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この空色バス、春先行き。【完結】  作者: 猪野いのり
第一章 ご乗車ください《1年生編》
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Ep.11 君に伝えにいく(1)「想いを込めて」

 今日、君に伝えにいこうと思う。


 長年、僕が隠していた気持ちを。


 聞いたら君は、驚くだろうか。


 15年も隠していた、この気持ち。


 君が好きだという、僕の気持ち。


 君は──どう思ってくれるだろうか。



❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀


 君に伝えにいく

(1)「想いを込めて」


❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀



 宇月 彬:

(なーんて、格好つけてみたものの……)


 ひゅるり、と北風が僕の髪の毛をなでた。


 宇月 彬:

(無理だよなぁ、やっぱり)


 一人、橋の上でため息をつく。

 僕、宇月彬《うづき あきら》はしがないケーキ屋のパティシエである。

 今年で28歳となった。

 彼女なし歴イコール年齢。

 吹き付ける北風が身にしみるのは、人の温もりを知らないせいだろうか。

 12月の前半となるこの時期に吹く風は、容赦なく冷たい。


 でも、好きでずっと独り身だったわけではない。

 大きな原因は、長年の片想いである。


 宇月 彬:

「やっぱりこれ渡すの、勇気いるよなぁ……」


 右手の親指と人差し指でつまんだそれを見て、橋の欄干《らんかん》に上半身をあずけながら白い息を吐く。

 丸いフォルムのシルバーに、光る青い小さな石。

 指輪だった。


 そして脳裏に浮かぶのは、長年僕を魅了してやまないあの子の笑顔。

 魅力的なアーモンド型の瞳に、マシュマロのような唇。

 ふんわりとしたくせっ毛をなびかせて、僕の横で屈託なく彼女は笑うんだ。

 僕の気なんかも知らないで。


 まぁ──僕がヘタレなだけだから、仕方ないのだけれど。


 宇月 彬:

(でも……どうしても怖いんだよ)


 ぎゅっと、その指輪を握った。

 と、その時。


 小池 隼人:

「待ってよ、ケイちゃん!」


 ドタバタという擬音がぴったりな足音とともに、どこからか少し幼い声が聞こえてきた。


 大谷 圭介:

「へっへー、早く行かねーと、場所取られるぜ」


 違う声も近づいてくる。


 中曽根 悠:

「あ、大谷! ちゃんと前を見て── 」


 大谷 圭介:

「へ?」


 少年の間抜けな声が、聞こえたと同時に。


 ドシン!


 と、僕の体に大きな衝撃が加わった。


 宇月 彬:

「!?」


 大谷 圭介:

「うわっ!!」


──あ!


 背中に、少年がぶつかったのだろう。

 その衝撃で、僕の握っていた手のひらが緩んで、中に閉じ込めていた指輪を手放してしまう。

 引力の法則に則って、それは橋の上から落ちていく。

 橋の下はこの街でも有名な大きな川、姫泣川だった。


 宇月 彬:

「……あ」


 宇月 彬:

「あーーーーー!!」


 大谷 圭介:

「!?」


 中曽根 悠:

「!?」


 小池 隼人:

「!?」


 僕の大きな叫びに、男の子3人が走っていた足を止める。

 がっくりと膝を崩し、欄干にしがみついて頭をうなだれるこの僕を、背後から見ていることがわかった。


 大谷 圭介:

「に、にーちゃんごめん! 俺、ちゃんと前を見てなくて……」


 中曽根 悠:

「だ、大丈夫か?」


 小池 隼人:

「何か落としたんですか?」


 1番小さい男の子が、1番落ち着いた様子で僕に声をかけた。

 しかし僕は、3人に振り返ることができずに、欄干の隙間から見える河川敷を見下ろしている。


 宇月 彬:

「……ゆ、指輪……」


 中曽根 悠:

「え?」


 宇月 彬:

「早希《さき》ちゃんにあげるはずだった指輪……落ちちゃった」


 その言葉に、背後で男の子たちの息を飲む気配が感じる。

 僕はただ呆然と、手放して落ちた指輪の行方を見つめていた。


 ああ。

 早希ちゃんの声が聞こえる。


 早希:

「ねえ彬」


 早希:

「私たちずっと、親友だよね」


 小悪魔のような笑みを浮かべて、彼女は言う。

 そうだよ、ずっと親友だよ。

 そんな嘘もずいぶん言い慣れた。


 でも。

 でも僕は今日。

 君に伝えにいこうと、決心していたんだ。


 あの小さな指輪に、今までの想いを込めて。




 ◇ 続く ◇

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