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この空色バス、春先行き。【青春オムニバス・第二章スタート!】  作者: 猪野いのり
第二章 安全運転にて走行中《2年生編》
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Ep.16 春、芽吹く(4)「2年4組の場合」

 2年4組の教室に入ると、私は見知った面々に挨拶をした。


 羽鳥 梢:

「おはよー! これからよろしくね」


 クラスメイト:

「あ、はとりん、おはよー! よろしく!」


 クラスメイト:

「羽鳥、今後宿題見せてくれよな〜」


 羽鳥 梢:

「それは自分でしなさい!」


 同じ小学校だった子や委員会が同じ子、部活仲間など、たくさんの子たちに声をかけたり、かけられたり。


 うん、2年生も楽しく過ごせそうなメンバーだなぁと私、羽鳥梢は新しい環境にホッとした。


 羽鳥 梢:

(るりは大丈夫かな)


 じつはるりが、隠れ人見知りなのを知っていたから、ちょっぴり心配。

 まあ、中学生になってだいぶるりも物怖じしなくなってきたけどね。

 そんなことを考えていた私は、また見知った顔を見かけて声をかける。


 羽鳥 梢:

「茜ちゃん、またよろしくね!」


 松宮 茜:

「あ、羽鳥」


 去年も同じクラスだった松宮茜ちゃん。

 ボーイッシュだった彼女も、ちょっと髪の毛が長くなり、可愛いピンをつけて印象が少し変わっていた。



❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀


 春、芽吹く

(4)「2年4組の場合」


❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀



 羽鳥 梢:

「わあ、髪型可愛いね」


 松宮 茜:

「へへ、そう?」


 茜ちゃんはちょっと照れ臭そうに微笑んだ。

 無造作ヘアもいいでしょ、なんて1年の時は、髪なんてほったらかしだったのに。


 羽鳥 梢:

「もしかして、誰かさんのためかな?」


 松宮 茜:

「う、うるさいなー」


 にしし、と意地悪く笑うと、茜ちゃんは名前のように真っ赤になる。

 茜ちゃんは、去年クラスメイトだった小池隼人くんに片思い中だ。


 きっかけは、小池くんが茜ちゃんをからかう男子からかばってケンカをした事件。

 クラス中の注目の的になって、あれ以来小池くんはちょっと一目置かれている。

 本人はあまり、気づいていないけれど。


 松宮 茜:

「クラスが別だから、見てもらえるかもわかんないし」


 茜ちゃんは観念したのか、私にそっと弱みをこぼしてくれた。

 前に恋愛相談していた詩音ちゃんたちとも別れちゃったから、私がやっぱり聞いてあげなくちゃね。


 羽鳥 梢:

「でもほら、教室移動の時とかさ」


 松宮 茜:

「うん……隣のクラスだから、ちょっとでも見れるといいな」


 女の子らしい願望を、茜ちゃんがつぶやいた時だった。


 ピロリン♪


 スマホのメッセージの着信音が、彼女のカバンから響いた。


 松宮 茜:

「あ、やばっ」


 羽鳥 梢:

「あらら。先生が来る前でよかったね」


 松宮 茜:

「マナーモードにしてなかったか」


 茜ちゃんはスマホを取り出す。

 しかし画面を見た瞬間、彼女の目が大きく開いた。


 松宮 茜:

「え!?」


 羽鳥 梢:

「ん、どうしたの?」


 きょとんとする私の前で、茜ちゃんは金魚のように口をパクパクさせている。


 松宮 茜:

「し、し、詩音〜!」


 親友である詩音ちゃんの名前を叫ぶ茜ちゃん。

 うなだれるように机に突っ伏した彼女が見せるスマホの画面には、詩音ちゃんのメッセージが写っている。


……………………………


 しおん:

「小池くんに茜の連絡先、教えといたからね♡」


……………………………



 羽鳥 梢:

「おお、詩音ちゃん、やる〜!」


 松宮 茜:

「そうじゃないでしょ、羽鳥!」


 ガバッと茜ちゃんは身を起こして、抗議した。


 松宮 茜:

「なんでいきなりそうなるの!? 詩音のやつもしかして、無理矢理小池くんに私の連絡先を押しつけたんじゃ……!」


 羽鳥 梢:

「えー、そうかなぁ?」


 詩音ちゃんはたしかに思い込みが激しかったり暴走しがちな面はあるけれど、相手の気持ちはきちんと考えられる子だと思う。

 茜ちゃんが恥ずかしがり屋なのも知っているし、軽くそんなことするとは思えないけどなぁ。


 ピロリン♪


 まだマナーモードになっていない茜ちゃんのスマホが、また音を響かせる。

 一緒に見ていた私にも、そのメッセージが見えてしまった。



……………………………


 小池:

「小池です。飯田さんに教えてもらったよ。無断でごめんね。2年生になってもよろしくね」


……………………………



 それは、小池くんから茜ちゃんへのメッセージだった。

 茜ちゃんは食い入るようにそれをじっと見て、そしてトマトのように赤くなった。


 松宮 茜:

