表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
53/59

Ep.11 君に伝えにいく(1)「想いを込めて」

今日、君に伝えにいこうと思う。


長年、僕が隠していた気持ちを。


聞いたら君は、驚くだろうか。


15年も隠していた、この気持ち。


君が好きだという、僕の気持ち。


君は──どう思ってくれるだろうか。



❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀


君に伝えにいく

(1)「想いを込めて」


❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀



宇月 彬:

(なーんて、格好つけてみたものの……)


ひゅるり、と北風が僕の髪の毛をなでた。


宇月 彬:

(無理だよなぁ、やっぱり)


一人、橋の上でため息をつく。

僕、宇月彬うづき あきらはしがないケーキ屋のパティシエである。

今年で28歳となった。

彼女なし歴イコール年齢。

吹き付ける北風が身にしみるのは、人の温もりを知らないせいだろうか。

12月の前半となるこの時期に吹く風は、容赦なく冷たい。


でも、好きでずっと独り身だったわけではない。

大きな原因は、長年の片想いである。


宇月 彬:

「やっぱりこれ渡すの、勇気いるよなぁ……」


右手の親指と人差し指でつまんだそれを見て、橋の欄干らんかんに上半身をあずけながら白い息を吐く。

丸いフォルムのシルバーに、光る青い小さな石。

指輪だった。


そして脳裏に浮かぶのは、長年僕を魅了してやまないあの子の笑顔。

魅力的なアーモンド型の瞳に、マシュマロのような唇。

ふんわりとしたくせっ毛をなびかせて、僕の横で屈託なく彼女は笑うんだ。

僕の気なんかも知らないで。


まぁ──僕がヘタレなだけだから、仕方ないのだけれど。


宇月 彬:

(でも……どうしても怖いんだよ)


ぎゅっと、その指輪を握った。

と、その時。


小池 隼人:

「待ってよ、ケイちゃん!」


ドタバタという擬音がぴったりな足音とともに、どこからか少し幼い声が聞こえてきた。


大谷 圭介:

「へっへー、早く行かねーと、場所取られるぜ」


違う声も近づいてくる。


中曽根 悠:

「あ、大谷! ちゃんと前を見て── 」


大谷 圭介:

「へ?」


少年の間抜けな声が、聞こえたと同時に。


ドシン!


と、僕の体に大きな衝撃が加わった。


宇月 彬:

「!?」


大谷 圭介:

「うわっ!!」


──あ!


背中に、少年がぶつかったのだろう。

その衝撃で、僕の握っていた手のひらが緩んで、中に閉じ込めていた指輪を手放してしまう。

引力の法則に則って、それは橋の上から落ちていく。

橋の下はこの街でも有名な大きな川、姫泣川だった。


宇月 彬:

「……あ」


宇月 彬:

「あーーーーー!!」


大谷 圭介:

「!?」


中曽根 悠:

「!?」


小池 隼人:

「!?」


僕の大きな叫びに、男の子3人が走っていた足を止める。

がっくりと膝を崩し、欄干にしがみついて頭をうなだれるこの僕を、背後から見ていることがわかった。


大谷 圭介:

「に、にーちゃんごめん! 俺、ちゃんと前を見てなくて……」


中曽根 悠:

「だ、大丈夫か?」


小池 隼人:

「何か落としたんですか?」


1番小さい男の子が、1番落ち着いた様子で僕に声をかけた。

しかし僕は、3人に振り返ることができずに、欄干の隙間から見える河川敷を見下ろしている。


宇月 彬:

「……ゆ、指輪……」


中曽根 悠:

「え?」


宇月 彬:

早希さきちゃんにあげるはずだった指輪……落ちちゃった」


その言葉に、背後で男の子たちの息を飲む気配が感じる。

僕はただ呆然と、手放して落ちた指輪の行方を見つめていた。


ああ。

早希ちゃんの声が聞こえる。


早希:

「ねえ彬」


早希:

「私たちずっと、親友だよね」


小悪魔のような笑みを浮かべて、彼女は言う。

そうだよ、ずっと親友だよ。

そんな嘘もずいぶん言い慣れた。


でも。

でも僕は今日。

君に伝えにいこうと、決心していたんだ。


あの小さな指輪に、今までの想いを込めて。




◇ 続く ◇

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