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この空色バス、春先行き。【完結】  作者: 猪野いのり
第二章 安全運転にて走行中《2年生編》
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Ep.18 琥珀と黒曜(2)「揺れる小麦畑」

 幸いなことに、防犯カメラには2人組の男の子が、金田くんのカバンにCDを滑り込ませる瞬間が映っていた。

 それを見た店長さんは冷や汗をかき、金田くんは勝ち誇った表情を見せる。


 金田 信広:

「だから言ったろ。どう落とし前つけてくれるんだよ」


 ギラリと睨む金田くん。

 店長さんは「す、すまない」と頭をかくだけだ。

 不敵な笑いを貼り付けて、金田くんは告げる。


 金田 信広:

「このこと、SNSで拡散してやってもいいんだぜー?」


 店長:

「そ、それは……!」


 つい、私は声をあげてしまう。


 羽鳥 梢:

「金田くん!」


 金田 信広:

「!」


 金田くんはようやく、私と目を合わせた。



❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀


 琥珀と黒曜

(2)「揺れる小麦畑」


❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀



 羽鳥 梢:

「……えっと」


 羽鳥 梢:

「お店も被害者だし、そういうのはやめようよ」


 私がちょっと緊張してそう言うと、金田くんは思いきり眉間にしわを寄せた。


 金田 信広:

「お前さ、うざいんだよ」


 羽鳥 梢:

「!」


 ぐさり、とその言葉が胸に突き刺さる。

 た……たしかにちょっと、お節介な性格だけどさ!

 何も、そんな言い方しなくたって。

 思わず私も、ムムムッと彼を睨んでしまう。対立する私たち。


 神林:

「まあまあ」


 そこで黙っていた神林さんが、間に入ってくれた。

 困ったというよりは、どこか穏やかに笑いながら、登場した時と同じような柔和な雰囲気を出している。


 神林:

「金田くん、ていうんだね。金田くん、今回の件は本当に申し訳ない。店長共々、僕たちは心から君に謝罪する」


 続けて「申し訳ございませんでした」──そう言って、深く頭を下げてくれた。

 まだ子どもとも言える私たちに、潔く腰を曲げている。

 その横で、慌てたように店長さんも頭を下げた。


 金田 信広:

「……ふん」


 金田くんはそれを見て、鼻を鳴らしただけだった。



 ・   ・   ・



 お店から出て、家に帰ることにした。

 どうやら金田くんも、歩きで来たらしい。

 私の2メートルほど先を、彼は歩いていた。


 金田 信広:

「ついてくるんじゃねーよ」


 羽鳥 梢:

「私も家、こっちなの」


 金田 信広:

「……あっそ」


 私だって、ついて行きたくてついてってるんじゃないんだからね!


 私はわざとゆっくり歩いて、金田くんは早足で先を歩いた。だから、私たちの間はどんどん離れていく。


 そんなふうにしながら、前方を歩く金田くんの背中を見つめる。

 早足のせいか、ゆらりゆらりと、その金髪は揺れた。

 風になびく金色の髪は、昔の海外映画で見るような一面の小麦畑を彷彿とさせる。あるいは、田舎の田んぼの稲穂のよう。


 ちょっとだけ……ちょっとだけキレイだな、なんて思う。


 チカチカと、光るかのような金色の髪。

 やっぱり、目立つな。

 そう思った。


 近くの姫泣川の河川敷を歩く頃には、金田くんの姿は遠くになった。

 それなのに、目立つ頭髪のせいで、彼の存在を見失うことはない。

 ぼんやり見つめていると、ぽつりと私のほっぺに冷たい雫が当たった。


 羽鳥 梢:

「え?」


 と思ったのは一瞬。

 次の瞬間には、大粒の叩きつけるような雨が、天上から容赦なく降り始めた。


 羽鳥 梢:

「わわわっ」


 ゲリラ豪雨だ。

 一気に雨脚は強くなり、慌ててまわりを見渡した。


 河川敷には雨宿りをできるような店舗もなく、かといって民家の軒下に行くのも躊躇《ちゅうちょ》してしまう。

 近くの河川敷の階段を降りて、橋の下に駆けつけた。

 あそこなら雨をしのげる。


 そう思って急いで高架下に着くと、ホッと息を吐いた。


 羽鳥 梢:

「──ふぅ」


 ポタポタと、雫が髪の毛や服から滴った。

 大粒の雨は、短時間で私を濡れねずみにしてしまう。

 本を買っていなくてよかった、と思っていたら。


 金田 信広:

「げっ」


 羽鳥 梢:

「!」


 なんと、金田くんもそこにいた。

 私と反対側から入ってきたのだろうか。

 少し離れたところで、濡れた髪の毛をガシガシこすっている。


 金田 信広:

「お前もかよ」


 羽鳥 梢:

「し、仕方ないでしょ!」


 不可抗力である。

 私は濡れた体をカバンに入れていたハンカチで拭いたが、あまり効果はない。

 橋の外ではまだ、土砂降りの豪雨。

 まるで、私たちを逃しはしないとでも言いたげに、降り注いでいた。




 ◇ 続く ◇

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