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この空色バス、春先行き。【完結】  作者: 猪野いのり
第一章 ご乗車ください《1年生編》
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Ep.15 ぼくらは空色バスの中(2)「変わらないもの」

 動物園前のバス停に着くと、ようやく中曽根と離れることができた。

 ああ、緊張した。

 あれ以上くっついていたら、心臓壊れるところだったよ。


 バスから降りて、動物園の入口を見上げる。


 中曽根 悠:

「おー、何だか懐かしいな」


 戸田 るり:

「久しぶりだよね、ここ」


 この動物園には、幼稚園の遠足や小学校の校外学習で、何度か来ていたことがあった。

 でも、去年リニューアルされてからは来ていない。

 新しくなった入口の看板は以前よりも明るくて、ウキウキしそうなくらい。


 戸田 るり:

「きれいになったねぇ」


 中曽根 悠:

「だな。早く行こうぜ」


 戸田 るり:

「うん!」


 早速、チケットを買いに向かった。



❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀


 ぼくらは空色バスの中

(2)「変わらないもの」


❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀



 中曽根は、意外と動物好きだ。

 一緒にまわると、楽しそうにコロコロと笑っていた。


 そういえば、お家で猫を飼ってたっけ。

 小さい頃行った中曽根の家で、触らせてもらった覚えがある。


 中曽根 悠:

「見ろよあれ、でっけー」


 象を見ては感動して。


 中曽根 悠:

「うはー、可愛いなぁこいつら」


 歩くペンギンにデレている。


 そんな中曽根の方が可愛いな、なんて思ってしまった。

 私たちは、自由気ままに園内を歩く。


 中曽根 悠:

「お、猿ゾーンだ。いろんな種類がいるな」


 戸田 るり:

「うわぁ、あれ可愛いね~」


 私が指さしたのは、30センチくらいの小さなお猿さん。目がくりくりしてて、ナマケモノみたいに木の枝にぶら下がっている。


 中曽根 悠:

「スローロリスだってさ」


 中曽根が説明文を見て教えてくれる。


 中曽根 悠:

「なんか、誰かに似てるな」


 戸田 るり:

「え、誰だれ?」


 中曽根 悠:

「んー……」


 中曽根はじーっとお猿さんと睨めっこして、しばらくして「あ」と言った。


 中曽根 悠:

「わかった。小池だ」


 戸田 るり:

「あ、たしかに」


 中曽根の友達、小池隼人くんの顔が浮かんで、スローロリスと重なった。

 あのくりっとした瞳とか、小さいところとか、似てるかも。


 中曽根 悠:

「んで、あっちは大谷だな」


 そう言って中曽根が向いた先には、やたら手の長いお猿さんがいた。

 名前はそのまんま「シロテテナガザル」だった。

 ゴールキーパーをしているという背が高い大谷圭介くんと、たしかにかぶる。


 戸田 るり:

「ふふ」


 友達をお猿さんに例えちゃうなんて失礼だけど、楽しそうに話す中曽根が微笑ましい。


 戸田 るり:

「仲良いもんね、大中小トリオ」


 1年間、同じ教室で見ていた中曽根たちのやりとり。

 教室でも部活でも、3人はいつも楽しそうに笑っていた。


 中曽根 悠:

「まぁ、今年で解散だけどなー」


 戸田 るり:

「……!」


 その言葉にドキッとした。


 そう、だよね。

 もうすぐ2年生になってクラス替え。

 3人がまた、同じクラスになる可能性は低いんだ。


 もちろん……私と中曽根だって。


 戸田 るり:

「……ちょっと、寂しいね」


 中曽根 悠:

「ん? まぁ部活で会えるから、別にいいけどなー」


 中曽根は鈍い。

 私が言いたかったのは、そんなんじゃなくって。


 戸田 るり:

「私は、部活で会えないもん」


 中曽根 悠:

「!」


 小学校から今までずっと、中曽根と同じクラスだった。

 でもその腐れ縁が、2年生になっても続くなんて思えない。


 中曽根は、不安じゃないのかな?

 私と別のクラスでもいいやって思ってる?


 こんなことで悩んでいるなんて、バカみたいだけど、私にとっては重要事項なんだよ。


 中曽根 悠:

「……俺、さ」


 中曽根 悠:

「忘れ物したら、戸田んとこに借りに行くよ」


 戸田 るり:

「!」


 中曽根 悠:

「俺、忘れ物よくすっから、毎日行っても文句言うなよな」


 それは何だか、とても中曽根らしい言い方だった。

 でも、それが不器用な優しさからきてるって、私はちゃんと知っている。


 戸田 るり:

「……この忘れ物大臣」


 中曽根 悠:

「なんなら総理でもいいぜ?」


 戸田 るり:

「バーカ」


 1年前と変わらないやり取り。

 それが何だか嬉しくて、幸せで。

 中曽根も同じように思ってくれたのか、私たちは目を合わせると笑い合った。


 中曽根 悠:

「よし、次はどこをまわる?」


 戸田 るり:

「あ、あそこ行きたい。ふれあい広場!」


 私は近くの案内看板を見て、その文字を指さした。

 看板によると、どうやらウサギやヤギの他、犬や猫がいる「ワンニャンハウス」なんてものまである。

 これは昔なかったから、去年のリニューアルで新しく出来たのだろう。


 中曽根 悠:

「お! これは行かねーと!」


 中曽根も気に入ったらしく目を輝かせた。

 でもそのとき、ぐぅ、と小さく中曽根のお腹が鳴る。


 中曽根 悠:

「ん、その前に腹ごしらえだな」


 恥ずかしがるでもなく、お腹をさすって言う。


 戸田 るり:

「少しは恥じらいなさい」


 中曽根 悠:

「生きてりゃ腹は鳴るでしょ」


 あっけらかんとそう言って、中曽根は「ん」と呟き、左手をこちらに差し出した。


 中曽根 悠:

「あっちにフードコートある。行こうぜ」


 戸田 るり:

「!」


 こ、これはもしかして。


 差し伸べられた手に、そっと自分の右手を近づけた。それを中曽根はぎゅっと握って、手をつないでくれる。


 戸田 るり:

(本当に、恥じらわないなぁ)


 でも、そんな中曽根にすごく助けられている。

 私はつい恥ずかしがっちゃって、何にも出来ないから。

 こんな時ばかりはまわりの目を気にしない彼の行動が、とても頼もしい。


 中曽根と並んで歩く。

 1年前と変わらない会話。

 1年前と変わった距離感。

 それが何だかくすぐったくて、嬉しかった。




 ◇ 続く ◇

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