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この空色バス、春先行き。【完結】  作者: 猪野いのり
第一章 ご乗車ください《1年生編》
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Ep.11 君に伝えにいく(3)「彬と早希」

 早希ちゃんの存在を知ったのは、小学校に入学してから。

 1年生で席が近くになった彼女を見て、この世にはこんなに可愛い子がいるのかと、目が釘付けになったのを今でも覚えている。

 お人形のようにとても可愛らしくて、僕は友達になりたいとすぐに思った。


 僕の努力のおかげか、相性がよかったのか。

 早希ちゃんと僕は、大の仲良しになった。

 登下校も一緒。

 クラブも同じ。

 いつでも僕らは、双子のように隣にいたんだ。



❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀


 君に伝えにいく

(3)「彬と早希」


❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀



 でも、ほどなくして変化は訪れた。

 中学1年生の秋、早希ちゃんが隣のクラスのやつに告白されたのだ。


 宇月 彬(中1):

「早希ちゃん、付き合うの?」


 帰り道。

 生まれて初めて告白された、と話してくれた早希ちゃんに、恐る恐る僕は聞いた。


 早希(中1):

「んー、どうしたらいいと思う?」


 よりによって早希ちゃんは、僕にそんなことを聞く。

 その時の僕の感情は、黒かった。

 告白したやつなんかいなくなってしまえ、と思った。


 宇月 彬(中1):

「あいつ、評判悪いよ。やめといたら?」


 それは、まったくのデタラメだった。

 早希ちゃんに告白をした鈴木くんなんか、僕は全然知らないのだから。


 早希(中1):

「そっか。彬がそう言うなら、やめとこうかな」


 早希ちゃんはすんなりと僕の意見を受け入れて、フることを決意した。

 鈴木くんに今の僕なら謝れる。

 ごめんね、でも仕方なかったのさ。と。


 これが、恋の自覚の始まり。

 そして。

 長い片想い歴の始まりでもあったんだ。



 ・   ・   ・



 来てほしくないその時は、やってきた。

 高校生となった早希ちゃんにとうとう、彼氏ができてしまったのだ。

 初めての彼氏となったそいつは、早希ちゃんの元家庭教師とかいう大学生。

 元教え子に手を出すなんて、ロリコンじゃないのかと腹立たしく思った。


 宇月 彬(高校生):

「あんなやつの、どこがいいの?」


 行きつけのファミレスで早希ちゃんとお茶した日、僕はそう問うた。


 早希(高校生):

「えー、大人っぽくて、カッコいいし、優しいし!」


 早希ちゃんは、ちょっとおバカだ。

 年上というだけで完全に恋愛フィルターがかかっている彼女には、やつがそこら辺に転がっている連中と変わらない冴えない男だとは気づかないのだ。

 むしろ、目の前の僕の早希ちゃんに対する愛情を、超えられる男なんていないのに。


 宇月 彬(高校生):

(早希ちゃんは、バカだな)


 宇月 彬(高校生):

(でも、そんなとこが可愛い)


 結局僕も、バカだった。



 高校生活で早希ちゃんは3回恋をして、成就した2人の彼氏を僕に紹介してくれた。


 早希ちゃんは、恋多き女の子だった。

 元々、可愛くてモテるのだ。

 好きにさえなれば、彼氏がすぐできてしまう彼女に、僕は呆れつつもずっと傍にいた。


 きっともう、その時から諦めていたんだ。

 僕じゃ恋人になれないって。


 でも僕も、バカにはなりきれなかった。

 ピエロのような自分の役回りに耐えきれず、高校卒業後は1人上京することを決意する。

 もともとパティシエを目指していたし、早希ちゃんへの踏ん切りをつけるにも、ちょうどいいと思ったのだ。


 早希:

「彬、行っちゃうんだね」


 高校を卒業し、上京するために新幹線を待つ僕。

 いいって言ったのに、早希ちゃんはホームまで見送りに来てくれた。


 宇月 彬:

「寂しい?」


 早希:

「当たり前でしょ……バカ」


 バカは早希ちゃんなのにと苦笑しつつも、嬉しく思った。


 君は友達として、僕が好きなんだろう?

 でも僕は、そんなふうには、ずっと思っていなかったんだよ。


 もうすぐ発車することを告げるアナウンスが、ホームに響く。

 それに気づいた早希ちゃんは、潤んだ瞳を僕に向け言った。


 早希:

「ねえ彬」


 早希:

「私たちずっと、親友だよね」


 宇月 彬:

「………」


 それに頷くことができないまま、新幹線の扉は閉まった。

 扉の向こう側。

 遠ざかる早希ちゃん。

 彼女の瞳から流れた涙なんてきっと、僕の願望が見せた幻だったのだろう。




 でも結局、人生とはわからないものだと思う。


 一人前のパティシエとなった僕は、生まれ育ったこの街に戻ってきた。

 新しくオープンするという、ケーキ屋のパティシエとして雇われたのだ。

 そしてそのお店に、早希ちゃんがお客さんとしてやってきた。


 早希:

「彬……?」


 ショーケースにケーキを並べている時に、彼女は僕に声をかけてくれた。

 まったく気づいてなかった僕は、顔を上げて驚く。


 宇月 彬:

「早希ちゃん!?」


 早希:

「彬……やっぱり彬だぁ!」


 早希ちゃんは昔と変わらず……ううん、昔以上に綺麗になって、僕の前に現れた。

 てっきり街を出ているかと思っていたけれど、彼女はこの街でずっと生活していたらしい。

 結婚もしておらず、看護師として忙しく働いているという。


 再会した僕らは、会えなかった時間を埋めるように、互いのことを沢山話した。


 早希:

「彬、すっかりカッコよくなったよね」


 宇月 彬:

「まぁ、都会に揉まれたもんで」


 照れ隠しに笑いつつ、まだ伝えられぬ本音を隠す僕は、やっぱりピエロだった。


 ずっと、君が好きだった。

 上京しても、君以外を好きになんかなれなかった。

 呪いにも近い君への執着は、恋心と呼ぶにはあまりにも、いやらしい。

 でももう、きっと止められないんだ。

 君へのこの想いは。



 ・   ・   ・



 宇月 彬:

(……だから)


 宇月 彬:

(伝えて終わりにしようと思ったんだ。全部)


 今日は君の誕生日。

 この指輪を渡せば僕の「好き」がどんなものなのか、バカな早希ちゃんにだってわかるはずだ。


 あの指輪を渡して僕はフラれる。

 それでいいんだ。



「私たちずっと、親友だよね 」



 早希ちゃんに言われたあの台詞が、僕への立ち位置を知らせている。

 僕は彼女にとって、そういう存在なのだと。


 今までだって。

 これからだって。




 ◇ 続く ◇

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