Ep.2 30センチ近い空 (4)「理由」
まだ花壇の手入れを続ける望月と別れ、俺は職員室へと向かう。
外玄関から入ると、坂本先生の机へと近づいた。
まだ授業の片付けをしているのだろうか。
坂本先生は、資料が散乱している机から顔を上げた。
坂本先生:
「おう、どうした大谷」
大谷 圭介:
「………あの」
──俺ゴールキーパー、やりたくないんです。
本来なら、そう言うはずだった。
でもなぜか俺の口からは、違う言葉が出ていく。
大谷 圭介:
「何で、俺をゴールキーパーに選んだんですか?」
まだ、青空が目の裏に焼きついた俺は、なぜかそう聞いていた。
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30センチ近い空
(4)「理由」
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坂本先生:
「……ふむ」
坂本先生は、椅子に背を預けギッと鳴らすと、胸の前で腕組みをした。
ゴクリと、俺は唾を飲み込む。
坂本先生:
「お前の体は、ゴールキーパー向きだ」
大谷 圭介:
「!」
坂本先生:
「手足も長い。タッパもある。 ゴールを守るには、1年生の中ではお前が1番しっくりきたな 」
大谷 圭介:
「………」
やっぱり身長なのか。
わかっていたとはいえ、先生から直接そう言われると凹む。
少し視線を落とした。
坂本先生:
「……あと、反射神経とガッツだな」
大谷 圭介:
「へ?」
坂本先生:
「それと、うるさい声だ」
大谷 圭介:
「こ、声!?」
予想外の続いた回答に、俺はきっと変な顔をした。
反射神経はいいとして……ガッツと声って!?
坂本先生:
「お前、ゴールキーパーにどんなやつが向いてるか知ってるか?」
大谷 圭介:
「そんなの、知らないっすよ」
どんなやつって、とりあえずでかいやつだろ?
だから俺が選ばれたんだろ?
そんな俺の考えを、とうに坂本先生は見透かしているかのように、ニッと笑った。
坂本先生:
「ただ、でかけりゃいいってもんじゃない。 そこにはボールを絶対に取ってやるっていうガッツと自信が、必要なんだ 」
坂本先生:
「あと俺はな、声も重要だと思ってる」
坂本先生:
「よく通って、指示をはっきり出せる声だ」
坂本先生:
「大谷、お前の声はうるさいからな。ちょうどいいだろう 」
大谷 圭介:
「ひ、ひでえ〜!」
ふてぶてしく笑う坂本先生に、俺はどんな顔をしていいのかわからずに戸惑った。
だって俺、てっきり身長だけ買われたと思っていた。
でも違った。
そこには俺の気づかなかった要素まで考えられていたんだ。
グッと、唇を噛み締める。
坂本先生:
「……大谷。お前、本当はゴールキーパー、あんまり気が進まないんだろう」
大谷 圭介:
「!」
坂本先生は、やっぱり見抜いていたのか。
小さく頷くと、坂本先生は少しだけ眉を下げた。
坂本先生:
「今いるキーパーは3年だけだ。 2年でゴールキーパーしてたやつが辞めちまったから、1年で作っときたいという考えももちろんあった 」
坂本先生:
「でもな」
坂本先生:
「それがなくても、俺はお前を推したと思うぞ」
大谷 圭介:
「!」
大谷 圭介:
「な、何でですか?」
裏事情まで話してくれた坂本先生が、そこまで俺をゴールキーパーに推してくれたのは何でだろう。
純粋に知りたくなって聞いたけれど、坂本先生はそれには答えず、ただ笑った。
坂本先生:
「それが知りたけりゃ、キーパー練習を頑張ってみろ」
何だよそれ。
明確な答えが得られなくて、消化不良を起こしそうだ。
不貞腐れそうになる俺をよそに、坂本先生はどこか楽しそうに立ち上がった。
坂本先生:
「よし、今日は1年も交えて練習試合でもするか」
大谷 圭介:
「!」
坂本先生は資料を適当にしまい始め、鼻歌を歌いながら外へ向かおうとする。
そのあとを俺も慌てて追いかけて、グラウンドへと出た。
◇ 続く ◇




