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この空色バス、春先行き。【完結】  作者: 猪野いのり
第二章 安全運転にて走行中《2年生編》
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Ep.19 君だけのヒーロー(6)「ヒロインはピンチになる」

 そんなふうに、悠にドキドキしたのに。

 それなのに。


 戸田 るり:

(悠の……)


 戸田 るり:

(悠のバカ!)


 ふくれっ面を顔に貼り付けて、私は一人、体育館から足を遠ざけている。


 悠が、あの桑原先輩にハチマキを渡すところを見てしまった。

 受け取った桑原先輩は嬉しそうに、そして、私に勝ち誇ったような顔を向けた。


 戸田 るり:

(そりゃ、ハチマキの伝統なんて知らないかもだけど……)


 戸田 るり:

(それでもあげちゃう!? 女子の先輩にさ!)


 しかも、腕まで組ませてるし……!

 悠なんか、もう知らない!


 自分が素直に言ってなかったことは棚に上げて、彼に腹を立ててしまう自分にも腹が立った。


 ああ、なんでこうなっちゃうの。



❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀


 君だけのヒーロー

(6)「ヒロインはピンチになる」


❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀



 とぼとぼと、足取りは重くなる。

 体育館と校舎をつなぐ渡り廊下付近は静かだ。

 そんな中、知っている声が私を呼んだ。


 林 和葉:

「あれ、るりちゃん」


 戸田 るり:

「和葉ちゃん」


 ふと顔をあげると、和葉ちゃんがいた。

 ちょうど校舎から、渡り廊下に出てきたところらしい。


 戸田 るり:

「和葉ちゃん、どうしたの?」


 林 和葉:

「ちょっと、保健室で休んでたの。気分がよくなくてさ」


 戸田 るり:

「え、大丈夫!?」


 私保健委員だから、言ってくれたら付き添ったのに……そう呟いたら、和葉ちゃんは呆れたように笑った。


 林 和葉:

「でもそうしたら、中曽根くんの応援団、るりちゃん見られなくなるでしょ?」


 戸田 るり:

「!」


 林 和葉:

「どう? カッコよかった?」


 その言葉に、私の心はまたきゅうっとなる。

 悠の応援演舞を思い出して、ドキドキした。


 うん──うん、そうだね。


 戸田 るり:

「カッコよかった……」


 本人には言えなかった言葉を言えて、私は少し心が軽くなる。


 林 和葉:

「やだー、のろけてるー」


 和葉ちゃんはからかうように言ったけど、その笑顔はとても優しい。

 ハチマキのことでイライラしていた私の心を、和葉ちゃんがふんわりと丸くしてくれた。


 戸田 るり:

(和葉ちゃんと、会えてよかった……)


 私は和葉ちゃんと、連れ添ってグラウンドへ戻ることにした。

 和葉ちゃんの体の負担にならないように、ゆっくり歩く。

 そんなときだった。


 男子生徒1:

「あれ、もしかして中曽根の彼女?」


 少し、離れたところ。

 水飲み場でたむろしていた男の子3人が、急に声をかけてきた。


 サッカー部部長:

「あ、そーだよ。こいつだよ」


 男子生徒2:

「へー、近くで見るの初めて~」


 おそらく3年生であるその先輩たちが近付くと、その体の大きさに驚いた。

 先輩の男子って、どうしてこんなに大きいの?


 戸田 るり:

「あの……?」


 私と和葉ちゃんの前をさえぎるように、その3人は立ち並んだ。

 この人たち、どこかで見たことがあるような気がする……。


 男子生徒1:

「名前なんてーの?」


 戸田 るり:

「え?」


 明らかに、私に向けて言われた言葉だ。

 どうしてこの先輩たちは、私の名前なんて知りたいのだろう?


 戸惑う私の横で、和葉ちゃんが「行こう」と手を引っ張ってくれる。──でも。


 サッカー部部長:

「お前だけ行けよ」


 先輩の一人が私の腕を掴んだせいで、ガクンッと体が後ろによろめいた。

 その反動で、和葉ちゃんの手が離れてしまう。


 林 和葉:

「るりちゃん!」


 男子生徒1:

「へー、るりちゃんて言うんだ」


 サッカー部部長:

「お前に用はねーから。あっちに行ってろよ」


 林 和葉:

「……!」


 私の腕を掴んだ先輩は、そう言って和葉ちゃんを睨んだ。


 ……何、これ?

 何で急に、こんなふうに絡まれてるの?


 和葉ちゃんは唇をぐっとかむと、振り返って走り去った。


 戸田 るり:

(和葉ちゃん……!)


 戸惑う私を、残った3人の先輩が囲む。

 腕は離してくれたけど、まるで見世物みたいにじろじろ見てくる。


 そうだ、この人たちどっかで見たことがあると思ったら、サッカー部の3年生だ。

 グラウンドで悠と駆け回っているのを、見たことがある。


 戸田 るり:

「何ですか、いったい」


 和葉ちゃんを睨んでいた先輩に対して、私は睨んだ。

 よくわかんないけど、すっごく嫌な感じがこの人たちからはする。


 男子生徒2:

「うわ、強気ー」


 男子生徒1:

「さすがあいつの彼女って感じ?」


 でも先輩たちは、私の睨みなんか全然効いてない風で、ニヤニヤ嫌な笑みを浮かべていた。


 サッカー部部長:

「ちょっと可愛いのが、またムカつくよなー」


 そう言った1人が、足を片方上げて私の後ろにあった校舎の建物にそれをドン、とつけた。

 逃げようとして逆に体を向けたら、もう1人が体を壁にもたれさせて阻んでしまう。

 万事休すだ。


 戸田 るり:

「やめて下さい!」


 サッカー部部長:

「あんなのどこがいいの? チャラチャラしてんじゃん」


 先輩たちは私の言葉なんて無視して、あろうことか悠の悪口を言う。


 男子生徒1:

「女にモテてニヤニヤしてさー」


 男子生徒2:

「るりちゃんだっけ? 君もさぁ、あんなやつやめといたら?」


 男子生徒1:

「そーそー、何だったら俺と付き合うー?」


 ゲラゲラと下品な笑いを浮かべる3人。

 その笑いに、私はさっきとはまた違う腹立たしさを感じていた。


 悠が、チャラチャラしてる?

 あんなに真剣に応援団に取り組んでいたのに、この人たちの目は節穴なんだ。


 何も知らないくせに。


 悠のこと、何にも知らないくせに──!!



 戸田 るり:

「……悠は」


 戸田 るり:

「悠はカッコいいもん!!」


 気づけば私は、そう叫んでいた。




 ◇ 続く ◇

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