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この空色バス、春先行き。【完結】  作者: 猪野いのり
第二章 安全運転にて走行中《2年生編》
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Ep.16 春、芽吹く(3)「2年3組の場合」

 2年生と3年生は、同じ校舎だ。

 1年生のときは別校舎だったからあまり先輩たちとは会わなかったけれど、今日からは先輩と遭遇する機会が多くなりそうだ。


 そう、こんなふうに。


 先輩女子1:

「やーん、本当に可愛い」


 先輩女子2:

「弟にしたい~」


 小池 隼人:

「……はぁ?」


 僕、小池隼人は、新しいクラス2年3組にたどり着く前に、謎の女先輩2人組に捕まってしまった。

 2人とも僕より背が高くて、大人っぽくて、いろんな香りがする。


 小池 隼人:

「あの、僕、教室に行くので……」


 先輩女子1:

「あ、待って! 連絡先交換しよっ」


 小池 隼人:

「え?」


 先輩女子2:

「スマホあるよね? しよしよっ」


 小池 隼人:

「え? あの、その……」


 こ、この人たちは何なのだろう!?

 どうして、見も知らぬ先輩と連絡先交換を?


 戸惑う僕は、どうしていいのかわからず途方に暮れた。



❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀


 春、芽吹く

(3)「2年3組の場合」


❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀



 そんな僕に近くの教室の窓から、知っている顔がひょいと現れた。


 飯田 詩音:

「小池くん、中でサッカー部の子が呼んでるよ」


 飯田詩音さんだった。

 1年のとき同じクラスで、そして今彼女が身を乗り出している窓も3組なので、2年も同じクラスになったようだ。

 呼ばれてホッとした僕は、そちらに体を向ける。


 小池 隼人:

「うん、今行くよ」


 先輩女子1:

「あ、ちょっと……」


 引き留めようとする先輩たちには申し訳なかったけれど、僕は謝りながら3組の教室へと駆け込んだ。

 すでに半数くらいのクラスメイトが中にはいたけれど、サッカー部の子は見つからない。

 窓際にいた飯田さんに、声をかける。


 小池 隼人:

「ありがとう。誰が呼んでたの?」


 飯田 詩音:

「誰も呼んでないよ」


 小池 隼人:

「え?」


 きょとんとした僕に、飯田さんはつり目でジロリと見てきた。


 飯田 詩音:

「困ってたみたいだから」


 ああ、助けてくれたのか。


 それが嬉しくて、でもなぜ飯田さんがきつい視線を送ってくるのかわからなくて、とりあえず僕は微笑んだ。


 小池 隼人:

「ありがとう。助かったよ」


 すると飯田さんは、ふう、と小さく息を吐いた。


 飯田 詩音:

「小池くん、お姉様にモテモテじゃん」


 小池 隼人:

「モテモテ……?」


 先程の2人組を思い出す。

 あれはなんか、どちらかというと……。


 小池 隼人:

「からかわれてただけな気がする」


 モテモテというのは、女の子が照れながらもキャーキャーはしゃぐものじゃないだろうか。

 本当のモテモテ男子、悠くんを近くで見ていたからよくわかる。


 さっきの2人はどちらかというと、遊園地のマスコットにはしゃぐテンションと何ら変わらなかった気がする。


 飯田 詩音:

「そう? 小池くんて意外とクールね」


 小池 隼人:

「そんなの初めて言われたよ」


 悲しいかな、僕に対する女の子の評価は「可愛い」「小さい」「弟みたい」だ。

 でも最近背もぐっと伸びて、150センチを超えたんだから。飯田さんとの差だって、さほどない。


 そんなふうに思って飯田さんをチラリと見たら、彼女はいつもより柔らかい表情を作っていた。


 飯田 詩音:

「でもさ」


 飯田 詩音:

「茜を助けてくれたときは、勇ましかったかよね」


 そう言われて、ちくりと胸が軋んだ。


 小池 隼人:

「あんなの……ただの暴れん坊だよ」


 去年、僕は女の子をいじめたクラスメイトに腹を立てて、ケンカをしたことがある。

 初めての殴り合い。

 その時かばった女の子──松宮茜さんの泣き顔は、いつだって僕の心を締めつける。


 小池 隼人:

(そういえば飯田さん、松宮さんと仲良かったっけ……)


 小池 隼人:

「松宮さん、元気?」


 ふと、松宮さんが気になって飯田さんに聞いてみた。

 春休みに入ってからは会えていない。今回はクラスも違うし、今後は話す機会も減りそうだな、なんて思ったんだ。


 何気なくそう聞いたのに、飯田さんから思いがけない返事が返ってきた。


 飯田 詩音:

「……茜の連絡先を教えてあげるから、聞いてみたら?」


 小池 隼人:

「え!?」


 飯田さんは、カバンからスマホを取り出した。


 飯田 詩音:

「ほら、まず私のと交換ね。トークから教えるよ」


 小池 隼人:

「え、でも、本人に了承なしは……」


 飯田 詩音:

「大丈夫! 茜も小池くんと話したがってたし」


 小池 隼人:

「え?」


 そう言われてドキッとする。

 だってそれじゃあまるで、松宮さんが僕のことを好きみたいだ。


 小池 隼人:

(松宮さんが僕を……?)


 小池 隼人:

(──まさか、ね)


 そんな都合よくはいかないって、僕はわかっている。

 女の子はいつだって僕をマスコット扱いで、恋愛対象になんかしないのだ。そう──昔から。


 それなのになぜか、飯田さんと連絡先を交換をし、松宮さんのIDをゲットしてしまった。

 あとは友達追加すれば、松宮さんのスマホに僕の連絡先も届いてしまう。


 小池 隼人:

「いいのかな?」


 飯田 詩音:

「いーのいーの! 友達なんだから」


 友達……そっか、友達か。


 その単語にちょっと安心をして、松宮さんにメッセージを送ることにした。

 連絡先の交換を迫られて困っていた僕を助けた飯田さんが、逆に僕と連絡先交換をして、あまつさえ友達の連絡先まで伝えてしまう。


 それが何だかちょっぴりおかしくて、小さく笑ってしまった。

 ふと浮かぶのは、活発にバスケットコートを動き回る松宮さんの姿と、たまに見せる困ったような笑顔。


──松宮さん、驚くかな?




 ◇ 2年4組編へ続く ◇

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