Ep.14 ぼくらの卒業 (5・終)「圭介の卒業」
卒業式当日。
俺は、むさ苦しい野郎集団の中にいた。
グラウンドの隅で、サッカー部の卒業生胴上げ祭やらの打ち合わせをしている。
2年生:
「いいかー、頭側のやつは力あるやつ、背が低いやつと力ねぇやつは足側行けー」
2年の次期部長が、初めて部長らしく取り仕切る。
俺は頭側にもちろんなってしまった。中曽根と隼人は足側だ。
胴上げは、頭から落ちると大惨事となるので、頭側には背があり力の強いやつが担当になるそうだ。
さすがは伝統文化。妙な取り決めや安全への配慮は、しっかり受け継がれている。
2年生:
「大谷、お前は捕まえ役もな」
大谷 圭介:
「何すか、それ」
2年生:
「胴上げされる人のズボンの腰んとこ捕まえとく役。軽いやつだと、高く上げすぎちまうからさ。ま、他にも何人かいるから、やり方はそいつら見てて」
大谷 圭介:
「うっす、わかりました!」
背が高いと、何かと便利に使われる。
しかしそんな俺は、先輩からの言葉も実は上の空だった。
気になるのはもちろん、遠くにいる望月──の、告白の行方だったのだから。
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ぼくらの卒業
(5)「圭介の卒業」
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胴上げ祭は、意外に楽しくてテンションが上がった。
校舎から出てきたサッカー部3年生を捕まえさらってきては、持ち上げ靴を脱がせて胴上げする。
いつもは厳しく頼りある3年生も、胴上げされてるときは無邪気にはしゃいでいた。
サッカー部一同:
「おめでとーっす! 」
サッカー部一同:
「わーっしょい! わーっしょい!」
こんなバカやれるのも、バカばっかのサッカー部の特権だな。俺もその一員だ。
そうして総勢10人のサッカー部3年生を胴上げし終える頃には、俺たちはヘロヘロになっていた。
中曽根 悠:
「腕がだりー」
小池 隼人:
「足、顔に当たっちゃったよ。いたたた」
そう言う中曽根と隼人も、どこか楽しげだった。
いつか俺らも、胴上げされる立場になるんだろうな。実感はわかないけれど。
でも、それよりも。
ずっと気になっていたのは、ただひとつ。
大谷 圭介:
(あれ? 望月……いない?)
さっきまで、緊張した面持ちで花束を持っていたのに。
胴上げにすっかり夢中になっていた俺は、望月の姿を見失っていた。
でも。
大谷 圭介:
(あそこ……かも)
ちらりとその方向へ目を向ければ、やっぱり花壇前に佇む望月を見つけた。
騒がしい喧騒に背を向けて、花壇を見つめている。
また泣いてやしないかと、俺は慌てて駆け出した。
・ ・ ・
大谷 圭介:
「望月!」
望月 美羽:
「大谷くん」
こちらを見た望月は、泣いていなかった。
名前はわからないが、キレイな赤い花を1輪持って、立っている。
それを両手で折れないように握って、彼女は言った。
望月 美羽:
「当たって……砕けてきちゃった!」
大谷 圭介:
「!」
それはつまり、あの部長とかいうやつに望月は告って、フラれたというわけで。
それなのに、やたらと笑顔な彼女の表情に、俺はぐっと息を飲んだ。
大谷 圭介:
「大丈夫、か?」
なんて、気の利かないセリフを言う。
そんな俺に、望月はにこっと笑った。
望月 美羽:
「だいじょーぶ! 何かスッキリしちゃった」
大谷 圭介:
「そっか……」
いつか思った。
望月の笑顔って、向日葵みたいだなって。
その笑顔を前に俺はもう、卑怯者にはなりたくなかった。
正々堂々と戦いたかった。
でもずるいかな?
失恋したばっかの望月に、こんなこと言うなんて──。
大谷 圭介:
「望月。俺……」
大谷 圭介:
「望月のこと、好きだ」
望月 美羽:
「!」
望月の目が見開く。
俺の握ってる拳も、震えそうになる。
……でも!
俺はもう、誤魔化したりしたくないんだ。
大谷 圭介:
「ずっと、好きだったんだ」
望月 美羽:
「……えっ…と」
大谷 圭介:
「い、今は!」
望月 美羽:
「!」
大谷 圭介:
「今はすぐ、そんなこと考えられないと思うから、まだ返事はいいんだ!」
大谷 圭介:
「でも……」
大谷 圭介:
「好きでいていいか?」
大谷 圭介:
「俺、絶対いい男になって、望月を振り向かせるから!」
最後にはちょっとだけ卑怯者が顔を出して、照れ隠しに笑ってしまった。
でも、言いたいことを全部言い切った俺の心は穏やかだ。
バックンバックン、鳴ってはいるけれど。
望月 美羽:
「………」
望月 美羽:
「大谷くんて、本当におバカ」
大谷 圭介:
「え?」
望月は今、なんて言ったのだろう。
小さすぎて聞こえなかった言葉を隠すように、望月は悪戯っ子のように笑った。
望月 美羽:
「大谷くん、これあげる!」
大谷 圭介:
「へ!?」
突然ずいっと出された花に、面食らう。
差し出されたそれは、望月がずっと握ってたやつだ。
望月 美羽:
「これね、ガーベラっていうの!」
大谷 圭介:
「はぁ」
あの望月サン、返事は……?
なんて言えるはずもなく。
俺はとっさに差し出されたそれを受け取ってしまう。
1輪の凜とした花は、向日葵とはまた違う力強さがあった。
望月 美羽:
「ガーベラはね、私が大好きな花」
望月 美羽:
「花言葉も含めてね」
そう言って笑った望月に、遠くから女の子の声がかかる。
さとみん:
「美羽ー! 集合だってー!」
望月 美羽:
「あ、はーい!」
望月はその声に振り返り、行ってしまおうとする。
ちょ、ちょっと待て!?
と言いたかったけれど。
笑っていた望月が眩しくて。
もらった花は心強くて。
俺はなぜだか、笑顔になっちまって。
去ろうとする望月に叫んだ。
大谷 圭介:
「望月ー! 」
大谷 圭介:
「覚悟しとけよーーー! 」
すると遠くで、望月は振り返る。
望月 美羽:
「しとくー! 」
向日葵笑顔で、答えてくれた。
それは、片想い男の俺にとっては大きな前進。
希望に満ちあふれた、返事だった。
大谷 圭介:
「……はは」
1人、小さく笑う。
胴上げなんかよりもずっと疲れたが、でもすがすがしかった。
俺、頑張ったよな?
望月と、近づけたよな?
もらった花を潰さないように握って、大好きな空をあおいだ。
これで、俺の隠していた片想いはおしまいだ。
これからは、正々堂々と真正面から。
本当に片想いを卒業できるように、頑張ってやる。
だから。
そう。
覚悟しとけよ──望月!
俺は彼女に放った宣誓を、もう一度胸の中で叫んだんだ。
◇ 終わり ◇
❀次エピソードへ続く




