Ep.9 恋はあせらず(5)「1番カッコ悪い日」
今日は、俺が生まれてから、1番情けなくてカッコ悪い日だったようだ。
彼女である戸田には突き飛ばされ、キス拒否された現場を姉貴に見られてしまう。
神様……俺に何か、恨みでもあるんですか?
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恋はあせらず
(5)「1番カッコ悪い日」
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中曽根 雫:
「ほら、これでも飲みなよ」
公園のベンチに腰掛けた俺は、姉貴から放られたペットボトルを受け取る。
350mlのアイスカフェオレ。
これで頭を冷やせってか、と、俺の心はやさぐれている。
姉貴は隣にどかっと座ると、自分のミルクティーのフタを開けた。
すぐに飲まなかったのは、こみ上げてくる笑いが邪魔をしているかららしい。
中曽根 雫:
「……ぷぷ。でもまさか、姉弟で互いにキスシーン見ちゃうなんてね。まあ、あんたの場合、失敗してるわけだけど」
中曽根 悠:
「るっせーよ!」
姉貴は容赦なく、俺の傷に塩を擦り込んでくる。
俺が1番ショックだっつーの!
本当なら、さっさとこの公園から出たかったけど、姉貴に捕まり無理矢理ベンチに座らされた。
「まあまあ、姉として恋愛相談してあげようじゃない」なんて、本当は自分が面白がりたいからだろ!
中曽根 雫:
「にしても、まさかもう彼女がいるとはね。やるじゃん」
さすが私の弟ね、と何故か自分の手柄にする。
中曽根 雫:
「あの子って、同じ小学校だった子でしょ?見たことあるわ。るみちゃんだっけ」
中曽根 悠:
「……るりだよ。戸田るり」
中曽根 雫:
「ああそう、るりちゃんだ。可愛くなったねー」
その意見には賛成だ。戸田は可愛い。
こんな、ガサツで遠慮のない姉貴なんかより、ずっと可愛い。
俺はカフェオレを、ゴクゴクと飲んだ。
冷たい甘さが、喉をスッと通り抜けて胃に落ちる。
中曽根 悠:
「……ふぅ」
少しだけ気持ちが和らぐ。
姉貴の狙い通りになるのは嫌だったけど、冷たい飲み物はたしかに、荒ぶっていた心を落ち着かせた。
ちょっと、姉貴に愚痴ってもいいかな、なんて思う。
中曽根 悠:
「何が、ダメだったのかなぁ」
思わず漏れたそれは、独り言に近かった。でも、姉貴は聞き逃さなかったようだ。
中曽根 雫:
「まぁ、まだ早かったんじゃないの」
中曽根 悠:
「でも、付き合ってるならするんだろ? 普通」
昨日姉貴がそう言ったし、ネットの中学生カップルも当たり前のようにしていた。
でも姉貴から返ってきたのは、呆れ声だ。
中曽根 雫:
「あのねぇ」
中曽根 雫:
「普通はとか、私が言ったからとかじゃなくって、これはあんたたち2人のことでしょ」
中曽根 悠:
「! 」
中曽根 雫:
「るりちゃんの気持ちを無視して、これが当たり前だから〜なんて、暴走したんじゃないの、あんた」
……図星である。
戸田の気持ちを考えていなかったことに、ようやく気づく。
でも、キスを拒絶されたということは、俺とはキスをしたくないということで……。
中曽根 悠:
「もしかして俺、嫌われてる?」
ガァン、と間抜けな効果音がどこからか聞こえた。
中曽根 雫:
「てか、今日の件で嫌われたかもね」
中曽根 悠:
「おお……」
容赦ない姉貴の言葉が、ずしんと肩に乗っかる。
中曽根 雫:
「なーんてのは冗談で。ちゃんと謝りなさいよ、あんた」
中曽根 悠:
「……わかってるよ」
俺はまたカフェオレを飲んだ。
全部飲み干す勢いで上を向いて飲んだもんだから、小さなペットボトルはすぐに空になった。
そんな俺を見て姉貴は、独り言のように呟く。
中曽根 雫:
「あせらなくていいのよ、まだ中学生なんだから」
中曽根 雫:
「2人が心地いいなって思える空間を、作っていけばいいんじゃない? お互いにさ」
中曽根 悠:
「………ん」
その言葉は、やたらと俺の心にスッと落ちた。
心地いい空間……か。
その言葉に、戸田と手をつないで笑い合えた、あの一瞬を思い出した。
あの時の温かさは今も、俺の心に残っている。
心地いいドキドキが、戸田も感じてくれていたなら、あれが俺たちにとっての「心地いい空間」なのかもしれない。
中曽根 悠:
「……明日、謝る」
ボソッと呟くと姉貴は姉貴らしく「そうしなさい」と笑った。
中曽根 雫:
「あ、そうそう」
姉貴はミルクティーのフタを閉めながら立ち上がる。
中曽根 雫:
「今度あんたに、パソコンの履歴を消す方法、教えてあげるわ」
中曽根 悠:
「……は?」
中曽根 雫:
「『キス 中学生』なんて検索キーワード、親が見たら気まずいでしょ」
中曽根 悠:
「……!! 」
ま、まさか!!
中曽根 悠:
「姉貴、のぞいたな!? 」
俺も立ち上がって、姉貴に吠えた。
中曽根 雫:
「バーカ、あんたが履歴残すのが悪いのよ」
むしろ消してあげた私に感謝なさい、と姉貴は飄々とした様子でゴミ箱に向かう。
や……やっぱり。
今日は人生で1番カッコ悪い日だ!!
◇ 続く ◇




