Ep.18 琥珀と黒曜(2)「揺れる小麦畑」
幸いなことに、防犯カメラには2人組の男の子が、金田くんのカバンにCDを滑り込ませる瞬間が映っていた。
それを見た店長さんは冷や汗をかき、金田くんは勝ち誇った表情を見せる。
金田 信広:
「だから言ったろ。どう落とし前つけてくれるんだよ」
ギラリと睨む金田くん。
店長さんは「す、すまない」と頭をかくだけだ。
不敵な笑いを貼り付けて、金田くんは告げる。
金田 信広:
「このこと、SNSで拡散してやってもいいんだぜー?」
店長:
「そ、それは……!」
つい、私は声をあげてしまう。
羽鳥 梢:
「金田くん!」
金田 信広:
「!」
金田くんはようやく、私と目を合わせた。
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琥珀と黒曜
(2)「揺れる小麦畑」
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羽鳥 梢:
「……えっと」
羽鳥 梢:
「お店も被害者だし、そういうのはやめようよ」
私がちょっと緊張してそう言うと、金田くんは思いきり眉間にしわを寄せた。
金田 信広:
「お前さ、うざいんだよ」
羽鳥 梢:
「!」
ぐさり、とその言葉が胸に突き刺さる。
た……たしかにちょっと、お節介な性格だけどさ!
何も、そんな言い方しなくたって。
思わず私も、ムムムッと彼を睨んでしまう。対立する私たち。
神林:
「まあまあ」
そこで黙っていた神林さんが、間に入ってくれた。
困ったというよりは、どこか穏やかに笑いながら、登場した時と同じような柔和な雰囲気を出している。
神林:
「金田くん、ていうんだね。金田くん、今回の件は本当に申し訳ない。店長共々、僕たちは心から君に謝罪する」
続けて「申し訳ございませんでした」──そう言って、深く頭を下げてくれた。
まだ子どもとも言える私たちに、潔く腰を曲げている。
その横で、慌てたように店長さんも頭を下げた。
金田 信広:
「……ふん」
金田くんはそれを見て、鼻を鳴らしただけだった。
・ ・ ・
お店から出て、家に帰ることにした。
どうやら金田くんも、歩きで来たらしい。
私の2メートルほど先を、彼は歩いていた。
金田 信広:
「ついてくるんじゃねーよ」
羽鳥 梢:
「私も家、こっちなの」
金田 信広:
「……あっそ」
私だって、ついて行きたくてついてってるんじゃないんだからね!
私はわざとゆっくり歩いて、金田くんは早足で先を歩いた。だから、私たちの間はどんどん離れていく。
そんなふうにしながら、前方を歩く金田くんの背中を見つめる。
早足のせいか、ゆらりゆらりと、その金髪は揺れた。
風になびく金色の髪は、昔の海外映画で見るような一面の小麦畑を彷彿とさせる。あるいは、田舎の田んぼの稲穂のよう。
ちょっとだけ……ちょっとだけキレイだな、なんて思う。
チカチカと、光るかのような金色の髪。
やっぱり、目立つな。
そう思った。
近くの姫泣川の河川敷を歩く頃には、金田くんの姿は遠くになった。
それなのに、目立つ頭髪のせいで、彼の存在を見失うことはない。
ぼんやり見つめていると、ぽつりと私のほっぺに冷たい雫が当たった。
羽鳥 梢:
「え?」
と思ったのは一瞬。
次の瞬間には、大粒の叩きつけるような雨が、天上から容赦なく降り始めた。
羽鳥 梢:
「わわわっ」
ゲリラ豪雨だ。
一気に雨脚は強くなり、慌ててまわりを見渡した。
河川敷には雨宿りをできるような店舗もなく、かといって民家の軒下に行くのも躊躇してしまう。
近くの河川敷の階段を降りて、橋の下に駆けつけた。
あそこなら雨をしのげる。
そう思って急いで高架下に着くと、ホッと息を吐いた。
羽鳥 梢:
「──ふぅ」
ポタポタと、雫が髪の毛や服から滴った。
大粒の雨は、短時間で私を濡れねずみにしてしまう。
本を買っていなくてよかった、と思っていたら。
金田 信広:
「げっ」
羽鳥 梢:
「!」
なんと、金田くんもそこにいた。
私と反対側から入ってきたのだろうか。
少し離れたところで、濡れた髪の毛をガシガシこすっている。
金田 信広:
「お前もかよ」
羽鳥 梢:
「し、仕方ないでしょ!」
不可抗力である。
私は濡れた体をカバンに入れていたハンカチで拭いたが、あまり効果はない。
橋の外ではまだ、土砂降りの豪雨。
まるで、私たちを逃しはしないとでも言いたげに、降り注いでいた。
◇ 続く ◇




