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この空色バス、春先行き。【完結】  作者: 猪野いのり
第一章 ご乗車ください《1年生編》
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Ep.14 ぼくらの卒業(2)「卑怯者の悩み」

 わからん。

 望月の考えがまったくわからん。


 望月 美羽:

「おっはよ~!」


 いつものように、2組に飛び込んできた望月。

 いつものように、戸田と羽鳥の元まで行き。

 いつものように、談話を楽しんでいた。


 あんなことがあった──翌日なのに。


 大谷 圭介:

(もしかして望月……気づいてない?)


 あんなにわかりやすい反応しちまったのに?

 思いっきり好きなやつって言っちまったのに?


 それとも。


 大谷 圭介:

(なかったことに……されてる?)


 その可能性は、いたく俺の気分を落ち込ませた。

 うつむきかけた俺の視線が一瞬、望月とぶつかる。


 大谷 圭介:

「……っ!」


 慌てて目をそらしてしまった。

 望月の顔を、まともに見ることなんてできない。


 小池 隼人:

「どうしたの? ケイちゃん」


 不思議がって見つめてくる隼人に。


 大谷 圭介:

「……別に、何でもねーよ」


 口の中でこもるくらいに、小さく呟いた。


 この日以来。

 俺は花壇にも、足を運べなくなっちまったんだ。



❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀


 ぼくらの卒業

(2)「卑怯者の悩み」


❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀



 思いがけないタイミングで、望月に気持ちがバレちまったバレンタイン。

 あれ以来、望月とは会話ができていない。

 火曜日と木曜日に行っていた花壇への足も遠のく。

 別々のクラス。

 俺が特に動かなければ、接点は自然と消滅してしまう。


 あんなことがあったのに、日常は過ぎていく。

 二月末の期末テストも終わり、在校生は春休みを待つだけの身となった。

 卒業式は1年生は参加せず、2年生が送辞や送り出しの歌を歌う。


 しかし、サッカー部である俺らは、伝統だか恒例だかの「卒業生の胴上げ」をしなければならないらしい。

 卒業式が終わるくらいに、1年生は学校へ出なければならない。


 2年生:

「……てことで、大谷から1年に伝えといて」


 大谷 圭介:

「うっす、わかりました!」


 昼休み、廊下でサッカー部2年生に捕まった俺は、当日の詳細を1年生に伝える司令を受けていた。

 そんなのは2年生が部活中に伝えればいいのに、3年生と比べて怠けがちな2年生は1年生をよくパシらせる。


 あーあ、来年度からはこいつらが頂点になっちまうのか。


 大谷 圭介:

(隼人にでも、協力してもらうか)


 トリオの中で唯一スマホを持っている隼人なら、他の連中にも伝えやすい。

 そんな算段をして、廊下を歩いていたら。


 戸田 るり:

「美羽、卒業式もうすぐだね」


 望月の名前を呼ぶ、クラスメイトの戸田の声が聞こえた。


 大谷 圭介:

「!」


 慌ててその声の出所を探す。

 それは、たまたま通り過ぎようとした家庭科室だった。

 引き戸に少しすき間ができていて、静かな特別教室校舎に中の声がもれている。


 次の授業は家庭科だったから、先に乗り込んでいたのだろうか。

 中にはいつもの3人組である戸田と羽鳥、そして望月がいた。


 望月 美羽:

「ねー、本当に早いよ」


 座って会話している3人。望月の声が聞こえてドキッとした。

 次の羽鳥の発言が、より俺の心を揺さぶる。


 羽鳥 梢:

「先輩への告白、今度こそ頑張ってね!」


 大谷 圭介:

(えっ……)


 ──告白?

 望月が、あいつに……?


 望月 美羽:

「……うん!」


 力強く、でもどこか緊張して響いた望月の声。


 本気なんだ。

 ……そりゃそうか。

 相手が卒業するとなれば、そう決意したっておかしくないんだ。


 望月 美羽:

「本当、玉砕覚悟だけど!」


 大谷 圭介:

「………!」


 明るくも強く言い放つ望月が、眩しかった。

 俺は好きなことがバレただけでこんなに動揺して、無視しているのに。望月は気持ちをぶつけようと決心している。


 これじゃあ、どっちが女々しいのかなんて明白だ。

 うつむく俺。だけど。


 戸田 るり:

「でも、美羽の告白が成功したら、大谷くんが残念がりそうだよね」


 大谷 圭介:

「!?」


 戸田が放ったとんでも発言に、俺はビクッと肩を上がらせた。


 うえええ!?


 羽鳥 梢:

「あ、たしかに! あいつ絶対、美羽のこと好きだよねぇ」


 大谷 圭介:

(ば、バレてた!?)


 続く羽鳥の言葉により、どうやら俺の片想いは周囲にバレバレだったようだと気づく。


 ま、マジか!?

 俺は息を殺して望月の反応を待った。


 望月 美羽:

「やっぱり……そうなのかなぁ」


 大谷 圭介:

「!」


 ぐっと息を飲んだ。


 望月……どう、思ってる……?


 戸田 るり:

「美羽、気づいてたんだ」


 望月 美羽:

「……んー、というか……」


 もしかして、告ったことバラされちまう?

 ハラハラしたが、でも望月はその先をすぐには言わず。


 望月 美羽:

「……今は、先輩のことでいっぱいいっぱいで……よくわかんないよ」


 少し小さくなった声に、つられるように俺も小さく息を吐いた。


 大谷 圭介:

「……」


 俺は静かに、そっと家庭科室から離れた。

 そして特別教室校舎から出ると、ずんずんと足をならして教室へ向かった。


 俺、今、すげぇ卑怯なこと考えてるよ。


 望月が好きな園芸部の部長とやら。

 そいつは、もう卒業しちまうんだろ?


 今はそいつのことで、いっぱいいっぱいだという。

 でも、やつとの決着をつけてくれれば……それなら俺にも、少し希望はあるのかもしれない。


 どうせ、まわりに気持ちはバレちまってんだ。

 アピールしまくれば、望月の気持ちも傾くかもしれない。

 そんなふうに考えちまったんだ。


 大谷 圭介:

(告って……さっさとフラれちまえよ、望月)


 そんな卑怯な考えを頭でいっぱいにさせて、俺は教室へと向かっていた。




 ◇ 続く ◇

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