↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この空色バス、春先行き。【完結】  作者: 猪野いのり
第一章 ご乗車ください《1年生編》
PR
48/273

Ep.10 孵化、いつか(3)「不安」

 朝起きると、少し気だるげさを感じてなかなか起きられなかった。

 理由はわかっている。

 あんな夢を、見ちゃったからだ。


 望月 美羽:

(なんで、杉野先輩とちー先輩が、デートしてる夢なんてみちゃうの……)


 夢の中でもお似合いの2人は、後ろにポツンと佇む私を振り返ることもなく、前へ進んでいった。

 ちー先輩の綺麗なロングヘアーが、なびいて揺れる。

 スラリと伸びたあの足も、女性らしい体のラインも、大人っぽく見える微笑みも、私にないもの。

 それらすべてを携えて、ちー先輩は杉野先輩の横にいた。


 でも、1番悔しいのは。

 それが夢じゃなくって、現実でもそうだということなんだけど。



❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀


 孵化、いつか

(3)「不安」


❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀



 望月 美羽:

「はあああ〜」


 1人、大きくため息をついた。


 放課後の、グラウンド脇の花壇前。

 そこにしゃがみこんで私は、昨日植えたノースポールの苗を眺めていた。

 手持ち無沙汰な右手で、小さな雑草をプチプチ抜いている。

 昨日、園芸部メンバー全員で手入れした花壇はほとんど整えられていて、そんなに手を加えるべきところはない。


 望月 美羽:

(今日はもう、帰ろっかな)


 そんなふうに考えて、立ち上がったときだった。


 大谷 圭介:

「あれ、今日はジャージじゃないんだな」


 聞き慣れた声が聞こえた。


 望月 美羽:

「大谷くん」


 大谷 圭介:

「うっす」


 隣のクラスの大谷くんだ。

 小学校が同じで、中曽根くんとも仲良しな大谷くんとは、最近よく話をするようになった。


 どうやらこの花壇前は彼の通り道らしく、私が1人花壇をいじっているときに、よく声をかけてくれるようになった。

 小学校のときはそんなに喋らなかったけど、実際話してみると結構話が弾む。

 でも今日は、そんな気になれなかった。


 望月 美羽:

「今日は、もう帰ろっかなって。あんまりすることないし」


 大谷 圭介:

「そっか」


 サッカー部の大谷くんは、部活前なのだろうジャージ姿で私を見た。

 立ち上がったけれど、背の高い彼はそれでも私より遥か高い目線から、私を見下ろす。

 30センチの差がある私たち。

 私の視線はちょうど、大谷くんの胸らへんになってしまう。


 望月 美羽:

「大谷くんは、やっぱ大きいねぇ」


 大谷 圭介:

「どうした、今さら」


 大谷 圭介:

「……てか、元気ねぇな? どうした?」


 私の異変に気づいたのだろう。大谷くんがそんなふうに聞いてきた。


 その時の私は、1日友達の前で無理して、いつもどおりに明るくしていたせいか、何だかやけに疲れていた。

 1人で鬱々(うつうつ)としていたときに聞かれたので、この際、大谷くんでもいいから愚痴を聞いてほしい気分になってしまった。


 望月 美羽:

「……最近、ね」


 大谷 圭介:

「ん?」


 望月 美羽:

「最近みんなが、大人っぽく見えるなぁーって思って」


 大谷 圭介:

「……ん?」


 私の突然の呟きに、大谷くんが頭を傾げる。

 でも一度吐き出した悩みを止められず、私は言葉を続ける。


 望月 美羽:

「みんな、どんどん大人っぽくなってくのに、私は小学生から全然変わらないんだもん。やんなっちゃう」


 大谷 圭介:

「でも、小さい自分でも好きなんだろ?」


 望月 美羽:

「それは、そうだけど……」


 たしかに以前、大谷くんに背が小さくてもいい、そんな自分も好きだという話を、したことがある。


 でも。

 でもさ!


 望月 美羽:

「それとこれとは、違うの!」


 生理がきてないから不安だとか、恋敵にヤキモチを妬いてるなんて言えるはずもなく、つい語気を荒めてしまう。


 大谷 圭介:

「………」


──あ、言いすぎたかも。


 ぐっと息を飲んだ。

 やだ、こんなの八つ当たりじゃない。

 でも弁解することもできなくて俯くと、大谷くんが声をかけてくれた。


 大谷 圭介:

「……俺はさ」


 大谷 圭介:

「どっちかっつーと、成長早いから、望月の不安とか正直、よくわかんねーけど」


 大谷くんは頭をかきながら、言葉を探しているように呟く。


 大谷 圭介:

「みんなより大きくなってくのは、不安だったよ。なんか、自分だけ異質みたいでさ」


 大谷 圭介:

「だから……その」


 大谷 圭介:

「大人っぽく見えるみんなも、いいばっかりじゃないと思う」


 望月 美羽:

「………」


──不安?

 成長することが、大人っぽくなっていくことが、不安なの?


 その時何故か、るりっちが頭に浮かんだ。

 今のるりっちじゃない。

 小6の、プールサイドで俯いていたるりっちだ。


 あの時、俯いていたるりっち。

 まるで、自分を責めるみたいな顔をしてた。


 もしかして不安だったの?

 変わっていく自分の体が、異質に思えて……?

 今の私とは、違う不安を抱えていたの?


 望月 美羽:

(………でも)


 唇を噛み締めた。


 望月 美羽:

「……そんなの、贅沢な悩みだよ!」


 大谷 圭介:

「……っ!」


 望月 美羽:

「私からしたらそんなの、贅沢な悩みだもん!」


 だってそれは、成長しているがゆえの悩みじゃない。

 私はまだ──そのステージに、立ってさえもいないのに!


 そう考えたら尚更悔しく思えて、頭がこんがらがってしまいそうになる。

 何だろう、嫌な黒い気持ちが、体の中でくすぶっているみたいで。


 望月 美羽:

「私……帰るね! バイバイ!」


 大谷 圭介:

「え? 望月……!?」


 これ以上一緒にいたら、さらに嫌な言葉を大谷くんにぶつけてしまいそうで。

 逃げるように、そこから立ち去った。

 戸惑う大谷くんの声が聞こえたけれど。

 私はそれも無視して、走り出した。


 何で、こんなにイライラするの。

 私、すごく嫌な子だよ……!


 逃げ帰る私の背中には、まだ子どもの殻がしがみついているみたい。

 何だかずしんと、重く感じた。




 ◇ 続く ◇

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。