Ep.19 君だけのヒーロー(5)「ヒロインは素直じゃない」
悠の応援団姿は、当日までのお楽しみにしておこうと考えて、私は体育館へ練習を見に行くことはしなかった。
初日にあんな先輩たちの群れを見ちゃったら、行きにくいし。
応援団の練習最終日、美羽が誘ってくれたけど。
望月 美羽:
「え、るりっち行かないの?」
戸田 るり:
「うん。今日は、午後に塾もあるし」
望月 美羽:
「そっか、じゃあまたね」
そんなやり取りをして、私は先に帰った。
「大谷くん頑張ってるかな〜」なんて言っていた美羽だけど、大谷くんのことはどう思っているのかな?
帰り道。
私はいつ、悠にハチマキのことをお願いしようかな、なんて、ちょっとドキドキしながら歩いた。
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君だけのヒーロー
(5)「ヒロインは素直じゃない」
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結局、悠へハチマキのことを切り出せぬまま、スポーツ大会当日を迎える。
うう、なんでか付き合ってからの方が、悠に素直になりにくい。
いや、訂正。
昔も今も、私は悠に素直じゃない。
戸田 るり:
(終わったら、真っ先に行ってもらうんだ!)
午後一の青空の下、私はそう意気込む。
隣では、茉莉ちゃんがそんな私をきょとんと見ていた。
早乙女 茉莉:
「るりちゃん、気合い入ってるね」
戸田 るり:
「そ、そう?」
早乙女 茉莉:
「次、応援団だもんね!」
戸田 るり:
「……うん!」
ランチタイムが終わって、再び校庭の席に戻った私たち。
その中から、何人かの男の子が姿を消しているのは、彼らが応援団として次の準備に取り掛かっているからだ。
悠もその一員。
もうすぐ出番となる彼らはまだ現れておらず、賑やかに座る生徒たちの喧騒がグラウンドに響いていた。
そんな中、ついに応援団による応援演舞のアナウンスが届けられた。
アナウンス:
「応援団の入場です」
スピーカーから響いたそれをきっかけに、音楽は止まり、辺りはシンと静まった。
と同時に、入場門からザッザッと、テンポよく続く足音が響く。
黒いその集団は、この日のために一生懸命練習をしてきた男の子たち。
応援団だった。
戸田 るり:
(悠、いた……!)
その存在を、私は真っ先に見つけることができる。
入ってきた列の、後ろらへん。
白いハチマキをたなびかせて、いつになく真剣な表情をして悠は、その中にいた。
応援団はまるで機械仕掛けのように、規則正しく歩調を合わせ、定位置につく。
悠は白組の応援だったから、赤組の私とは遠い位置に立った。
小さく見えるけど、でもちゃんと全身見られる位置だ。
ドン! と太鼓が鳴る。
ドンドンドン、と徐々に打ち鳴らされるそれは、応援団にパワーを与えるみたいに力強く鳴り響く。
そして、演舞が始まった。
低く響く声で掛け声をあげながら、長ランとハチマキをなびかせて、男の子たちは動き始める。
掛け声は、荒々しくリズムよく。
歌うように舞うように、演舞は行われた。
戸田 るり:
(…………か)
戸田 るり:
(カッコよすぎる……!!)
ダメ、無理、こんなの反則だ!
たくましく踊る悠の姿は、遠くからでも充分にカッコよくて、私は口元に手を当てて漏れそうになる悲鳴を抑えるのに必死だった。
まわりでは女の子たちが、すでにキャーキャー言ってたけど、私もあれ以上にキャーキャーなりそうだもん。
隣ではめずらしく茉莉ちゃんが興奮して、私の腕を揺さぶった。
早乙女 茉莉:
「うわぁ~すごい……! カッコイイねぇ!」
戸田 るり:
「…………っ」
コクコクコクと、私は何度もうなずいた。
うん、めちゃくちゃカッコイイ!
悠、いつの間に、そんなに男らしくなっちゃったの?
昔は生意気なだけの、男の子だったのに。
まるで全然、知らない人みたい。
戸田 るり:
(もう……ダメだぁ)
きゅうっとなる心臓を抑えているうちに、応援団の演舞は終わった。
応援団は最後に大きな「押忍!」を響かせると、またザッザッと砂を立てながら、今度は退場門へ向かった。
退場門はこちら側にあるから、悠が近くなる。
見ていたら、悠と目が合った。
そして。
戸田 るり:
「!」
手を、振ってくれた。
大きく、恥ずかしがる様子もなく笑顔で。
私も大きく振り返したかったけど、あまりにもドキドキと心臓が痛くて、胸の前で小さく振るだけで精一杯だった。
戸田 るり:
(……は、ハチマキもらわなきゃ!)
慌てて席を立った。
ハチマキも大切だったけど、それよりも悠に伝えなくちゃ。
頑張ったねって。
すごかったよって。
あと──カッコよかったって。
戸田 るり:
(言ったら悠、驚くかな)
素直じゃない私は、いたずらっ子のように微笑んだ。
◇ 続く ◇




