Ep.14 ぼくらの卒業(2)「卑怯者の悩み」
わからん。
望月の考えがまったくわからん。
望月 美羽:
「おっはよ~!」
いつものように、2組に飛び込んできた望月。
いつものように、戸田と羽鳥の元まで行き。
いつものように、談話を楽しんでいた。
あんなことがあった──翌日なのに。
大谷 圭介:
(もしかして望月……気づいてない?)
あんなにわかりやすい反応しちまったのに?
思いっきり好きなやつって言っちまったのに?
それとも。
大谷 圭介:
(なかったことに……されてる?)
その可能性は、いたく俺の気分を落ち込ませた。
うつむきかけた俺の視線が一瞬、望月とぶつかる。
大谷 圭介:
「……っ!」
慌てて目をそらしてしまった。
望月の顔を、まともに見ることなんてできない。
小池 隼人:
「どうしたの? ケイちゃん」
不思議がって見つめてくる隼人に。
大谷 圭介:
「……別に、何でもねーよ」
口の中でこもるくらいに、小さく呟いた。
この日以来。
俺は花壇にも、足を運べなくなっちまったんだ。
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ぼくらの卒業
(2)「卑怯者の悩み」
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思いがけないタイミングで、望月に気持ちがバレちまったバレンタイン。
あれ以来、望月とは会話ができていない。
火曜日と木曜日に行っていた花壇への足も遠のく。
別々のクラス。
俺が特に動かなければ、接点は自然と消滅してしまう。
あんなことがあったのに、日常は過ぎていく。
二月末の期末テストも終わり、在校生は春休みを待つだけの身となった。
卒業式は1年生は参加せず、2年生が送辞や送り出しの歌を歌う。
しかし、サッカー部である俺らは、伝統だか恒例だかの「卒業生の胴上げ」をしなければならないらしい。
卒業式が終わるくらいに、1年生は学校へ出なければならない。
2年生:
「……てことで、大谷から1年に伝えといて」
大谷 圭介:
「うっす、わかりました!」
昼休み、廊下でサッカー部2年生に捕まった俺は、当日の詳細を1年生に伝える司令を受けていた。
そんなのは2年生が部活中に伝えればいいのに、3年生と比べて怠けがちな2年生は1年生をよくパシらせる。
あーあ、来年度からはこいつらが頂点になっちまうのか。
大谷 圭介:
(隼人にでも、協力してもらうか)
トリオの中で唯一スマホを持っている隼人なら、他の連中にも伝えやすい。
そんな算段をして、廊下を歩いていたら。
戸田 るり:
「美羽、卒業式もうすぐだね」
望月の名前を呼ぶ、クラスメイトの戸田の声が聞こえた。
大谷 圭介:
「!」
慌ててその声の出所を探す。
それは、たまたま通り過ぎようとした家庭科室だった。
引き戸に少しすき間ができていて、静かな特別教室校舎に中の声がもれている。
次の授業は家庭科だったから、先に乗り込んでいたのだろうか。
中にはいつもの3人組である戸田と羽鳥、そして望月がいた。
望月 美羽:
「ねー、本当に早いよ」
座って会話している3人。望月の声が聞こえてドキッとした。
次の羽鳥の発言が、より俺の心を揺さぶる。
羽鳥 梢:
「先輩への告白、今度こそ頑張ってね!」
大谷 圭介:
(えっ……)
──告白?
望月が、あいつに……?
望月 美羽:
「……うん!」
力強く、でもどこか緊張して響いた望月の声。
本気なんだ。
……そりゃそうか。
相手が卒業するとなれば、そう決意したっておかしくないんだ。
望月 美羽:
「本当、玉砕覚悟だけど!」
大谷 圭介:
「………!」
明るくも強く言い放つ望月が、眩しかった。
俺は好きなことがバレただけでこんなに動揺して、無視しているのに。望月は気持ちをぶつけようと決心している。
これじゃあ、どっちが女々しいのかなんて明白だ。
うつむく俺。だけど。
戸田 るり:
「でも、美羽の告白が成功したら、大谷くんが残念がりそうだよね」
大谷 圭介:
「!?」
戸田が放ったとんでも発言に、俺はビクッと肩を上がらせた。
うえええ!?
羽鳥 梢:
「あ、たしかに! あいつ絶対、美羽のこと好きだよねぇ」
大谷 圭介:
(ば、バレてた!?)
続く羽鳥の言葉により、どうやら俺の片想いは周囲にバレバレだったようだと気づく。
ま、マジか!?
俺は息を殺して望月の反応を待った。
望月 美羽:
「やっぱり……そうなのかなぁ」
大谷 圭介:
「!」
ぐっと息を飲んだ。
望月……どう、思ってる……?
戸田 るり:
「美羽、気づいてたんだ」
望月 美羽:
「……んー、というか……」
もしかして、告ったことバラされちまう?
ハラハラしたが、でも望月はその先をすぐには言わず。
望月 美羽:
「……今は、先輩のことでいっぱいいっぱいで……よくわかんないよ」
少し小さくなった声に、つられるように俺も小さく息を吐いた。
大谷 圭介:
「……」
俺は静かに、そっと家庭科室から離れた。
そして特別教室校舎から出ると、ずんずんと足をならして教室へ向かった。
俺、今、すげぇ卑怯なこと考えてるよ。
望月が好きな園芸部の部長とやら。
そいつは、もう卒業しちまうんだろ?
今はそいつのことで、いっぱいいっぱいだという。
でも、やつとの決着をつけてくれれば……それなら俺にも、少し希望はあるのかもしれない。
どうせ、まわりに気持ちはバレちまってんだ。
アピールしまくれば、望月の気持ちも傾くかもしれない。
そんなふうに考えちまったんだ。
大谷 圭介:
(告って……さっさとフラれちまえよ、望月)
そんな卑怯な考えを頭でいっぱいにさせて、俺は教室へと向かっていた。
◇ 続く ◇




