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この空色バス、春先行き。【完結】  作者: 猪野いのり
第一章 ご乗車ください《1年生編》
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Ep.10 孵化、いつか(1)「秘密」

 じつは私、望月美羽には秘密がある。

 それは友達、戸田るりちゃん(通称るりっち)の彼氏である中曽根悠くんを、一時期好きだったことだ。


 といっても小6なりたての、ほんの一時期。

 カッコよくて運動のできる中曽根くんは、女子から人気が高くて、それに私も乗っかっていたのだ。



❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀


 孵化、いつか

(1)「秘密」


❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀ ❀



 話は変わってその頃、反対に人気のない男子がいた。

 下品で意地悪なそいつは、高学年になると女子にいやらしい言葉や卑猥なことを言って喜んでいた。

 超最低なやつだった。


 最低な男子:

「わー、戸田も生理か、生理ー」


 ある日、そいつはプールサイドで見学していたるりっちをからかっていた。

 るりっちは、ただ黙ってそいつから目を背けていた。

 るりっちが悪いわけじゃないのに、罪人みたいな顔をして俯いていた。


 まあ、その後すぐ、そいつは中曽根くんにプールに突き落とされて「ざまあみろ」って思ったけど。


 で、それを見てわかったんだ。

 中曽根くんて、もしかしたらるりっちが好きなのかもしれないって。

 そう思ったら、すぐに中曽根くんへの興味は薄れた。

 でも、その代わりに。

 俯いていたるりっちの横顔が、やけに頭から離れなくなった。


 望月 美羽(小6):

「ねぇ、るりっちって呼んでいい?」


 今までクラスも違って、あんまり話したことのなかったるりっちに、私はある日突然話しかけた。


 戸田 るり(小6):

「え? う……うん!」


 そしたら、るりっちは嬉しそうに笑ってくれた。

 私は、素直で可愛いるりっちがすぐに大好きになった。

 元々るりっちと幼馴染だった梢ちゃんともそこから急接近して、今の3人組が生まれたのだ。


──なんて、過去のことを思い出してしまったのは。


 るりっちから、あの話を聞いたせいなのである。



 ・   ・   ・



 望月 美羽:

「えええ! キスされたあ!?」


 戸田 るり:

「さ、されてない! されてないから! てか美羽、声大きいー!」


 11月の、ある日曜日。

 るりっちと梢ちゃんの3人で、街まで遊びに出掛けていた。

 絶対に行こうね! と言い合っていた目当てのケーキ屋さんへと、私たちは訪れている。

 カフェが併設されている、今女子の間で注目のお店だ。

 タルトが自慢のケーキ屋さんで、季節に合わせたフルーツを使って作られるスイーツは、美味しいと評判だ。

 円卓テーブルに案内され、ケーキセットを注文した後のこと。


 当然の流れのように、るりっちの恋愛話からスタートしようとしたら、るりっちがもじもじと恥じらいだしたのである。

 ここで、私の恋愛センサーは ピピッ! ときた。これは何かあったな、と。


 で、根掘り葉掘り聞いたら、出てきた衝撃の真実!

 ちょっとるりっち、キスはいくらなんでも早すぎない!?


 羽鳥 梢:

「されかけたんだよね? でも突き飛ばした、と」


 冷静な梢ちゃんは、落ち着いて解説する。

 うう、なんで梢ちゃんはこんなにクールなの!?

 同い年のるりっちが、キスのステージへ行こうとしたんだよ!?


 戸田 るり:

「うん……だってまだ、無理」


 るりっちは、見ているこっちが恥ずかしくなるくらい、真っ赤になって俯いた。

 それは、いつの日か見た俯き姿よりも、大人びて見えて。

 私は思わず、るりっちに体当たりするように飛びついていた。


 望月 美羽:

「るりっち……まだ大人の階段をのぼらないで!!」


 戸田 るり:

「わわ、美羽ってば、勢いつけすぎ!」


 ダイブするようにるりっちに飛びつくと、柔らかいるりっちの体が私を受け止めてくれた。

 むむ……るりっち、案外胸ある。


 望月 美羽:

「………」


 望月 美羽:

「……いいなぁ、るりっち」


 私の呟きを聞いて、るりっちは私の顔をのぞき込む。


 戸田 るり:

「美羽は、先輩とどうなの?」


 るりっちはどうやら私の呟きを、恋愛の不安だと思ったみたい。


 望月 美羽:

「……とくにないよ。まだ、憧れだもん」


 そう言って誤魔化して、るりっちからそっと体を離した。



──じつは私には、まだ秘密がある。



 その秘密が、昔のるりっちと今のるりっちを、嫌でも私に意識させるんだ。



 嫌な男子:

「わー、戸田も生理か、生理ー」



 あの嫌な男子の声が、遠くで聞こえる。

 あいつのからかいの対象に、私が入ることは一度もなかった。

 だって。


 望月 美羽:

(私まだ……生理きてないもん)


 るりっちも梢ちゃんも、もうあるのに。


 望月 美羽:

(やっぱりまだ……子どもなのかな)


 最近やたら、まわりの皆が大人に見える。


 最初は気づかなかった。

 でも、体育の着替えのときや、音楽での合唱。

 学校風景のふとした瞬間に、まわりの仲間の殻が脱げ落ちていく音が聞こえた。

 カランカランと、落ちていく子どもの殻。


 それなのに。

 私にはまだ、その殻がしみついていて、剥がれないんだ。




 ◇ 続く ◇

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