Ep.16 春、芽吹く(1)「2年1組の場合」
春は芽吹く季節。
さまざまな花を咲かせる種が、土から顔を出して世界に触れる。
それはときに、暖かい太陽であり。
そしてときに、厳しい北風である。
ここ青葉中学校でも、さまざまな芽が顔を出そうとしている。
2年生となった、あの子たち。
その小さな胸に期待を抱いて。
不安を隠して。
はてさて、どんな1年になるだろう──?
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春、芽吹く
(1)「2年1組の場合」
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戸田 るり:
(神様……ひどい)
うつむいて、深く溜息をついた。
そんな私に、横に立つ梢ちゃんが、優しく肩を叩いてくれる。
羽鳥 梢:
「そんなに落ち込まないの、るり!」
戸田 るり:
「梢ちゃん……」
顔をあげた私に、逆隣から明るいもうひとつの声がかかる。
望月 美羽:
「そーそー、るりっち! 私また、隣のクラスだから遊びに行くよ!」
2年生になっても変わらない美羽の笑顔に、ほっとする。
でも顔をあげたとたん、またクラス分けの掲示板が目に入って不安がのしかかってくる。
私のクラスは2年1組。
その中には、同じクラスだったらいいな、と思っていた友達が壊滅状態だった。
私、戸田るりにとって今回のクラス替えは非常に厳しい状態だ。
しゅんとなる私に、美羽はぽんぽんと頭を撫でてくれる。
望月 美羽:
「まぁ、彼氏とも離れちゃったしねぇ。しかも1番遠い5組……」
戸田 るり:
「うぅ……べ、別にいいもん」
そんな私に「強がらないの~」と梢ちゃんが頬を突く。この2人には、私の気持ちなんて何でもお見通しだ。
ちらりと5組の欄を見れば、そこに「中曽根 悠」の名を見つける。
小学校からずっと同じクラスの幼馴染みの彼は、去年、私の彼氏となった。
私の告白からスタートした、私たちのお付き合い。
カップルはクラスを引き離されるという話は、本当だったのだ。
ちなみに、寝ぼすけな悠はまだ登校していない。
羽鳥 梢:
「まぁでも、るりなら大丈夫だよ」
望月 美羽:
「そーそー! るりっち友達作るの、得意じゃんっ」
根拠はないのに、2人の声援は心強い。
そう言われたら、本当にそんな気がしてくるから不思議だな。
戸田 るり:
「うん! 私……頑張る!」
せっかくの新しいスタートに、いつまでもクヨクヨしてたらもったいないもんね。
気合いを入れて、桜が散る校庭で拳を握りしめたのだった。
・ ・ ・
今後1年間お世話になる、2年1組の教室に入る。
すると、中にはもうけっこうな人がいて、それぞれ輪を作っておしゃべりをしていた。
戸田 るり:
(う、出遅れちゃった?)
クラス替えは、最初の一歩が肝心だ。
自分の席に向かいながら、キョロキョロと辺りを見渡した。
戸田 るり:
(あ、和葉ちゃんだ)
お友達とお話している、元同小の子を見つけた。
林和葉ちゃん。
小学校のときは同じクラスで、係も一緒にしたことがある。
戸田 るり:
「和葉ちゃん、おはよう! 同じクラスだね」
林 和葉:
「あ、るりちゃん」
友達と話していた和葉ちゃんは、こちらに顔を向けた。猫目のキリッとした印象的な目は、なつかしくてホッとする。
林 和葉:
「これから1年間よろしくね」
戸田 るり:
「うん!」
林 和葉:
「あ、でさでさ、さっきの続きなんだけど~」
戸田 るり:
(ありゃりゃ)
和葉ちゃんとの会話はそれで終わってしまって、彼女はまた輪の友達とおしゃべりし始めた。
前も同じクラスだった子なのかな?
