↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この空色バス、春先行き。【完結】  作者: 猪野いのり
第一章 ご乗車ください《1年生編》
PR
60/273

Ep.12 冬の足音(4)「変化の気配」

 散々だったクリスマスが終わると、私はようやく冬休みらしい冬休みを過ごすことができた。


 美羽や梢ちゃんと遊んで初デート失敗のことを報告したり、塾にギリギリまで通ったり、宿題を片付けたり。


 年末には、普段あまり観ないテレビも観て、面白いバラエティ番組に笑った。

 お正月は、親戚のお家への挨拶まわりに連れられて、お年玉もちゃっかりもらった。

 お母さんの用意してくれたおせちを食べて、来年は私もお手伝いすることを約束した。


 そんな、いつもどおりの冬休みだった。



❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀


 冬の足音

(4)「変化の気配」


❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀



 冬休みが明けて、新学期。

 私は大いなる決意を胸にし、久しぶりの制服に腕を通した。

 ひんやりとする冷たい衣に、冬の厳しさを感じる。


 戸田 るり:

(朝一で、中曽根に謝る!)


 それが、新年最初の目標となってしまった。

 登校時の寒さに耐えられるように、ダッフルコートとマフラー、手袋を身にまとう。


 戸田 るり:

「行ってきまーす!」


 大きな声を出して、気合いを入れた。



 ・   ・   ・



 案の定というか、いつもどおりというか、やはり中曽根は、始業前ぎりぎりに登校してきた。

 それまで梢ちゃんと美羽とおしゃべりしていた私は、2人に一言告げてから中曽根の机へ出向く。


 戸田 るり:

「おはよう、中曽根!あけましておめでとう!」


 中曽根 悠:

「おっ、あけおめ! 久しぶりだな」


 近づいた中曽根は、冬休み中に髪を切ったのか、少し短くなっていた。

 そんな髪型もちょっとかっこいいなぁ、なんて思ってしまう。


 いやいや、それよりも今は、先に思うべきことがあるでしょう!


 戸田 るり:

「えっと、この間はごめんね」


 中曽根 悠:

「ああ、風邪なら仕方ねーよ。気にすんな」


 違うんです。

 それだけじゃないんです。


 戸田 るり:

「あの、それもだけど……電話。……私、寝ちゃって」


 中曽根 悠:

「……あ、ああ」


 中曽根は私の言いたいことを察して、少し態度を変えた。

 首元らへんをポリポリかき、視線をずらす。

 その態度に嫌な予感がして、ハッと中曽根を見上げた。


 戸田 るり:

「わ、私、いびきとか寝言とかしてなかった!?」


 中曽根 悠:

「え? あー……うん」


 なんだか、歯切れの悪い中曽根。

 一瞬の間をおいて言われたのは、次の台詞だった。


 中曽根 悠:

「言ってた言ってた!『おモチ食べたーい』って」


 戸田 るり:

「え!?」


 驚いた私に、ニヤリと笑う中曽根。

 すぐに冗談だとわかった。


 戸田 るり:

「こら! 中曽根!!」


 中曽根 悠:

「いてて、ジョークでしょ、ジョーク!」


 肩をバシバシ叩く私に、中曽根が笑う。

 背後から、中曽根よりもさらに遅れて登校してきた大谷くんと小池くんの声が聞こえた。


 大谷 圭介:

「かー、新年から見せつけてくれんなよ、御両人」


 小池 隼人:

「おはよう、2人とも」


 中曽根 悠:

「あ、大谷に小池。おはよ」


 戸田 るり:

「おはよう」


 慌てて2人に挨拶をした。

 中曽根は、大谷くんと小池くんのところに行こうと動き出す。

 私も梢ちゃんたちの方へ戻ろうと振り返った。

 でもその時、中曽根が私を呼び止める。


 中曽根 悠:

「あ、戸田。今日一緒に帰ろう」


 戸田 るり:

「え?」


 中曽根 悠:

「今日、部活ないだろ?」


 戸田 るり:

「うん」


 じゃあ決まりだな、なんて中曽根は私の返事も聞かずに言う。

 部活後に待ち合わせて帰ることがあっても、こんな何もない日に、一緒に帰ることを約束するのはめずらしかった。


 だって、始業式後の帰り道なんて、他の下校してる子もいっぱいいるから。

 人目を気にして、嫌かと思っていたのに。


 戸田 るり:

(中曽根やっぱり、ちょっと変わった……?)


