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この空色バス、春先行き。【完結】  作者: 猪野いのり
第一章 ご乗車ください《1年生編》
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Ep.11 君に伝えにいく (2)「長い片想い」

 指輪が落ちた先は幸い、川ではなく、河川敷の草むら辺りだ。

 橋のど真ん中でぼーっとしていなくてよかったと思う反面、あそこじゃなかったら、ぶつからなかったのかもしれないとも思う。


 まあどのみち、僕には運がない。

 運がないことは昔からだ、慣れっこである。

 とりあえず探しに行こうと河川敷に向かおうとする僕の後ろに、あの少年3人組もついてきた。


 宇月 彬:

「えっと、気にしないで」


 そう言ったんだけど。


 大谷 圭介:

「そんなわけにいかねーよ!」


 中曽根 悠:

「俺たちも探すの、手伝うよ!」


 小池 隼人:

「本当にごめんなさい、一緒に探させてください」


 なんとも、いい子たちである。


 僕はまるで桃太郎のように、少年3人をお供に引き連れて河川敷に降りた。



❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀


 君に伝えにいく

(2)「長い片想い」


❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀



 とはいえ、膨大な敷地面積がある。

 この中からあの小さな指輪を探すのは、とても至難なことに思えた。


 小池 隼人:

「どんな指輪だったんですか?」


 1番小さいけどしっかりしている男の子は、小池隼人くんと自己紹介してくれた。

 隼人くんに聞かれ僕は、ええと……と説明する。


 宇月 彬:

「シルバーで、青い石が埋め込んであるやつなんだ」


 大谷 圭介:

「彼女へのプレゼントだったんだよね!?」


 そう聞いてきたのは、大谷圭介くん。

 1番身長が高くて、とても中学1年生には見えなかったのに、喋ると1番幼い印象がある。

 彼はどこか興味津々に質問してくれたが、あいにく僕は首を横に振った。


 宇月 彬:

「ううん、女友達のなんだ」


 中曽根 悠:

「女友達に……指輪?」


 おそらく平均身長であろうこの子は、中曽根悠くん。

 少年らしい顔つきとどこか人懐っこくもある笑顔は、学校でおそらくモテるんだろうな、という印象を受けた。

 そんな彼からの鋭いつぶやきに、僕は苦笑する。


 宇月 彬:

「うん。僕は好きなんだけどね」


 大谷 圭介:

「てことは、片想い……!?」


 宇月 彬:

「そうなっちゃうかな」


 大谷 圭介:

「…………!!」


 大谷 圭介:

「俺、にーちゃんを他人事には思えねぇ!」


 圭介くんはそう言うと、とたんに指輪探しに闘志を燃やし始めた。

 ははは。この子も片想いでもしているのかな?

 とりあえず僕たちはちりぢりに散らばって、小さな指輪を探し始めた。

 まだ日が高い昼で、よかったと思う。


 しかし案の定というか、やはり指輪はなかなか見つからなかった。

 これだけの草が、生い茂っているんだ。

 根元に落ちていたら、葉っぱに隠れてしまうので、見つけることは容易くない。


 宇月 彬:

「ないなぁ」


 しゃがんでつぶやく。

 近くに集まってきた少年たちも、まだ見つけられずにいるらしい。


 大谷 圭介:

「本当にごめん。俺がぶつかったから」


 宇月 彬:

「いや、いいんだよ。それより君たち、予定とか大丈夫なの?」


 中曽根 悠:

「うん。今日のサッカーコート、もうどうせ他のやつらに取られてると思うし」


 どうやらこの子たちは、サッカー仲間らしい。

 そういえば、悠くんがサッカーボールを持っていたな。今そのボールは、河川敷の隅にポツンと置かれている。


 宇月 彬:

「ちょっと、休憩しようか」


 僕の提案で、みんなで河川敷に腰を下ろした。サークルを作るように輪になる。

 太陽が出ていてくれるおかげで、そこまで寒くはない。


 大谷 圭介:

「それにしても、片想い相手に指輪って、なかなかの勇者っすね」


 そう言った圭介くんに、隣の隼人くんが「こら、ケイちゃん」とたしなめた。


 宇月 彬:

「ははは、僕もそう思う」


 子どもの素直な感想に、思わず笑みがこぼれる。

 誰にも言えなかった僕の恋話を、ちょっとしてみたい気になった。


 宇月 彬:

「……早希ちゃんって、言ってね。僕の片想いの相手」


 宇月 彬:

「15年、片想いしているんだ」


 少年3人組:

「じゅ、15年!? 」


 3人が一斉に驚いた。

 ははは、やっぱり驚かれちゃうか。

 僕は頭をかく。


 宇月 彬:

「13歳の時からだから、ちょうど君たちと同い年の頃に好きになったのかな」


 宇月 彬:

「高校まで同じだったけど、ずっと告れずじまい」


 宇月 彬:

「気づいたら、もうこんな年になっていたよ」


 そう言った僕に、圭介くんが改めて「15年……」とつぶやいた。


 この子たちからしたら、生きてきた年以上の年月を僕は片想いしていたわけだから、相当な衝撃だったのだろう。

 隼人くんが、おずおずと言った。


 小池 隼人:

「どうして、告白しなかったんですか?」


 当たり前な疑問だろう。

 僕はううーん、と頭をかいた。


 宇月 彬:

「ちょっと……どうしても、勇気が出なくて」


 すると圭介くんが、金縛りが解けたかのようにハッとして僕に言った。


 大谷 圭介:

「それでも、15年は長すぎるって!」


 大谷 圭介:

「こいつだってさ、幼馴染歴は長かったけど、付き合ってるんだぜ!?」


 中曽根 悠:

「お、大谷!」


 圭介くんは隣の悠くんの肩を抱いて、指をさす。悠くんは顔を真っ赤にした。

 おやまあ、もう彼女がいるんだ。


 宇月 彬:

「すごいね。告白するとき、怖くなかった?」


 中曽根 悠:

「えっと、俺は告られた方だから……」


 う。なんとも羨ましいリア充少年である。

 ピュウ、と冷たい北風が僕の背中を通り過ぎる。

 しかし赤くして俯いた悠くんが、他の2人の目を気にしながらも呟いた。


 中曽根 悠:

「あいつが俺のことを好きだって知って、初めて意識したんだ」


 中曽根 悠:

「……で、気づいたんだ。今まであいつとの居心地がよかったのって、俺も好きだったからかもって」


 宇月 彬:

「………そっか」


 宇月 彬:

「じゃあ、僕も告白したら、意識してもらえるかな?」


 中曽根 悠:

「……うん! きっと!」


 爽やかに笑って、言ってくれた悠くん。

 子どもの純粋すぎる気持ちが、今の僕にはちょっと眩しい。


 大谷 圭介:

「何だよ中曽根〜。のろけちゃってよぉ」


 中曽根 悠:

「る、るせぇな、大谷!」


 小池 隼人:

「悠くん、なかなか恋バナしてくれないからねー」


 中曽根 悠:

「こ、小池まで……!」


 2人にからかわれて真っ赤になる悠くんを見て、僕は笑った。


──そうだな。

 僕も早希ちゃんにそう思ってもらえたら、いいな。


 ちょっとした切なさが、僕の胸を締め付ける。

 思い出すのは、早希ちゃんと僕の長い歴史。

 僕の人生半分以上が片想い生活となってしまった、あの子との出会いだ。




 ◇ 続く ◇

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