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この空色バス、春先行き。【青春オムニバス・第二章スタート!】  作者: 猪野いのり
第二章 安全運転にて走行中《2年生編》
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Ep.16 春、芽吹く(1)「2年1組の場合」

春は芽吹く季節。

さまざまな花を咲かせる種が、土から顔を出して世界に触れる。


それはときに、暖かい太陽であり。

そしてときに、厳しい北風である。


ここ青葉中学校でも、さまざまな芽が顔を出そうとしている。

2年生となった、あの子たち。

その小さな胸に期待を抱いて。

不安を隠して。


はてさて、どんな1年になるだろう──?



❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀


春、芽吹く

(1)「2年1組の場合」


❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀



戸田 るり:

(神様……ひどい)


うつむいて、深く溜息をついた。

そんな私に、横に立つ梢ちゃんが、優しく肩を叩いてくれる。


羽鳥 梢:

「そんなに落ち込まないの、るり!」


戸田 るり:

「梢ちゃん……」


顔をあげた私に、逆隣から明るいもうひとつの声がかかる。


望月 美羽:

「そーそー、るりっち! 私また、隣のクラスだから遊びに行くよ!」


2年生になっても変わらない美羽の笑顔に、ほっとする。

でも顔をあげたとたん、またクラス分けの掲示板が目に入って不安がのしかかってくる。


私のクラスは2年1組。

その中には、同じクラスだったらいいな、と思っていた友達が壊滅状態だった。


私、戸田るりにとって今回のクラス替えは非常に厳しい状態だ。

しゅんとなる私に、美羽はぽんぽんと頭を撫でてくれる。


望月 美羽:

「まぁ、彼氏とも離れちゃったしねぇ。しかも1番遠い5組……」


戸田 るり:

「うぅ……べ、別にいいもん」


そんな私に「強がらないの~」と梢ちゃんが頬を突く。この2人には、私の気持ちなんて何でもお見通しだ。


ちらりと5組の欄を見れば、そこに「中曽根 悠」の名を見つける。

小学校からずっと同じクラスの幼馴染みの彼は、去年、私の彼氏となった。

私の告白からスタートした、私たちのお付き合い。

カップルはクラスを引き離されるという話は、本当だったのだ。

ちなみに、寝ぼすけな悠はまだ登校していない。


羽鳥 梢:

「まぁでも、るりなら大丈夫だよ」


望月 美羽:

「そーそー! るりっち友達作るの、得意じゃんっ」


根拠はないのに、2人の声援は心強い。

そう言われたら、本当にそんな気がしてくるから不思議だな。


戸田 るり:

「うん! 私……頑張る!」


せっかくの新しいスタートに、いつまでもクヨクヨしてたらもったいないもんね。

気合いを入れて、桜が散る校庭で拳を握りしめたのだった。



・   ・   ・



今後1年間お世話になる、2年1組の教室に入る。

すると、中にはもうけっこうな人がいて、それぞれ輪を作っておしゃべりをしていた。


戸田 るり:

(う、出遅れちゃった?)


クラス替えは、最初の一歩が肝心だ。

自分の席に向かいながら、キョロキョロと辺りを見渡した。


戸田 るり:

(あ、和葉ちゃんだ)


お友達とお話している、元同小の子を見つけた。

林和葉はやし かずはちゃん。

小学校のときは同じクラスで、係も一緒にしたことがある。


戸田 るり:

「和葉ちゃん、おはよう! 同じクラスだね」


林 和葉:

「あ、るりちゃん」


友達と話していた和葉ちゃんは、こちらに顔を向けた。猫目のキリッとした印象的な目は、なつかしくてホッとする。


林 和葉:

「これから1年間よろしくね」


戸田 るり:

「うん!」


林 和葉:

「あ、でさでさ、さっきの続きなんだけど~」


戸田 るり:

(ありゃりゃ)


和葉ちゃんとの会話はそれで終わってしまって、彼女はまた輪の友達とおしゃべりし始めた。

前も同じクラスだった子なのかな?

