Ep.19 君だけのヒーロ(3)「戸惑いヒーロー」
いよいよ迎えた、スポーツ大会当日。
俺は50メートル走と、全員参加の綱引きと大縄跳びに参加することになっている。
しかし、一番はりきるのはやっぱり応援団だ。
昼食後に行われる応援演舞は、グラウンドの中央で、全校生徒たちに見守られて行われる。
朝、自分のカバンにハチマキを詰め込んだ。
長ランと手袋と腕章は借り物だが、ハチマキだけはそれぞれが用意しなければならない。
やたら長くて白いそれを突っ込んで、俺は立ち上がった。
中曽根 悠:
「行ってきまーす!」
大きな声を響かせて出ていった俺を、姉貴が「元気ねぇ」と、呆れたように送り出した。
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君だけのヒーロ
(3)「戸惑いヒーロー」
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高い空に舞う風。
まるで、この日のために用意されたような青空の下、俺たち応援団は今までの練習の成果を発揮すべく、立ち並んで挑んでいた。
総勢50名による応援演舞。
赤組と白組に分かれて向かい合い、太鼓に合わせ、掛け声と演舞を交互に披露しあう。
赤組団長:
「押せー! 押せ押せ、あ・か・ぐ・み!」
大谷は赤組、俺は白組である。
先に赤組の演舞が始まり、後攻の俺たち白チームは、後ろに手を回して立って待っている。
目立つ赤いハチマキを揺らしながら、先攻の赤組は舞うように大声を出して演舞した。
いつもはおちゃらけている大谷も、真剣に取り組んでいる。
そんな赤組の向こう側には望月もいるから、さらにはりきってそうだ。
中曽根 悠:
(俺だって……!)
視界の端で、あいつを探す。
るりも赤組だから向こう側にいる。
ちょっと遠いけど、見てくれているはず。
だから、俺は白組の演舞に入った瞬間、はりきって体を動かし声を出した。
白組団長:
「いけー! いけいけ、し・ろ・ぐ・み!」
中曽根 悠:
「いけー! いけいけ、し・ろ・ぐ・み!」
腹の底から声を出す。
まわりのやつらも、同じように野太い声を響かせる。
白いハチマキが舞って、俺たちの演舞は始まった。
なぁるり。
お前は、これを見たらカッコイイって言ってくれるかな?
俺はきっと、お前にカッコイイって言われたくて、この応援団を頑張っている気がする。
だって、口下手で意地っ張りなるりは、なかなか俺をカッコイイって言ってくれない。
お姉さんぶりたいお前はいつも俺を「バカだなぁ」なんて言って笑っている。
でも。でもさ──るり。
俺だっていつまでも、情けないおバカな幼馴染みじゃないんだぞ。
中曽根 悠:
「───!」
汗が流れて、演舞は終わる。
最後の「押忍!」を響かせて顔をあげたら、向こう側にいたるりと目が合った。
遠すぎて、どんな顔をしていたのかはわからなかったけど、ちゃんとこっちを見ていた──気がする。
退場する際、走って退場門へ向かう途中。
俺はるりに向かって、大きく手を振った。
戸田 るり:
「!」
るりは驚いて。
そうして小さく、手を振り返してくれた。
それだけで俺の気分は高揚して、応援団を頑張ってよかったなぁ、なんて幸せな気分になる。
こうして、頑張っていた俺たちの応援演舞は、無事に終わったのだ。
・ ・ ・
応援団メンバー:
「あちーあちー!」
応援団メンバー:
「あー、終わった終わった〜!」
退場門から出て、体育館へ急いだ俺たち。
暑い学ランを脱ぎ捨てて、体操着に着替えた。
汗臭いむさ苦しい空気が、体育館の片隅に充満している。
うん、臭い。
大谷 圭介:
「中曽根、おっつかれ〜」
中曽根 悠:
「おう、やったな!」
大谷と健闘をたたえて、腕と腕をぶつけ合った。
気持ちのいい達成感と疲労感が、身体中に満たされている。
大谷 圭介:
「お前、最後に戸田といちゃついただろ〜」
中曽根 悠:
「るせぇ、お前だって望月に、手ぇ振ってただろ」
大谷 圭介:
「おお。見られてなくて、なぜか井本が振り返してくれたがな……」
あれは井本が、気を遣ってくれたんだと思うが。
そんなバカな話をしながら体育館から出ると、ある人から声がかかった。
桑原先輩:
「中曽根くん! カッコよかったよ〜!」
中曽根 悠:
「桑原先輩?」
ジャージ姿の桑原先輩が、何人かの女子グループの中から俺に声をかけてきた。
桑原先輩:
「もうすっごいよかった! 最高!」
中曽根 悠:
「あ、ありがとう」
桑原先輩は、俺と身長が同じくらいだ。
近寄ってくる顔に、思わず上半身を後ろに反らせる。
彼女の体から、制汗剤スプレーのきつい柑橘系の香りが漂ってきた。
桑原先輩、可愛くてキレイなんだけど、距離が近すぎて少し苦手だ。
桑原先輩:
「ねえ、中曽根くん」
彼女は、やけにテカっている唇の口角をあげて言った。
桑原先輩:
「ハチマキ、欲しいな」
中曽根 悠:
「へ? これ?」
俺が持っていた、汗臭いハチマキを桑原先輩は指さす。
応援団が終わった今、用無しとなったこれを、彼女は欲しいと言う。
中曽根 悠:
「こんなのが欲しいの?」
桑原先輩:
「うん!」
本当に、この人が考えていることはよくわからない。
中曽根 悠:
「別にいいけど……」
汗臭いのにいいのかな? とそれを差し出す。
大谷 圭介:
「おい、中曽根」
背後で大谷が、何か言いかけたときだった。
体育館に向かってくる、るりを見つけた。
中曽根 悠:
「あ、るり!」
俺はハチマキを桑原先輩に押し付けて、そちらを向く。
戸田 るり:
「!」
るりは足を止めた。
こちらをじっと見て、そして。
戸田 るり:
「………!」
何か苦しそうな顔をして、背を向けて走り去ってしまった。
中曽根 悠:
「え?」
何で、突然。
追いかけようとしたが、俺の右腕が何かに捕まる。
桑原先輩:
「待ってよ、中曽根くん。記念写真撮りたいな」
桑原先輩は、捕まえた俺の腕に手を絡ませて、あろうことか体を近づけてくる。
中曽根 悠:
「え、でも、そんな場合じゃ……」
タイミング悪く、遠くでるりが振り向いた。
中曽根 悠:
(げっ! 誤解される!)
こんな、桑原先輩と腕を組んでいるようなところを、るりに見られたら……!
案の定、向こう側のるりは険しい顔をして。
戸田 るり:
(ベー!!)
中曽根 悠:
「!!」
あっかんべーをされた。
あ・あいつはお子様か〜!!
中曽根 悠:
「先輩、まじ勘弁して!」
桑原先輩:
「ふふふ、中曽根くんてカッコイイけど、かわいいよねー」
全っ然、人の話を聞いてない!
たじろぐ俺の後ろでは、大谷が呆れるように呟いていた。
大谷 圭介:
「なぜ、女心わからんやつがモテるんだ……」
◇ 続く ◇




