Ep.15 ぼくらは空色バスの中(2)「変わらないもの」
動物園前のバス停に着くと、ようやく中曽根と離れることができた。
ああ、緊張した。
あれ以上くっついていたら、心臓壊れるところだったよ。
バスから降りて、動物園の入口を見上げる。
中曽根 悠:
「おー、何だか懐かしいな」
戸田 るり:
「久しぶりだよね、ここ」
この動物園には、幼稚園の遠足や小学校の校外学習で、何度か来ていたことがあった。
でも、去年リニューアルされてからは来ていない。
新しくなった入口の看板は以前よりも明るくて、ウキウキしそうなくらい。
戸田 るり:
「きれいになったねぇ」
中曽根 悠:
「だな。早く行こうぜ」
戸田 るり:
「うん!」
早速、チケットを買いに向かった。
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ぼくらは空色バスの中
(2)「変わらないもの」
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中曽根は、意外と動物好きだ。
一緒にまわると、楽しそうにコロコロと笑っていた。
そういえば、お家で猫を飼ってたっけ。
小さい頃行った中曽根の家で、触らせてもらった覚えがある。
中曽根 悠:
「見ろよあれ、でっけー」
象を見ては感動して。
中曽根 悠:
「うはー、可愛いなぁこいつら」
歩くペンギンにデレている。
そんな中曽根の方が可愛いな、なんて思ってしまった。
私たちは、自由気ままに園内を歩く。
中曽根 悠:
「お、猿ゾーンだ。いろんな種類がいるな」
戸田 るり:
「うわぁ、あれ可愛いね~」
私が指さしたのは、30センチくらいの小さなお猿さん。目がくりくりしてて、ナマケモノみたいに木の枝にぶら下がっている。
中曽根 悠:
「スローロリスだってさ」
中曽根が説明文を見て教えてくれる。
中曽根 悠:
「なんか、誰かに似てるな」
戸田 るり:
「え、誰だれ?」
中曽根 悠:
「んー……」
中曽根はじーっとお猿さんと睨めっこして、しばらくして「あ」と言った。
中曽根 悠:
「わかった。小池だ」
戸田 るり:
「あ、たしかに」
中曽根の友達、小池隼人くんの顔が浮かんで、スローロリスと重なった。
あのくりっとした瞳とか、小さいところとか、似てるかも。
中曽根 悠:
「んで、あっちは大谷だな」
そう言って中曽根が向いた先には、やたら手の長いお猿さんがいた。
名前はそのまんま「シロテテナガザル」だった。
ゴールキーパーをしているという背が高い大谷圭介くんと、たしかにかぶる。
戸田 るり:
「ふふ」
友達をお猿さんに例えちゃうなんて失礼だけど、楽しそうに話す中曽根が微笑ましい。
戸田 るり:
「仲良いもんね、大中小トリオ」
1年間、同じ教室で見ていた中曽根たちのやりとり。
教室でも部活でも、3人はいつも楽しそうに笑っていた。
中曽根 悠:
「まぁ、今年で解散だけどなー」
戸田 るり:
「……!」
その言葉にドキッとした。
そう、だよね。
もうすぐ2年生になってクラス替え。
3人がまた、同じクラスになる可能性は低いんだ。
もちろん……私と中曽根だって。
戸田 るり:
「……ちょっと、寂しいね」
中曽根 悠:
「ん? まぁ部活で会えるから、別にいいけどなー」
中曽根は鈍い。
私が言いたかったのは、そんなんじゃなくって。
戸田 るり:
「私は、部活で会えないもん」
中曽根 悠:
「!」
小学校から今までずっと、中曽根と同じクラスだった。
でもその腐れ縁が、2年生になっても続くなんて思えない。
中曽根は、不安じゃないのかな?
私と別のクラスでもいいやって思ってる?
こんなことで悩んでいるなんて、バカみたいだけど、私にとっては重要事項なんだよ。
中曽根 悠:
「……俺、さ」
中曽根 悠:
「忘れ物したら、戸田んとこに借りに行くよ」
戸田 るり:
「!」
中曽根 悠:
「俺、忘れ物よくすっから、毎日行っても文句言うなよな」
それは何だか、とても中曽根らしい言い方だった。
でも、それが不器用な優しさからきてるって、私はちゃんと知っている。
戸田 るり:
「……この忘れ物大臣」
中曽根 悠:
「なんなら総理でもいいぜ?」
戸田 るり:
「バーカ」
1年前と変わらないやり取り。
それが何だか嬉しくて、幸せで。
中曽根も同じように思ってくれたのか、私たちは目を合わせると笑い合った。
中曽根 悠:
「よし、次はどこをまわる?」
戸田 るり:
「あ、あそこ行きたい。ふれあい広場!」
私は近くの案内看板を見て、その文字を指さした。
看板によると、どうやらウサギやヤギの他、犬や猫がいる「ワンニャンハウス」なんてものまである。
これは昔なかったから、去年のリニューアルで新しく出来たのだろう。
中曽根 悠:
「お! これは行かねーと!」
中曽根も気に入ったらしく目を輝かせた。
でもそのとき、ぐぅ、と小さく中曽根のお腹が鳴る。
中曽根 悠:
「ん、その前に腹ごしらえだな」
恥ずかしがるでもなく、お腹をさすって言う。
戸田 るり:
「少しは恥じらいなさい」
中曽根 悠:
「生きてりゃ腹は鳴るでしょ」
あっけらかんとそう言って、中曽根は「ん」と呟き、左手をこちらに差し出した。
中曽根 悠:
「あっちにフードコートある。行こうぜ」
戸田 るり:
「!」
こ、これはもしかして。
差し伸べられた手に、そっと自分の右手を近づけた。それを中曽根はぎゅっと握って、手をつないでくれる。
戸田 るり:
(本当に、恥じらわないなぁ)
でも、そんな中曽根にすごく助けられている。
私はつい恥ずかしがっちゃって、何にも出来ないから。
こんな時ばかりはまわりの目を気にしない彼の行動が、とても頼もしい。
中曽根と並んで歩く。
1年前と変わらない会話。
1年前と変わった距離感。
それが何だかくすぐったくて、嬉しかった。
◇ 続く ◇




