Ep.15 ぼくらは空色バスの中(3)「変わっていくもの」
フードコートで簡単に昼食を済ませると、早速ふれあい広場へと出向いた。
「ワンニャンハウス」と書かれた建物が中にあり、そこは犬と猫で入口が分かれている。
中曽根 悠:
「どっちがいい?」
戸田 るり:
「んんー。猫……かな?」
本当はどちらでもよかったけど、中曽根は猫を飼っているから、そっちのがいいかなと考えて猫の入口を示した。
中曽根は「オッケー」と言って扉を開ける。
中からミャアミャアと、可愛らしい鳴き声が聞こえてきた。
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ぼくらは空色バスの中
(3)「変わっていくもの」
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中曽根 悠:
「おお! たしかに猫ハウスだ!」
中曽根はテンション高く声をあげた。
入ると玄関みたいな靴脱ぎ場があって、靴下だけになる。
さらに次の扉を開くと、その部屋はカーペットが敷かれ、中にはソファやテーブルが置かれくつろげるようになっていた。
そんな中、猫たちは主のようにいたるところで寝そべったりじゃれたりしている。
行ったことはないけど、猫カフェみたい。
戸田 るり:
「うわぁー、猫だらけ」
慣れてない私は、ちょっとビビってしまう。
中曽根 悠:
「貸し切りじゃん!」
しかし中曽根は、ウキウキと早速1匹の猫を捕まえた。
灰色虎模様のその子は、大人しく中曽根に抱かれる。
中曽根 悠:
「アメショーだ。可愛いなぁ」
そのままソファに腰を下ろして、膝にのせる。
私もその横に腰をおろし、同じように近くにいた白猫を抱えようとした。
が、上手く抱えられず白猫は嫌がって逃げていく。
中曽根 悠:
「はは、ヘタクソー」
戸田 るり:
「うー、どうやって抱けばいいの?」
すでに中曽根の膝上の猫は喉をなでられてご機嫌なのか、グルグル喉を鳴らしている。
私は近くの子を捕まえようとしても、上手くいかない。
中曽根 悠:
「こいつ抱く? 大人しいよ」
そう言って中曽根は、撫でていた猫を私の膝上に寄せた。
ずしんとした重みが、腿にかかってビックリする。
猫は不本意ながらも、私の膝に落ち着いてくれた。
戸田 るり:
「猫ってけっこう、重いんだね」
中曽根 悠:
「そっか? うちのスズはもっと重いぜ」
猫慣れしている中曽根に、猫のさわり方をレクチャーしてもらった。
喧嘩の合図だから目を見つめすぎないこと。
触るとき力を入れすぎないこと。
首回りが猫には気持ちいいこと。
まるで猫博士だ。
戸田 るり:
「アメショーって、何?」
中曽根 悠:
「アメリカンショートヘア。猫の種類だよ」
猫博士はテーブルの上に用意されていた猫じゃらしで、他の猫と遊んでいる。
棒の先についているフサフサに、床の小さいトラ猫が飛びつくようにじゃれていた。
戸田 るり:
「すごくはしゃいでる。なんだか美羽みたい」
さっきのお猿さんのせいか、つい猫に友達の顔を浮かべる。
小さくても元気いっぱいの茶トラ猫は、美羽みたい。
先日、片想いしていた先輩に告白してフラれたと言っていたけれど、それでも伝えて良かったと笑った美羽は、ぐっと大人びて見えた。
戸田 るり:
「んで、この子が梢ちゃん」
そう言って、膝上のアメショーちゃんを撫でる。
クールに大人しく、でも私に寄り添ってくれるこの子は、梢ちゃんみたい。
中曽根と同じくらい昔からの幼なじみで、私のよき理解者でもある梢ちゃんは、あまり自分のことは語らない。
いつか、梢ちゃんの恋バナも聞いてみたいなぁ、なんて思っているんだけど。
中曽根 悠:
「なるほど。じゃあ……」
中曽根は猫じゃらしを置くと、キョロキョロしだした。
部屋の隅にいた、さっき私から逃げた白猫を抱きかかえる。
私からは逃げたくせに、中曽根にはすんなり捕まっている。
中曽根 悠:
「こいつが戸田だな」
戸田 るり:
「え? 私?」
まさか自分が猫に例えられるとは思っていなかったから、ドキッとする。
中曽根は、私に似ていると言ったその子を抱えてまたソファに座り、撫ではじめる。
白猫は人慣れがあまりしてないのか、中曽根の手を何度か振り払うように避けていたが、そのうち大人しく撫でられた。
中曽根 悠:
「ほら、やっぱり似てる」
戸田 るり:
「そう?」
アメショーちゃんに比べて、可愛げがないように見えるんだけど……。
でも中曽根は、白猫と鼻をくっつけると笑って言った。
中曽根 悠:
「似てるよ。なぁ、るり」
戸田 るり:
「!」
──る、るり!?
