちよりまだ俺のほうが背は低い。見上げるように、先輩たちを睨んだ。
部長:
「中曽根……てめぇ」
部長が、俺に詰め寄ろうとする。
背後のるりに、こっそり伝えた。
中曽根 悠:
「るり……走るぞ」
戸田 るり:
「!」
こくんと、小さくるりが頷いたのを確認して、握った手の力を強める。
そうして俺は、近寄ろうとする先輩たちに、頭を下げた。
中曽根 悠:
「生意気ですみません!」
そしてすぐ、顔を上げて笑う。
中曽根 悠:
「でも、これが俺なんで!」
部長:
「!」
るりの手を引っ張り、走りだした。
男子生徒1:
「あ、てめー中曽根!!」
男子生徒2:
「逃げんな-!」
そう叫ぶ先輩たちだが、追ってくるようなことはしなかった。
それでも俺は、るりの手を引っ張りながら駆け抜ける。
逃げるためじゃない。
どうしようもない嬉しさが、俺を突き動かしていたからだった。
・ ・ ・
グラウンドが見える花壇前まで来ると、ようやく俺はるりの手を離した。
俺より体力のない彼女は膝に手をつき、肩で息をしている。
戸田 るり:
「はぁ、はぁ……」
中曽根 悠:
「ここまで来れば、大丈夫だろ」
水飲み場の方向を見ても、先輩たちが追ってきている様子はない。
ちょっと疲れた俺も花壇に腰を下ろしたら、るりはその前に、腰に手をあてて立った。
戸田 るり:
「もう! 悠は部活で何をやらかしたの!?」
いつもの、お姉さんぶる時の顔だ。
中曽根 悠:
「何もしてねーよ。あっちが勝手に絡んでくるんだから」
風でるりの長い髪の毛が揺れるのを見ながら、立ち上がる。
中曽根 悠:
「でも、ごめん。……なんか変なことに、巻き込んじゃって」
俺だけが目をつけられるのは、かまわなかった。
でもるりが、あいつらに絡まれるなんて思ってもみなかった。
そういえば、正義のヒーローのヒロインは、いつだって悪の親玉に狙われるのだ。
仮面ポリスマンもそうだった。
中曽根 悠:
「俺、これからは気をつけるから……さ」
るりのためなら、先輩とは波風立てないようにしよう。
慣れない敬語だって使おう。
ちょっと自信はないけれど──俺も大人にならなきゃね。
戸田 るり:
「……うん」
小さく頷いたるりに俺はホッとして、握っていたハチマキを彼女に渡した。
中曽根 悠:
「これ、やる」
戸田 るり:
「!」
中曽根 悠:
「その……恋人の証って知らなくてさ。ごめん」
受け取ったるりは、顔を真っ赤にして左右に振った。
戸田 るり:
「私も、ちゃんと言ってなかったから……ごめん!」
顔を振るせいで、るりの髪は揺れる。
いい香りが俺の鼻をくすぐって、ちょっとドキッとした。
桑原先輩とは全然違う。
るりの香りは、ちょっと甘くてお菓子みたいだ。
中曽根 悠:
「なぁ、るり」
俺は勇気を出して、言ってみた。
中曽根 悠:
「もっかい、言ってくれる?」
戸田 るり:
「?」
小首をかしげたるりに、俺は笑う。
中曽根 悠:
「先輩に啖呵切ったとき、俺のことカッコイイって言ってたじゃん!」
戸田 るり:
「!!」
すると、るりはますます顔を赤らめて、せっかく渡したハチマキを胸の前で握ってぐちゃぐちゃにしてしまう。
口をパクパクさせるから、金魚みたいだ。
戸田 るり:
「あ、あれは、その……」
じーっとるりを見つめた。
そりゃもう、顔に穴が開くくらい。
戸田 るり:
「………っか……」
戸田 るり:
「カッ………」
戸田 るり:
「カッコよ……」
大谷 圭介:
「おおい中曽根! 大丈夫だったか!?」
中曽根 悠:
「!」
お、大谷ぃ~~~!!
あともうちょっとのところで、るりの声は大谷の声にかき消された。
そういえば、あの騒動のときにこいつもいたんだ。
でもよりによって今、来るな!
空気を読め、空気を!
大谷 圭介:
「先輩に何もされなかったか!? 戸田も大丈夫だったか!?」
戸田 るり:
「うん、大丈夫だよ。ありがとう、大谷くん」
るりは、なぜ大谷が駆けつけたのかあまりピンときてない様子だ。
でも俺は、大谷が心配する気持ちが何となくわかった。
責任を感じてるんだろうな……たぶん。
中曽根 悠:
「……」
中曽根 悠:
「大丈夫だよ、大谷。俺、これからは先輩と、なるべくうまくやるようにするからさ」
大谷 圭介:
「中曽根……」
ほっとしたような顔を見せる大谷。
そうだな。
ヒーローたるもの、友達だって守ってやんなきゃ。
ぶっ飛ばせば自分はすっきりするけど、それじゃダメだ。
好きなやつや友達の笑顔も守れなきゃ、正義のヒーローなんて務まらないぜ。
中曽根 悠:
「よし、じゃあ行くか!」
戸田 るり:
「うん!」
るりの手を引っ張った。
戸田 るり:
「──ひゃ!?」
中曽根 悠:
「おっ先ー!」
るりだけ連れてって、俺は大谷を置いていった。
大谷 圭介:
「み、見せつけんな~!」
大谷の声は遠ざかる。
るりの手の温もりが伝わってくる。
俺が正義のヒーローになる変身スイッチは、いつだってこの温かい手の中なんだろう。
まだまだ未熟な俺。
人と対立したり、腹が立ったり、うまくいかないこともあるだろう。
でも俺の夢は、やっぱりカッコイイヒーローだから。
そんなヒーローになりたいから。
この手は離したくないな。
なんて思って、青空の下を駆け抜けた。
◇ 終わり ◇
❀次エピソードへ続く




