Ep.13 バレンタイン・セプテット(7・終)「圭介の場合」
片想いする男子にとってバレンタインは、運命の分かれ道である。
自分は相手にとって、まったく眼中にない存在なのか。
まだまだ友達の枠なのか。
少しでも希望はある位置なのか。
それがなんとなく、感じ取れてしまう日なのである。
些細なことで一喜一憂。
当日までの思いは一日千秋。
さて、あの子のバレンタインは、どうなっていることやら。
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バレンタイン・セプテット
(7)「圭介の場合」
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俺、大谷圭介は朝から浮かれていた。
大谷 圭介:
「ふっふっふっ……」
小さな笑みがこぼれる。
大谷 圭介:
(望月からのチョコ……ゲットだぜ!!)
まさか朝一にもらえるなんて、ついている。
いつもより早く登校していてよかったと、心から思う。
今日はバレンタイン。
本命相手からもらえた俺には、もう怖いものなんてないのだ!
まぁ、一緒にいた隼人もまったく同じラッピングだったけど。
友チョコ配りに行った望月が持ってたのと、同じやつだけど。
そんなのは関係ないのだ!
中曽根 悠:
「何、にやにやしてんだよ」
遅く登校してきた中曽根が、そんな俺を不審がって見てくる。
大谷 圭介:
「うるせえ、このモテ男が!」
クッ……リア充かつ(なぜか)モテる中曽根にはわかるまい。
机に入っていたチョコを面倒くさそうにカバンに放るやつには、片想い男が今日どんな気持ちで挑んでいるのかなんて、理解できないのだ。
──しかし許してやろう、中曽根クン。俺は今、機嫌がいいのだ。
大谷 圭介:
(ふっふっふっ…)
そわそわ。そわそわ。
大谷 圭介:
「……」
大谷 圭介:
(ど、どんなチョコかな)
我慢できず、望月からのチョコの袋をのぞく。
日曜日に、偶然スーパーで望月と会っていた。
彼女がどんなバレンタインの準備をしていたか知っている俺は、ある程度の予想をしていたのだけれど。
……が、しかし。
大谷 圭介:
(……あれ?)
中身を見て、目を丸めた。
見たことのあるビスケットに、チョコをコーティングしたそれ。カラフルな小さいチョコがちりばめられて、さらにはチョコペンで可愛いイラストなんかが描かれている。
いわゆる、市販お菓子のアレンジチョコだ。
大谷 圭介:
(でも望月、あの日……)
手にしていた、チョコレートキット。
そのパッケージに載っていたチョコの写真ともらったやつとは、どう比べても同じじゃない。
その意味は、おのずと導き出される。
大谷 圭介:
「……ちぇ 」
悔しく感じた俺は、誰にも拾われないように呟いた。
・ ・ ・
授業にも身が入らず、ぼんやりと教科書を眺める。
鎌倉幕府が開かれたのが、いい国でもいい箱でも、俺には関係なかった。
考えているのは、望月のチョコの行方だ。
大谷 圭介:
(……やっぱり、あの杉野とかいうやつに、あげるんだろうな)
夏祭りで見たことがあった、望月の想い人。
2つ年上の園芸部の部長とやらは、落ち着いた物腰眼鏡男で、俺とはタイプが全然違う。
大谷 圭介:
(あーんなヒョロ眼鏡の、何がいいんだか)
ケッ、と吐き捨てる黒い感情は、望月に絶対バレてほしくない。
男の嫉妬ほどみっともないもんはねぇ。
ダチには見せられない情けない姿を隠すように机へふせた俺に、社会科教師の怒声が飛んできた。
・ ・ ・
しかし、そんなことでいちいちへこたれていては片想い男は務まらないのだ!
