Ep.19 君だけのヒーロー(2)「お悩みヒーロー」
その日の応援団の練習は、最終日ともあって、かなり熱の入ったものになっていた。
本番同様に太鼓も鳴らし、ドスの入った掛け声が体育館内に響く。
一挙手一投足に指導が入り、ミスは許されない。
応援団長:
「そこ遅い! 2年、追いついてねーぞ!」
大谷 圭介:
「うっす!」
中曽根 悠:
「おっす!」
応援団練習中は、なぜか言葉遣いまで荒々しくなってしまう。
汗が飛び散ってもかまわず、最後の練習は続いた。
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君だけのヒーロー
(2)「お悩みヒーロー」
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大谷 圭介:
「ぐはー、超スーパーハードモード……」
中曽根 悠:
「だ、だな……」
一度休憩ということで解放された俺たちは、体育館の隅っこに避難した。
同じように、他の2年生たちもグダるように床に転がる。3年生も疲れているのか、どっさりと腰を下ろして汗を拭いたりしていた。
すると、知っている人物が出入り口から俺たちの元へ現れた。
望月 美羽:
「すごーい! すごかったよ、大谷くん! 中曽根くんも!」
大谷 圭介:
「も、望月! ……と、上田!」
突然の望月の来訪に、ぶっ倒れていたはずの大谷が立ち上がった。
そんな大谷を、小さい望月は見上げて笑っている。隣には、俺の知らない望月の友達もいた。
望月 美羽:
「めちゃくちゃカッコよかった!」
にこっと笑って、望月はそんなことを大谷に言う。
案の定、大谷はびっくりした後に、でれっとした。
大谷 圭介:
「えへへ、そうか」
望月 美羽:
「うん! エロ親父とは思えないくらい!」
大谷 圭介:
「そ、それは仮の姿なのだよ!」
ぷぷっ、望月にもて遊ばれてやがんの。
でも、いいな。
好きなやつにカッコイイって言ってもらえて。
大谷にちょっとした羨望の眼差しを向けてしまう。
俺だって、頑張ってるんだけどなぁ。
中曽根 悠:
「なぁ望月、るりは?」
もう帰っているとは知っていても、もしかしたらと、つい望月に声をかけてしまう。
望月 美羽:
「え、るりっち? さっき帰ってたけど」
きょとんとした望月はそう答えるばかりで、俺の期待したようなことは言わなかった。
あーあ。ちょっと拗ねそうだぞ、俺。
・ ・ ・
応援団の練習は、二時間ほどで終わった。
そのあとすぐにサッカー部の練習へと向かう俺たちは、体操着姿のままグラウンドへと駆けつけた。
中曽根 悠:
「遅くなりました!」
坂本先生:
「おう、ストレッチしてから入れよ」
顧問の坂本先生にそう言われて、遅れて入った俺と大谷はグラウンドの隅っこでストレッチを始める。
サッカー部の中で、応援団に入っているのは俺たちだけだ。
すると部長である先輩が、リフティングをしながらこちらに近づいてきた。
そのあとに数人の3年生もついてきている。
部長:
「おい、遅いぞ、おめぇら」
明らかに不機嫌を貼り付けた表情だった。
大谷 圭介:
「すんません! 準備運動したらすぐ入るんで!」
俺の隣で、大谷は笑ってそう答えた。
しかし、先輩たちはそんな大谷に「お前はいいんだよ、お前は」と、どこか面倒臭そうに流してこちらに顔を向ける。
部長:
「中曽根、お前さぁ。最近いい気になってるよな?」
中曽根 悠:
「は?」
部長:
「応援団とかチャラついてさ。女にそんなにモテたいわけ?」
中曽根 悠:
「……」
バッカみてぇ。そう思った。
こいつらは以前、大谷をからかった時に俺が歯向かったのが、許せないのだろう。
あれから俺はちょくちょく、こんなふうに絡まれたりする。
卒業していった以前の3年生が、どれほど出来ていた先輩たちだったのかを痛感する。
今の3年生は、くだらないやつが多すぎる。
中曽根 悠:
「別にそんなこと、考えてねーし」
部長:
「先輩には敬語使えよな! テメーはよぉ!」
そこに、騒ぎを聞きつけた坂本先生がやってきた。
坂本先生:
「おい、お前らどうした」
部長:
「……!」
中曽根 悠:
「……何でもないです」
坂本先生:
「そうか?」
坂本先生のおかげで部長からそれ以上絡まれることはなかったが、ギラリと睨みつけられた視線は、しつこく俺を突き刺している。
それを見ていた大谷は、慌てたように俺に近づいた。
大谷 圭介:
「お前、部長にだいぶ目ぇつけられてんな」
中曽根 悠:
「くだらないよな」
大谷 圭介:
「わりぃ……。前、俺をかばったからだよな」
中曽根 悠:
「バーカ。俺がただ、生意気だからだよ」
気にすんな、と大谷の高い位置にある肩を叩いた。
図体はでかいくせに、大谷は繊細だし、意外と落ち込みやすいんだよな。
苦笑して駆け出した俺に、大谷はどこかホッとしながら、後ろからついてきた。
・ ・ ・
そんなこんなでついに明日は、スポーツ大会の日となった。
部活後、るりといつもの下駄箱で待ち合わせをして、一緒に帰った。
最近のるりは、ふんわりいい香りがする。
それとも単に、俺が汗臭いだけだろうか。
戸田 るり:
「いよいよ明日だね」
中曽根 悠:
「ん、そだな」
るりは、チラチラとこちらを見る。
幼馴染み歴が長い俺には、わかる。
何か言いたいことがあるときの合図だ。
中曽根 悠:
「どうした?」
戸田 るり:
「……」
戸田 るり:
「何でもない」
中曽根 悠:
「?」
絶対に何でもないはずはないのだが、無理強いして聞くのはるりには逆効果だ。
少し意地っ張りの彼女に無理矢理聞き出そうとすると、返ってよけい言わなくなる。
少しの沈黙のあと、るりはそっと言った。
戸田 るり:
「ハチマキ……」
中曽根 悠:
「ん?」
戸田 るり:
「……とかするんだよね、応援団って。あ、あと手袋とか、腕章とか」
中曽根 悠:
「お? おう」
それが、どうかしたのだろうか。
きょとんとする俺の横で、るりはうつむいてしまう。
戸田 るり:
「……た、大変だね」
中曽根 悠:
「ん? そうでもねーよ」
戸田 るり:
「そ、そっか」
何が言いたいのかはよくわからなかったが、うつむくるりは好きじゃない。
だってそうされたら、顔が見られないじゃないか。
中曽根 悠:
「るり」
戸田 るり:
「ん?」
中曽根 悠:
「手、つなご」
戸田 るり:
「……うん」
最近はようやく手をつなぐことに慣れたのか、るりはすんなり手を出してくれる。
でも、俺はお調子者だから。
いつものつなぎ方じゃなく、指と指を挟み合う手のつなぎ方をしてやった。
恋人つなぎって、言うらしい。
戸田 るり:
「!! 」
案の定るりは顔を真っ赤にして驚いて、手をびくっとさせた。
でも、俺がしっかりと握っているから逃げられない。
中曽根 悠:
「へへ」
やってやったぜ、と笑った俺に。
戸田 るり:
「……もう」
るりはやっぱり、可愛く困っていた。
◇ 続く ◇




