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この空色バス、春先行き。【完結】  作者: 猪野いのり
第二章 安全運転にて走行中《2年生編》
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Ep.18 琥珀と黒曜(1)「事件発生」

 初夏の風が流れる、6月。

 ある日曜日に、私、羽鳥梢は大きめの本屋に足を運んでいた。


 文具や雑貨、CDも取り扱うそのお店は、多くの人が賑わう地元でも人気のあるお店だ。

 徒歩30分ほどかかるそこに、天気がよかったこともあって、自転車ではなく歩いてきてみた。


 羽鳥 梢:

(はぁ、涼しい)


 自動ドアをくぐり受けたクーラーの風に、私はほっと息を吐いた。



❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀


 琥珀と黒曜

(1)「事件発生」


❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀



 ずらりと本が並んだ本棚を眺める。

 最初にチェックするのはもちろん、最新刊の平積みコーナーだ。


 羽鳥 梢:

(好きなシリーズの最新刊が出てる)


 羽鳥 梢:

(この人の新作、読みたいなぁ)


 羽鳥 梢:

(あ、これ面白そう~)


 本の表紙を見ているだけでも楽しい。

 友達とのウィンドウショッピングも楽しいけれど、こういうふうに1人で好みの本を探すのも好きだ。

 だから、本屋や図書館にはよく1人で来る。

 じっくりと本と向き合える時間が好きだ。


 羽鳥 梢:

(これ、買おうかな〜。……ん?)


 本を眺めていたら、ふとあることに気がついた。

 ここから正反対の位置にある、音楽CDコーナー。そこで見知った人物が、背を向け立っていたのを発見した。


 ゆるく履かれたジーンズパンツにTシャツ。

 斜め掛けのちょっと大きめのボディバッグを背中に回し、黄金色の髪の毛がクーラーの風にあたって揺れていた。


 目立つ金髪は、クラスメイトの金田くんだ。


 羽鳥 梢:

(金田くん……やっぱり、目立つなぁ)


 こんなところで彼に会うとは、意外だ。

 向こうはまだ、こちらの存在に気づいていない。ヘッドホンを耳に当て、音楽CDを視聴しているようだった。


 とそのとき、そんな金田くんの近くにいる人物に目がいく。

 男の子2人が、何やら金田くんを見ながらニヤニヤ笑っていた。

 歳は同じくらいか、少し上だろうか。その子たちはどこか、ガラが悪そうに見えた。


 片方の子が、1枚のCDを持っている。

 その子たちは笑いながら、金田くんの後ろを通りすぎた。


 羽鳥 梢:

(……あれ?)


 見間違いだろうか。

 一瞬、2人の姿は棚の陰に隠れ見えづらくなったが、気がつくと1人が持っていたCDがその手から消えていた。


 羽鳥 梢:

「…………」


 なんとなく気になって、彼らを見つめる。

 2人は笑いながらお店から出ていき、金田くんはまだ音楽を聴いていた。

 そしてしばらくすると、金田くんはヘッドホンを外し、CDを眺めて棚に戻して、出口へと向かった。

 CDコーナーの出入り口であるゲートを通ろうとした……そのとき。


 ピーピーピー!


 金田 信広:

「!?」


 激しく音がそこから鳴り響き、金田くんは戸惑うように足を止めた。

 そこに、店員が駆けつける。


 店長:

「君、ちょっといいかな」


 店員さんの胸元には「店長」と書かれたネームプレートが貼られていた。

 金田くんは、そんな店長さんに対し怪訝な顔を見せた。


 金田 信広:

「あ? 何だよ一体」


 店長:

「いいから、こっちに来て」


 ぐい、と腕を引っ張ろうとする店長さんの手を、金田くんは強引に振り払う。


 金田 信広:

「何で俺が!」


 その態度にムッとしたのか、店長さんは怒るような表情を作った。


 店長:

「お前が、万引きしたからだろう!」


 金田 信広:

「──はぁ!?」


 それを聞いて、先ほどの2人組の様子が私の脳裏をかすめた。


 もしかして……?


 目が離せない私の向こう側で、なおも2人の攻防は続いている。

 反発する金田くんに痺れを切らしたのか、店長さんは開いていた彼のカバンの中に手を突っ込んで、1枚のCDを取り出した。


 店長:

「ほら見ろ! あったじゃないか!」


 金田 信広:

「!?」


 羽鳥 梢:

「!」


 それを見て私は驚いた。

 だって、それ──!


 店長:

「ほら、こっちに来い。親と学校に連絡してやる」


 金田 信広:

「待てよ! 俺じゃねーよ!」


 他のお客さんは騒動に気付きつつも、チラチラ見るだけで知らないふりをしている。

 誰もが、金田くんが万引きをしたと思っている。

 唾を飲み込んで、その元へと駆け寄った。


 羽鳥 梢:

「ち、違います!」


 金田 信広:

「!?」


 私の声に、金田くんと店長さんが顔を向けた。

 金田くんは、突然の私の登場に心底驚いたみたいに目を丸めている。

 でも私は、店長さんに体を向けて、緊張しながらも勇気を出して告げた。


 羽鳥 梢:

「私、見たんです。他の子たちが、その子のカバンにCD入れたところ。だから違います、彼じゃないです」


 金田 信広:

「……羽鳥」


 金田くんが私の名前をつぶやいた。

 それを聞いて店長さんは、私と金田くんを交互に見る。


 店長:

「ん、お前ら知り合いか? もしかして共犯?」


 羽鳥 梢:

「え!?」


 思いもよらない言葉に、二の句が継げない。

 店長さんは、怖い顔をして私も睨んでくる。


 金田 信広:

「んなわけねーだろ」


 金田くんが店長さんに対して言い捨てるが、店長さんはギラリと金田くんを見つめる。その視線の先は、彼の小麦のような金髪だった。


 店長:

「お前みたいなナリのやつ、信用できるか」


 金田 信広:

「!」


 その言葉を聞いて、金田くんの目が鋭くなる。歯を食いしばって、目の前の店長さんに対して拳を震わせていた。


 金田 信広:

「……てめぇ」


 低く唸ったときだった。


 神林:

「まあまあ、店長。論より証拠っすよ」


 どこか、のん気な声が私の背後から聞こえた。

 振り返るとそこには、もう1人の店員さんが立っている。若いお兄さんだった。


 店長:

「神林くん」


 店長はそう彼を呼び、神林《かんばやし》くんと呼ばれたお兄さんは、店長の肩にポン、と手を置いた。


 神林:

「ほら、防犯カメラ。ちょうどそこにあるし。裏で見てみましょ、ね」


 店長:

「あ、ああ。そうだったな」


 そうして私と金田くんは、皆の注目が集まる中、事務所へと連れていかれることになった。

 金田くんは、後ろについていく私を、一度も見ようとはしなかった。




 ◇ 続く ◇

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