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この空色バス、春先行き。【完結】  作者: 猪野いのり
第二章 安全運転にて走行中《2年生編》
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Ep.19 君だけのヒーロー(1)「頑張るヒーロー」

 土曜日の朝。

 早起きをした俺がテレビをつけると、懐かしい番組がやっていた。


 テレビ:

「仮面ポリスマン、見参!!」


 中曽根 悠:

「お、これまだ、やってたんだ」


 テレビの画面に現れたのは、俺が幼稚園の頃にも見ていた正義のヒーロー『仮面ポリスマン』だ。


 変身手帳を空へかざし変身するときのCGムービーは、昔よりもはるかに高いクオリティで作られており、思わず見入った。

 もちろん演じている人も代わっており、このポリスマンはどうやら8代目らしい。


 中曽根 悠:

「おー、かっくいー」


 懐かしさもあってつい、俺はその番組に釘付けになってしまう。


 中曽根悠、14歳。

 昔の夢は、正義のヒーロー仮面ポリスマンだった。



❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀


 君だけのヒーロー

(1)「頑張るヒーロー」


❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀



 しかし、ゆっくりもしていられない。

 今日は土曜日授業の日で、登校しなければならないからだ。

 それに今日は、午後に応援団の練習と、部活もある。

 応援団とは、今月あるスポーツ大会で行われる、応援演舞を行う野郎集団だ。


 2・3年生男子しか参加できないそれに、1年の3学期に大谷と一緒に参加することを決めた。

 今日は練習最終日ともあって、気合が入る。

 正直、応援団の練習はきつくて大変だけど、達成感もすごくあるのだ。


 中曽根 悠:

(今日は、るりも登校してるし……)


 中曽根 悠:

(もしかしたら練習、応援に来てくれるかな)


 今までは授業のない土曜日に行って練習していたが、今日は登校日とかぶっている。

 応援団なのに応援されることを望んでいるなんておかしな話だが、それはそれとして。


 男なら、やっぱり見てほしいでしょ。

 好きなやつにはさ。


 なんて下心を隠して、俺は学ランを着込む。

 今日はちゃんと早起きできたから、るりと一緒に登校できるな、と安心した。



 ・   ・   ・



 土曜日の午前だけの授業が終わると、体育館へと足を向けた。

 そこで、大谷と一緒に弁当を広げて食べる。他にも応援団の仲間が、それぞれに体育館内に散らばってランチをしていた。


 大谷 圭介:

「隼人も、やればよかったのになぁ」


 中曽根 悠:

「まあ、あいつは体育委員で忙しそうだしな」


 そんなことをだべりながら喋る。

 大谷は相変わらず、でかい図体で弁当をかっこんでいる。

 俺も160センチをようやく超えたけど、こいつのでかさには敵わない。


 中曽根 悠:

「大谷って今、何センチ?」


 大谷 圭介:

「んー、こないだの身体測定で178だったな」


 中曽根 悠:

「でか!」


 こりゃあ、卒業する頃には180センチ台かよ、羨ましいな。

 しかし、大谷は苦虫を噛み潰したような顔をする。


 大谷 圭介:

「でもよー、あんまり大きいと、女子にビビられるじゃん」


 中曽根 悠:

「そうなのか?」


 大谷 圭介:

「そうなんだよ。まぁ、望月はビビらなくて優しいんだけどさー」


 でへへ、と大谷は鼻の下を伸ばす。

 最近知ったのだが、大谷は望月が好きらしい。小池は「知らなかったの?」とびっくりしていたが、気づかなかったもんはしょうがない。

 しかしこうして見てみると、なるほど、大谷はわかりやすい。

 ただのエロ親父じゃなかったんだな。


 とその時、体育館に女子の声が響きだした。

 出入り口の方を見てみると、制服姿のままの女子が何人か立っている。

 今までの応援団練習でも、何回か来たことのある顔が並んでいた。


 大谷 圭介:

「お、ギャラリーの子たち、今日はやっぱり多いな」


 中曽根 悠:

「あいつらは暇なのか?」


 まだ練習が始まってもいないのに、もう来ている。

 何人かは中に入ってきて、応援団の先輩などと一緒に喋ったりお弁当を広げたりしだした。


 中曽根 悠:

「……」


 なんとなく、それをじっと見てしまう。

 すると隣の大谷も、そちらを見ていた。


 大谷 圭介:

「やっぱ、女の子からキャーキャー言われたいよなぁ」


 そのために応援団入ったようなもんだもんな、と大谷は付け加える。

 俺はきょとんとして大谷を見た。


 中曽根 悠:

「お前、望月が好きなんだろ?」


 大谷 圭介:

「それとこれとは話が違うでしょ、中曽根くん! 男ならやっぱり、多くの女の子にモテたいしー」


 大谷のエロ親父顔が現れる。

 ううーん。望月にチクってやろうか、こいつ。


 俺には、よくわからない感情だ。

 好きでもない女子にモテたって、何も嬉しくなんかない。

 俺にとっていつだって、キャーキャー言われたいのはたった1人。

 それなのに。

 肝心のそいつは、黄色い声も上げやしないんだ。



 ・   ・   ・



 今朝、一緒に登校した時。


 中曽根 悠:

「今日、応援団の練習があるんだ」


 そう俺はるりに告げた。

 もしかしたら見に来てくれるかも、というちょっとした下心もあった。


 それなのに。


 戸田 るり:

「そっか」


 戸田 るり:

「じゃあ今日は、先に帰るね」


──なんて、そっけなくあいつは言った。



 ・   ・   ・



 中曽根 悠:

(なんか、クラス離れてから、冷たくなった?)


 そんな気がするのは、気のせいだろうか。

 気のせいだと……思いたい。

 朝の出来事を思い出していると、俺の背後から声がかかった。


 桑原先輩:

「中曽根くん、今日も頑張ってね!」


 中曽根 悠:

「あ? はい」


 振り返ればそこには、桑原《くわはら》先輩がいた。

 3年生の大人っぽいその女子生徒は、応援団の練習によく顔を出していて、その中で俺にも声をかけてくる。

 それまではまったく知らない先輩だったが、どうやらテニス部の部長らしい。

 なぜ応援団に顔を出しているのかは知らないが、その華やかな雰囲気は、野郎ばかりの体育館ではよく目立つ。


 大谷 圭介:

「あれ? 中曽根だけ?」


 桑原先輩:

「あ、ごめんごめん。大谷くんも頑張って」


 大谷 圭介:

「めっちゃついでだ……」


 そんなやり取りを大谷とした桑原先輩は、何がおかしいのか俺を見て笑う。


 よく笑う桑原先輩に、俺はよくわからぬまま笑顔を返した。




 ◇ 続く ◇

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