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Ep.13 バレンタイン・セプテット(6)「隼人の場合」

バレンタインといえば、甘い甘いチョコレート。

口の中で甘くとろける魅惑的な味は、大勢の者を虜にする。


……が、しかし。


中には、甘いものが苦手な者もいるようだ。

あの子はもらう甘いチョコレートに、何を思うのだろうか?



❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀


バレンタイン・セプテット

(6)「隼人の場合」


❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀



僕、小池隼人は、教室にて朝からあからさまな義理チョコを受け取っていた。


望月 美羽:

「はい2人とも! ハッピーバレンタイン!」


小池 隼人:

「ありがとう、望月さん」


隣のクラスの望月さんは、いつも通り2組にやって来ると、僕とケイちゃんにチョコをくれた。


ああ、望月さん。

ケイちゃんにだけでいいのに……と思いつつ隣を見たら、ケイちゃんは特に気にしていないように笑っている。


大谷 圭介:

「サンキュー、望月! これで親を泣かせずにすむぜ」


望月 美羽:

「あはは、それはなにより!」


小池 隼人:

(ほっ……よかった)


ケイちゃんは望月さんが好きだから、僕も同じチョコを受け取ったら悪いような気がしていた。

でも、楽しそうに話す2人を見て安心する。


望月さんはその後、戸田さんたちを引き連れて教室を出ていった。

友チョコ交換会をしに行くらしい。


小池 隼人:

「女の子は大変だねぇ」


大谷 圭介:

「そっか? 楽しんでるんだろ」


そう言いつつケイちゃんは、うきうきともらったチョコを眺めていた。

わかりやすいなぁ、まったく。


大谷 圭介:

「にしても隼人さ、今年はどうすんの?」


小池 隼人:

「え?」


大谷 圭介:

「チョコ。また甘いのばっかなら、俺が食ってやろうか」


小池 隼人:

「んんー。まぁ、まだもらったのこれだけだし」


何の話かというと、じつは僕、甘いチョコレートが少し苦手なのだ。

別に食べられないわけじゃないんだけど、どちらかというとビターなチョコが好きだ。

でも、バレンタインでもらうチョコは大体甘い。

小学5年生のときに、無理してもらった甘いチョコを全部食べたら気持ち悪くなって、6年生のときはケイちゃんにあげちゃったんだ。


小池 隼人:

「あ、でも望月さんのだから、やっぱりケイちゃんにあげようかな」


大谷 圭介:

「は? 別にそういう意味じゃねーし! 俺は、お前が甘いの苦手だから、手伝ってやろうと思ってだなぁ…」


照れて慌てるケイちゃんが、声を張り上げた時だった。


松宮 茜:

「えっ」


小池 隼人:

(ん?)


小さな声に、僕は振り返った。

そこにはちょうど登校してきた松宮さんが、カバンを握りしめ席に着くところだ。

あ、そっか。ここ、松宮さんの席の近くなんだ。


小池 隼人:

「おはよう、松宮さん」


松宮 茜:

「あ、おは、おはよう……」


松宮さんは、なぜか目を泳がせて机に荷物を置く。

その時クシャリと、松宮さんのカバンの中からビニールの音が聞こえた。


小池 隼人:

(……ん? ……チョコかな)


なんとなく、そう直感した。

今日この日に、女の子が大量の荷物を持ってきたり、箱らしき形をカバンから浮き出させるのは毎年のことだから。


小池 隼人:

(そっか……松宮さんも、誰かに渡すよね)


望月さんみたいな義理チョコか、戸田さんみたいな友チョコか。


──きっとそうだろう、と、ぼんやり思った。



・   ・   ・



今日の部活帰り、僕は一人きりで歩いていた。

悠くんは戸田さんと帰るために真っ先に行ってしまうし、ケイちゃんは突然お腹が痛いとか言って、サッカー部を休んでしまった。


2人ともやけにそわそわしちゃって……なんだか今日は、変な日だ。

やっぱり、バレンタインだから?


