Ep.19 君だけのヒーロー (4)「ヒロインは負けられない」
悠が応援団に入ったと聞いたときから、何となく嫌な予感はしていたんだ。
覚悟はしていた。
でも実際に、こうして目の当たりにすると……つらい。
桑原先輩:
「えー、あの子超カッコイイ! 2年だよね、名前何?」
女子生徒:
「知らないの? サッカー部の中曽根くん、1年のときも人気あったよ」
桑原先輩:
「知らなかったー! チェックチェックー!」
戸田 るり:
「……」
初めての、応援団練習日。
じつはこっそり、体育館へ足を向けていた。
でも、体育館入り口には3年生のお姉さんたちがたくさんいて、近寄れなかった。
しかも、悠のことを話していて。
戸田 るり:
「……やっぱりいいや。行こう、茉莉ちゃん」
早乙女 茉莉:
「え、いいの? るりちゃん」
戸田 るり:
「うん、いいの!」
立ち去ろうとした時に、体育館から野太い男の子たちの声が響きだした。
その中に、悠の声も見つけたけれど。
戸田 るり:
(……頑張ってね)
直接言いたかった応援を、こっそり心の中で呟いた。
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君だけのヒーロー
(4)「ヒロインは負けられない」
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スポーツ大会まで、あと2週間となった頃。
休み時間に、茉莉ちゃんからあることを聞いた。
戸田 るり:
「ハチマキ?」
早乙女 茉莉:
「うん。応援団の男の子からハチマキをもらうのが恋人の証って伝統が、あるらしいよ」
そんなロマンチックな伝統があるなんて、知らなかった。
茉莉ちゃんは、いとこから聞いたというその話を、どこか照れ臭そうに私に教えてくれる。
早乙女 茉莉:
「るりちゃんも、中曽根くんからもらう約束してるの?」
戸田 るり:
「ううん。ていうか、悠そんなこと知らなさそう」
肝心なところで鈍感な悠は、恋愛ごとには特にそうで、ハチマキのそんなロマンチックな話は知らないんだろうなぁと、簡単に想像できてしまう。
応援団の練習の話をするときも、疲れたーしか言わないし。
戸田 るり:
(でも、欲しいなぁ)
そんな話を聞いたら、やっぱり欲しくなっちゃう。
今度、悠に言ってみようかなぁと考えたときだった。
林 和葉:
「るりちゃん」
クラスメイトの和葉ちゃんが、声をかけてきた。
戸田 るり:
「あ、和葉ちゃん」
顔を向けると、和葉ちゃんはちょっと言いにくそうに私に告げる。
林 和葉:
「なんか3年生が、るりちゃんを呼んでるんだけど……」
ちらっと和葉ちゃんは、教室の扉に視線を向けた。
そちらを見ると、知らない女の先輩が2人、ドア付近に立っている。
戸田 るり:
(ん? あの人って……)
以前に、体育館で見た人じゃないかな。
すらりと足が長くて大人っぽい女子の先輩は、私と目が合うと、手を振って人懐っこい笑顔を見せた。とてもキレイな人だ。
その後ろにいる人も、体育館で一緒に喋ってた人だった気がする。
林 和葉:
「……大丈夫?」
和葉ちゃんは、そんな先輩と私を交互に見て言った。
戸田 るり:
「う、うん」
先輩に呼び出されるって、けっこう怖い。
私は何だろう、と思いつつも、その先輩たちに近寄った。
戸田 るり:
「あの、何でしょう」
桑原先輩:
「あ、あなたがるりちゃん?」
戸田 るり:
「はい」
どうして私の名前を知っているのだろう。
そんな疑問を問えぬままに、先輩の言葉を待つ。
桑原 志帆:
「私、3年生の桑原志帆っていうの。よろしくね」
戸田 るり:
「はぁ……」
差し出された右手に、握手を求められていると気づき戸惑ってしまう。
うっすらと透明のネイルが施された指先はとてもキレイで、おずおずと差し出した私の手は、ちんちくりんでお子様みたいだった。
桑原 志帆:
「るりちゃん、可愛いねー。私、負けそう〜」
戸田 るり:
「え?」
キュッと握られた右手にドキッとしていたら、そんなことを言われた。
きょとんとした私に、桑原先輩は言葉を続ける。
桑原 志帆:
「私、中曽根くん狙いなの。今日は宣戦布告!」
戸田 るり:
「!?」
とんでもない発言に、口をポカンと開けた。
──え? えええ!?