私の知らない子たちと話す和葉ちゃんに、それ以上声はかけられなかった。


戸田 るり:

「…………」


戸田 るり:

(とりあえず、席に座ろう)


カタン、と椅子をひいて座る。

ほんのちょっぴり、不安になりそう。


思えば、梢ちゃんも悠もいない教室なんて初めてだ。

しっかり者の梢ちゃんと、お調子者の悠。そして明るい美羽がいたから、私はいつでも笑っていられた。


戸田 るり:

(私……大丈夫かなぁ)


こうして一人ぽつんと席に座っていると、よけいにまわりの喧騒が、孤立感を与えてくる。

私、今までどうやって友達を作っていたんだっけ。

小学生の頃なら、あんなに簡単にできていたのに、それが何だか今は怖い。

またうつむいてしまう。


その時、コツンと机の下で、私の足に何かが当たった。


戸田 るり:

「ん?」


ひょいと机の下を見たと同時に。


早乙女 茉莉:

「──あ、ごめん、戸田さん」


聞いたことのある小さな声が、前方からした。

足元に転がり込んできた消しゴムを拾い上げる。

顔をあげると、前も同じクラスだった早乙女茉莉ちゃんが立っていた。


戸田 るり:

「早乙女さんも、同じクラスだったんだ」


早乙女 茉莉:

「う、うん」


消しゴムを渡しながら彼女に声をかけた。

早乙女茉莉ちゃん。

小学校は違うけれど、1年生の頃は同じクラスだった。


グループが違うからあんまり交流はなかったけど、梢ちゃんと仲がよかった彼女とは、たまにお話したことがある。

静かで控えめ。

でも運動神経は抜群によくて、去年のスポーツ大会の影の立役者だったことを、私は知っている。


戸田 るり:

「よかったぁ、早乙女さんと同じクラスで」


親しんだ顔を見られて、ホッとした私に。


早乙女 茉莉:

「……え? え?」


彼女は少し、戸惑う素振りを見せた。


戸田 るり:

(あれ? 嫌がられてる……?)


不安のある私は、少し敏感に早乙女さんの態度を察知する──が。


早乙女 茉莉:

「……嬉しい」


早乙女さんの小さな口からもれた台詞に、私は目をパチクリさせた。


戸田 るり:

「え?」


早乙女 茉莉:

「私も、戸田さんが同じクラスでよかった」


そう言った早乙女さんの表情は、読み取りづらいけど喜んでいるみたいだった。


そういえば……早乙女さんが仲良くしていた松宮さんも飯田さんも、違うクラスなんだ。

ちょっと境遇が似てるな、なんて思って笑いかけたら、早乙女さんも笑ってくれた。


早乙女 茉莉:

「私、戸田さんに憧れてたんだ」


戸田 るり:

「え……ええ!?」


臆面もなくそう告げた早乙女さんに、私はつい顔を赤らめる。


あ、憧れだなんてそんな……!


しかし早乙女さんは、ポーカーフェイスのまま、声だけは力を込めて私に言う。


早乙女 茉莉:

「戸田さん可愛いし優しいし、しっかり者だけど女の子らしくて素敵だし。お菓子作りもできて家庭的で……とにかく私にとって憧れ度ナンバーワンなの!」


戸田 るり:

「う、うわわわわ」


言われてるこっちが恥ずかしくなって慌てて手をふると、早乙女さんはハッと止まった。


早乙女 茉莉:

「あ……」


早乙女 茉莉:

「また、やっちゃった」


しゅんとなる早乙女さん。

それを見て、何ともくすぐったい心地になる。


戸田 るり:

(早乙女さんて、こういう感じなんだ)


不思議だな。

1年間も同じ教室にいたのに、いまさら彼女のことを知るなんて。

でもなんだか、すごくすごく嬉しい。


戸田 るり:

「ねえ、茉莉ちゃんて呼んでいい?」


早乙女 茉莉:

「へ?」


戸田 るり:

「私のことも、名前で呼んでね!」


早乙女 茉莉:

「う……うん!」


茉莉ちゃんのはにかんだ表情が、私にはわかった。

うん、私、きっとこの子のこと好きになる。

そういう予感、私当たるんだから!


嬉しくて茉莉ちゃんと笑い合っていると、ふと視線を感じて振り向いた。


戸田 るり:

(ん……?)


するとその先に、和葉ちゃんがいた。


林 和葉:

「……!」


和葉ちゃんは、私と目が合うとすぐにそらしてしまう。


戸田 るり:

(和葉ちゃん……どうしたんだろ)


小学校のときは、あんなに仲良くしていたのにな。


移り変わりゆく友達との交流。

私は戸惑いながら、でも新たな出会いに喜びながら。


その一歩を、踏み出した。




◇ 2年2組編へ続く ◇

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