そんな僕のカバンには、義理チョコが4つほど入っている。

望月さんからのと、悠くんのついでに渡されたようなの2つと、委員会の先輩からだ。


小池 隼人:

(お腹、すいたなぁ)


それでも、もらったチョコにはなんとなく手をつける気にはならない。やっぱりちょっと、ケイちゃんにあげればよかったかな。


そんなことを考えていたら、ふと前方を歩く人影に気がついた。

見覚えのあるショートカットヘアの女の子の後ろ姿。松宮さんだ。

僕は、彼女の背後に近づいた。


松宮 茜:

「……はぁ。やっぱり甘いよなぁ。これ」


そんな彼女の独り言と、ガサリと鳴るビニールの音が聞こえる。

僕はポン、と肩をたたいた。


小池 隼人:

「松宮さん!」


松宮 茜:

「うわ!? 」


跳ねたんじゃないかと思うくらい、松宮さんはびっくりした。

わわ、驚かせちゃったかな。


小池 隼人:

「あ、ごめん。ビックリさせちゃった?」


松宮 茜:

「あ、いや、だ……大丈夫……」


慌てる松宮さんの手には、透明のビニール袋があった。

ラッピング用の模様がついた可愛らしいやつだ。


小池 隼人:

「あ、チョコ」


松宮 茜:

「! 」


僕の視線に、松宮さんがうつむいた。


松宮 茜:

「あ、えっと……これ、失敗作なんだ!」


彼女はその袋を、僕から隠すみたいに両手で握りしめた。

キャンディみたいに棒に刺さった丸いチョコに、カラフルな色のチョコが散りばめているものがいくつか入っていた。

とても、失敗作になんて見えなかった。


小池 隼人:

「え? そうは見えないけど……」


小池 隼人:

「ていうか、それ松宮さんの手作りなんだ? すごいね!」


松宮 茜:

「う……うん」


松宮さんは以前、隣の席だった。

そのときに、料理が苦手だなんて友達と話していたのを僕は聞いていた。


そんな松宮さんが、こんなに可愛らしいチョコを作っていたなんてちょっと意外。

でも失敗作だなんて言って俯いてる彼女は、もしかしたら自分に厳しいタイプなのかな。

もったいない。

こんなに素敵なチョコなのに。


小池 隼人:

「それ、どうするの?」


松宮 茜:

「ど……どうって」


松宮さんは、ふにゃりと眉を下げた。


松宮 茜:

「どうしよう」


小池 隼人:

「………」


なんでかな。

いつも気丈な松宮さんが、妙に情けなくも眉を下げるもんだから、僕は微笑ましくなってしまった。


その手にある、失敗チョコがほしくなった。


小池 隼人:

「じゃあ、僕にくれない?」


松宮 茜:

「……え!?」


小池 隼人:

「今、お腹すいてるんだ。食べたいな」


松宮 茜:

「で、でも……!」


松宮さんは、声を裏返しそうなくらい慌てている。


松宮 茜:

「これ甘いよ!? 甘いチョコだよ!?」


小池 隼人:

「チョコが甘いのは、当たり前だよ?」


松宮 茜:

「え……いや、そうだけど……」


変な松宮さん。

彼女は握っていた袋の手を少し緩めて、ゆっくりと僕に寄せてくれた。

やっぱり可愛いチョコだ。


松宮 茜:

「小池くんが……いいなら」


ガサリ、とその袋は僕の手に渡った。


小池 隼人:

「へへ。ありがとう」


催促してしまって申し訳ないなと思いつつも、喜んで受け取ってしまう。

どうしてだろう。

甘いチョコは苦手なはずなのに。

でも、松宮さんが失敗作と言ったそのチョコが、行き場をなくしているのかと思ったら、それが僕のだったらいいのにな……なんて思ってしまった。


さっそく、一個取り出して食べてみた。

それはやっぱりミルクチョコレートで、とても甘い。


松宮 茜:

「……だ、大丈夫?」


松宮さんが、僕の顔を覗いてくる。

僕よりちょっと背が高い彼女は、やや首を傾けている。


小池 隼人:

「うん。おいしいよ」


僕は正直に答えた。

本当においしかったんだ。

とっても甘かったけど。

慣れない甘さだったけど。

このチョコの甘さはなんでだろう。苦手には思えない。


小池 隼人:

「甘くておいしい」


僕がそう言ったら、松宮さんは柔らかく息を吐いた。


松宮 茜:

「そっか……」


松宮 茜:

「よかった……」


その息は、ホワイトチョコのように真っ白で。

口の中でとろけるチョコのように、空気に溶けて消える。


それを見て僕は、キレイだな、なんて。またぼんやりと思ったんだ。




◇ 圭介編へ続く ◇

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