Ep.19 君だけのヒーロー(6)「ヒロインはピンチになる」
そんなふうに、悠にドキドキしたのに。
それなのに。
戸田 るり:
(悠の……)
戸田 るり:
(悠のバカ!)
ふくれっ面を顔に貼り付けて、私は一人、体育館から足を遠ざけている。
悠が、あの桑原先輩にハチマキを渡すところを見てしまった。
受け取った桑原先輩は嬉しそうに、そして、私に勝ち誇ったような顔を向けた。
戸田 るり:
(そりゃ、ハチマキの伝統なんて知らないかもだけど……)
戸田 るり:
(それでもあげちゃう!? 女子の先輩にさ!)
しかも、腕まで組ませてるし……!
悠なんか、もう知らない!
自分が素直に言ってなかったことは棚に上げて、彼に腹を立ててしまう自分にも腹が立った。
ああ、なんでこうなっちゃうの。
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君だけのヒーロー
(6)「ヒロインはピンチになる」
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とぼとぼと、足取りは重くなる。
体育館と校舎をつなぐ渡り廊下付近は静かだ。
そんな中、知っている声が私を呼んだ。
林 和葉:
「あれ、るりちゃん」
戸田 るり:
「和葉ちゃん」
ふと顔をあげると、和葉ちゃんがいた。
ちょうど校舎から、渡り廊下に出てきたところらしい。
戸田 るり:
「和葉ちゃん、どうしたの?」
林 和葉:
「ちょっと、保健室で休んでたの。気分がよくなくてさ」
戸田 るり:
「え、大丈夫!?」
私保健委員だから、言ってくれたら付き添ったのに……そう呟いたら、和葉ちゃんは呆れたように笑った。
林 和葉:
「でもそうしたら、中曽根くんの応援団、るりちゃん見られなくなるでしょ?」
戸田 るり:
「!」
林 和葉:
「どう? カッコよかった?」
その言葉に、私の心はまたきゅうっとなる。
悠の応援演舞を思い出して、ドキドキした。
うん──うん、そうだね。
戸田 るり:
「カッコよかった……」
本人には言えなかった言葉を言えて、私は少し心が軽くなる。
林 和葉:
「やだー、のろけてるー」
和葉ちゃんはからかうように言ったけど、その笑顔はとても優しい。
ハチマキのことでイライラしていた私の心を、和葉ちゃんがふんわりと丸くしてくれた。
戸田 るり:
(和葉ちゃんと、会えてよかった……)
私は和葉ちゃんと、連れ添ってグラウンドへ戻ることにした。
和葉ちゃんの体の負担にならないように、ゆっくり歩く。
そんなときだった。
男子生徒1:
「あれ、もしかして中曽根の彼女?」
少し、離れたところ。
水飲み場でたむろしていた男の子3人が、急に声をかけてきた。
サッカー部部長:
「あ、そーだよ。こいつだよ」
男子生徒2:
「へー、近くで見るの初めて~」
おそらく3年生であるその先輩たちが近付くと、その体の大きさに驚いた。
先輩の男子って、どうしてこんなに大きいの?
戸田 るり:
「あの……?」
私と和葉ちゃんの前をさえぎるように、その3人は立ち並んだ。
この人たち、どこかで見たことがあるような気がする……。
男子生徒1:
「名前なんてーの?」
戸田 るり:
「え?」
明らかに、私に向けて言われた言葉だ。
どうしてこの先輩たちは、私の名前なんて知りたいのだろう?
戸惑う私の横で、和葉ちゃんが「行こう」と手を引っ張ってくれる。──でも。
サッカー部部長:
「お前だけ行けよ」
先輩の一人が私の腕を掴んだせいで、ガクンッと体が後ろによろめいた。
その反動で、和葉ちゃんの手が離れてしまう。
林 和葉:
「るりちゃん!」
男子生徒1:
「へー、るりちゃんて言うんだ」
サッカー部部長:
「お前に用はねーから。あっちに行ってろよ」
林 和葉:
「……!」
私の腕を掴んだ先輩は、そう言って和葉ちゃんを睨んだ。
……何、これ?
何で急に、こんなふうに絡まれてるの?
和葉ちゃんは唇をぐっとかむと、振り返って走り去った。
戸田 るり:
(和葉ちゃん……!)
戸惑う私を、残った3人の先輩が囲む。
腕は離してくれたけど、まるで見世物みたいにじろじろ見てくる。
そうだ、この人たちどっかで見たことがあると思ったら、サッカー部の3年生だ。
グラウンドで悠と駆け回っているのを、見たことがある。
戸田 るり:
「何ですか、いったい」
和葉ちゃんを睨んでいた先輩に対して、私は睨んだ。
よくわかんないけど、すっごく嫌な感じがこの人たちからはする。
男子生徒2:
「うわ、強気ー」
男子生徒1:
「さすがあいつの彼女って感じ?」
でも先輩たちは、私の睨みなんか全然効いてない風で、ニヤニヤ嫌な笑みを浮かべていた。
サッカー部部長:
「ちょっと可愛いのが、またムカつくよなー」
そう言った1人が、足を片方上げて私の後ろにあった校舎の建物にそれをドン、とつけた。
逃げようとして逆に体を向けたら、もう1人が体を壁にもたれさせて阻んでしまう。
万事休すだ。
戸田 るり:
「やめて下さい!」
サッカー部部長:
「あんなのどこがいいの? チャラチャラしてんじゃん」
先輩たちは私の言葉なんて無視して、あろうことか悠の悪口を言う。
男子生徒1:
「女にモテてニヤニヤしてさー」
男子生徒2:
「るりちゃんだっけ? 君もさぁ、あんなやつやめといたら?」
男子生徒1:
「そーそー、何だったら俺と付き合うー?」
ゲラゲラと下品な笑いを浮かべる3人。
その笑いに、私はさっきとはまた違う腹立たしさを感じていた。
悠が、チャラチャラしてる?
あんなに真剣に応援団に取り組んでいたのに、この人たちの目は節穴なんだ。
何も知らないくせに。
悠のこと、何にも知らないくせに──!!
戸田 るり:
「……悠は」
戸田 るり:
「悠はカッコいいもん!!」
気づけば私は、そう叫んでいた。
◇ 続く ◇




