Ep.11 君に伝えにいく (2)「長い片想い」
指輪が落ちた先は幸い、川ではなく、河川敷の草むら辺りだ。
橋のど真ん中でぼーっとしていなくてよかったと思う反面、あそこじゃなかったら、ぶつからなかったのかもしれないとも思う。
まあどのみち、僕には運がない。
運がないことは昔からだ、慣れっこである。
とりあえず探しに行こうと河川敷に向かおうとする僕の後ろに、あの少年3人組もついてきた。
宇月 彬:
「えっと、気にしないで」
そう言ったんだけど。
大谷 圭介:
「そんなわけにいかねーよ!」
中曽根 悠:
「俺たちも探すの、手伝うよ!」
小池 隼人:
「本当にごめんなさい、一緒に探させてください」
なんとも、いい子たちである。
僕はまるで桃太郎のように、少年3人をお供に引き連れて河川敷に降りた。
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君に伝えにいく
(2)「長い片想い」
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とはいえ、膨大な敷地面積がある。
この中からあの小さな指輪を探すのは、とても至難なことに思えた。
小池 隼人:
「どんな指輪だったんですか?」
1番小さいけどしっかりしている男の子は、小池隼人くんと自己紹介してくれた。
隼人くんに聞かれ僕は、ええと……と説明する。
宇月 彬:
「シルバーで、青い石が埋め込んであるやつなんだ」
大谷 圭介:
「彼女へのプレゼントだったんだよね!?」
そう聞いてきたのは、大谷圭介くん。
1番身長が高くて、とても中学1年生には見えなかったのに、喋ると1番幼い印象がある。
彼はどこか興味津々に質問してくれたが、あいにく僕は首を横に振った。
宇月 彬:
「ううん、女友達のなんだ」
中曽根 悠:
「女友達に……指輪?」
おそらく平均身長であろうこの子は、中曽根悠くん。
少年らしい顔つきとどこか人懐っこくもある笑顔は、学校でおそらくモテるんだろうな、という印象を受けた。
そんな彼からの鋭いつぶやきに、僕は苦笑する。
宇月 彬:
「うん。僕は好きなんだけどね」
大谷 圭介:
「てことは、片想い……!?」
宇月 彬:
「そうなっちゃうかな」
大谷 圭介:
「…………!!」
大谷 圭介:
「俺、にーちゃんを他人事には思えねぇ!」
圭介くんはそう言うと、とたんに指輪探しに闘志を燃やし始めた。
ははは。この子も片想いでもしているのかな?
とりあえず僕たちはちりぢりに散らばって、小さな指輪を探し始めた。
まだ日が高い昼で、よかったと思う。
しかし案の定というか、やはり指輪はなかなか見つからなかった。
これだけの草が、生い茂っているんだ。
根元に落ちていたら、葉っぱに隠れてしまうので、見つけることは容易くない。
宇月 彬:
「ないなぁ」
しゃがんでつぶやく。
近くに集まってきた少年たちも、まだ見つけられずにいるらしい。
大谷 圭介:
「本当にごめん。俺がぶつかったから」
宇月 彬:
「いや、いいんだよ。それより君たち、予定とか大丈夫なの?」
中曽根 悠:
「うん。今日のサッカーコート、もうどうせ他のやつらに取られてると思うし」
どうやらこの子たちは、サッカー仲間らしい。
そういえば、悠くんがサッカーボールを持っていたな。今そのボールは、河川敷の隅にポツンと置かれている。
宇月 彬:
「ちょっと、休憩しようか」
僕の提案で、みんなで河川敷に腰を下ろした。サークルを作るように輪になる。
太陽が出ていてくれるおかげで、そこまで寒くはない。
大谷 圭介:
「それにしても、片想い相手に指輪って、なかなかの勇者っすね」
そう言った圭介くんに、隣の隼人くんが「こら、ケイちゃん」とたしなめた。
宇月 彬:
「ははは、僕もそう思う」
子どもの素直な感想に、思わず笑みがこぼれる。
誰にも言えなかった僕の恋話を、ちょっとしてみたい気になった。
宇月 彬:
「……早希ちゃんって、言ってね。僕の片想いの相手」
宇月 彬:
「15年、片想いしているんだ」
少年3人組:
「じゅ、15年!? 」
3人が一斉に驚いた。
ははは、やっぱり驚かれちゃうか。
僕は頭をかく。
宇月 彬:
「13歳の時からだから、ちょうど君たちと同い年の頃に好きになったのかな」
宇月 彬:
「高校まで同じだったけど、ずっと告れずじまい」
宇月 彬:
「気づいたら、もうこんな年になっていたよ」
そう言った僕に、圭介くんが改めて「15年……」とつぶやいた。
この子たちからしたら、生きてきた年以上の年月を僕は片想いしていたわけだから、相当な衝撃だったのだろう。
隼人くんが、おずおずと言った。
小池 隼人:
「どうして、告白しなかったんですか?」
当たり前な疑問だろう。
僕はううーん、と頭をかいた。
宇月 彬:
「ちょっと……どうしても、勇気が出なくて」
すると圭介くんが、金縛りが解けたかのようにハッとして僕に言った。
大谷 圭介:
「それでも、15年は長すぎるって!」
大谷 圭介:
「こいつだってさ、幼馴染歴は長かったけど、付き合ってるんだぜ!?」
中曽根 悠:
「お、大谷!」
圭介くんは隣の悠くんの肩を抱いて、指をさす。悠くんは顔を真っ赤にした。
おやまあ、もう彼女がいるんだ。
宇月 彬:
「すごいね。告白するとき、怖くなかった?」
中曽根 悠:
「えっと、俺は告られた方だから……」
う。なんとも羨ましいリア充少年である。
ピュウ、と冷たい北風が僕の背中を通り過ぎる。
しかし赤くして俯いた悠くんが、他の2人の目を気にしながらも呟いた。
中曽根 悠:
「あいつが俺のことを好きだって知って、初めて意識したんだ」
中曽根 悠:
「……で、気づいたんだ。今まであいつとの居心地がよかったのって、俺も好きだったからかもって」
宇月 彬:
「………そっか」
宇月 彬:
「じゃあ、僕も告白したら、意識してもらえるかな?」
中曽根 悠:
「……うん! きっと!」
爽やかに笑って、言ってくれた悠くん。
子どもの純粋すぎる気持ちが、今の僕にはちょっと眩しい。
大谷 圭介:
「何だよ中曽根〜。のろけちゃってよぉ」
中曽根 悠:
「る、るせぇな、大谷!」
小池 隼人:
「悠くん、なかなか恋バナしてくれないからねー」
中曽根 悠:
「こ、小池まで……!」
2人にからかわれて真っ赤になる悠くんを見て、僕は笑った。
──そうだな。
僕も早希ちゃんにそう思ってもらえたら、いいな。
ちょっとした切なさが、僕の胸を締め付ける。
思い出すのは、早希ちゃんと僕の長い歴史。
僕の人生半分以上が片想い生活となってしまった、あの子との出会いだ。
◇ 続く ◇




