Ep.15 ぼくらは空色バスの中(1)「出発、進行!」
何度も、鏡の前でチェックした。
このスカート、変じゃないよね。
カバンと合ってるよね。
靴下はこれでいいよね。
髪に寝癖なんかないよね。
チェック項目に何度レ点を打っても、なかなかすべてオッケーにならない。
戸田 るり:
「わわ、もうこんな時間!?」
私、戸田るりは、部屋の壁時計を見て慌て始める。
春休み中の、ある平日。
私にとって最大のイベントが今日、始まろうとしていた。
戸田 るり:
(中曽根とのデートに、遅れちゃう!)
今日は記念すべき、中曽根との初デート。
体調は万全、準備も万端!
窓の外は、突き抜けるような青空が広がっていて、お天道様まで今日は私の味方だ。最後にもう一度、全身鏡でチェックして部屋を出た。
戸田 るり:
「行ってきます!」
家の奥から聞こえたお母さんの「行ってらっしゃい」に、少しだけ緊張と隠している後ろめたさを感じる。
青空の下に、飛び出した。
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ぼくらは空色バスの中
(1)「出発、進行!」
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待ち合わせ場所は、いつも帰りで別れていたあの交差点だ。
午前9時。
そこの角にすでに中曽根は立っていて、私は慌てて駆け寄った。
戸田 るり:
「お待たせ!」
中曽根 悠:
「お、おはよー」
中曽根はもたれていた電信柱から背中を浮かすと、いつもの調子でそう言った。
戸田 るり:
「おはよう」
戸田 るり:
(うわ~、私服だ)
なんて当たり前なことを確認して、私は少しドキドキした。
中学生になってからは制服姿ばかりだったから、私服の彼が何だか新鮮に見える。
変なの。
小学生の時なんて毎日、私服だったのに。
中曽根は黒のパンツに白いインナー、その上にカーキ色のジャケットを羽織っていた。
シンプルだけど、小学生の頃より何だか大人びて見える。
戸田 るり:
(背もなんか……また伸びた?)
考えてジッと見上げていたら。
中曽根 悠:
「な、何だよ」
中曽根はちょっとだけのけぞった。
戸田 るり:
「別に、何でもないよ」
中曽根 悠:
「お? おう」
中曽根はきょとんとして。
中曽根 悠:
「にしても、いい天気になったな」
と笑った。
戸田 るり:
「うん! 今日は雨だと、行けなかったもんね」
中曽根 悠:
「ま、そんときゃプランBもあるしな」
何のことかというと、今日の行き先のことである。
初デート先は動物園になった。
春だし温かくなってきたし、外へ行こうと2人で決めた。
ちなみに雨の場合は水族館で、それを中曽根はプランBと呼ぶ。
もう、サッカーの戦略プランじゃないんだから。
私たちは慣れない私服同士で並ぶと、歩き出した。
目指す先は、バス乗り場。
まだ手もつなげずに、ちょっと緊張して私は彼の横にいた。
・ ・ ・
動物園行きのバスに乗ると、中はまだまばらにしか人が入ってなかった。
中曽根の後についていくと、1番後ろのシート席に私たちは座る。
バスの入口が閉じる。
運転手さんのアナウンスとともに、ガクンと大きく揺れて、バスは出発した。
まだ、朝とも言えるこの時間。
のどかに差し込む太陽は、車内を明るく照らしている。
私たちはいつものように、その中でたわいないおしゃべりをした。
戸田 るり:
「え。中曽根、応援団になっちゃったの?」
中曽根 悠:
「うん。せっかくだし、やろうと思って」
7月にあるスポーツ大会。
そこでは毎年、有志で結成された応援団による応援演舞が行われる。
団員になれる対象は、男子生徒の2・3年生だ。
去年、長ランと白手袋、ハチマキを身につけて、先輩の男子たちが舞うように演舞し掛け声を出していたのを覚えている。
衣装のせいか、応援団の先輩たちはかなり格好良く見えた。
女子たちなんか、みんなキャーキャー言ってたもん。
それに中曽根が出るだなんて……!
戸田 るり:
(み、見たい! でも……見せたくない!)
かなり複雑な心境だ。
中曽根って、ただでさえモテるから、これ以上目立ってほしくない……でも応援団姿は見てみたい……。ううう。
中曽根 悠:
「大谷もやるんだよ。小池は体育委員で忙しいから、パスしたけどさ」
私の小さな葛藤に気づかずに、中曽根は楽しそうにそう言う。
そんな笑顔を見ていたら、せっかくはりきってるんだから、まぁいっか、なんて思えてしまう。
戸田 るり:
「大谷くん、似合いそうだね」
背の高い大谷くんなら、長ランも様になりそうだなぁ、とふと思った。
中曽根 悠:
「ん? 俺は?」
ちょっと声のトーンを下げて、中曽根は言う。
唇を尖らせて、こちらを見てくる。
戸田 るり:
「……ヤキモチ?」
中曽根 悠:
「! バッ、ちげーよ!」
中曽根が慌てだしたとき、バスは停まってたくさんの人たちが乗車してきた。
駅前だからか、なだれ込むように入ってくる。
2人してお尻をスライドさせて、シート席の右隅に移動した。
私は窓と中曽根に、挟まれるように隅っこに追いやられる。
戸田 るり:
(うわ、近い)
人がたくさん乗っているから仕方ないんだけど、中曽根の体が近すぎてビックリする。
教室で隣の席は何回かあったけど、こんなに近くなかったもん。
左半身が緊張してしまう。
戸田 るり:
「………」
中曽根 悠:
「………」
なんとなくそこで会話は途切れて、沈黙してしまった。
代わりに賑やかになる周りの喧騒。
うつむくと、私と中曽根の並んだ足が見えた。
私よりも一回り大きい中曽根のスニーカーは、磨きたてのようにピカピカしている。
サッカー部のせいか、ちょっと太めの腿に置いている両手は少し骨張っていて。
そういえば、あんなにダボダボしていた学ランを、今はぴったり着こなしているな、とあらためて思い返してしまう。
戸田 るり:
(中曽根の応援団姿……)
戸田 るり:
(絶対、カッコイイんだろうなぁ)
でも、そんなこと本人には照れくさくて、言えないけどね。
ちらりと隣を見ると、中曽根は太陽の光が眩しいのか、ちょっと目を細めて外を見ていた。
◇ 続く ◇




