Ep.10 孵化、いつか(4)「戸惑い」
今日が祝日休みで、本当によかったと思う。
昨日、大谷くんに八つ当たりをしてしまった。
毎朝、るりっちと梢ちゃんのいる2組に遊びに行っていた私。
同じ2組である大谷くんに、会わす顔が今はなかった。
望月 美羽:
(絶対に、変だって思われたよね)
リビングのソファーに転がり、最近恒例のため息をつく。
ごろごろ転がってラッコみたいにお気に入りのクッションを仰向けで抱きしめていたら。
望月 未来:
「ねえ美羽、ショッピングに行かない?」
年の離れた大学生の姉、未来お姉ちゃんが、ひょいと私の顔をのぞき込んでそう言った。
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孵化、いつか
(4)「戸惑い」
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いい気晴らしになるかなと思って、お姉ちゃんの誘いに乗った私。
連れて行ってくれた場所は、先日るりっちたちと一緒に行ったショッピング街だった。
望月 美羽:
「今日は、何を買うの?」
望月 未来:
「ふふー、なんでしょう」
なぜか、お姉ちゃんは私に対して含み笑いをする。
はてなを頭に浮かべる私を引き連れて、お姉ちゃんが向かった先。
そこを見て、私は驚いた。
望月 美羽:
「え、ここって……」
望月 未来:
「美羽、前に素敵なお店を見つけたって、はしゃいでたでしょ」
たどり着いたお店は『フェアリータイム』──あの素敵な、下着屋さんだった。
前と変わらないキラキラしたウィンドウには、宝石みたいな下着が展示されていて、私の視線を奪っていく。
でも、その扉を開けようとするお姉ちゃんの背中を、私は必死に引っ張る。
望月 美羽:
「な、なんで!?」
望月 未来:
「なんでって、美羽、来月誕生日でしょ?ま、ちょっと気の早いプレゼントってことで」
たしかに私の誕生日は12月3日。来月である。
お姉ちゃんは毎年、私が喜ぶようなものをプレゼントしてくれていたから、今回ここに連れてきてくれたのだろう。
でもでも……!
望月 美羽:
「私には早いよぉ〜!」
こんな大人な世界、まだ私には無理無理!
だって、私の成長していない胸はペタンコで、あんな素敵な下着だって、きっと貧相になってしまう。
望月 未来:
「なーに言ってんの。こういうのは早いうちに、しっかりしたの着けた方がいいんだから! 美羽、お母さんが買ってきたのを、そのまま着けてるんでしょう?」
望月 美羽:
「う、うん……」
お母さんが買ってくる綿100パーセントのブラは、タンクトップの上部分だけのようなもので、正直あんまり可愛くない。
窓の向こうにある下着とは、雲泥の差だ。
望月 未来:
「素敵な下着、欲しくない?」
望月 美羽:
「ほ…… 欲しい!」
望月 未来:
「なら決まり! さあ、行こ行こ!」
お姉ちゃんは私の手を握って、お店の扉を開けた。
カランコロンと鈴の軽い音が響いて、戸惑う私を出迎える。
女性:
「いらっしゃいませ」
落ち着いた女性の声が、奥から聞こえた。
それは先日、私たちに声をかけてくれたあのお姉さんだった。
女性:
「あら、あなたは、この間の」
望月 美羽:
「! 覚えてるんですか」
ネームプレートに『Asakura』と書かれたお姉さんは、私を見て微笑んだ。
Asakura:
「もちろん。可愛らしい子たちだったもの。また来てくれて嬉しいわ」
ふんわり優しい笑顔を向けてくれるお姉さん。
それは、大人の世界に戸惑う私を、安心させるかのような柔和な微笑みだった。
望月 未来:
「わあ、素敵な店内ね」
Asakura:
「ありがとうございます」
望月 未来:
「あの、今日はこの子のプレゼントを買いに来たんです。ティーンズコーナーとかあります?」
Asakura:
「ええ。奥にありますので、ご案内しますね」
そう言って店員のお姉さんは、私たち2人の前に立ち、奥へと案内してくれた。
店内には他にも数人の店員さんがいて、私たちに「いらっしゃいませ」と温かい視線を向けてくれる。
お客さんもパラパラいたけれど、私みたいな幼い子はいないみたいだった。
望月 美羽:
(本当に、いいのかな)
ちょっと緊張してしまう私。
でも、奥まったところに案内されて、そこにずらりと並べられた下着を見ると、そんな緊張も吹っ飛んだ。
だってそこには、とっても可愛い下着が、陳列されていたから。
望月 美羽:
「うわあー! 超可愛い……!」
様々な柄の下着が、ブラとパンツのセットで並んでいる。
チェック柄やドット柄などのカラフルなものから、シンプルカラーにちょっとフリルがつけられた落ち着いたもの。小柄のリボンをちりばめたもの。クールなサテン生地のものなど、幅広いデザインの下着がそこにある。
そのすべてが、私のような年代の子向けのものだなんて信じられなかった。
Asakura:
「気になるものがあったら、おっしゃってくださいね。試着もできますから」
望月 美羽:
「は、はい!」
私の気分は一気にテンションMAXになって、お姉ちゃんとキャアキャア言いながら物色し始めた。
望月 未来:
「これなんか、いいんじゃない?」
望月 美羽:
「え、派手じゃない!?」
望月 未来:
「そんなことないよー。あとこれとか、これとかは?」
望月 美羽:
「うわわわ、どれも可愛すぎる……!」
女の子でよかった。
心からそう思えるほどに、楽しい時間。
私はお姉ちゃんと店員さんに相談しながら、2つの下着セットを手に持った。
このどちらかを、お姉ちゃんにプレゼントとして買ってもらえる。そう思うだけで心が弾んだ。
Asakura:
「それでは、試着してみますか?」
望月 美羽:
「はい!」
店員さんに促されて、試着室へ足を運ぶ。心はウキウキと浮かれていた。
でも。
Asakura:
「バストサイズを測らせてもらっていいかしら?」
望月 美羽:
「え!?」
その言葉に、足がピタリと止まった。
Asakura:
「きちんと測っておいた方が、貴女にピッタリな下着がどれか把握しやすいの。でも、嫌なら無理しなくていいですからね」
望月 美羽:
「………」
ど、どうしよう。
正直、人様に見せられる体じゃない。
でも下着を買うには、必要なことなのかな……?
戸惑う私の後ろから、お姉ちゃんがそっと背中を押してくれた。
望月 未来:
「せっかくだし、測ってもらったら?」
望月 美羽:
「……うん」
静かに頷いた。
目の前にある試着室のカーテンが、まるで大人の世界への扉のようで、胸はドキドキと高鳴った。
◇ 続く ◇