そんな私に、桑原先輩の後ろにいたもう1人の先輩が、クスクス笑った。
先輩:
「ほら志帆〜、やっぱり困ってるじゃん、この子」
桑原 志帆:
「でも、やっぱりこういうのは、正々堂々とやらないと!」
振り返って笑う桑原先輩。
揺れた髪の毛から、柑橘系のいい香りが飛んできた。
これはつまり……ええと。
戸田 るり:
(ライバル宣言……されてる?)
悠に隠れファンがいるんだって、最近何となくわかっていた。
でも、私という存在が学校内ではけっこう知られているから、表立ってアピールする子は少なかった。
しかし、強者はいたのだ。
まさかこんなにも堂々と、宣言されるなんて……!
戸田 るり:
(こ……これは)
戸田 るり:
(ま、負けられない!)
ぐっと唇をかんだ。
バレンタインの時にも感じた見えぬライバルへの対抗心に、再び火を着ける。
私って、けっこう負けず嫌い。
あらためて感じる。
桑原 志帆:
「いつでも中曽根くん、手放していいからね♡」
そんなことを知らない桑原先輩は、キレイにウィンクしてこちらを見た。
正直、こんなに美人なライバルは初めてだ。
お色気もたっぷりあって、大人の雰囲気をかもし出すこの人と並んだら、私なんてすぐにかすんでしまう。
でも……でも!
戸田 るり:
「そんなこと、しません」
桑原 志帆:
「!」
きっぱりそう言って握手した手を離し、桑原先輩の目を見つめた私。
それに対して彼女は、思いがけないものでも見たかのように、目を丸くした。
桑原 志帆:
「……へぇ」
桑原 志帆:
「意外と、強気なんだ」
クスッと笑ったその表情は、てんで私の言葉が効いていないようだ。
桑原 志帆:
「ま、これからどうなるかは、わかんないしね」
戸田 るり:
「!」
桑原 志帆:
「じゃあね、るりちゃん」
そう言って、桑原先輩は去っていった。
すると入れ替わるように、背後から和葉ちゃんが声をかけてくる。
林 和葉:
「何あれ、すっごい嫌な感じ」
戸田 るり:
「和葉ちゃん」
聞かれていたのか、とちょっと恥ずかしくなる。
うつむいた私に、和葉ちゃんは小さな声でそっと囁いた。
林 和葉:
「……負けないでよね」
戸田 るり:
「え?」
見つめ返した私に、和葉ちゃんはちょっと怒ったような顔をして、言葉を続ける。
林 和葉:
「あんな先輩に、負けないでよね」
戸田 るり:
「う、うん」
和葉ちゃんのその言葉は、素直に嬉しかった。
小学生の頃、同じ生き物係をしていた和葉ちゃん。
やっぱり、あの頃から変わらない優しさに、私の心はほんわり温かくなる。
戸田 るり:
「ありがとう、和葉ちゃん」
お礼を述べると、和葉ちゃんは少しくすぐったそうに笑い返してくれた。
またあの頃に戻ったような気がして、なんだか嬉しくなる。
そんな私たちに、同じく心配してくれていた茉莉ちゃんが、遠慮がちに声をかけてくれた。
早乙女 茉莉:
「大丈夫だった? るりちゃん」
戸田 るり:
「うん、大丈夫!」
そう答えたら、茉莉ちゃんはホッとしたように笑ってくれた。
ふふ、茉莉ちゃんの笑顔ってわかりづらい分、見つけられるとなんだか嬉しいんだよね。
こんなふうに心配してくれる友達が、私にはいる。
そのことが嬉しくて、元気をもらえて。
私は再び「負けないぞ!」という気合いを、入れたのだった。
◇ 続く ◇