突然、自分の名前が中曽根の口から出てきてドキッとした。
戸田 るり:
(え、えっと……猫のこと、だよね?)
ドキドキしている私の横で中曽根は、白猫の脇を抱えてブラブラとその子を揺らしていた。
中曽根 悠:
「るーりるーりるーり♪」
私の名前とともに揺れる白猫。
戸田 るり:
「…………」
中曽根 悠:
「るりは可愛いなぁ」
戸田 るり:
「…………」
戸田 るり:
「……か、からかってる!?」
あまりに恥ずかしくて、中曽根を睨んでしまう。
すると、中曽根はちょっとだけ顔を赤くしていた。
中曽根 悠:
「……るりって、呼んでいい?」
戸田 るり:
「……!」
見つめられてドキリとする。
えっと、それはつまり……。
戸田 るり:
「猫のこと?」
中曽根 悠:
「んなわけないだろ!」
そっちが最初に、猫をそう呼んでたんじゃない。
でもそれが照れ隠しなんだって、なんとなく分かった。
わかりにくいなぁ、もう。
戸田 るり:
「……いいよ」
中曽根 悠:
「!」
中曽根 悠:
「じゃ、じゃあさ」
中曽根は膝に白猫をおろして、自分を指さす。
中曽根 悠:
「俺のこと、何て呼ぶ?」
戸田 るり:
「……」
──ええと。これはつまり……。
戸田 るり:
「………悠…」
中曽根 悠:
「!」
戸田 るり:
「……ちゃん?」
中曽根 悠:
「!?」
照れくさくて付け加えたら、中曽根がコントみたいにずっこけた。膝上の白猫は驚いて逃げる。
中曽根 悠:
「ちゃん付けするなよ~!」
戸田 るり:
「冗談、冗談」
小さく咳をして、中曽根に体を向けた。
戸田 るり:
「えっと……ゆ……」
中曽根 悠:
「…………」
戸田 るり:
「………ゆ…う?」
中曽根 悠:
「声、ちっさ!」
戸田 るり:
「う、うるさいなぁ!」
そっちがあんまりジッと見てくるから、恥ずかしくなっちゃったんじゃない!
プリプリ怒ってしまったら、私の膝上のアメショーちゃんも逃げてしまった。
ああもう、中曽根のせいなんだから!
中曽根 悠:
「るり、顔真っ赤」
中曽根は自分だけ呼び捨てを使いこなし始めていて、何だか憎らしい。
うー、悔しいなぁ。
戸田 るり:
「慣れるまで、あんまりからかわないでよね」
中曽根 悠:
「りょーかい!」
やたら上機嫌になった彼は、また猫と遊びだした。
──悠、かぁ。
距離が近づいて。
呼び方も変わっていって。
押し寄せてくる変化の波に溺れないように、私は小さくスーハーと呼吸を整えた。
◇ 続く ◇