私の知らない子たちと話す和葉ちゃんに、それ以上声はかけられなかった。
戸田 るり:
「…………」
戸田 るり:
(とりあえず、席に座ろう)
カタン、と椅子をひいて座る。
ほんのちょっぴり、不安になりそう。
思えば、梢ちゃんも悠もいない教室なんて初めてだ。
しっかり者の梢ちゃんと、お調子者の悠。そして明るい美羽がいたから、私はいつでも笑っていられた。
戸田 るり:
(私……大丈夫かなぁ)
こうして一人ぽつんと席に座っていると、よけいにまわりの喧騒が、孤立感を与えてくる。
私、今までどうやって友達を作っていたんだっけ。
小学生の頃なら、あんなに簡単にできていたのに、それが何だか今は怖い。
またうつむいてしまう。
その時、コツンと机の下で、私の足に何かが当たった。
戸田 るり:
「ん?」
ひょいと机の下を見たと同時に。
早乙女 茉莉:
「──あ、ごめん、戸田さん」
聞いたことのある小さな声が、前方からした。
足元に転がり込んできた消しゴムを拾い上げる。
顔をあげると、前も同じクラスだった早乙女茉莉ちゃんが立っていた。
戸田 るり:
「早乙女さんも、同じクラスだったんだ」
早乙女 茉莉:
「う、うん」
消しゴムを渡しながら彼女に声をかけた。
早乙女茉莉ちゃん。
小学校は違うけれど、1年生の頃は同じクラスだった。
グループが違うからあんまり交流はなかったけど、梢ちゃんと仲がよかった彼女とは、たまにお話したことがある。
静かで控えめ。
でも運動神経は抜群によくて、去年のスポーツ大会の影の立役者だったことを、私は知っている。
戸田 るり:
「よかったぁ、早乙女さんと同じクラスで」
親しんだ顔を見られて、ホッとした私に。
早乙女 茉莉:
「……え? え?」
彼女は少し、戸惑う素振りを見せた。
戸田 るり:
(あれ? 嫌がられてる……?)
不安のある私は、少し敏感に早乙女さんの態度を察知する──が。
早乙女 茉莉:
「……嬉しい」
早乙女さんの小さな口からもれた台詞に、私は目をパチクリさせた。
戸田 るり:
「え?」
早乙女 茉莉:
「私も、戸田さんが同じクラスでよかった」
そう言った早乙女さんの表情は、読み取りづらいけど喜んでいるみたいだった。
そういえば……早乙女さんが仲良くしていた松宮さんも飯田さんも、違うクラスなんだ。
ちょっと境遇が似てるな、なんて思って笑いかけたら、早乙女さんも笑ってくれた。
早乙女 茉莉:
「私、戸田さんに憧れてたんだ」
戸田 るり:
「え……ええ!?」
臆面もなくそう告げた早乙女さんに、私はつい顔を赤らめる。
あ、憧れだなんてそんな……!
しかし早乙女さんは、ポーカーフェイスのまま、声だけは力を込めて私に言う。
早乙女 茉莉:
「戸田さん可愛いし優しいし、しっかり者だけど女の子らしくて素敵だし。お菓子作りもできて家庭的で……とにかく私にとって憧れ度ナンバーワンなの!」
戸田 るり:
「う、うわわわわ」
言われてるこっちが恥ずかしくなって慌てて手をふると、早乙女さんはハッと止まった。
早乙女 茉莉:
「あ……」
早乙女 茉莉:
「また、やっちゃった」
しゅんとなる早乙女さん。
それを見て、何ともくすぐったい心地になる。
戸田 るり:
(早乙女さんて、こういう感じなんだ)
不思議だな。
1年間も同じ教室にいたのに、いまさら彼女のことを知るなんて。
でもなんだか、すごくすごく嬉しい。
戸田 るり:
「ねえ、茉莉ちゃんて呼んでいい?」
早乙女 茉莉:
「へ?」
戸田 るり:
「私のことも、名前で呼んでね!」
早乙女 茉莉:
「う……うん!」
茉莉ちゃんのはにかんだ表情が、私にはわかった。
うん、私、きっとこの子のこと好きになる。
そういう予感、私当たるんだから!
嬉しくて茉莉ちゃんと笑い合っていると、ふと視線を感じて振り向いた。
戸田 るり:
(ん……?)
するとその先に、和葉ちゃんがいた。
林 和葉:
「……!」
和葉ちゃんは、私と目が合うとすぐにそらしてしまう。
戸田 るり:
(和葉ちゃん……どうしたんだろ)
小学校のときは、あんなに仲良くしていたのにな。
移り変わりゆく友達との交流。
私は戸惑いながら、でも新たな出会いに喜びながら。
その一歩を、踏み出した。
◇ 2年2組編へ続く ◇




