Ep.18 琥珀と黒曜 (4・終)「金田くんの憂鬱」
1年生の時のクラスは、最悪だった。
明るいバカが多すぎるそのクラスは、1日中笑いに溢れていてうっとうしく思った。
その最たる中にあいつ、羽鳥梢はいた。
羽鳥 梢:
「はいはい、じゃあ皆で、係決めるよー」
そいつは、黒板の前に立っていることが多かった。
そいつは、いつも笑っていた。
そいつは、皆の取りまとめを喜んで引き受けて、バカみたいに明るい。
金田 信広:
「……」
金田 信広:
(……なんか、ムカつく)
そいつへの苛立ちを1年間我慢したのに、2年のクラスにもそいつはいた。
また笑って学級委員を引き受けて、クラスを盛り上げようとする。
どこまでもうっとうしいやつだ。
俺、金田信広はそう思って舌打ちをした。
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琥珀と黒曜
(4)「金田くんの憂鬱」
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母親:
「やだノブ! なんて髪にしたの!?」
金田 信広
「るっせーな! 髪くらい、俺の好きにしていーだろ!」
春休み最終日。
帰ってきた母親は、俺を見て怒鳴った。
その後ろに、またハゲヅラの男を連れていたのでムカついた。
男:
「わあ、信広くん。思い切ったねぇ」
相変わらずのほほんとした顔をしているそいつは、母親の勤務先の上司だという太ったおっさんだった。
メタボリックな腹を揺すりながら、家に入ってくる。
こいつが来るようになってから、もう1年も経っている。
俺はそいつを睨みつけると、すれ違うように玄関で靴を履く。
こいつらと同じ家にいるのなんて、ごめんだったからだ。
母親:
「ちょっとノブ、どこに行くの……」
金田 信広:
「俺の勝手だろ!」
そんな俺たちの騒動を、階段上からじっと見ているやつがいた。
俺の兄貴、克弘だ。
メガネの奥から、じとりと見つめている視線にますます腹が立って、俺は玄関から飛び出した。
夜の街。
逃げ込むのはいつだって、コンビニかファストフード店だった。
今日は飯も食ってないこともあり、ハンバーガー屋に駆け込んだ。
安いセットを買って、カウンター席に1人腰掛ける。
金田 信広:
(母さん、またあの男連れてきやがって……)
俺の両親は、もともと仲が悪かった。
乱暴者な父親は、他に女でもできたのか最近は帰ってもこず、離婚まで秒読みとなっている。
母親もそれに対抗するかのように、男を連れ込んでいる。
高校生の兄の克弘は、優等生の面をかぶりながらも冷めた視線を両親に向けていることを、俺は知っている。
その視線を俺に向けていることにも──もちろん。
金田 克弘:
「お前は、冷静になれよ」
いつしか克弘は、俺に対しそう言った。
金田 克弘:
「母さんに対して暴言を吐いたり、つっぱったり。それで解決するわけじゃないだろう?」
お前は父さん似だから心配だよ──なんて、克弘は知ったように言う。
そんなの知るかよ。
両親も克弘も、大っ嫌いだ。
まわりは敵だらけで、嫌いなものだらけ。
去年までは、バカな森というクラスメイトをそそのかして、簡単ないじめなんかもして見せた。
でもそれも、相手からの反撃があってからは面倒くさくなってしまった。
ああ。なんか、おもしれーことねーかな。
金田 信広:
(まわりは皆、バカばっかりだ)
そうぼやいて、ハンバーガー屋の窓から外を見る。
夕飯時のそこは賑やかで、多くの人たちがそれぞれの目的地へと歩いていた。
皆、隣に誰かを連れ立って歩いている。
そんな中、見知った顔を見つけてしまった。
金田 信広:
(……委員長?)
それは、1年で同じクラスだった羽鳥梢だった。
真面目で元気、クラスの中心人物となるそいつは、俺とは正反対の位置にいるやつだ。
そいつは、家族と一緒にいた。
母親、父親、妹らしき小さい女の子と歩いている。
まるでコマーシャルにでも出てきそうな、理想的な幸せ空気をかもし出す家族だった。
金田 信広:
「………」
金田 信広:
「……ちっ」
小さく舌打ちする。
羽鳥梢は、俺にとって煩わしい存在だ。
いつも笑っているのが、気にくわない。
私は幸せですよ、皆も幸せになりましょうよ、なんて言ってそうなツラに反吐が出る。
環境に恵まれただけの甘ちゃん女子。
虫酸が走る。
俺はジュースを飲みながら、家族の中で笑う羽鳥の顔が、見えないように視線を背けた。
・ ・ ・
そんなことがあったのを、雨の中で思い出す。
羽鳥を橋の下に置いて飛び出した俺は、容赦ない雨に打たれていた。
「そういうふうに見られるってわかって、染めたんでしょう?」
まっすぐに俺を睨みながら、指摘してきた羽鳥の目。
思えば、あんなふうに羽鳥と対峙したのは初めてだった。
近くで見た羽鳥は、予想よりも小柄で、でも負けん気の強い目をこちらに向けた。
髪の毛を、べったりと額や頬に貼り付けて。
濡れたまつげが、雫を垂らしていた。
黒い瞳は、思ったより大きい。
怒った顔をしていたのに突然、羽鳥は何かに視線を奪われたみたいに、その目を緩ませた。
「琥珀みたい」
そう例えて、俺の金髪がキレイだと言った。
バカなんじゃないかと思った。
金田 信広:
(あいつには、嫌いなもんはねぇのかよ)
何でも受け入れてしまいそうなあいつの瞳は、真っ黒で。
黒曜石のように、つるりと濡れていた。
まるでブラックホールだ。
何でも吸収しちまうんだろう、あの目は。
こんな俺のバカみたいな金髪を、キレイだと言っちまうくらい、あの目には何でも「いいもの」に映るらしい。
金田 信広:
「……やっぱりあいつ、嫌いだな」
雨の中。
たしかめるように1人、そう呟いた。
◇ 終わり ◇
❀次エピソードへ続く




