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この空色バス、春先行き。【完結】  作者: 猪野いのり
第二章 安全運転にて走行中《2年生編》
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Ep.19 君だけのヒーロ(3)「戸惑いヒーロー」

 いよいよ迎えた、スポーツ大会当日。

 俺は50メートル走と、全員参加の綱引きと大縄跳びに参加することになっている。

 しかし、一番はりきるのはやっぱり応援団だ。

 昼食後に行われる応援演舞は、グラウンドの中央で、全校生徒たちに見守られて行われる。


 朝、自分のカバンにハチマキを詰め込んだ。

 長ランと手袋と腕章は借り物だが、ハチマキだけはそれぞれが用意しなければならない。

 やたら長くて白いそれを突っ込んで、俺は立ち上がった。


 中曽根 悠:

「行ってきまーす!」


 大きな声を響かせて出ていった俺を、姉貴が「元気ねぇ」と、呆れたように送り出した。



❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀


 君だけのヒーロ

(3)「戸惑いヒーロー」


❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀



 高い空に舞う風。

 まるで、この日のために用意されたような青空の下、俺たち応援団は今までの練習の成果を発揮すべく、立ち並んで挑んでいた。


 総勢50名による応援演舞。

 赤組と白組に分かれて向かい合い、太鼓に合わせ、掛け声と演舞を交互に披露しあう。


 赤組団長:

「押せー! 押せ押せ、あ・か・ぐ・み!」


 大谷は赤組、俺は白組である。


 先に赤組の演舞が始まり、後攻の俺たち白チームは、後ろに手を回して立って待っている。

 目立つ赤いハチマキを揺らしながら、先攻の赤組は舞うように大声を出して演舞した。


 いつもはおちゃらけている大谷も、真剣に取り組んでいる。

 そんな赤組の向こう側には望月もいるから、さらにはりきってそうだ。


 中曽根 悠:

(俺だって……!)


 視界の端で、あいつを探す。

 るりも赤組だから向こう側にいる。

 ちょっと遠いけど、見てくれているはず。

 だから、俺は白組の演舞に入った瞬間、はりきって体を動かし声を出した。


 白組団長:

「いけー! いけいけ、し・ろ・ぐ・み!」


 中曽根 悠:

「いけー! いけいけ、し・ろ・ぐ・み!」


 腹の底から声を出す。

 まわりのやつらも、同じように野太い声を響かせる。

 白いハチマキが舞って、俺たちの演舞は始まった。



 なぁるり。

 お前は、これを見たらカッコイイって言ってくれるかな?

 俺はきっと、お前にカッコイイって言われたくて、この応援団を頑張っている気がする。


 だって、口下手で意地っ張りなるりは、なかなか俺をカッコイイって言ってくれない。

 お姉さんぶりたいお前はいつも俺を「バカだなぁ」なんて言って笑っている。


 でも。でもさ──るり。


 俺だっていつまでも、情けないおバカな幼馴染みじゃないんだぞ。



 中曽根 悠:

「───!」


 汗が流れて、演舞は終わる。

 最後の「押忍!」を響かせて顔をあげたら、向こう側にいたるりと目が合った。


 遠すぎて、どんな顔をしていたのかはわからなかったけど、ちゃんとこっちを見ていた──気がする。


 退場する際、走って退場門へ向かう途中。

 俺はるりに向かって、大きく手を振った。


 戸田 るり:

「!」


 るりは驚いて。

 そうして小さく、手を振り返してくれた。


 それだけで俺の気分は高揚して、応援団を頑張ってよかったなぁ、なんて幸せな気分になる。

 こうして、頑張っていた俺たちの応援演舞は、無事に終わったのだ。



 ・   ・   ・



 応援団メンバー:

「あちーあちー!」


 応援団メンバー:

「あー、終わった終わった〜!」


 退場門から出て、体育館へ急いだ俺たち。

 暑い学ランを脱ぎ捨てて、体操着に着替えた。

 汗臭いむさ苦しい空気が、体育館の片隅に充満している。

 うん、臭い。


 大谷 圭介:

「中曽根、おっつかれ〜」


 中曽根 悠:

「おう、やったな!」


 大谷と健闘をたたえて、腕と腕をぶつけ合った。

 気持ちのいい達成感と疲労感が、身体中に満たされている。


 大谷 圭介:

「お前、最後に戸田といちゃついただろ〜」


 中曽根 悠:

「るせぇ、お前だって望月に、手ぇ振ってただろ」


 大谷 圭介:

「おお。見られてなくて、なぜか井本が振り返してくれたがな……」


 あれは井本が、気を遣ってくれたんだと思うが。


 そんなバカな話をしながら体育館から出ると、ある人から声がかかった。


 桑原先輩:

「中曽根くん! カッコよかったよ〜!」


 中曽根 悠:

「桑原先輩?」


 ジャージ姿の桑原先輩が、何人かの女子グループの中から俺に声をかけてきた。


 桑原先輩:

「もうすっごいよかった! 最高!」


 中曽根 悠:

「あ、ありがとう」


 桑原先輩は、俺と身長が同じくらいだ。

 近寄ってくる顔に、思わず上半身を後ろに反らせる。

 彼女の体から、制汗剤スプレーのきつい柑橘系の香りが漂ってきた。

 桑原先輩、可愛くてキレイなんだけど、距離が近すぎて少し苦手だ。


 桑原先輩:

「ねえ、中曽根くん」


 彼女は、やけにテカっている唇の口角をあげて言った。


 桑原先輩:

「ハチマキ、欲しいな」


 中曽根 悠:

「へ? これ?」


 俺が持っていた、汗臭いハチマキを桑原先輩は指さす。

 応援団が終わった今、用無しとなったこれを、彼女は欲しいと言う。


 中曽根 悠:

「こんなのが欲しいの?」


 桑原先輩:

「うん!」


 本当に、この人が考えていることはよくわからない。


 中曽根 悠:

「別にいいけど……」


 汗臭いのにいいのかな? とそれを差し出す。


 大谷 圭介:

「おい、中曽根」


 背後で大谷が、何か言いかけたときだった。

 体育館に向かってくる、るりを見つけた。


 中曽根 悠:

「あ、るり!」


 俺はハチマキを桑原先輩に押し付けて、そちらを向く。


 戸田 るり:

「!」


 るりは足を止めた。

 こちらをじっと見て、そして。


 戸田 るり:

「………!」


 何か苦しそうな顔をして、背を向けて走り去ってしまった。


 中曽根 悠:

「え?」


 何で、突然。


 追いかけようとしたが、俺の右腕が何かに捕まる。


 桑原先輩:

「待ってよ、中曽根くん。記念写真撮りたいな」


 桑原先輩は、捕まえた俺の腕に手を絡ませて、あろうことか体を近づけてくる。


 中曽根 悠:

「え、でも、そんな場合じゃ……」


 タイミング悪く、遠くでるりが振り向いた。


 中曽根 悠:

(げっ! 誤解される!)


 こんな、桑原先輩と腕を組んでいるようなところを、るりに見られたら……!


 案の定、向こう側のるりは険しい顔をして。


 戸田 るり:

(ベー!!)


 中曽根 悠:

「!!」


 あっかんべーをされた。


 あ・あいつはお子様か〜!!


 中曽根 悠:

「先輩、まじ勘弁して!」


 桑原先輩:

「ふふふ、中曽根くんてカッコイイけど、かわいいよねー」


 全っ然、人の話を聞いてない!


 たじろぐ俺の後ろでは、大谷が呆れるように呟いていた。


 大谷 圭介:

「なぜ、女心わからんやつがモテるんだ……」




 ◇ 続く ◇

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