放課後、俺はまた意気揚々と、部活前の花壇へと足を向けた。
火曜日だから、今日望月は一人でいるはず。
いつものように花壇前を通ると、やはりジャージ姿の望月が花壇前にしゃがみ込んでいた。
大谷 圭介:
「うっす! 望月」
望月 美羽:
「あ、大谷くん! うっす!」
いつもの挨拶をすると、望月も可愛く真似して返してくれる。
俺の今までの努力も無駄ではない。
大谷 圭介:
「今日はチョコ、ありがとな」
あらためてお礼を伝える。
女には褒め言葉と感謝を常に伝えろというのが、片想い師匠父ちゃん直々の教えである。
望月 美羽:
「あ、そうそう。それなんだけどね」
大谷 圭介:
「ん?」
望月は立ち上がると、何やらジャージの上着のポケットに手を突っ込んだ。
ガサリという音を立てて、何かを差し出してくる。
望月 美羽:
「はい! 大谷くんへのおまけチョコだよ!」
大谷 圭介:
「へっ!?」
望月が俺に差し出したのは、透明のラッピング袋だった。
中には小さな丸いチョコが、サッカーボール模様のアルミ包装に包まれ5つほど入っている。
それが、望月のちっこい手から俺の戸惑う手に渡った。
大谷 圭介:
「望月、これ……?」
望月 美羽:
「ほら。大谷くん小さいのじゃ足んないって言ってたから、特別にね」
望月 美羽:
「それに大谷くんとは去年、いろいろお話したし。日頃の感謝も込めて」
大谷 圭介:
「……!」
スーパーでの、何でもない俺の言葉を覚えてくれていたこと。
花壇での会話に、望月も何かしら思ってくれていたこと。
サッカー部の俺のために、サッカーボール模様のチョコを用意してくれたこと。
──特別と言ってくれたこと。
それらすべてが嬉しくて、嬉しくて。
俺は顔が壊れてしまうんじゃないかってくらい、めちゃくちゃ笑っちまったんだ。
大谷 圭介:
「うわ、まじ……まじ嬉しい! サンキュー、望月!!」
望月 美羽:
「えへへ。喜んでもらえてなによりだよ」
望月 美羽:
「てか、そんなに嬉しい?」
当たり前なことを望月は聞く。
有頂天な俺は、当然とばかりに大きく頷いた。
大谷 圭介:
「あったり前だろー。好きなやつにもらえりゃ、何でも嬉しいに決まってるし!」
望月 美羽:
「へー」
望月 美羽:
「……え?」
大谷 圭介:
(ん?)
あれ。
なんか俺、今。
サラリとすごいこと、言っちまったような気が……。
「好きなやつにもらえりゃ、何でも嬉しいに決まってるし」
「好きなやつにもらえりゃ、何でも嬉しいに決まってるし」
「好きなやつにもらえりゃ、何でも嬉しいに決まってるし」
「好きなやつにもらえりゃ──」
大谷 圭介:
「!!!!」
あああああーーー!!?
大谷 圭介:
「……っや、これは、いや、あの……!!」
望月 美羽:
「…………」
大谷 圭介:
「そ……の…… 」
大谷 圭介:
「し………」
大谷 圭介:
「失礼しましたー!! 」
望月 美羽:
「あ、大谷くん!?」
猛ダッシュを決め込んで、俺は花壇を後にした。
何してんの。
何してんの。
何してんの、俺!?
たぶん、今俺の頭にヤカンを置いたら、お湯なんてすぐにできちまう。
それぐらい真っ赤になって、グラウンド横を走り抜けた。
大谷 圭介:
(どさくさに紛れて、告白……しちまった!!)
史上最悪の大まぬけ野郎だ!
バレンタインチョコに浮かれて俺は阿呆か!!
その日、部活になんか到底出られるメンタルではなくなって、初めて仮病を使ってサッカー部を休んだ。
腹じゃなくて、本当に悪いのは頭と要領だと──家に帰ってから、うなだれた。
・ ・ ・
バレンタイン。
女の子も男の子も心躍る、そんな1日。
でもどうやら、あの子は違う意味で躍ってしまったようだね?
今後どうなっていくのかは、神のみぞ知るのみか。
はてさて、それはさておき。
これにて、バレンタインのお話はおしまいだ。
だから、最後に言っておこう。
*・゜゜・*:.。..。.:*・゜
Happy valentine's day !
*・゜゜・*:.。..。.:*・゜
◇ 終わり ◇
❀次エピソードへ続く