 冬休み前に感じた、ほんのちょっとの彼の変化。

 それを改めて感じ取って、私は小さな動揺を隠すように、胸元に手を当てた。



 ・   ・   ・



 帰りの連絡事項も終了すると、学級委員の挨拶で生徒たちは解散となる。

 始業式後の生徒たちは、まだ休み気分が抜けきっていない様子で、おのおのこれからどう過ごすかを楽しそうに相談し合っている。


 そんな中、私と中曽根は一緒に教室を出た。

 クラスメイトの一部は、私たちを見て何か話していたけれど、もうこの際気にせずに教室を出る。

 梢ちゃんの笑顔の「バイバイ」だけが、私の味方だった。


 しばらく歩くと、中曽根が言った。


 中曽根 悠:

「ちょっと寄り道しない?」


 戸田 るり:

「いいけど、どこに?」


 中曽根 悠:

「神社。初詣しようぜ」


 中曽根にしては、素敵な提案をしてくれる。

 もしかしたら、初デートの埋め合わせをしてくれようとしているのかな。

 私は嬉しくなって、すぐに答えた。


 戸田 るり:

「うん!」


 私たちは、姫泣神社へ向かった。

 冬休み明け、しかもお昼時の神社に初詣をしている人は少なかった。

 手水舎《ちょうずや》で冷たい冷たいと言いながら手を洗い、2人で奥へと進み参拝に向かう。

 互いに五円玉を賽銭箱へ入れて、鈴を2人で鳴らした。


 中曽根 悠:

「手を叩くのって1回? 2回?」


 戸田 るり:

「二礼二拍手、一礼だよ」


 中曽根 悠:

「お? おっけー!」


 よくわかってない様子の中曽根は、私のしたことを真似てお願いをした。

 じつは、年明けてすぐに家族と初詣行ってたから、答えられただけなんだけどね。


 私は目を閉じて、必死にお願いした。


 戸田 るり:

(今年は、健康に過ごせますように)


 戸田 るり:

(家族や友達と、笑って過ごせますように)


 戸田 るり:

(あと……中曽根とも、いっぱい笑って過ごせますように!)


 なんて、たった1枚の五円玉にのせた願い事はあまりに多すぎて。

 たぶん神様も、苦笑してるんだろうなぁと思ってしまった。


 願い事を終えた私は、目を開け一礼すると横にいる中曽根を見た。

 彼はまだ私より長く、目を閉じて祈っている。


 戸田 るり:

(何を願ってるのかなぁ)


 見つめていると、ふと気がついた。


 戸田 るり:

(あ……)


 戸田 るり:

(背、高くなってる)


 中曽根への視線が、冬休み前よりも上がってしまった。

 前は私とそんなに差がなかったのに、今は明らかな身長差が、私たちの間にできている。


 ぴゅう、と木枯らしが吹いて、中曽根の短い髪が揺れた。

 彼は目をようやく開けて、こちらを見て笑った。


 中曽根 悠:

「よし、行くか」


 戸田 るり:

「……うん」


 いつもどおりのはずなのに、ちょっと違う。

 季節のように、気づきにくい変化が訪れている。


 それはまるで、冬の足音のように静かで。

 積雪の足跡のように、しっかりと。


 確実に私たちの間に、何かを残していた。




 ◇ 続く ◇

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。