「うわ、うわわ」


 羽鳥 梢:

「おー、小池くん結構、肉食系……」


 茜ちゃんはハッとしてスマホを握り、慌ててマナーモードに設定する。

 そして当惑した顔をこちらに向けた。


 松宮 茜:

「こ、これってどういうこと!?」


 羽鳥 梢:

「んー、無断でごめんねって言ってるし、文面的には小池くんが教えてもらうよう頼んだ感じ?」


 松宮 茜:

「そんなバカな!」


 ありのままの考えを言ったのに、茜ちゃんは顔をブンブン振る。

 恋する乙女の頭は大忙しらしい。


 そんなふうに騒がしくしていた私たち。

 他のクラスメイトもおのおの雑談やおしゃべりを楽しんで、教室内はとても賑やかだ。

 けれど突然、教室内がシンとしたことに気がついた。


 羽鳥 梢:

(ん?)


 ピタリと止んだ教室内の喧騒。

 それは、教室の後ろ扉から入ってきた人物の登場のせいだった。


 金田信広かねだ のぶひろくんだ。

 去年も同じクラスだった彼は、なんと髪の毛を金髪にして登場したのだった。


 金田 信広:

「…………フン」


 彼は目つき悪く、ギロリと教室内を睨む。

 注目していたクラスメイトたちは、慌ててそっぽを向いた。

 その中から数人、ヤンチャグループの男の子たちが金田くんに近づいていく。


 男の子1:

「金田! それスッゲーなぁ」


 男の子2:

「お前、超勇者じゃん!」


 すると金田は、ニヤリと笑ってその子たちを受け入れた。


 金田 信広:

「おう。ハク付けてやったぜ」


 そうしてゲラゲラと、その子たち含めて金田くんは談笑し始めた。

 誰のかもわからない机の上にドカリと腰を下ろし、着崩れた学ランの下から派手な色のTシャツがのぞいている。


 松宮 茜:

「うわあ、何あれ。金田ってば、よけいタチ悪くなってるじゃん」


 去年、森くんと金田くんのいたずらで体育倉庫へ閉じ込められた茜ちゃんは、眉間に思いきりシワを寄せている。

 ただでさえ悪い印象は、最上級の悪印象へ上り詰めたようだった。


 羽鳥 梢:

「あれは何ともまあ、すごいね」


 まったく別世界の住人になってしまったような金田くんに、私は変に感嘆するしかない。

 彼の小麦のような金髪は、否が応でも教室で目立っていた。


 松宮 茜:

「あいつには絶対、関わりたくない」


 羽鳥 梢:

「まあ森くんもいないし、大丈夫じゃない?」


 そう言って茜ちゃんの頭をポンポンと撫でていたのだが、あることに気づいてしまった。

 金田くんグループの近くで、女の子が一人立ちすくんでいる。

 その視線の先には、金田くんが腰かける机。どうやら、あの席の主らしい。


 お節介な私の性分。

 足をそちらに向けて、金田くんに声をかけた。


 羽鳥 梢:

「金田くん。そこの席、あけたげて?」


 金田 信広:

「あ?」


 友達と話していた金田くんは、突然の私の声かけに眉を寄せる。

 立ちすくんでた女の子は、戸惑うようにこちらを見た。


 羽鳥 梢:

「この子の席みたいだから。ね?」


 女の子は、初めて同じクラスになる子だったから名前はわからなかった。

 とりあえずこういうときは、笑顔が有効だ。

 ニコッと笑うと金田くんは、


 金田 信広:

「チッ」


 ──舌打ちした。


 羽鳥 梢:

(うわ、やな感じ~)


 むっとしたが、金田くんが机からどいてくれたので安心する。でも。


 金田 信広:

「委員長様は、ここでもマジメだね」


 羽鳥 梢:

「!」


 そう吐き捨てて、グループごと離れた金田くんの背中を、私はじとっと見つめた。


 金田くん、本当にやな感じだ!


 女の子:

「あの、ありがとう」


 羽鳥 梢:

「あ、ううん!」


 女の子のお礼を受け取った私の背後から、茜ちゃんがガシッと肩をつかんだ。


 松宮 茜:

「羽鳥~! 心配したよ!」


 羽鳥 梢:

「え? 大丈夫だよ、席どいてもらうくらい」


 松宮 茜:

「わかんないよ、変な逆恨みされるかもじゃん!」


 あの金田だよ、と付け加える茜ちゃんは、積年の金田くんへの鬱憤をつらつらと語り始めた。


 小学校から彼がどれだけの悪ガキだったかを、私に必死に教え込もうとしている。


 羽鳥 梢:

(悪ガキ……ねぇ)


 まぁたしかにと、彼をちらりと見れば、眩しいくらいの黄金色。

 ちかちかと金髪が、朝日に照らされ輝いていた。




 ◇ 2年5組編へ続く ◇

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