Ep.14 ぼくらの卒業(1)「美羽の戸惑い」
花壇に咲くノースポールが、風に揺れている。
それをぼぉっと見つめていた私。
でも、頭の中ではずっとぐるぐると、あの日の大谷くんの言葉が回っていた。
大谷 圭介:
「好きなやつにもらえりゃ、何でも嬉しいに決まってるし!」
そう言ったあと、顔を真っ赤にして走り去った彼。
その言葉と行動の意味するところを考えると、おのずと出てくる答えに、私の顔も赤くなる。
望月 美羽:
(大谷くんって……私のこと……)
望月美羽、13歳。
片想いは数あれど、片想いされる立場には慣れていなかった。
……ていうか、だって。
大谷くんがそんなふうに思ってたなんて、全然考えたこともなかったし!
望月 美羽:
「あんなの、不意打ちすぎる……」
るりっちと梢ちゃんに怪しまれないように、あれからも朝は2組に顔を出している。
本当は2人に相談しようかなとも思ったけれど、きちんと告白されたわけでもないし、早とちりだったら恥ずかしい。
……というか。
望月 美羽:
(先輩に告白……できなかったなぁ)
その事実もずしんと肩に乗っかり、私はため息をついた。
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ぼくらの卒業
(1)「美羽の戸惑い」
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本来ならばバレンタインの日、花壇を世話した後に、呼んでいた杉野先輩と会って告白するつもりだった。
でも、大谷くんとのことがあってテンパってしまった私には、チョコを渡すことで精一杯だった。
杉野先輩:
「ありがとう、望月」
そう言って、爽やかにチョコレートを受け取ってくれた杉野先輩。
憧れの人が目の前にいるのに、私の頭の中はまだ混乱していて、とても告白できる状態じゃなかったんだ。
望月 美羽:
(はぁ。私って、本当におバカ……)
また、ため息をついた時だった。
藤里先輩:
「こら、望月ー! 話聞いてる!?」
望月 美羽:
「ほへ!?」
突然名前を呼ばれて、ハッと顔を上げた。
今、私は園芸部の部活動中だ。
普段は野外活動ばかりの園芸部だが、今日は空き教室を借りてとある打ち合わせをしている。
黒板の前に立つ2年生の藤里先輩が、私にビシッとチョークを向けていた。
さとみん:
「ほら、次、美羽の番だよ」
隣に座っていた同じ園芸部のさとみんが、教えてくれる。
慌てて席を立った。
望月 美羽:
「はい! 私はガーベラがいいと思います!」
藤里先輩:
「その根拠は!?」
またしても藤里先輩はピシッと差してくる。負けじと私は答える。
望月 美羽:
「ガーベラは色もキレイだし、アレンジにも向いてます! 花言葉も『希望』や『前進』があるので、卒業生にはぴったりかと!」
藤里先輩:
「ふむふむ、なるほど。よろしい、座りなさい」
望月 美羽:
「はいっ」
ホッとして席に座る。
黒板に書かれた「ガーベラ」の下の正の字に、一本線が加わった。
今、園芸部は、卒業する3年生の先輩に贈る花を、何にするのかを決めている最中だ。
毎年園芸部では、在校生の1・2年が3年に対して花を贈るのが、恒例となっている。
黒板の前に立つ藤里先輩は、来年度からの部長ということで、はりきって初仕事となる「3年生へ贈る花を何にするのか」を決めているのだ。
藤里先輩:
「ここまでだと、スイートピーとガーベラが人気か。予算もあるから、どっちかにして、あとはかすみ草で整えたいかなぁ」
藤里先輩はうーむ、と黒板前でうなる。
結局多数決で、私が推したガーベラに決定した。やったね!
藤里先輩:
「じゃあ次は、誰がどの担当になるかを決めよう」
望月 美羽:
(きた!)
私はぐっと身構えた。
園芸部にはもう1つ、恒例となっていることがある。
それは、卒業する3年生それぞれに、花を渡す担当が1年から選抜されることだ。
今回卒業してしまう園芸部の3年生は、5人いる。
私はもちろん、杉野先輩の担当を狙っていた。
が、しかし。
藤里先輩:
「じゃあみんな、くじ引いてー」
望月 美羽:
「え! くじ!?」
突然取り出された四角いティッシュケース箱に、思わず目を丸める。
り、立候補とかじゃないの!?
藤里先輩:
「なに望月、変な声出して」
望月 美羽:
「うう……何でもないです」
しゅんとした私は、テンション低くまわってきたティッシュ箱のくじを引く。
どうか、杉野先輩に当たりますように……!
持った1枚の切れ端をぎゅっと握ったとき、隣に座っていたさとみんが私の肘をちょんちょんと突ついてきた。
まわりに聞こえないような声で、そっと言う。
さとみん:
(美羽、私のと交換しよ)
望月 美羽:
(え?)
戸惑う私にさとみんは、膝の上でちらりと自分のくじを見せてくれた。そこに書かれた「杉野先輩」という文字。
……さ、さとみん天使!!
持つべきものは恋愛話ができ、強運を持つ友人だと、目を輝かせた。
・ ・ ・
さとみん:
「美羽、よかったね。杉野先輩の担当になれて」
望月 美羽:
「うう、さとみんのおかげだよ! 本当に感謝!」
部活での打ち合わせが終わった私たちは、帰宅するために校舎の廊下を歩いていた。
早めの解散だったので、他の部活をしている生徒は多く学校にいて、まだ学校全体はにぎやかだ。
さとみん:
「だってあそこで私がなったら、美羽に恨まれそうだし」
望月 美羽:
「そんなことないよ! さとみん大好きだもんっ」
4組のさとみんは、園芸部で知り合った友達だ。
のほほんとしているように見えてしっかりしているさとみんは、ちょっとるりっちに似ている。
るりっちや梢ちゃん、杉野先輩といい、私はどうやらしっかり者さんが好きみたいだ。
望月 美羽:
(……大谷くんは、おっちょこちょいさんかなぁ)
なんてふと、考えたとき。
大谷 圭介:
「おーい投げるぞ-! バックバーック!」
望月 美羽:
「!?」
突然聞こえた大谷くんの声に、私は慌てた。
それは2階廊下の窓の向こうから飛び込んできた、部活中の大谷くんの声だった。
サッカーゴール前で一人立つ彼は、ボールを抱えてもう片方の手を振り回している。
ボールを両手でしっかり持つと、大きく背中をしならせ放り投げる。
そのボールは、高く孤を描いてチームメイトの元まで届いて落ちた。
望月 美羽:
(すごいなぁ)
あんなに遠くに投げられるなんてすごいな、と感心していたら。
大谷くんと、目が合った。
大谷 圭介:
「!」
私がここにいたことにビックリしたのか、大谷くんの目は一瞬見開き──そらされる。
望月 美羽:
「……」
私も、窓から目をそらした。
大谷くんは、あれ以来妙によそよそしい。花壇にも全然来てくれない。
それがちょっと何だか、寂しくて悔しかった。
◇ 続く ◇




