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この空色バス、春先行き。【完結】  作者: 猪野いのり
第一章 ご乗車ください《1年生編》
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Ep.2 30センチ近い空 (4)「理由」

 まだ花壇の手入れを続ける望月と別れ、俺は職員室へと向かう。

 外玄関から入ると、坂本先生の机へと近づいた。

 まだ授業の片付けをしているのだろうか。

 坂本先生は、資料が散乱している机から顔を上げた。


 坂本先生:

「おう、どうした大谷」


 大谷 圭介:

「………あの」


──俺ゴールキーパー、やりたくないんです。


 本来なら、そう言うはずだった。

 でもなぜか俺の口からは、違う言葉が出ていく。


 大谷 圭介:

「何で、俺をゴールキーパーに選んだんですか?」


 まだ、青空が目の裏に焼きついた俺は、なぜかそう聞いていた。



 ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀


 30センチ近い空

(4)「理由」


 ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀



 坂本先生:

「……ふむ」


 坂本先生は、椅子に背を預けギッと鳴らすと、胸の前で腕組みをした。

 ゴクリと、俺は唾を飲み込む。


 坂本先生:

「お前の体は、ゴールキーパー向きだ」


 大谷 圭介:

「!」


 坂本先生:

「手足も長い。タッパもある。 ゴールを守るには、1年生の中ではお前が1番しっくりきたな 」


 大谷 圭介:

「………」


 やっぱり身長なのか。

 わかっていたとはいえ、先生から直接そう言われると凹む。

 少し視線を落とした。


 坂本先生:

「……あと、反射神経とガッツだな」


 大谷 圭介:

「へ?」


 坂本先生:

「それと、うるさい声だ」


 大谷 圭介:

「こ、声!?」


 予想外の続いた回答に、俺はきっと変な顔をした。

 反射神経はいいとして……ガッツと声って!?


 坂本先生:

「お前、ゴールキーパーにどんなやつが向いてるか知ってるか?」


 大谷 圭介:

「そんなの、知らないっすよ」


 どんなやつって、とりあえずでかいやつだろ?

 だから俺が選ばれたんだろ?


 そんな俺の考えを、とうに坂本先生は見透かしているかのように、ニッと笑った。


 坂本先生:

「ただ、でかけりゃいいってもんじゃない。 そこにはボールを絶対に取ってやるっていうガッツと自信が、必要なんだ 」


 坂本先生:

「あと俺はな、声も重要だと思ってる」


 坂本先生:

「よく通って、指示をはっきり出せる声だ」


 坂本先生:

「大谷、お前の声はうるさいからな。ちょうどいいだろう 」


 大谷 圭介:

「ひ、ひでえ〜!」


 ふてぶてしく笑う坂本先生に、俺はどんな顔をしていいのかわからずに戸惑った。

 だって俺、てっきり身長だけ買われたと思っていた。

 でも違った。

 そこには俺の気づかなかった要素まで考えられていたんだ。

 グッと、唇を噛み締める。


 坂本先生:

「……大谷。お前、本当はゴールキーパー、あんまり気が進まないんだろう」


 大谷 圭介:

「!」


 坂本先生は、やっぱり見抜いていたのか。

 小さく頷くと、坂本先生は少しだけ眉を下げた。


 坂本先生:

「今いるキーパーは3年だけだ。 2年でゴールキーパーしてたやつが辞めちまったから、1年で作っときたいという考えももちろんあった 」


 坂本先生:

「でもな」


 坂本先生:

「それがなくても、俺はお前を推したと思うぞ」


 大谷 圭介:

「!」


 大谷 圭介:

「な、何でですか?」


 裏事情まで話してくれた坂本先生が、そこまで俺をゴールキーパーに推してくれたのは何でだろう。

 純粋に知りたくなって聞いたけれど、坂本先生はそれには答えず、ただ笑った。


 坂本先生:

「それが知りたけりゃ、キーパー練習を頑張ってみろ」


 何だよそれ。

 明確な答えが得られなくて、消化不良を起こしそうだ。

 不貞腐れそうになる俺をよそに、坂本先生はどこか楽しそうに立ち上がった。


 坂本先生:

「よし、今日は1年も交えて練習試合でもするか」


 大谷 圭介:

「!」


 坂本先生は資料を適当にしまい始め、鼻歌を歌いながら外へ向かおうとする。

 そのあとを俺も慌てて追いかけて、グラウンドへと出た。




 ◇ 続く ◇

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