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この空色バス、春先行き。【完結】  作者: 猪野いのり
第一章 ご乗車ください《1年生編》
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Ep.14 ぼくらの卒業 (5・終)「圭介の卒業」

 卒業式当日。

 俺は、むさ苦しい野郎集団の中にいた。

 グラウンドの隅で、サッカー部の卒業生胴上げ祭やらの打ち合わせをしている。


 2年生:

「いいかー、頭側のやつは力あるやつ、背が低いやつと力ねぇやつは足側行けー」


 2年の次期部長が、初めて部長らしく取り仕切る。

 俺は頭側にもちろんなってしまった。中曽根と隼人は足側だ。

 胴上げは、頭から落ちると大惨事となるので、頭側には背があり力の強いやつが担当になるそうだ。


 さすがは伝統文化。妙な取り決めや安全への配慮は、しっかり受け継がれている。


 2年生:

「大谷、お前は捕まえ役もな」


 大谷 圭介:

「何すか、それ」


 2年生:

「胴上げされる人のズボンの腰んとこ捕まえとく役。軽いやつだと、高く上げすぎちまうからさ。ま、他にも何人かいるから、やり方はそいつら見てて」


 大谷 圭介:

「うっす、わかりました!」


 背が高いと、何かと便利に使われる。

 しかしそんな俺は、先輩からの言葉も実は上の空だった。


 気になるのはもちろん、遠くにいる望月──の、告白の行方だったのだから。



❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀


 ぼくらの卒業

(5)「圭介の卒業」


❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀



 胴上げ祭は、意外に楽しくてテンションが上がった。

 校舎から出てきたサッカー部3年生を捕まえさらってきては、持ち上げ靴を脱がせて胴上げする。


 いつもは厳しく頼りある3年生も、胴上げされてるときは無邪気にはしゃいでいた。


 サッカー部一同:

「おめでとーっす! 」


 サッカー部一同:

「わーっしょい! わーっしょい!」


 こんなバカやれるのも、バカばっかのサッカー部の特権だな。俺もその一員だ。


 そうして総勢10人のサッカー部3年生を胴上げし終える頃には、俺たちはヘロヘロになっていた。


 中曽根 悠:

「腕がだりー」


 小池 隼人:

「足、顔に当たっちゃったよ。いたたた」


 そう言う中曽根と隼人も、どこか楽しげだった。

 いつか俺らも、胴上げされる立場になるんだろうな。実感はわかないけれど。


 でも、それよりも。

 ずっと気になっていたのは、ただひとつ。


 大谷 圭介:

(あれ? 望月……いない?)


 さっきまで、緊張した面持ちで花束を持っていたのに。

 胴上げにすっかり夢中になっていた俺は、望月の姿を見失っていた。

 でも。


 大谷 圭介:

(あそこ……かも)


 ちらりとその方向へ目を向ければ、やっぱり花壇前に佇む望月を見つけた。

 騒がしい喧騒に背を向けて、花壇を見つめている。

 また泣いてやしないかと、俺は慌てて駆け出した。



 ・   ・   ・



 大谷 圭介:

「望月!」


 望月 美羽:

「大谷くん」


 こちらを見た望月は、泣いていなかった。

 名前はわからないが、キレイな赤い花を1輪持って、立っている。

 それを両手で折れないように握って、彼女は言った。


 望月 美羽:

「当たって……砕けてきちゃった!」


 大谷 圭介:

「!」


 それはつまり、あの部長とかいうやつに望月は告って、フラれたというわけで。

 それなのに、やたらと笑顔な彼女の表情に、俺はぐっと息を飲んだ。


 大谷 圭介:

「大丈夫、か?」


 なんて、気の利かないセリフを言う。

 そんな俺に、望月はにこっと笑った。


 望月 美羽:

「だいじょーぶ! 何かスッキリしちゃった」


 大谷 圭介:

「そっか……」


 いつか思った。

 望月の笑顔って、向日葵みたいだなって。


 その笑顔を前に俺はもう、卑怯者にはなりたくなかった。

 正々堂々と戦いたかった。


 でもずるいかな?

 失恋したばっかの望月に、こんなこと言うなんて──。


 大谷 圭介:

「望月。俺……」


 大谷 圭介:

「望月のこと、好きだ」


 望月 美羽:

「!」


 望月の目が見開く。

 俺の握ってる拳も、震えそうになる。


 ……でも!


 俺はもう、誤魔化したりしたくないんだ。


 大谷 圭介:

「ずっと、好きだったんだ」


 望月 美羽:

「……えっ…と」


 大谷 圭介:

「い、今は!」


 望月 美羽:

「!」


 大谷 圭介:

「今はすぐ、そんなこと考えられないと思うから、まだ返事はいいんだ!」


 大谷 圭介:

「でも……」


 大谷 圭介:

「好きでいていいか?」


 大谷 圭介:

「俺、絶対いい男になって、望月を振り向かせるから!」


 最後にはちょっとだけ卑怯者が顔を出して、照れ隠しに笑ってしまった。

 でも、言いたいことを全部言い切った俺の心は穏やかだ。

 バックンバックン、鳴ってはいるけれど。


 望月 美羽:

「………」


 望月 美羽:

「大谷くんて、本当におバカ」


 大谷 圭介:

「え?」


 望月は今、なんて言ったのだろう。

 小さすぎて聞こえなかった言葉を隠すように、望月は悪戯っ子のように笑った。


 望月 美羽:

「大谷くん、これあげる!」


 大谷 圭介:

「へ!?」


 突然ずいっと出された花に、面食らう。

 差し出されたそれは、望月がずっと握ってたやつだ。


 望月 美羽:

「これね、ガーベラっていうの!」


 大谷 圭介:

「はぁ」


 あの望月サン、返事は……?


 なんて言えるはずもなく。

 俺はとっさに差し出されたそれを受け取ってしまう。

 1輪の凜とした花は、向日葵とはまた違う力強さがあった。


 望月 美羽:

「ガーベラはね、私が大好きな花」


 望月 美羽:

「花言葉も含めてね」


 そう言って笑った望月に、遠くから女の子の声がかかる。


 さとみん:

「美羽ー! 集合だってー!」


 望月 美羽:

「あ、はーい!」


 望月はその声に振り返り、行ってしまおうとする。


 ちょ、ちょっと待て!?

 と言いたかったけれど。


 笑っていた望月が眩しくて。

 もらった花は心強くて。

 俺はなぜだか、笑顔になっちまって。


 去ろうとする望月に叫んだ。


 大谷 圭介:

「望月ー! 」


 大谷 圭介:

「覚悟しとけよーーー! 」


 すると遠くで、望月は振り返る。


 望月 美羽:

「しとくー! 」


 向日葵笑顔で、答えてくれた。


 それは、片想い男の俺にとっては大きな前進。

 希望に満ちあふれた、返事だった。


 大谷 圭介:

「……はは」


 1人、小さく笑う。

 胴上げなんかよりもずっと疲れたが、でもすがすがしかった。


 俺、頑張ったよな?

 望月と、近づけたよな?


 もらった花を潰さないように握って、大好きな空をあおいだ。


 これで、俺の隠していた片想いはおしまいだ。

 これからは、正々堂々と真正面から。

 本当に片想いを卒業できるように、頑張ってやる。


 だから。

 そう。

 覚悟しとけよ──望月!


 俺は彼女に放った宣誓を、もう一度胸の中で叫んだんだ。




 ◇ 終わり ◇

❀次エピソードへ続く

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