Ep.15 ぼくらは空色バスの中(4・終)「終点はまだ先に」
あれから私たちは、また動物園を楽しんだ。
たぶん、私たちほどここの動物園を満喫した人はいないんじゃないかってくらい、隅々まで見てまわる。
広い動物園。
帰る頃にはすっかり歩き疲れていて、バスに再び乗った私たちはぐったりしていた。
中曽根 悠:
「あー、足が棒になった」
戸田 るり:
「疲れたぁ。でも、楽しかったね」
中曽根 悠:
「おう! 楽しかった!」
そんな私たちを乗せたバスは、夕焼けの中、ゆっくりと出発した。
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ぼくらは空色バスの中
(4)「終点はまだ先に」
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私たちは、今度はバス前方の座席に座っていた。
進行方向に対して横向きになっている4人がけのベンチシートに、ぎゅうぎゅうになって座っている。
帰りのバスは混んでいた。
中曽根 悠:
「座れてよかったな」
戸田 るり:
「うん。でも次も、いっぱい乗ってくるかな」
行きよりもくっついてしまってドキドキしていたけど、呼び捨てにされたこともあってか、心臓はドキドキへの耐性ができたようだ。
悠は(この言い方はまだ照れる)私の左隣に座っている。私はバス入口近くの角席に座っていた。
案の定、次の停車場でも、人がちらほら乗ってきた。
その中のある人物を見て、私はあれ、と気づく。
戸田 るり:
「ねぇねぇ」
隣の彼の肘をちょちょいと突いた。
中曽根 悠:
「ん?」
戸田 るり:
「あの人、妊婦さんみたい」
こそっと言って、こちらに背を向けて立っている女性を示した。
人と人の隙間から、スーツを着ている女性がポールに掴まっているのが見える。
中曽根 悠:
「え? スマートな人じゃん」
戸田 るり:
「でもほら、カバンに妊婦さんのマークつけてる」
女性が肩にかけているカバンには、ピンク色のマタニティマークのキーホルダーがぶら下がっている。
以前、お母さんから教えてもらったことがあった。
中曽根 悠:
「あれがそうなんだ。るり、よく知ってるな」
戸田 るり:
「……まあね」
うう、やっぱり呼び捨ては照れる。
そんなことを話していたら、バスはまた次の停車場に着いたらしく停まった。
すると彼はすぐに席を立って、さっきの女性に声をかけた。
中曽根 悠:
「すみません、よかったら座って下さい」
女性:
「え?」
女性は驚いたように振り返った。
うわわ、悠すごいなぁ。
女性:
「ありがとう。でもいいの?」
女性はちらりと私を見て、そう言った。
私がコクコクと頷くと、女性は柔らかく笑って私の隣に座る。
私の前に悠が立つ。ガクンとバスはまた揺れ出した。
中曽根 悠:
「こいつが気づいたんだよ」
悠は人見知りもせずに、女性にさらにそんな言葉をかけた。
女性は「あら」と私を見つめる。
女性:
「どうも、ありがとう」
戸田 るり:
「いえ。たまたま気づいたんです」
私は初対面の人と話すのは、そこまで得意じゃない。
でも、この女性はとても優しそうに笑うので、いつもよりは緊張せずに答えられた。
中曽根 悠:
「でもお姉さん、全然妊婦さんに見えないね?」
まったく人見知りしない悠はそんなことをズケズケと言う。
対人スキルが高いというか、面の皮が厚いというか……。
女性:
「うふふ、そう? でも初期は、そんなものなのよ」
お姉さんは悠のタメ口にも気を悪くせずに、笑顔で答えてくれた。
お母さんの卵という存在だからか、その瞳はとても優しげに見える。
その後も、バスが停まるたびに人が出て行っては入ってきた。
バスの中の人口自体はそんなに減ってないから、やっぱり女性に席を譲った悠の行動は正解だった。
そして女性は、私たちよりも前の停車場で降りた。
女性:
「譲ってくれて、ありがとう」
中曽根 悠:
「いえいえ!」
そして女性は、私にだけ聞こえる声で、こっそりと言った。
女性:
「素敵な彼氏ね」
戸田 るり:
「!」
うわわわわ。彼氏だって!
女性が降りると、悠は再び私の隣に座ってこちらを見てきた。
中曽根 悠:
「お姉さん、何か言ってた?」
戸田 るり:
「え? ううん! 何も!」
中曽根 悠:
「?」
隣に座った彼の顔を見られずに、思わずうつむく。
まわりから見たら、私たちちゃんと彼氏彼女に見えるんだぁ、なんて今更ながらに照れてしまった。
そんな私たちを乗せて、バスはまた走り出す。
走る振動は、体をゆらゆら揺らしてくるから、揺りかごみたいに気持ちいい。
ふと周りをみれば、たくさんの人がいた。
会社員らしき人。
おじいちゃんにおばあちゃん。
買い物帰りのお姉さん。
ちょっと疲れているおじさん。
様々な人たちを乗せて、このバスは走っている。
戸田 るり:
「…………」
戸田 るり:
(学校、みたい)
なんて、ふと思う。
小学生から中学生になって。
いろんなことがあったな。
この1年、長かったような。短かったような。
でも、たくさんの思い出の中に、たくさんの人たちがいたんだ。
消しゴム事件。
あれから彼との距離が縮まったんだ。
スポーツ大会。
梢ちゃんはリレーでアンカーを走って、最後は1位で盛り上がったなぁ。
夏休み前。
篠田先生の意地悪で、思わぬ告白をしてしまったけれど、あれも怪我の功名かな。
夏祭り。
同じ小学校のメンバーで、久しぶりにわいわい出来て楽しかった。
夏休み明け。
小池くんが喧嘩したって聞いたときはビックリしちゃった。
2学期。
おバカな悠の暴走に、ちょっとした喧嘩をして、仲直りして。
冬休み前。
いつも元気な美羽が泣いてしまって、友達も色々抱えているんだって、気がついた。
失敗した初デート。
でも電話をもらえて、声がきけて、幸せだった。
初詣では彼の変化を感じて。
今日も少し、戸惑っているけれど。
そんなことはお構いなしに、私たちを乗せたバスは、これからも走っていくんだろう。
窓の外は、西日が夕焼けを作っている。
オレンジ色の光を、車内に射し込んでいた。
と、その時。
私の肩に、悠の頭が乗っかった。
戸田 るり:
「!」
くーくーと、小さな寝息が聞こえる。
どうやらこのバスの気持ちいい振動に、疲れもあってか彼は負けてしまったようだ。
戸田 るり:
(……お、重い)
それに加え、彼の髪の毛が顔に当たってくすぐったい。
近すぎる体温は逆に緊張をほぐすのか、それともバスの振動のせいか、私もあくびを一つしてしまう。
戸田 るり:
「……ふぁ… 」
とろんと瞼が重くなる。
私も、この気持ち良さには敵わなそうだ。
うとうととまどろむ私。
観念したように、悠の頭にほっぺをくっつけてしまう。
ああ、気持ちいいな。
ゴトゴトとバスに揺られながら。
これからも悠が、こんな風に隣にいるといいな、なんて思った。
様々な人たちを乗せて。
様々な気持ちを乗せて。
行く先は、春みたいなうららかな場所であるように。
大好きな悠と一緒に、行けたらいいなと思ったんだ。
Fin,
これにて第一章はおしまいです。よければ感想・評価いただけるとうれしいです!
❀2年生編へ続く




