Ep.13 バレンタイン・セプテット(3)「梢の場合」
色恋がどうしても絡んでくる、バレンタイン。
しかし、何もバレンタインに女の子全員が、そわそわしているわけではない。
中には我関せずとなる者も、もちろんいる。
それはまだ幼いゆえの無関心か。
ただの性質によるふるまいか。
あの子の場合は、どちらだろうか。
──どちらも、かもしれない。
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バレンタイン・セプテット
(3)「梢の場合」
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松宮 茜:
「もうすぐ、バレンタインだね」
羽鳥 梢:
「え、あー……うん」
私、羽鳥梢は、友人である松宮茜ちゃんのその言葉に少なからずびっくりした。
部活の帰り、偶然茜ちゃんと一緒になったんだけれど、そんな話題が出てくるとは思わなかった。
だって茜ちゃんて、そんなバレンタインに興味あるように見えなかったのに。
それなのに彼女は、どことなくそわそわした様子で、その話題を続ける。
松宮 茜:
「いや、詩音たちが話しててさ。うちのクラスの男子って、誰が人気なのかなーって」
羽鳥 梢:
「んー、うちのクラスー?」
とりあえず私は、クラスメイト男子を一人ひとり思い浮かべようとする。
が、茜ちゃんはどこか慌てた様子で、すぐに言葉を続けた。
松宮 茜:
「あ、あの大中小トリオとかどーなんだろ? 人気あるのかな?」
大中小トリオとは、うちのクラスの大谷と中曽根と小池くんのことである。
苗字そのままに身長を並べる彼らは、騒がしくて賑やかだ。3人とも、私と同じ南小出身だからよく知っていた。
羽鳥 梢:
「あー、あの3人?まぁ、中曽根はいっぱい貰いそうだよね」
彼女であるるりには申し訳ないが、どうしてもそう予測できてしまう。
顔も運動神経も良く人懐っこい中曽根は、小学校時代からモテていた。
中学になってもそれは変わらず、彼女ができたことが認知されていても隠れファンがいるのは、ちらほら聞いたことがある。
これは、るりに内緒にしているけれど。
松宮 茜:
「だよね。……あとの2人はどうなんだろ?」
羽鳥 梢:
「んー、大谷はモテないけど、義理なら恵んであげる子、そこそこいそうだよねー」
松宮 茜:
「そ、そっか。……な、ならさ」
茜ちゃんがコクリと唾を飲んだ。気がした。
松宮 茜:
「小池くんはどうなんだろ?」
羽鳥 梢:
「…………」
羽鳥 梢:
「ははーん、そういうことか」
松宮 茜:
「! 」
思わずニヤリと笑ってしまった私に、茜ちゃんは真っ赤になった。
うわぁ、めずらしい!
羽鳥 梢:
「小池くんは隠れモテっ子よー?
なんせ、お姉様たちが放っておかないから。茜ちゃん、頑張らないと〜」
松宮 茜:
「なっ……違う! 羽鳥!!」
親友2人が恋愛中のせいか、私は人の恋模様にすごく敏感だ。
茜ちゃんが、誰の情報を私から引き出したかったのかなんて、見ていればすぐにわかる。
そういえば茜ちゃん、二学期に小池くんに、森くんたちからかばってもらってたっけ。
そりゃあ惚れますよ。
やるね、小池くん!
松宮 茜:
「ち、違うからね!? これはあくまで、市場調査というやつで……」
羽鳥 梢:
「はいはい、わかったわかった」
松宮 茜:
「……絶対わかってないだろ」
変な言い訳をする茜ちゃんは、すっかり恋する乙女だ。
ああ、あっちでも恋。こっちでも恋。
やれやれと私は肩をすくめた。
・ ・ ・
バレンタイン当日は、私にとって他の平日と何ら変わらない。
友チョコを交換し合って、たくさんチョコを食べる日。
手作りチョコは作ったけれど、それははりきるお母さんに付き合ってだ。
それは、お父さんと妹の芽衣にあげた。
──そして。
お母さん:
「あれ? 梢、ひとつ余ってるわよ?」
お母さんが、私の手作りチョコの余りを発見してしまった。
リビングテーブルに置いてあったチョコを包んだ透明袋。
そこには、星型のアルミカップに収まったカラフルなチョコが2つ入っている。
羽鳥 梢:
「あ、それ私の」
お母さん:
「え?」
羽鳥 梢:
「自分用のチョコだよ。あとで部屋でゆっくり食べるんだ〜」
そう言って笑ったら、お母さんはなぜか顔を崩す。
お母さん:
「好きな男の子に渡せなかった、とかじゃないの!?」
羽鳥 梢:
「何を期待してるの。そんなわけないじゃん」
お母さん:
「ダメよ! 女の子がそんなんじゃあ! お母さん悲しい……!」
よよよ、とわざとらしく嘆くお母さんに。
羽鳥 梢:
「はいはい」
と私は呆れて、チョコを持って自分の部屋に向かった。
芽衣は先に寝ていて、芋虫のように布団にくるまっている。
そんな芽衣に気付かれないよう、足音静かに窓へと近づく。
カーテンを開けると、2月の冬空に星々が散らばっているのが見える。
私はその星を眺めながら、袋からチョコレートを取り出した。
星型から外し小さく噛む。
甘いチョコが口の中に溶けて、美味しかった。
羽鳥 梢:
「…………」
羽鳥 梢:
「……美味しいでしょ? 梢平お兄ちゃん」
小さく呟く。
私の大好きなお兄ちゃん。
私の名前は、お兄ちゃんからもらった。
だから、私の中にお兄ちゃんがいる気がして。
こうして私がチョコを食べれば、お兄ちゃんに届けられる気がした。
羽鳥 梢:
(私……)
羽鳥 梢:
(絶対、ブラコンになってたんだろうなぁ)
残りひとつも口に放り、ころころ舐めて溶かす。
なめらかなチョコレートは、いつの日にか現れてくれたお兄ちゃんのように、私に甘かった。
その味は、ちょっとだけ切ない苦さを残して、すぐに消えた。
◇ 先生編へ続く ◇




