Ep.12 冬の足音(2)「聞きなれない声」
えーん えーん
どこかで、子どもの泣き声が聞こえる。
あれは私の声だ。
幼稚園で泣いていた、幼い私。
な、泣くなよー
私を泣かせた本人がそんなことを言うもんだから、私は余計に泣いてしまった。
お気に入りのリボンの髪ゴム。
それをこの子に引っ張られて、壊されてしまったからだ。
えーん、
ゆうくんなんて大っきらい!
──ゆうくん?
私そう言っていたの?
誰のことを、そう呼んでいたのかなぁ……?
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冬の足音
(2)「聞きなれない声」
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戸田 るり:
「う……ん」
ふわふわした心地で、目が覚めた。
なのにとたんに頭がクラクラして、まだ熱があることを自覚する。
何か夢を見ていた気がするのに、目覚めたとたんに、それはどこかへ行って消えてしまった。
ベッドのそばに置いていたスマホを見ると、時刻は午後17時。
あれからだいぶ寝てしまったんだと気がつく。
戸田 るり:
(熱……下がってないかな)
少しだけの希望を持って、体温計で熱を測る。
しかし、最新式のデジタル体温計はすぐに高い数値を弾き出してしまった。
38.3度……まったく下がっていない。
戸田 るり:
「…………」
戸田 るり:
「……連絡、しなくちゃ」
どうあがいても明日、中曽根と映画を観に行くのは無理だった。
ギリギリまで粘ってみたけれど、これ以上連絡を遅らせてしまったら、彼に迷惑がかかってしまう。
泣きたい気持ちを抑えて、手帳に挟んだ例のメモを取り出した。
戸田 るり:
(こんなふうにこのメモが役立つなんて、やだなぁ)
万が一の時のために、交換した電話番号。
役に立たないほうがよかったのにと、私はため息をついた。
電話のアプリを立ち上げて番号をタップする。
人の家へ電話をかける時の作法は、お母さんにさんざん教え込まれた。
そういったことに厳しいんだ、うちのお母さん。
でもやっぱり電話というものは緊張する。
「Trrrr…」と鳴り響く音を聞きながら、じっと出てくれるのを待つ。
けっこうなコール音が鳴ったあとに、やっと誰かが出てくれた。
?:
「はい」
聞きなれない、落ち着いた声だった。
でもそれだけしか相手は言わなかったので、私は勇気を出しておずおずと言った。
寝起きで声を久々に出したから、声は少し掠れている。
戸田 るり:
「あ、あの。中曽根さんのお宅でしょうか」
?:
「……はい」
戸田 るり:
「私、戸田と申します。……悠くん、いますか?」
?:
「──え!?」
ん?
中曽根 悠:
「……俺、だけど。……戸田?」
戸田 るり:
「あ、中曽根!?」
よかった、本人が出てくれたんだ!
家族の人が出なくてよかったと胸をなでおろして、私は言葉を続けた。
戸田 るり:
「あ、あの、ごめんね。突然電話して」
中曽根 悠:
「いや、全然大丈夫だけど。どうしたんだ?」
ドタドタと向こうで何か音がする。
中曽根、どっかに移動しているのかな?
私は小さく咳をして、聞きなれない自分の掠れた声で告げた。
戸田 るり:
「私、熱出しちゃって……明日、無理みたいなの」
中曽根 悠:
「えっ」
中曽根の驚く声に、申し訳ないと思う。でも。
中曽根 悠:
「 大丈夫か? 熱ひどいのか?」
心配してくれる言葉を最初にかけてくれて、私の心がきゅうっと締め付けられた。
戸田 るり:
「ん……なかなか下がらなくて。インフルエンザとかではないんだけど」
中曽根 悠:
「 そっか。 声だいぶ酷いもんな」
戸田 るり:
「……へ、変な声でしょ」
恥ずかしくて、見られてもいない顔を下に向ける。
そんな私の動作がわかったかのように、スマホの向こうの中曽根は声を張った。
中曽根 悠:
「んなことねーよ。それよりちゃんと寝て、しっかり治せよ!」
優しい言葉をかけてくれる。
それがとっても嬉しくて、私の気持ちはちょっと楽になった。
戸田 るり:
「うん。ありがとう」
戸田 るり:
「……本当にごめんね」
最後にもう一度謝って、電話を切った。
まさかこんなクリスマスになってしまうなんて、本当についていない。
またベッドに寝転がると、さっきまで中曽根の声を通してくれたスマホをぎゅっと握りしめた。
戸田 るり:
(中曽根の声じゃなかったみたい)
いつも聞いていたはずの声なのに、何だか知らない人の声みたいだった。
それは、風邪で掠れている自分の声とは違う気がした。
戸田 るり:
(昔はもっとこう……高かったというか、キンとしてたというか)
目を閉じれば、昔の中曽根の姿と声が浮かんだ。
なぜか浮かんだのは、幼児用スモックを着た可愛らしい中曽根だ。
思えば、幼稚園から一緒だったんだ。
腐れ縁からまさか片想いの相手になって、彼氏になっちゃうなんて、昔の自分なら思いもしていなかったんだろうけど。
戸田 るり:
(デート、行きたかったなぁ……)
引っ込んでいたはずの涙が、またじんわりと目尻を濡らした。
中曽根に、今回のことで嫌われませんように。
私は神様にすがるように、そう祈った。
◇ 続く ◇




